◇第159回◇
わずか1年で終わった安倍首相の評価
去る9月12日、安倍総理大臣が突然辞意を表明し、世間を驚かせた。翌13日には体調不良で都内の病院に入院した。
自民党では、直ちに総裁選びに着手し、9月23日の両院議員総会での選挙で、福田康夫氏が 麻生太郎氏を破り 新総裁に選出された。25日の衆院本会議で首相に指名され、26日 福田新内閣が発足した。
安倍首相の この時期の辞任表明には、無責任だという非難が相次いだ。
臨時国会初日 9月10日に施政方針演説を終え、各党代表質問直前の唐突な辞意表明は、確かに非常識なタイミングであった。
9月24日 安倍総理は、入院先(慶応病院)で記者会見を行い、辞任の最大の要因が体調不良であったことを 初めて明らかにした。
参院選惨敗がもたらした逆風は、安倍さんに大きな重圧となり、日を追うごとに テロ特措法の延長をはじめ、自らの理念や公約の実現が困難になり、ここにきて 心身ともに限界に達したものだろう。
窮地の中で 安倍さんの人間性の弱さが 露呈したとの見方もできる。かって小泉元首相が、安倍さんに「鈍感力が大事だ」と助言したというが、今にして思うと、彼には その鈍感力が不足していたのかもしれない。
いづれにしても、これまで 安倍内閣が進めてきた改革や政策が、停滞したり 後退することは不可避であり、この点では 極めて残念である。
今回の辞任を無責任だと非難する人々は、安倍さんに対する期待が大きかったとも言える。しかし、安倍総理を辞任に追い込み、国政を一時的にでも 麻痺させ、混乱させたのは 国民であることも また事実なのである。
先の参院選の敗因は、「年金記録漏れ問題」、「政治とカネの問題」、「閣僚の失言問題」の逆風3点セットに尽きる。
年金記録漏れは、安倍政権の直接の責任ではないし、残りの2点も 政治の本質に関わる問題ではない。ただ久間防衛相のイラク戦争批判や沖縄普天間基地移転に関しての米国批判発言は、閣僚としての適格性を欠くものであろう。その他の失言については、揚げ足取りの類で問題にすべきことではない。
吹き荒れる逆風に防戦一方となったため、安倍さんが掲げた路線や政策が国民の理解を得られないまま 敗れた安倍さんの胸中は、さぞ無念だったと思う。
昨年9月、安倍内閣は、小泉構造改革路線の踏襲に加え、憲法改正等 戦後レジームからの脱却や主張する外交等を掲げ、国民の絶大な期待を受けて発足した。支持率も約70%と非常に高かった。
“美しい国、日本” “戦後レジームからの脱却”という言葉が示す通り、安倍さんには、目指すべき明確な国家像があったし、掲げた政治理念は、決して間違っていない。安倍さんの政治理念は、これまでの歴代総理には見られない志の高いものだったと評価したい。
わずか1年の総理在任期間であったが、その間に挙げた実績は、質量共に評価すべきものが多い。
国民投票法の制定、教育基本法の改正、防衛庁→防衛省への昇格や集団的自衛権を研究する有識者会議の設置等は、我が国の長年に亘る重要な政治課題であったのに、これまでの歴代内閣が先送りしてきたものである。
更には、中国との関係改善、G8サミット、地球温暖化問題等、外交面でも成果を挙げているし、教育改革でも実績を示した(教育再生会議の設置、教育関連3法改正)。
また、野党の反対に屈せず 国会会期を延長してまで成立させた“社会保険庁改革関連法(社会保険庁の解体等)”や“公務員制度改革関連法(公務員の天下りの制限等)”等は、改革に対する安倍さんの熱意の成果として高く評価すべきである。
これまで、ほとんど仕事をしなかった内閣としては 村山内閣(H 6.6.30〜H 8.1.11)が有名である。
何もしなければ、波風は立たないから、村山内閣は 結構長く持ちこたえた。
仕事、特に改革を進めれば、必ず反対勢力や抵抗勢力が出てくる。
改革に正面から立ち向かい、一途に取り組んだ安倍さんの姿勢は評価したい。性急に過ぎたとの批判もあるが、その意見には賛成しかねる。
小泉さんの場合は、構造改革を強力に実施したが、任期一杯務めることができた。安倍さんとの違いは、小泉さんには、“自民党をぶっ壊してでも”と言う 独特のカリスマ性があったし、郵政民営化法案が参院で否決されると 衆院を解散して民意を問うという離れ業をやる度胸もあった。
やり通す執念や強靭さの面では、経験に優る小泉さんの方が 一枚も二枚も上手だったようだ。
しかし、安倍内閣に関して言えば、わずか1年足らずの短期間に、これだけの成果を挙げた内閣は 他に例を見ないのではないか。
森喜朗元首相が「安倍さんは10年分ぐらいのことは仕上げた」と評していたが、同感、頷ける話だと思う。
近い将来、安倍さんの理念や実績が再評価される時期が来ると思う。
安倍晋三氏は まだ若い。今回の苦い経験を糧にして、もっと もっと たくましく成長してもらいたいし、機が熟せば、再び国のために一肌脱いでもらいたいと願っている。(2007.10.01)
次回は(第160回)
「福田総裁と派閥問題」(2007.10.15)
【出来事】
- 9月23日 自民党 両院議員総会で福田康夫氏を新総裁に選出 [結果]福田康夫330票(議員票254 都道府県連票76) 麻生太郎197票(議員票132 都道府県連票65)
- 9月23日 大相撲秋場所千秋楽 横綱白鵬が13勝2敗で優勝
- 9月24日 自民党 四役決める 幹事長伊吹文明氏 政調会長谷垣禎一氏 総務会長二階俊博氏 選挙対策委員長古賀誠氏
- 9月24日 安倍首相 都内入院先病院で記者会見(国民に向けての陳謝 辞任の最大理由が体調不良であったこと)
- 9月25日 安倍内閣総辞職
- 同 上 衆院本会議 第91代首相に自民党の福田康夫氏を指名(参院では民主党の小沢一郎氏を指名)
- 9月26日 福田内閣発足(皇居での首相親任式・閣僚認証式)
- 9月27日 北朝鮮の核問題を巡る6か国協議始まる 於北京(共同文書案を夫々本国で検討するため30日2日間休会となる)
- 9月27日 ミャンマーの軍事政権に対する僧侶市民らの反政府デモに巻き込まれ日本人ジャーナリストAPF通信社契約記者の長井健司氏(50)が死亡
- 9月29日 北海道日本ハムファイターズ パ・リーグ優勝決める (2連覇)
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