◇第82回◇
曽我ひとみさんの問題
去る7月9日、北朝鮮拉致被害者の曽我ひとみさんが、1年9ヶ月ぶりに北朝鮮に残してきた家族(夫のジェンキンス氏、長女の美花さん、次女のブリンダさん)に再会できたのは本当によかった。
インドネシアのジャカルタで、曽我さん一家の感激の再会シーンを伝えるテレビ報道は、多くの人の涙を誘った。
当初、政府は曽我さん一家の再会場所を北京に設定しようとしたが、北朝鮮の影響力の強い中国は適当でないと言う曽我ひとみさんの意向に沿ってジャカルタになったのは正解だった。
政府は、曽我さんの家族再会については、大変な力の入れようだった。
ジャカルタでの再会場所の設営はもとより、ひとみさんには 内閣府の中山参与ら政府高官を同行させ、また、ジェンキンス氏や2人の娘さんのためには、政府は民間機をチャーターして斎木昭隆外務省審議官らを乗せて平壌まで迎えに行くなど、至れり尽くせりだった。
ここまでやるには、相当な費用もかかるだろうが、これは政府として当然の責務だ。
政府は、日本国内において、北朝鮮工作員による誘拐拉致を未然に防げなかったし、20数年間も救出できなかったのだから、国の責任は重い。拉致被害者や家族は、国に対し億単位の国家賠償を求めてもいい、いや求めるべきだと思う。
これらの費用は、全て北朝鮮に求償すべきだ。
曽我さん一家の再会を「良かった」「良かった」だけで済ませてはならない。
曽我ひとみさんの問題は、拉致問題の核心部分ではない。
北朝鮮に再調査を求めている10人の問題、拉致された可能性がある約400名に及ぶ特定失踪者の解明、拉致という国家犯罪についての責任追及、損害賠償問題など大きな問題が残っている。
これらの問題は いずれも不問にするわけにはいかない。何らかの形で決着をつけなければならない。
それにも拘わらず、政府は、曽我ひとみさん一家の再会が実現したことで、日朝国交正常化交渉再開の環境が整ったと言っているが、到底賛成できない。政府が決めている食料支援も時期尚早だ。
日本は、拉致と言う国家犯罪の被害国という点で他国とは異なる。
政府は、拉致問題が決着していないのに、どうして北朝鮮との国交正常化を急ぐのだろうか。特に小泉さんは、自分の総理任期中に国交正常化を実現したい意向のようだ
わが国にとって、国交正常化のメリットは何処にあるのだろうか。何もないではないか。
国交正常化交渉が本格化すれば、どうせ先方は、理不尽な戦前の賠償問題などを持ち出してくることは目に見えている。
その時の我国の弱腰外交も見えてくるようだ。
田中角栄氏が、日中国交正常化を実現して名を挙げたように、小泉さんも北朝鮮との国交正常化は俺がやったのだと胸を張りたいのだろうか。
それにしても、曽我さんは数奇な運命を辿ったものだ。( 拉致被害者は全てそうなのだが…)
拉致がなければ、ジェンキンス氏との結婚もなかったわけだし、2人の娘さんも存在しなかったのだから…。
拉致が、曽我さんの運命を大きく変えたことだけは どうしようもない事実だ。
曽我さん一家にとっては、これから日本で暮らすのが一番いいことだろう。ひとみさんも、その方向で家族を説得しているようだし、ジェンキンス氏もその意思を示しているようだ。
しかし、ジェンキンス氏が日本に来れば、我国は犯罪人引渡し条約に基づいて、米軍の脱走兵たる彼を米国に引き渡さざるを得ない。
これまでジェンキンス氏の問題については、日米間で話合ってきたが、アメリカは訴追の方針を変えていない。
敵前逃亡して 相手国に亡命するというのは、本来極刑に値する重大犯罪であることには 違いない。
法治国家である我国は、日米犯罪人引渡し条約に反して、本人の引渡しを拒否することはできないだろうし、すべきではない。
アメリカが訴追の方針を変えないなら、ジェンキンス氏は司法手続を踏んだ形をとるのが、本人にとって一番いい方法だと思う。
事件は、40年以上も前の出来事であり、この間の北朝鮮での逃亡生活で罪は償われたと見ることもできるだろう。
ここでジェンキンス氏には、去る4月、北朝鮮で受けた腹部手術の後遺症など健康に問題があることが明らかになった。
政府は、日本の高度な医療施設での治療が必要だとし、取りあえずは治療目的で曽我さん一家の早期帰国、来日を検討中だという。
アメリカには、人道上の問題として身柄引き渡しの猶予を求めているという。
アメリカも、治療目的の来日については、人道上の見地から 是非認めてもらいたいものだ。
また、ジェンキンス氏の最終的な訴追の免除や恩赦、刑の執行猶予〜軽減についても、日本政府がアメリカに強く働きかけていけば、アメリカも分ってくれるのではないだろうか。重い刑にはならないと思う。
脱走兵という罪状は 自ら蒔いた種でもあり、ジェンキンス氏も、この際、母国の司法手続きを正面から受け止めた方が、残された人生を正々堂々と生きられるし、故郷のアメリカへも自由に行き来できるようになる。
ひとみさんの希望通り、曽我さん一家の日本での永住が、1日も早く実現することを祈っている。(2004.07.15)
次回は〔第83回〕
「第20回参議院議員選挙」(2004.08.01)
【出来事】
- 7月4日 大相撲名古屋場所初日 (愛知県体育館)
- 7月9日 北朝鮮による拉致被害者曽我ひとみさん 家族(夫のチャールズ・ジェンキンス氏 長女の美花さん 次女のブリンダさん)とインドネシアのジャカルタで再会
- 7月11日 第20回参議院議員選挙投票日
[開票結果]( )内は改選議席 自民49(50) 民主50(38) 共産4(15) 社民2(2) みどり0(1)
- 7月11日 中国 四国 九州地方が梅雨明け
- 7月13日 近畿 東海 関東甲信地方が梅雨明け
- 7月13日 新潟県 福島県で集中豪雨による水害発生
- 7月13日 UFJホールディングス 臨時取締役会で三菱東京フィナンシャル・グループへの経営統合を目指す方針を決め三菱側に伝える UFJ信託銀行の住友信託銀行への売却白紙撤回も決議
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