◇第187回◇
世界的金融不安と政府の経済対策
昨年 アメリカのサブプライム ローン問題(低所得者向け高金利住宅融資の焦げ付き)に端を発した金融不安は、ヨーロッパに飛び火し、瞬く間に全世界に広がった。
去る9月15日の米証券大手リーマン・ブラザーズの経営破綻は、金融危機の深刻さを象徴している(負債総額約6,130億ドル)。
世界中で株価が暴落し、深刻な不況が世界に蔓延している。
アイスランドでは、国自体が破産の危機に瀕しており、アメリカでは 自動車最大手のGM(ゼネラルモーターズ)が経営危機に陥っている。米3大自動車メーカー(ビッグスリー)が 政府に支援を求めている。
IMF(国際通貨基金)は、日米欧の2009年度のGDP(国内総生産)の伸び率は、いずれもマイナスに転じると発表したが(11月6日)、既に2008年7〜9月期速報値で 日米欧 そろってマイナスになっている。
中国、インド、ブラジル等の新興国も、これから一層 金融不安や経済不況が深刻化していくものと思われる。
米欧諸国では、金融機関に対する公的資金の投入や政策金利の引き下げ等、強力な金融対策が推進されている。
金融危機克服のための国際会議も相次いで開催され、金融危機についての各国共通の認識や対策についての意思統一が行われた。(10月10日 G7財務相・中央銀行総裁会議、11月5日 APEC財務相会議、11月8日 G20 財務相・中央銀行総裁会議、11月14〜15日 G20 緊急金融サミット、11月19〜23日 APEC<19〜20日閣僚会議 22〜23日首脳会議>等)
しかし、世界を覆っている金融危機から脱却する道は まだ見えてこない。
当初、サブプライム ローンの影響(被害)は少ないと言われていた我が国も、今や深刻な不況に見舞われている。
ドルやユーロを初め、各国の通貨が軒並み下落する中で、円だけが上昇している(対ドル90円台、対ユーロ120円台で推移)。約10年前のバブル崩壊を経験した日本の金融システムは、まだ安泰だとして 円が買われているためである。
円高に伴い、株価も大幅に下落しており、一時7,000円(日経平均)を切る場面もあった。
我が国経済を支えてきた輸出産業は、外需不振と大幅な円高というダブルパンチに見舞われ、大きなダメージを受けつつある。
自動車や電機等の産業に その傾向が著しい。我が国のトップ企業であるトヨタ自動車は、2008年度の営業利益の見通しが 前期比約74%減になると発表した。(前期約2兆2,703億円⇒今期約6,000億円に)
輸出産業の不振は、我が国経済に暗い影を落としている。
麻生政権も 発足早々、世界的な金融危機や経済不況を深刻に受け止め、補正予算を含む経済対策を講じ、更に追加対策を実施しようとしている。このため、当初11月中と見られていた衆院の解散総選挙も 見送られることになった。
今 我が国が直面している問題、即ち 円高、株安、金融不安、外需不振による不況等は、全て外的要因によるものであるため、国の対策も限られてくる。
対策の基本は、金融システムや国の経済を支えてきた産業基盤を守り抜くことが第一義であろう。
金融危機への予防措置として、金融機関への公的資金注入枠の復活・拡大や信用保証枠の拡大等は 必要な対策だ。また、先の見通しや将来性のある中小企業に対する金融支援も大切だろう。
欧米諸国の中央銀行が 軒並み金利引下げに動いている中で、日銀も 政策金利引下げを行ったことは 必要な措置だった(10月31日 0.5%⇒0.3%へ)。
国の経済対策は、中長期的な視点に立脚したものでなければならない。
先端技術や省エネ技術の開発 育成、産業転換に関わるもの等 前向きな政策を行うべきで、場当たり的な不況対策は意味がない。
政府が打ち出している経済対策には、問題があり 賛成できない。
総額約2兆円規模の定額給付金(国民全員に1人12,000円、18才未満及び65才以上の者にはプラス8,000円)や高速道路料金の大幅値下げ(土、日、1,000円で乗り放題)は、財政規律を無視した“ばら撒き”の典型で、経済効果は ほとんど見込めない。国の借金を増やすだけで 百害あって一利なしと断じたい。
政府は、定額給付金を 家計に対する緊急支援対策と位置づけている。それなら 支給対象を、今回の不況の影響を受けて生活が困窮した者に限定すべきだろう(例えば失業した等)。これでは、まるで国民全員が生活困窮者になったようである。とても まともな政策とは言えない。
高速道路料金の値下げ問題は、今夏のガソリン価格の異常な高騰対策として打ち出されたのではなかったか。今や ガソリンは 値崩れして110円〜120円台にまで下落している。(漁業や農家等への燃料費助成措置についても同様のことが言える)
また 道路公団は民営化されているのに、政府が一方的に通行料金を決めるのは、民営化の趣旨に反するのではないか。
来年は、不況が更に一層 深刻化すると思われ、長期化することも考えておく必要がある。その事態に 政府はどんな対応を考えているのだろうか。また 大量の給付金をばら撒くわけにもいくまい。
政府は、現在の経済不況を どう捉えているのか、国民に対する説明責任も果たしていない。国民の不安は募るばかりだ。
衆院選挙を控えたこの時期に、無意味な金銭の“ばら撒き”は、合法的な票の買収だという批判は当たっている。
このように、財政状況を無視した無駄な“ばら撒き”をしておきながら、3年後には 消費税アップをお願いするという麻生総理の発言に 説得力はない。
“ばら撒き”のような無駄はやめて、将来の消費税アップは 出来るだけ低めに抑えてもらいたいと言うのが、国民の気持だ。
こんな調子では、麻生自民党政権に 及第点はやれない。(2008.12.01)
【ちょっと一言】
[定額給付金…曽野綾子さんの風刺コラム記事から]
……この予算が逼迫していると言われる時に、一律、受ける理由のない金を配るというのだから、どんなに否定しても選挙目当ての票を買うに等しい行為だ、と思われる。
この企画のおかしさは、そもそも「金を撒く」という行為が封建的だからである。金撒きは、お開帳とか棟上とか、土地によっては出棺の後などに つきものだった。立場の上の金持ちや偉い人が、貧しい しもじもの民に 福を分けたのだろうが、お慈悲をくれてやる、という感じに見えて、私は無礼な行為だと思っている。……
……金銭は正当な労働報酬としてのみ受けるのが当然である。1円たりとも理由なく 金をもらうというようなことに国民を慣らすのは、教育上も 実によくないことだ。……
……我が家でも 最初のうち「筋の通らないお金は要らないから断ろう」と威勢よく言っていたが、だんだん私は セリフを変える気になっている。「私は高額所得者ですけど、自民党をこらしめるために もらいます」になってきたのである。 ……
次回は(第188回)
「2008年を振り返る」(2008.12.15)
【出来事】
- 11月14〜15日(現地時間) G20緊急首脳会合(金融サミット) 於ワシントン
- 11月17日 麻生 小沢党首会談 小沢氏が第2次補正予算の今臨時国会への提出を要求 会談不調に終わったため民主党は新テロ特措法改正案と金融機能強化法改正案について参院での採決に応じない方針に転換
- 11月19〜23日 APEC(19〜20日閣僚会議 22〜23日首脳会議) 於ペルー リマ
- 11月23日 大相撲11月(九州)場所千秋楽 横綱白鵬が13勝2敗で並んだ関脇安馬を優勝決定戦で破り優勝
- 11月26日 大相撲 関脇安馬(伊勢ケ浜部屋) 大関に昇進 同時にしこ名を「日馬富士(はるまふじ)」に改名
- 11月26日(日本時間27日未明) インドのムンバイで同時多発テロ事件が発生 高級ホテルやレストラン 病院 鉄道駅等約10か所が襲撃され 死亡195人(内日本人1名) 負傷約300人(内日本人1名)の見込み
- 11月28日 衆院本会議 今第170臨時国会の会期(11月30日まで)を12月25日まで25日間延長することを議決
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