◇第192回◇
横綱朝青龍
今年 初場所千秋楽で、横綱朝青龍が、14勝1敗で並んだ横綱白鵬を優勝決定戦で下し、23回目の優勝を果たした。
朝青龍は、左ひじの故障で 前3場所休場し、場所前の横綱審議委員会の稽古総見では、白鵬に対して1勝6敗、全体でも6勝10敗という不甲斐なさで、稽古不足による不調を露呈していた。
横綱審議委員の中には、初場所も休場なら 引退だと言う者までいたが、大方の見方は、無様(ぶざま)な成績だったら 引退につながるから 初場所出場は無理だ、見合わせた方が良いと言うものだった。
それでも朝青龍は、不安を抱えながらも 出場に踏み切った。案の定 場所の前半は、土俵際まで追い詰められ 辛うじて逆転勝ちする等、朝青龍らしくない薄氷を踏むような土俵も何番かあった。
しかし、取組みを重ねるうちに、本来の強さを取り戻し 14日目まで白星を続け、引退の危機から 一転して 優勝を勝ち取った。朝青龍の精神力には、驚嘆すべきものがある。
朝青龍は 白鵬に比べると、力士としての体格、体質では、それほど恵まれているとは言えない。
朝青龍の力の根源は、勝負に徹する強い精神力だと思う。
土俵で見せる気迫は、相手に威圧感を与え、自らを奮い立たせている。また、その一瞬にかける集中力には 他を寄せ付けないものがある。
今初場所で見せた 土俵際まで追い込まれての逆転勝ちは、勝負に対する強い執念がもたらしたものだ。
また、朝青龍の相撲の魅力の一つに、スピードがある。名横綱 千代の富士のスピード相撲を彷彿させる。
更に、相手をよく研究しているため、同じ相手に2度負けることが少ない。
このような精神面の強さは、持ち前の根性と厳しい稽古から生まれることは間違いない。
最近の日本人力士の中に、これ程優れた 強い精神力を持った力士は見かけない。
朝青龍の言動に対し、世間では色々な批判がある。横綱白鵬との対比では、悪役にされている。
かっての全盛期の圧倒的な強さに対する反動もあるのだろう。
例えば、“だめ押し”が問題になった。“だめ押し”を批判する者は、勝負の本当の厳しさを知らない者だと言いたい。
格闘技では、相手を倒す執念から出た技は、止まるところを知らない。まさに“打ちてし止まん”の精神であり、これなくしては 勝負師 失格だ。勝負に徹すれば、だめ押しは、自然の流れであり、故意から出るものではない。レフェリーが、止めるまで打ち続けるボクシングは その典型だが、柔道でも剣道でも その精神は同じことだ。
参照⇒〔第175回〕「朝青龍の“だめ押し”」
今初場所 千秋楽 決定戦で白鵬を下して優勝を決めた瞬間、両手を挙げてガッツポーズをしたことが、品格に欠けるとして横綱審議委員会で問題になり、日本相撲協会の武蔵川理事長は、朝青龍に対し 厳しい姿勢で臨むと言った。
しかし、進退を賭けて臨んだ場所を乗り切っただけでなく、苦しい中で勝ち取った優勝の喜びの気持が、あんな形で 観衆の声援に応えるポーズになったのだろう。素直な喜びの表現と受け止めたい。
場所15日間、彼が闘志を燃やし続け、勝負に集中してきたからこそ出た自然のポーズであり、横綱の品格とは関係がない。
朝青龍の土俵外での言動が批判されている。例えば 相撲協会に無断で モンゴルに帰った等である。確かに、日本の大相撲界を代表する横綱の地位を考えると、土俵外の言動にも 一般人以上の品位が要求されるのは当然だろう。
しかし、それ以上に 外国人力士には 評価すべき点があると思っている。それは、彼らが日本の相撲界に身を置いていること自体だ。
日本古来の厳しい伝統を守っている社会は、今や相撲界しかない。相撲を志して相撲部屋に入門する根性ある若者は 少なくなった。まして、言葉も風俗習慣も違う日本で、しかも相撲部屋で厳しい稽古に励む若い外人力士には、それだけで敬意を表したくなる。彼らは、今の日本人に欠けているものを持っているからだ。
ホームシックになることも、里帰りも したくなるだろう、外人力士の私的な面には、思いやりをもって 見守る度量が欲しい。
朝青龍は、マスコミの受けがよくない。取材に対して、ぶっきら棒な受け答えが多い等、マスコミへのサービス精神が少ないからだ。これで態度が悪いと言われ、悪役に仕立てられている。相撲一途に徹しているので、マスコミにまで 気は使いたくない、それは それで結構だと思う。人気取りのために マスコミに媚びるよりは、はるかにいい。
最近、大相撲界では不祥事も続き、人気が低迷していた。しかし、初場所は、休場が続いた朝青龍が出場しただけで、国技館は盛り上がった。久し振りに満員御礼が7日間もあった。
しかし、朝青龍の復活優勝でようやく活気を取り戻した初場所だったのに、その後に起きた若麒麟(十両)の大麻所持の不祥事は、相撲人気に水を差す形となった。昨年、大麻不祥事で3人の力士が解雇されたばかりだというのに、今回また同じ不祥事が起きたことは、内部の規律の乱れ、親方の指導不徹底を露呈したものだ。抜本策を考えねばならない。
今回の事件で、日本相撲協会は、若麒麟の引退届けを受理せず、解雇処分にした。若麒麟は、退職金(約530万円)を辞退したが、理事長以下協会側の責任が 全く問題にならなかったことに 疑問を感じた人も多かったのではないか。
朝青龍の絶頂期は、過ぎたと思われるが、人気はまだ衰えていない。朝青龍、白鵬 両横綱の力は、確かに 抜きん出ており、貴重な存在だ。残念ながら 日本人力士の中には、朝青龍や白鵬に続く候補は、今のところ 見当たらない。
3月15日から春場所(大阪場所)が始まる。
初場所のような盛り上がりを期待したい。横綱、大関陣の責任は重大だ。
(2009.02.15)
次回は(第193回)
「小泉さんの造反」(2009.03.01)
【出来事】
- 2月2日 日本相撲協会理事会 十両力士の若麒麟の解雇処分決定(1月30日大麻所持で現行犯逮捕されていたもの)
- 2月12日 今月初め オーストラリア南部ビクトリア州で発生した山火事は 20ヵ所以上に及び延焼中 死者は300人以上に達すると言われている
- 2月13〜14日(現地時間) 先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議 中川昭一財務相・白川方明日銀総裁が出席 於 ローマ(イタリア)
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