◇ これまでの云 い た い 放 題 ………◇ これまでの云 い た い 放 題 ………◇ これまでの云 い た い 放 題 ………
【2008/03/15】



◇第170回◇
イージス艦と漁船の衝突事故

 去る2月19日早朝、海上自衛隊のイージス艦「あたご」(7750トン)が、千葉県房総半島野島崎南42キロ沖の太平洋上で漁船「清徳丸」(7.3トン)と衝突、清徳丸は 真っ二つに割れ、乗っていた親子2人が行方不明になるという痛ましい海難事故が発生した。
 この種の事故は、多かれ少なかれ双方に過失がある場合が多い。
しかし、当時「あたご」は、船舶の往来が多い近海で 自動操舵をしていたこと、衝突直前まで漁船を回避する行動をとっていなかった等として「あたご」側の責任のみが一方的に採り上げられている。
 清徳丸が 当時どのような衝突回避措置を取ったかについては、全く問題にされていない。
安全航行の責任は双方にある。大型船舶に比べ、小型船舶の方が小回りが利き、素早い回避措置は取り易い。
小型船が群れている海域では、タンカー等の大型船は、小船を一つ一つ避ける操作は不可能で、スピードを落として進むしかないと言われる。機動性に優れる小型船の方が、衝突を避ける操船をするのが常識だという話を聞いたこともある。
また、清徳丸の2人が救命胴衣を着用していたら、助かった可能性もあったと指摘する人もいる。
 勿論 正確な事故の真相は、現在進められている海上保安庁の捜査や海難審判の結論に待たねばならない。

 イージス艦「あたご」は、迎撃ミサイルSM2の発射試験を行うため、昨秋 ハワイに向けて出港、去る1月21〜25日発射試験を終えて 横須賀港に帰港途中の事故であった。
世界最高水準のレーダーを有する等、最新鋭装備の粋を集めたイージス艦「あたご」が、なぜ漁船を避け得なかったのだろうか。「あたご」側には、任務を終えて4ヶ月ぶりの帰国、横須賀入港を目前にして 気の緩みがあったのかもしれない。

 この事故をめぐって海上自衛隊の体質が問題になっている。
防衛大臣に事故の報告があったのが、1時間半も経過した後だったことから、省内の報告や連絡体制の不備が問われた。
これが漁船ではなく、仮に自爆テロの船だったらどうするんだと言う声も聞かれた。(2000年10月 中東海域で、米海軍イージス駆逐艦に 爆弾を搭載した自爆テロのボートが衝突し、乗組員17人が死亡、多数の負傷者を出し、同艦は 左舷側に大きな損傷を受ける事件があった)
常に緊急事態に備えるべき自衛隊が、緊張感に欠けていたと言われても仕方がない。

 今回の事件では、情報開示が遅いとか 情報操作や隠蔽が行われたのではないか等と防衛省の事後の対応が問題になった。
この種の事故や事件には、連絡や情報開示が遅い等という問題は いつもつきものである。
情報開示を急ぐあまり 不正確なまま情報を流して 後で訂正すると、嘘の情報を流したのか、情報操作をしているのではないかと批判される。正確な情報を慎重に確認して発表すると遅いと非難される。
防衛省に言わせると、事件の捜査が全て海上保安庁に移っているということもあっただろう。
石破防衛相は、防衛省内に隠蔽工作があったら、責任を取って辞めると言い切ったが、隠蔽工作があったとは思われない。

 民主党をはじめ野党は、早速この事件で、政府の責任を問題にして 石破防衛大臣の辞任を求めた。
再発防止や海上自衛隊の建て直しのための建設的な議論は大いにやってもらいたいが、民主党の取り上げ方は、予算等他の重要法案の審議と絡ませるなど、これを政争の具に使っている。極めて遺憾だ。
石破さん個人としては、大臣辞任が、最も簡単で安易な処し方だろう。しかし、それは責任放棄であり、何の解決にもならない。防衛大臣に求められているのは、再発防止のための内部体制の建て直しや防衛省の改革に全力で取組むことではないか。

 石破防衛相は2月21日、また 舩渡健艦長は27日に 夫々 被害者宅を訪問し、親族に謝罪した。
親族は、石破防衛相に対して、“辞めるのではなく、真相究明や再発防止に全力を尽くしてもらいたい”と述べ、また、舩渡健艦長の謝罪が遅かったのではないかとのマスコミに対し、“遅いとは思わない、十分な謝罪に家族の気持も整理がついた”ときっぱり述べている(遺族の兄吉清高志さん)。
更に、2月28日には、「海上保安庁、海上自衛隊にも本来の任務がある。家族も事故発生から10日間最大限に捜査していただいたという気持ちでいる」と言って、親族側から 29日以降の捜索の打ち切りを要望したという。
3月2日に福田首相が謝罪のため 遺族宅を訪れた時も、親族側は 家族の思い(捜索活動等への感謝や事故防止対策の要請等)をつづった手紙を首相に手渡し、防衛相や艦長を辞任させず、原因究明や再発防止に取り組ませるよう 強く要請したという。
異常な情況下にも拘らず、被害者の親族の態度は、極めて冷静かつ理性的であり、 実に見上げたものだと久しぶりに感銘を受けた。
 このような被害者親族の意向が影響して、民主党は、あれ程強硬に主張していた石破防衛相の辞任要求を引っ込めてしまった。民主党の辞任要求は 世論からも支持されなかったし、得策ではないと判断したのだろう。

 最近、海上自衛隊では、不祥事が相次いだ。
イージス艦情報流出事件では米国の信用を著しく失墜したし、インド洋での給油量取り違えや航海日誌の誤廃棄は 国会で問題になった。12月には 横須賀基地に停泊中の護衛艦「しらね」で、艦内の最重要区画「戦闘指揮所」の火災により 大損害(200億円以上とも言われている)を受けた等である。
これら一連の不祥事は、最も危機管理に敏感であるべき防衛省が平和ボケに陥っていると言われても仕方がない。

 政府は、守屋前防衛事務次官の収賄事件をはじめとする度重なる不祥事に、内閣官房長官の下に 防衛省改革会議を設けるなど防衛省の改革に乗り出している。
また、防衛省は、今回のイージス艦「あたご」の衝突事故に関連して、省内に防衛省改革推進チームを発足させている。
国土、国民の生命・財産を守るという極めて重要な任務を帯びている防衛省は、徹底的な改革を実現して 国民に応えてもらいたい。その中で現場の隊員や職員の使命感の醸成や意識改革につながる実効ある施策を講じてもらいたいものだ。(2008.03.15)


 【ちょっと一言】
 事故の捜査のためとは言え、最新鋭のハイテク機密装備を搭載した海上自衛隊のイージス艦が、海上保安庁に押さえられ、その支配下に置かれていることには違和感を感じる。
もし仮に 今、イージス艦「あたご」の緊急出動を要する国家の非常事態が発生したらどうするのだろう。そんな時でも、海上保安庁の許可や了承を得なければ、「あたご」は身動きができないのであろうか。
国防を任とする海上自衛隊と海上保安庁との関係が これでよいのか、疑問があるところだ。
また、今回のように自衛艦が関わる海難事故でも、捜査は海上保安庁に委ねられるため、防衛省独自の真相究明は やり難くなる。
例えば 防衛省内の機密情報漏洩の不祥事等も、司法権に基づく捜査は 警察が行うことになっているが、果たしてこれが正しいのか疑問だ。
諸外国の例を見ても、軍隊には 軍規を保持するための軍法があり、軍内部に司法権を有する捜査機関や軍事裁判、軍法会議の制度がある。
国の防衛を担う自衛隊も、防衛省内部に 独自の司法捜査機関の設置等について検討すべきだと思うのだが…。(2008.03.15)

 次回は(第171回)「日銀総裁人事問題」(2008.04.01)
  【出来事】
  • 3月2日 ロシア大統領選挙 ドミトリー・メドベージェフ第1副首相(42)が圧倒的多数で当選(大統領就任宣誓式は5月7日)
  • 3月9日 大相撲3月(春)場所初日(大阪府立体育会館)
  • 3月11日 米航空宇宙局(NASA) 土井隆雄宇宙飛行士ら7人と国際宇宙ステーション(ISS)の日本の有人宇宙施設「きぼう」の「船内保管室」をのせたスペースシャトル「エンデバー」打上成功 於ケネディ宇宙センター
  • 3月12日 参院本会議 政府提出の日銀正副総裁人事案を採決 武藤敏郎総裁候補 伊藤隆敏副総裁候補を野党多数で否決 白川方明副総裁候を承認 尚3月13日の衆院本会議では3候補を与党の賛成多数で承認
  • 3月13日 東京外国為替市場の円相場 ドル安円高が進み1ドル=100円を突破(1995年10月以来約12年5か月ぶり)
  • 3月14日 中国チベット自治区のラサで大規模な暴動が発生 中国当局武力鎮圧 死傷者多数