◇第102回◇
JR西日本の電車脱線衝突事故について
去る4月25日 尼崎市のJR西日本 福知山線で起きた列車脱線衝突事故は、死者107人 重軽傷者540人という大惨事になった。
カーブ区間の速度の出し過ぎ、マンションへの激突があったとは言え、脱線事故にしては 被害があまりにも大きすぎる。
色々な悪条件が重なって、これ程の大惨事になったものと思う。
事故についての検証と原因究明が行われてきた。
原因は簡単、制限速度70キロのカーブ区間を100キロ以上(108キロ)で走行した速度違反の運転ミス以外の何ものでもない。
しかし、このカーブ区間を108キロ程度で走行しても、そう簡単に脱線するものではないだろう。
当初、JR西日本が説明した「現場カーブは制限速度が70キロだが、計算上は133キロで脱線する」と言うのが常識的だとも思えるのだが…。
ブレーキ操作との関係等 いくつかの複合的な要因による脱線転覆事故と見るべきだろう。
この事件を聞いた時、私は1982に起きた片桐機長の操縦ミスによる日航機墜落事故を思い出した。(1982年2月、精神異常の片桐機長が羽田空港着陸に際し、エンジンを逆噴射させて飛行機を失速させたため、羽田沖に墜落、多数の死傷者を出した事件)
今回の運転士も、運転不適格者ではなかったかと言うことである。
彼は、車掌時代に居眠りをして乗客に注意されたり、運転士になってからも 停車時に100メートルもオーバーランさせる等、過去に3回も社内処分を受けている。(その都度、再教育も受けている)
今回も、事故直前の伊丹駅で70メートルもオーバーランをさせている。しかも、非常ブレーキで停車させており、更に、所定の停止位置にバックさせた時も 停止位置を行過ぎる逆オーバーランをさせているというから、もうこれは無謀運転というより、無茶苦茶運転だ。(これについては、車掌と口裏を合わせて 最初 会社には8メートルのオーバーランだと虚偽の報告をしていたことも見逃せない)
これにより生じた1分半の遅れを 取り戻そうとしてスピードを出したのではないかとも言われている。
2〜3メートルのオーバーランなら、ブレーキの操作ミスと言ってもいいが、数10メートルものオーバーランは、もはやプロの運転手とは言えないのではないか。
カーブ地点の速度違反は、その前の駅でのオーバーランに原因があるとすれば、オーバーランも速度違反と同じように重要視しなければならない。
事故の原因は、運転不適格者を運転士に任命したことにある。
更に、車掌がオーバーランを過少報告したり、この事故後もJR西日本では各所で連日オーバーランのミスが発生していることを見ると、JR西日本の現場での気の緩み、安全意識の欠如があると言わざるを得ない。
この点で、JR西日本の責任は、極めて重いと言うべきである。
事故がある度に、利益を優先したから安全が犠牲になった。今回もダイヤ優先主義が惨事を招いたと言うマスコミが多い。
そうして、最後は責任者(社長等)が引責辞任して一件落着ということになるのが一般的だ。
しかし、これでは、いつになっても事故は減らない。
定められたダイヤ運転が重要であることは言うまでもない。ダイヤが乱れた時に、乗務員が制限速度内でダイヤ回復に努めるのは当然だ。オーバーランを繰返す未熟運転士に、ダイヤ通りの運行ができるはずがない。
今回の場合、カーブでの速度違反という安全無視の無謀運転こそが事故の原因だ。
過密ダイヤが事故の原因とは必ずしも言えないし、ダイヤ優先主義が惨事を招いたと簡単に言うわけにいかない。 やはり運転士の安全無視の無謀運転に尽きると思う。
東京近郊でのラッシュ時のダイヤは、山手線を初め地下鉄も含めて、3分間隔は当たり前である。 ラッシュ時には「前に電車がつかえているので、しばらく停車します」という車内放送も日常茶飯事である。こんな状況だから、ラッシュ時に時刻表通りの正確な運行はできない。
でも事故は起きていないし、大量人員輸送のためには、ギリギリのダイヤ編成もやむを得ないのではないか。
もし、3分間隔のダイヤが、問題だとすれば、大変なことになる。
大都市のラッシュ時のダイヤを全て変えなければならない。
しかし、それでは、大量人員輸送という鉄道本来の責任は果たせない。通勤時間帯の混雑は、更に激しくなる。
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肝心なことは、社長の引責辞任ではなくて、末端社員までの意識改革だ。
JR西日本の四つの労働組合が、会社に安全確保を申し入れたというが、これも筋違いだ。
この運転士も労働組合に所属していたはずだし、事故の責任は労働組合にもある。
労働組合が、自らの組合員に対する厳しい安全教育の実施を会社に申入れたことがあるだろうか。
組合は、厳しい教育や職場規律の確立には、消極的ではなかったのか。
もし仮に、今回の運転士を不適格者として 会社が配置転換をしようとしたら、労働組合は反対しなかったか。
社内の再教育が厳しく、運転士にプレッシャーを与えていた、との運転士の証言をマスコミが伝えていたが、これは論外だ。こんなことを言う運転士こそ配置転換すべきだ。甘えの構造もいいとこだ。
社内教育が生ぬるく、もっと厳しい教育を徹底すべきではなかったか。それがプレッシャーになり、そのことが原因で運転を誤るような運転士がいたら、それこそ運転不適格者で配置転換や解雇すべきである。
人命を預かる運転士は、常に緊張感を持って任務に当たるべきことは当然ではないか。
今時、人命を預かる企業、例えば、航空会社、鉄道、バス会社や建設業などの労働集約型企業等では、安全よりも利益を優先する経営者は ほとんどいないと思う。
それは、大きな事故を起こせば、利益どころか会社の存続にも関わることになるし、大きな社会的責任(場合によっては刑事責任)を問われることを充分承知しているからだ。
今回の事故現場のATS(自動列車停止装置)が、旧式であったため、スピードを自動的に落すことができなかったと言う。
新型のATSに取り替えるなど、安全設備の不備は早急に改善しなければならない。
しかし、最終的に事故を未然に防ぐのは人だ。多少設備に不備があっても、そこに従事する人がしっかりしていれば事故は防げる。
逆に、どんなに安全設備が充実していても、そこに携わる人の意識が欠如していれば事故は起こる。
科学技術が発達しても最後は人だ。安全設備の開発は、あくまで不安全要素を薄めるためのもので、事故をゼロにすることはできない。
国土交通省は、全国の鉄道各社に新型のATS(自動列車停止装置)の設置を義務づける方針だと言う。
しかし、それに要するコストが運賃に跳ね返ることも同時に考えてもらいたい。運賃に跳ね返らないよう、鉄道会社の経営体力に応じて 柔軟に実施すべきだと思う。
今回のような無謀運転をする不適格者が 運転しても、事故が起こらない仕組みを構築することは不可能である。
今回の事故再発防止対策で最も大切なことは、新型のATSの設置でも、過密ダイヤの解消でもない。それは、JR西日本社員の職務に対する緊張感と安全意識の徹底だと思う。
社員教育の徹底を図るとともに 人命を預かる運転士等については 全員、技能及び適正検査を行い、不適格者は容赦なく配置転換すべきである。
JR西日本に限らず、他の企業でも同じような問題を抱えているところは多いと思う。この際、他企業でも 徹底した見直しをしてもらいたいものだ。
マスコミの決り文句のように「利益追及のために安全が無視された 」として誰かを(多分社長ら経営幹部を)悪役に仕立てて、その責任を追及して一件落着というような簡単な問題ではない。
それでは、事故再発防止対策にはならない。(2005.05.15)
次回は(第103回)
「JR西日本の事故とマスコミ報道」(2005.06.01)
【出来事】
- 5月2日 沖縄地方 梅雨入り
- 5月3日 静岡県警ヘリ 静岡市住宅地に墜落 警察官ら5人が死亡
- 5月8日 大相撲夏場所初日(両国国技館)
- 5月9日 イラク武装勢力 日本人拘束とウェブサイト上で公表(英民間警備会社ハート・セキュリティー社勤務の斎藤昭彦氏とみられ重傷の模様)
- 5月13日 4月29日を「昭和の日」に 5月4日を「みどりの日」に名称変更のための改正祝日法が参議院本会議で自公民の賛成多数で可決成立(再来年から施行)
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