◇第196回◇
製造業への人材派遣
昭和初期の世界大恐慌以来とか 100年に一度とも言われるている今回の不況は、我が国経済が 世界大不況に呑み込まれたと言うべきもので、特に 外需依存の我が国経済への打撃は、他国以上に深刻なものがある。
昨年秋、自動車、電機等の輸出産業から始まった不況は、製造業全体に拡大し、銀行や証券会社等の金融機関にも波及して、多くの会社が 軒並み損益を下方修正したり、莫大な損失を計上している。
特に、製造業では、需要の低迷から 生産縮小を余儀なくされ、多くの企業が余剰人員の削減に踏み切っている。
昨年暮、厚生労働省は、昨年10月から今年3月末までに 自動車等を中心に 約85,000人の非正規雇用者が失職する見通しだと発表したが、わずか1ヶ月後の1月下旬には、その数を125,000人に、2月下旬には 158,000人に大幅修正した。更にその後 今年6月までには、その数が192,000人余になるとの見通しを発表している。
雇用不安は 非正規社員に留まらず、失職は正社員にも及んでいる。
これは 不況が如何に急激に進んでいるかを示しており、失業者は、もっと増えると思われる。いよいよ大量失業が社会問題になってきた。
不況による失業者が、製造業への派遣労働者に多く出ていることから、この際 製造業への人材派遣を 禁止すべきではないかという議論が起きている。
派遣労働は、企業側にとっては、人材の確保が容易にできるし、特に製造業では、好不況の需要に対応して 労働力を弾力的に確保できるのは、大きなメリットだ。
逆に これが、今 雇用不安をもたらしている元凶だとして、派遣労働禁止主張の論拠になっている。
製造業への人材派遣が禁止されれば、企業は 全部正社員にしなければならない。しかし、人材派遣を禁止しても、不況時の失業防止策にはならない。人員整理の対象が非正規社員から正社員に変わるだけで、失職する人数は 変わらないからだ。現に、リストラは 正社員にも及んでいる。
正社員の解雇は、退職金等のコストがかかるし 労組との関係もある等、企業にとっては 大きな負担になる。労働者派遣禁止論者の狙いもそこにある。
しかし、企業側は、人材派遣が禁止されても、派遣労働者数に見合う正社員を採用することはあり得ない。逆に 正社員の解雇は 容易にできないため、人員採用には より慎重になるだろう。
ここまで普及した人材派遣を禁止すれば、製造業は 大きな打撃を受けることは間違いない。
企業にとって人件費は、経営上の大きな要素だ。必要な労働力を全て正社員で賄うとなれば、福利厚生費や退職金等 人件費は大幅に増加する。固定費が著しく増加し、需要に応じての弾力的な生産が困難になる。
これでは、我が国の製造業は、国際競争力を失ってしまう。外需依存で成り立っている我が国経済は、致命的な問題に遭遇することになるだろう。
企業は、国内での労働力確保に問題が生ずれば、生産拠点を海外に移すだろう。
そうなれば、雇用の場が失われ 高い失業率が常態化するだけでなく、産業の空洞化が進み、地方の疲弊を招く等、新たな社会問題が生じてくる。
製造業への人材派遣は、派遣労働者側にとっても 無視できないメリットがある。
人材派遣会社に登録しておけば、容易に職に就ける。人材派遣が禁止されると、自分で就職口を探さねばならなくなる。
仕事に対する価値観も多様化している。即ち、特定の企業に就職して拘束されるのを嫌う人もいる、自分のペースで仕事をしたい、色々な仕事を体験して見たいと考えている人達にとって 派遣制度は好都合である…等々。
日本人材派遣協会は、製造業への人材派遣禁止に 反対する声明を出しているし、経営側は 概ね反対のようである。
製造業への派遣禁止に反対しているのは、経営側だけではない。
派遣労働者らの労働組合「人材サービス ゼネラルユニオン」(連合加盟)は、“製造業への派遣制度には 就労しやすいメリットがある”、“労働者保護の観点が置き去りにされ、禁止ありきの議論がされている”…等々の理由で、製造業への人材派遣禁止に反対する意向を表明している。
雇用確保のためには、製造業への人材派遣を禁止すれば良い という単純な問題ではない。
派遣禁止がもたらす弊害の重大性を考えると、100年に一度と言われる大不況(100年に一度しか起こらない大不況)のために、制度を変えて 製造業への人材派遣を禁止してしまうことは、将来に大きな禍根を残すことになるだろう。
それよりも 景気回復のための実効ある政策とともに、緊急的なセーフティネットを講ずることこそが急務である。
雇用維持のため、企業内でのワークシュアリンが話題になっている。これを取り入れた企業もあるが、ワークシュアリンは 労使共に問題があるとして、導入に消極的な企業も多い。
しかし、政府の景気対策や救済措置にも限界があることを考えると、ワークシュアリンは 緊急雇用対策としては有力な手法だと思う。
100年に一度と言われるこの大不況を乗り切るためには、国民全体がワークシュアリングを甘受する気持になることが肝要だ。それは、生活水準を多少落としてでも、皆で全体を支え合う精神である。(2009.04.15)
【ちょっと一言】
戦後最大と言われる不況の中で、大量失業が大きな社会問題になりつつあるというのに、一方では 人手不足に喘いでいるところもある。
介護等 社会福祉の分野では、相変わらず人材不足が続いているし、農林水産業でも 人が集まらなくて困っている。地方によっては、中小企業が 求人募集をしても応募者がなく、深刻な人材不足が続いているところも多いという。自治体が、失業対策として臨時職員の採用を打ち出しても 応募が少なく、拍子抜けしたところもあるという。
敬遠する理由は、賃金が安い、安定性がない、自分に適さない…等々。
マスコミは、失業者の実態は極めて深刻だと報じているが、このような状況を見聞すると いささか疑問を感じる。
求人と求職のミスマッチだと言う。ミスマッチで片付けられる程度なら、それ程深刻ではないということにもなるのだが…。(2009.04.15)
次回は(第197回)
「北朝鮮のミサイル発射実験」(2009.05.01)
【出来事】
- 4月2日 第81回選抜高校野球大会決勝戦 清峰高校(長崎)が花巻東高校(岩手)を1対0で破り優勝
- 4月2日 主要20カ国・地域(G20)金融サミット(首脳会合)於 ロンドン
- 4月3日 プロ野球 セ・パ両リーグ公式戦開幕
- 4月5日 北朝鮮 飛翔体(弾道ミサイル?人工衛星?)を日本海へ向けて発射 1段目は日本海に落下し 2段目以降は搭載物とともに、太平洋に落下した模様 日本 国連安全保障理事会の議長国メキシコに緊急会合の開催を要請
- 4月11日 タイ・パタヤで開催中の東南アジア諸国連合(ASEAN)の関連会議は アピシット首相退陣を求めるタクシン元首相派のデモ隊の抗議行動で大混乱 その後の全会合(東アジア首脳会議等)が中止になる タイ政府は非常事態宣言を発令
- 4月13日(日本時間14日) 国連安全保障理事会 北朝鮮のミサイル発射問題に関し 発射は安保理決議1718(2006.10.14)に違反する等として非難する議長声明を採択 (議長声明の要旨⇒クリック)
これを受けて北朝鮮は6カ国協議不参加を表明 IAEA(国際原子力機関)監視団に対し退去通告 全ての核施設の運用再開と使用済み核燃料棒の再処理方針を表明(14日)
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