◇第171回◇
日銀総裁人事問題
今、日銀では、3月19日の福井総裁の任期満了による退任後、後継総裁が国会の同意を得られず、総裁不在の状態が続いている。
政府は、総裁と副総裁2名の任期切れに伴う後継人事が 国会の同意を要するため、去る3月7日 総裁候補に武藤敏郎副総裁(64才 元財務事務次官)、副総裁候補に伊藤隆敏東大教授(57才 経済財政諮問会議議員)と白川方明京大教授(58歳 元日銀理事)を国会に提出した。
しかし、3月12日の参院本会議で 民主党など野党の多数により、総裁候補の武藤氏と副総裁候補の伊藤氏について不同意が決議された。(白川氏については同意)
政府は、やむなく候補人事を差し替え、総裁候補に田波耕治国際協力銀行総裁(68才 元大蔵事務次官)、副総裁候補に西村清彦日銀政策委員会審議委員(54 才)の人事案を国会に再提出したが(3月18日)、3月19日の参院本会議で、またもや田波総裁候補は否決されてしまった。(西村氏については同意)
以降、総裁は不在となり、国会承認を得た白川方明副総裁が総裁代行を勤めている。
民主党が、武藤敏郎氏や田波耕治氏を拒否した理由は、いづれも財務省(旧大蔵省)出身であるため、財政と金融の分離が確保されず(分かりやすく言うと政府寄りだから)、日銀の独立性が保たれないからだと主張する。
この民主党の主張は、全く理不尽であり、同意を拒否する理由にはならない。
日銀の独立性とは、主体性をもって国の金融政策を行うということである。
日銀は、金融政策を行うに当たって、物価の動向、景気の動向、為替相場等々 色々な要素を考慮するが、国の財政も金融政策上の大きな要素であり、財政を無視した金融政策はあり得ない。
日銀と財務省は、相互に補完し合い、連携して夫々の政策を実現していかねばならない。
財務省(旧大蔵省)出身であれば、国の財政も熟知しているし、総裁としては、よりふさわしいはずだ。財政にも明るいことは、総裁の必須条件と言ってもいい。更に、武藤氏は、過去5年間 副総裁として福井総裁を支え 金融政策の経験を積んできた実績もある。
財務省や大蔵省出身というだけで反対する民主党は、財務省と日銀は、対立すべきものとでも考えているのだろうか。全く理解に苦しむ。
民主党の反対意見の中には、武藤氏や伊藤氏は、日銀の低金利政策に加担し (預貯金の低利子で)国民に損害を与えたから…、大量の国債を引き受けたから…等と非常識なことを言う者もいた。国会議員としての資質が疑われる発言である
問題は日銀総裁として優れた力量を備えているかどうかであって、財務省出身だろうと民間出身だろうと関係ない。
国の金融の舵取りをする日銀総裁には、金融や経済に関する識見や能力は勿論、指導力や人格、国際性など最高の資質が求められる。
日銀総裁の人事権は内閣の行政権に属し、総裁の任命は政府の責任において行われる。
国会の同意を必要とすると言っても、総裁の人選は 国会が行うものではなく、まして参院第1党の民主党が行うものではない。
したがって、野党が政府提出の人事案件を否決するためには、それだけの合理的な理由が必要である。
然るに、民主党は、反対の合理的な理由を示すことなく否決してしまった。これは、権利の乱用であり、日銀の中立性を著しく損なう行為だ。
民主党の狙いは、日銀総裁問題で政府を追い詰めることが目的で、日銀総裁問題を党利党略のための政争の具に利用したことは間違いない。
それは、2月29日、野党が出席を拒否した衆院で 2008年度予算案が可決された時、民主党の鳩山幹事長が“これで日銀総裁人事は難しくなった”と発言したことからも明らかである。
今回、日銀総裁人事の混乱をもたらした根源は、総裁人選手続きの欠陥による。
日銀総裁の人事権は、内閣にあるのに、国会の同意が必要というのが そもそもおかしい。総裁人事が国会の意向によって決まるということになれば、三権分立の基本原則に反する。(立法府による行政府への侵害)
日銀総裁を含む国会同意人事案件の手続きの欠陥については、速やかに法律を改正し 是正を計るべきである。少なくとも、総理大臣指名手続きと同様の衆院優越とすべきであろう。参照⇒〔第166回〕「立法府のシステム欠陥がもたらしたねじれ現象」
この欠陥是正のための法律改正の意見について、福田総理は 野党の同意が得られないとして否定的である。
野党が反対することは分かりきっている。だから、衆院で与党が3分の2を占めている今こそ、法律を改正すべきである。
法の欠陥を正すのに躊躇する理由はないはずだ。
福田さんに 武藤総裁がベストだという自信と確信があるならば、法律を改正して 武藤総裁を実現する道も まだ残っている。
小泉元首相は、郵政民営化法案が与党議員の造反により 参院で否決されても、なお衆院を解散して民意を問い、郵政民営化を実現したではないか。
今、我が国は、米国のサブプライムローンに端を発する世界的な金融不安の中で、原油高、円高、株安 更に物価上昇懸念等 困難な問題に直面している。
このような非常時の中で、総裁不在の日銀が 有効な金融政策を推進できるのか、国民の間には不安感が広まっている。
また、総裁不在の日銀には 国際社会からの懸念も拡がっていいる。これは我が国政治の国際信用の失墜を意味する。
日銀総裁人事を政争の具に使う民主党は、あまりにも無責任であり、こんな政党に政権は任せられない。
同時に、日銀総裁不在という前代未聞の異常事態をもたらした福田総理の責任も 極めて重大である。
野党が政府案に反対することは、相当前から分かっていた。福田さんは、民主党の翻意に期待するのみで、全く無為無策であった。
もはや民主党への説得が無理ならば、国民に対して政府案の正しさを十分説明して世論を喚起すべきであった。党を挙げての広報活動により、民主党の党利党略、無責任を訴える手法もあったはずだ。
民主党からは、福田内閣は組みし易しと見られ、足元を見透かされている。
福田さんへの国民の信頼は、失われつつある。(2008.04.01)
次回は(第172回)
「頼りない福田内閣(T)」(2008.04.15)
【出来事】
- 3月19日 政府再提出の田波耕治日銀総裁人事案を参院本会議が否決(西村清彦副総裁候補については承認 同日開催の衆院本会議では田波 西村両候補とも承認)
3月20日以降日銀総裁は空席 総裁代行は白川方明副総裁
- 3月20日 プロ野球 パ リーグ公式戦開幕
- 3月22日 第80回選抜高校野球大会開幕 於阪神甲子園球場
- 3月22日 東京 静岡 熊本で桜の開花宣言
- 3月22日 台湾総統選挙 国民党の馬英九氏が民進党の謝長廷氏を破って当選
- 3月23日 大相撲春(大阪)場所千秋楽 横綱朝青龍が二敗同士で並んだ横綱白鵬を破って優勝(13勝2敗)
- 3月28日 プロ野球 セ リーグ公式戦開幕
- 3月31日 衆院参院本会議 道路特定財源の揮発油(ガソリン)税の暫定税率を除き 3月31日に期限が切れる租税特別措置の効力を5月末まで2カ月間延長(つなぎ)する法案を与野党賛成多数で可決
揮発油税の暫定税率は4月1日から失効(ガソリン価格は1リットル当たり約25円下がることになる)
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