・ホームページへ・PalmがJotを選んだ理由
Palm OS 5.2から採用されている、Graffiti 2 powered by Jot(以下Graffiti 2)は、Communication Intelligence Corporation社の技術です。従来のGraffitiが一筆書きで文字を認識するようにしていたのに対して、Graffiti 2では、基本的にアルファベットは小文字のブロック体をそのまま書けば認識するようになっています。従来のGraffitiでは一部の文字をユーザが覚えなければならなかったのを解消し、より自然なストロークで認識できるようにしたというのが、建前上の変更理由です。しかし、実際には旧Graffitiのストロークは非常によくできていて、大文字を一筆書きで書く場合にイメージする形とほぼ一致するために、実際に覚えなければならない文字はKなどごく一部の文字です。ほとんどの人は、少し慣れればほぼ問題なくGraffitiで入力ができたのではないでしょうか。
Xの悲劇
PalmがGraffiti 2を採用した一番の原因は、Xerox社の特許にGraffitiが抵触していると訴えられていることにあると思われます。2003年末時点で確定していませんが、Palm側に非常に不利な情勢になっています。場合によっては特許の侵害によりGraffitiの使用差し止めの判決が下り、Palm OS機が全く販売できなくなってしまう可能性もあるので、最悪でも賠償金で済ませられるように、今のうちに特許を回避しておく必要があったのでしょう。
Xeroxの特許の原文 ページ下の[Images]をクリックするとストロークが表示されます。これを見るとほとんどの文字はアルファベットとはかけ離れた書き方になっています。特許の原文は難しくて読む気になりませんが、おそらくすべてのアルファベットが一筆書きで記入できることが重要なのだと思います。実際この特許の原文には"unistroke"という単語が頻繁に登場します。従って、もし旧Graffitiがxのストロークを2画で書くものに限定していたら、この特許を回避できたのではないかと私は思うのです。旧GraffitiのXは\と/をつなげて書いても、別々に書いても認識しました。実際には\は特殊記号入力モードに入るきっかけで、このモードで入力する文字の一つにxがあり、それとは別に一筆書きでxを入力できるGraffitiストロークが用意されていたのでした。それによってすべてのアルファベットが一筆書きで記入できるようになり、結果的にXeroxの特許に抵触すると判断される材料になってしまったと考えられます。JotとGraffiti2の違い
Jot(私の持っているのはJot for Palm OS Version 2.0)では、i,t,kなどにストロークを追加、変更するオプションにより、すべての文字を一筆書きで記入することができました。たとえば、iは縦棒一本で入力できるようにすることができたのです。そのときはLはLのように記入すればいいわけですから、旧Graffitiから移行するには都合が良かったのです。しかし、Graffiti2では、i,t,kは2ストロークでしか書きようがありません。これはもちろん、上記の特許問題があるからでしょう。
Graffiti特許問題・その後
2004年5月、米連邦地裁判事は、Xeroxの特許を無効と判断しています。出願以前から存在する技術であって、特許性がないということです。特許が無効であれば、Palmがこの技術を使用することに対して、Xeroxがとやかく言う権利がなくなります。この判決は、Xeroxが取得した特許の内容をPalmが侵害しているかとは別の次元で、「特許は取っているけれども、よく調べたら特許が取得できるような技術ではなかった」ということになります。
Xeroxがこれで黙っているはずはなく、控訴審によりこの判決は覆ります。判決が二転三転して訴訟に時間と金をかけ続けるのにアホらしくなった両者は結局その後(2006年6月28日発表)、Palmが和解金2250万ドルを支払うことでようやく決着しました。まとめてみました。
1995/10/26 Xeroxが特許申請(Unistrokes for computerized interpretation of handwriting)
1996/1 U.S. RoboticsがPILOTを発表
1997/1/21 Xeroxが特許取得(第5596656号)
1997/4 XeroxがU.S. Roboticsを提訴
2000/6 地裁 Palmシロ(特許侵害せず)
2001/10 高裁 地裁に差し戻し
2001/12 地裁 Palmクロ
2002/2/22 地裁 Palmに5000万ドルを裁判所に供託するよう命令。XeroxのPalmへの販売差し止め要求は却下
2003/1/13 PalmがGraffiti2を発表
2003/2 高裁 再び地裁に差し戻し
2004/5 地裁 Palmシロ(Xeroxの特許は無効)
2006/6 高裁 差し戻し
2006/6/28 PalmがXeroxに2250万ドル支払うことで和解と発表Graffiti2の不具合点
Graffiti2は、基本的にアルファベットは小文字のブロック体で記入します。ここで問題なのは、l(小文字のL)とi,t,kの2ストロークで記入する文字です。i,t,kは最初のストロークでlを認識した後、2ストローク目が記入されると一度lをバックスペースで消去した後で別の文字を挿入するという動作がなされます。これにより、アプリケーションでLを記入した場合とKを記入した場合で違う動作をさせることが基本的にはできなくなりました。具体的には、Palmのソフトには、Graffiti2採用後も/Kでソフトウエアキーボードが起動するようになってますが、実際にはkの最初のストロークを記入した時点で/Lを認識してしまい、Phone Lookupへ飛びます。ですから、/Kは実際には使えなくなり、メニューから選んで起動することになります。ソフトウエアキーボードの起動は、Graffitiエリアが印刷された機種の場合、隅のabcや123と書かれた点をタップすれば起動できたのですが、TUNGSTEN T3のようにGraffitiエリアを液晶で表示する機種では、この点をタップするとGraffitiエリアそのものをキーボード表示に差し替える動作になり、従来のソフトウエアキーボードの起動とは違うものとなります。特にJ-OSをTUNGSTEN T3で使用している人は悲惨です。J-OS IMEの起動はこの、ソフトウエアキーボードの起動に当てているので、文字を入力しようとするたびに面倒な操作を強いられます。J-OS IMEを起動させるDAを導入することで、ある程度軽減できますが、従来のように簡単にはいきません。
上記のような問題を解決する方法として、Lを認識してからそのコマンドが動作するまで時間を置くようにすることをPalmsourceのこのページで紹介していますが、Palmsource自体がそれを行っていません。
また、インクリメンタルサーチ(一文字書くごとに候補を絞り込んでいくタイプの検索)でtを書いたときに動作に遅れが出たり、tを書いたときのPalm側の動作が複雑なので、次に書いた文字の認識率が悪くなったりする不具合もあります。
さらに、lの後に書いた−や・がスペースやピリオドなのか、もしくはtやiを書こうとしているのか区別しにくいという問題もあります。間をおかずに続けて書けば普通はtやiと認識されます。スペースやピリオドとして認識させたい場合は、Graffitiエリアの下の方で書けば問題なく認識されるはずです。Graffiti2 v.5.2になって
Palm TXでは、搭載されているPalm OSのバージョンが5.4.9、Graffiti2はv.5.2Pとなっています。Tungsten T3に搭載されている初期のGraffiti2と少し違っています。大きな違いは、2ストロークで書くi,t,kが、以前はl(小文字のL)を認識してから一度そのlの文字を消してiなどの文字を書き直していたのに対し、lを表示するかどうか次のストロークが終了するまで待つ仕様に変更されたことです。実際、縦棒1本だけ描いた場合、lが表示されるまで約0.5秒かかります。その間に点が描かれればiが、横棒が描かれればtが、「<」が描かれればkが表示される仕組みです。これによって、/Kでソフトウェアキーボードが表示できるようになりました。
以前は/Kを実施しようとした場合、先に/Lを認識してしまってPhone Lookupが動作してしまっていたのですが、この不具合を直すために、/Lの動作を「待ち」の状態にするのでなく、lの入力そのものを「待ち」の状態にしてしまったのです。それだけでなく、横棒を描いたときにスペースの入力として認識するのも「待ち」が入ります。Graffiti2の設定に、tの入力を横棒から先に描くオプションがあるからです。つまり、スペースを入力しようとしているのか、tを入力しようとしているのか、横棒を描いた瞬間には確定できないから「待ち」なのです。頻繁に入力する「スペース」が表示されるのが、次のストロークを描いでペンをスクリーンから離した後になってしまうため、表示を見ながら入力するときに非常に違和感のある操作になってしまいました。特に、J-OSでの日本語入力は、「スペース」で変換が開始されますから、動作が何となくモッサリとした感じになるのは否めません。私はTreoを使ったことがありませんが、キーボード入力だとこんなことはないんでしょうね。
Palm OS 5.4では、ほかにも画面の切り替えなどに非常に時間がかかることがあります。以前は画面の切り替えやタップの認識はほぼ瞬時に行われていましたが、これが5秒以上もかかることがあります。どうもPalm OSは間違った方向に進んでいるような気がしてなりません。次のOSのリリースかあるかどうかわかりませんが、何とかしていただきたいものです。