◇第174回◇
航空自衛隊イラク派遣違憲判決
去る4月17日、自衛隊のイラク派遣に反対するグループが、航空自衛隊のイラク派遣は憲法違反であるとして、派遣の差し止めや精神的苦痛に対する損害賠償を 国に求めた控訴審判決が、名古屋高裁であった。
判決は、航空自衛隊の派遣阻止や損害賠償については 認めず、原告敗訴とした。
しかし、裁判所は 憲法判断に触れ、バグダットは 戦闘地域であるため、憲法9条に違反する活動を含んでいるとの違憲判断を示した。
もとより合憲、違憲の最終判断は、最高裁判所が行うものであり、当然のことながら 今回の名古屋高裁の判決に、国は 何ら影響されることはない。
形の上では、国の勝訴となったため、国は 上告して最高裁判所の憲法判断を仰ぐことはできない。
原告側は敗訴したにも拘らず、上告しなかったため、名古屋高裁の判決が確定してしまった。
事実上、原告側の狙い通りの判決だったと言えるだろう。実は 原告側は、勝訴判決では困るのである。
なぜならば、裁判所が 自衛隊の派遣差し止めや損害賠償を認めて 国側敗訴の判決をしたら、国は上告して最高裁判所の憲法判断を仰ぐことができるからだ。(原告側は、最高裁は 自衛隊派遣が違憲という判断はしないと思っているに違いない)
したがって、原告側として、高裁で 自衛隊派遣の違憲判断さえ勝ち取ればいいので、敗訴判決がベストだっただろう。
同じような判決が 既に2004年4月、小泉総理の靖国神社参拝をめぐって福岡地裁であった。
原告側の国家賠償請求を認めず 原告敗訴判決を下しながら、敢えて傍論で 総理の靖国神社参拝は違憲と述べた判決である。
この時も、国は勝訴したため 控訴できず、原告は 総理の靖国参拝は違憲との判断に満足して控訴しなかったため、同地裁の判決が確定してしまったものである。
今回また、同種の判決が繰り返されたことは、極めて遺憾である。参照⇒〔第77回〕「首相の靖国神社参拝違憲判決」
今回の名古屋高裁の判決は、次の点で極めて不当である。
●自衛隊の派遣差し止めや損害賠償を認めないという判断を導くのに、自衛隊イラク派遣についての憲法判断は必要ない。これまで この種の裁判では、不必要な憲法判断はしないのが原則なのに、敢えて傍論の形で 違憲判断に踏込んだことには、特別の意図を感じる。
違憲だと判断したならば、原告のイラク派遣差し止めや損害賠償請求を認めて、国側敗訴の判決をするのが筋だろう。
●名古屋高裁は バグダットは戦闘地域だと判定しているが、裁判所が戦闘地域か否かを判定する立場にあるのか、また判断できるのか、極めて疑わしい。
バグダットの空港には、民間機も発着しているのだから、戦闘地域とは言えないだろう。
イラクは治安が悪いので、国際社会の協力により、治安維持のための活動が行われているもので、戦争や戦闘地域と言うべきものではない。
政府は、バグダットは イラク特別措置法で言う非戦闘地域の要件を満たしていると判断して、自衛隊を派遣している。
自衛隊の派遣は、国連安保理決議に沿うものであり、国際平和協力活動という高度な政治問題であって、行政による統治行為である。
統治行為については、司法は関与しないことが大原則だ。それは、司法の行政への介入となり、立法、行政、司法の三権分立の原則に反するからだ。
●最終的な違憲審査権を持つ最高裁の憲法判断への道を、下級審が 意図的に閉ざしてしまう本件のような判決が繰返されるならば、それは司法の自殺行為に繋がる。それについて最高裁がどう考えているのか、聞いてみたいものだ。
また、今回の問題は、憲法9条の改正の更なる必要性を 示唆することになったと言えよう。
(2008.05.15)
次回は(第175回)
「朝青龍の“だめ押し”」(2008.06.01)
【出来事】
- 5月2〜3日 ミャンマー 大型サイクロンの直撃に遭い犠牲者10万人に達するとの見方もあり 被災者は150万人と言われている
- 5月6日 胡錦濤・中国国家主席が来日 7日に福田首相と首脳会談(10日まで滞在)
- 5月7日 ロシア ドミトリー・メドベージェフ氏(42才)が新大統領に就任 前大統領ウラジーミル・プーチン氏は首相に就任(5月8日)
- 5月11日 大相撲夏場所初日(両国国技館)
- 5月12日 中国で大規模地震発生(M7.8 震源地は中国南西部・四川省) 被害甚大 確認された死者約1万5千人 生き埋め2万数千人等の情報もあり 全貌つかめず 犠牲者は更に増大する見込み
- 5月13日 衆議院本会議 前日参院本会議で否決された改正道路整備費財源特例法を3分の2以上の多数で再可決 成立
これより前 政府は道路特定財源制度は平成20年度限りとし 21年度からの全額一般財源化を明確にした「道路特定財源に関する基本方針」を閣議決定
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