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色彩の魅力

色彩と真実 色彩の心理現象 色彩と性格 色彩心理 色の共感覚
色彩心理の応用 緑は安らぎの色 色とは何か 色の三属性 照明と色の
見え方
統一の原理=
ドミナント
色彩調和「変化と統一」 アクセントカラー 色と認識 形と色
画家の眼と造形 絵画の形態


色彩と真実
 
色彩への道
 色彩を学ぶようになって、かれこれ6年ほどになる。見るものと見られるものの関わりに以前から関心を持っていた。ものの認識は形から色へと移ってきた。
 色彩現象は、ものに当たった反射光が網膜の視細胞で電気的信号に変換され、視神経を通って脳に伝えられることで色覚が生じる。
 カラーに関する類書は多い。カラーコーディネイトを主としたもの、色彩心理、物理学的・光学的な色彩学など。しかし、私の求めるところの色彩学は、対象と自分との関係から自分自身を知ることである。この方法には実用的な利益がほとんどないことを承知している。
 けれども自然の奥深さを感じ、自らの感受性を極限まで探求したいとの欲求には十分応えてくれる。
 かつて文章表現で、修飾を一切排除することを目指した。真実を明らかにするのに、無用な形容は一切必要なく、かえって真実の姿を歪めるものと判断したからである。現象でなく、本質を掴みたかった。変化して止まない色彩現象は、常なきものとして私の目に映じた。
 現象を通して真実が探求される。現象を離れて真実そのものというようなものはなく、真実も、個々の現象として認められる。こうして色彩は、私の前に広大な世界を開いてくれた。




色彩の心理現象  


残像
 赤色の丸を30秒ほど見続け、どこか余白の白い部分に視線を移すと、薄い青緑色が浮かんで見える。
 このようにある色を凝視しつづけ、その後、他の対象に目を移すと、元の色とは反転した色が現れる。「負の残像」「陰性残像」とも言い、元の色の心理補色である。

明度対比
 黒の背景と、明るいグレーの背景に、中明度のグレーが置かれている。同じ明度でも背景との関係で明るさが変化して見える。

色相対比
 淡い橙色の背景と、鮮やかな赤色の背景に、同じ色相の図柄が置かれている。色相が変化して見える。網膜の細胞が色の順応作用を起こし、背景色の心理補色が誘発され、図柄の色と混色される。

彩度対比
 彩度の低い背景と、彩度の高い背景とに、同一色相の図柄がおかれている場合である。背景が低彩度の方が、図柄はより鮮やかに見える。


色彩と性格  
 目で捉えられるものは全て色と形とから成る。リンゴなら丸い形と、赤い色など種類によって大体決まっている。ところが同一のものでも、ある人は主として色で見、ある人は主として形で見る。子供のときから大人になるにつれて変化する発達心理学的なものなのか、生まれながらにタイプが決まっているのか、定説はない。
 ロールシャッハ・テストは、色と性格の関連について興味深い事柄を示唆する。それによると情緒、知性ともに豊かな人は色と形に鋭敏に反応し、情緒が知性に勝っていたり、情緒不安定の人の場合には形より色に過剰に反応する。
 形は安定した永続性を待ち、理性的、論理的に受け止められ易い。色は刻々に変化し、不安定であり、感覚的な性質を特徴とする。故に、形に敏感に反応する人は、理性的傾向にあり、色に反応しやすい人は感覚的、情緒的傾向にあるとの推論はうなづける。


色彩心理  
 色彩の人間心理に与える影響は意外に大きい。赤い色を見ると心理的な興奮と高揚感が生じ、精神の働きが活発化する。反対に、青い色では鎮静作用があり、意識の集中が可能となる。
 色彩のもつ心理効果を応用するのがカラーコンディショニングで、作業環境の色彩計画などに使われる。アメリカでは、心理療法の一環として、色彩療法の専門家が患者の治療に当たる。
 個人による好きな色、嫌いな色、いわゆる嗜好色や、性差による好みの相違も指摘される。一般的に女性は赤系統、高明度の色彩、男性は青系統、低彩度の色彩を好むといわれる。しかしよく考えてみると、幼少期の体験に起因するものが多いのではなかろうか。女の子には、それにふさわしい色や形の玩具、また男児には、男の子らしいと社会通念上認められているものを父母が買い与える。
 しかし、昨今では社会的に男女平等の意識が高まり、女性の社会進出とも相まって性差は縮小している。それが子供の世界にも反映され、少なくともゲームソフトなどでは性差はない。
 嫌いな色があったら、なぜ嫌いなのか、分析してみるとよい。何かいやな思い出、両親に叱られたとか、恥ずかしい思いをしたなど過去の体験が、服飾などの色のイメージと共にあるはずである。普段は無意識の底にしまい込まれていて気づくことがないかも知れない。
 そのほか感情に働きかける色彩の作用に、色の寒暖感─寒色、暖色の違いや、派手・地味感(彩度)、軽・重感(明度)、硬・軟感(明度)、興奮・鎮静感、清・濁感などがある。


色の共感覚  
 感覚器官が刺激を受けることで感覚(第一次感覚)を生じるが、その感覚以外に他の感覚領域の感覚(第二次感覚)が生じる現象を共感覚という。例えば、音を聞いた場合に色が見えるような現象(色聴)である。他にも音と匂い、匂いと色、皮膚感覚と色、皮膚感覚と音などの組み合わせがある。
 カンデンスキィーは「その強烈さが高まるとき、黄色は次第に高く吹き鳴らされるファンファーレのトランペットの鋭い音色のように響く」と言っている。甲高い声を「黄色い声」と呼んでいるので、理解される。悲しい音楽をBlue musicといい、メランコリックなブルースも分かり易い。
 色と味覚についてはヘニングの「味の四面体」が有名である。辛い、甘い、すっぱい、苦いを三角錐の、それぞれの頂点に配したものである。明るい・薄い・紫みの赤が甘い色。灰・茶・黒などが苦い色。黄・黄赤などが辛い色。黄緑・緑・青緑が酸っぱい色。果物や野菜、食品などからの類推であろう。


色彩心理の応用  
 交通標識や屋外広告は遠くからでも、よく見える必要がある。そのために利用されるのが「色の視認性」である。背景色と文字色との関係で見易さが決まる。明度差が大きく影響し、例えば黒の背景に黄色の文字は読み易い。
 危険を知らせたり、注意を引きつける目的で用いられるのが「誘目性」である。赤・橙・黄などの暖色系の色は高く、寒色系は低い。機械のスイッチや交通標識などに赤色が用いられている。
 さらに色によっては見かけ上の距離が近づいたり、遠ざかったりして見える。暖色系が「進出色」、寒色系が「後退色」といわれ、明度の高い色ほど進出して見える。
 これと似たものに膨張色、収縮色がある。「進出色」「後退色」は観察者との距離に関してのものであるのに対して、「膨張色」「収縮色」は、そのものにおいて、同じ大きさでも、色によって大きく見えたり、小さく見えたりすることをいう。暖色系が寒色系より、明るい色が暗い色より、大きく見える。


安らぎの色─緑  
 緑は最もなじみやすく、心休まる色である。植物の緑は目の疲れをとり、ストレスを解消する。
 ルードは「現代色彩学」で、自然な調和について次のように指摘している。
 自然光のもとで観察した色の見え方には一定の法則があり、樹木の葉や草の葉は日光の当たっている部分は明るく黄みの緑に見え、陰の部分は暗く青みの緑に見える。色相黄に近い色を明るく、遠い色は暗くすると、最もなじんでいるカラーハーモニーになる。
 46億年前、誕生した地球は、灼熱の海であった。化学反応を繰り返し、やがて冷却した海に生命が誕生した。シノバクテリアが光エネルギーを体内に取り込み、酸素を吐き出すようになる。大気が酸素を含み、オゾン層が形成されることで生物は海から陸上へ進出できたのである。植物が葉緑素で光合成を始め、二酸化炭素と酸素との交流循環が開始される。緑が生命を象徴するのには、このようなドラマが秘められている。


色とは何か  
 色について考えるとき、まず観察される対象と、光と、それを観察する人間とが存在する。
 光の条件、観察の角度、周囲の条件、人間の側の生理的・心理的条件などが一定に保たれてこそ、観察される色は客観的に同一のものと認められる。このように精神物理的な諸条件に基づく相関概念として色は定義される。
 眼から火が出る、という。これは眼球を強く圧迫した結果である。第一色弱の人は赤に関する錐体(網膜にある色覚に関わる細胞)の感受性が弱い。色覚が正常な人であっても、加齢にともない眼球の水晶体が次第に黄色に変化し、白と黄の判別がやや困難になる。
 ベンハムのコマ(Benham top)は、主観色として有名である。描かれているのは白と黒の模様なのに、円盤を回転すると色の輪が見えてくる。この原因はまだよく分かっていない。色に対する感情や、注意、順応、嗜好など色彩現象は、自然と人間とを含む総体的な現象である。


色の三属性  
 色は、その感覚をもたらした物理量(電磁波の)によって測定され、三つの性質を持つ。
 赤は長波長、緑は中波長、青は短波長成分を多く含む。可視光である380nm〜780nm(nm=ナノメーター、10億分の1m)の範囲にある電磁波の成分分布によって色は決まる。
 このような物理量はともかく、色の感覚は基本的に色相、明度、彩度の三つの性質を持つ。これが色の三属性である。色相とは赤、緑、青などの色味を、明度は明るさの度合い、彩度は鮮やかさの度合いを表す。
 色の知覚現象は複雑である。カッツによれば、青空のように距離感のはっきりしない面色や、不透明な物体表面にみられる表面色、ボトルに入った着色液を見る時のような空間色、光沢、光輝など種種の知覚的様相があるという。


照明と色の見え方  
 色は光源によって、同じものでも全く違って見える。白熱灯の光では赤みを帯び、蛍光灯は青みがかかり、ナトリウム灯はオレンジ色がかかって見える。
 色を正確に伝えるには、照明条件を一定にしなければならない。日本工業規格(JIS)では、標準の光としてA、C、D65が規定されている。
標準の光A………色温度約2,856Kの白熱灯
標準の光C………色温度約6,774Kの昼光
標準の光D65……色温度約6,504Kの昼光
 色温度とは、発光体の光の色と、その温度との関係から光の質を示す数値、単位はK(ケルビン)で表す。0℃=273Kに対応する。
 物理的には、光源の分光分布(光を電磁波と見て、短波長から長波長までの分布状態をグラフで示すもの)によって物体の見え方が決まる。分光分布が自然光に近ければ近いほど、自然な色に見える。このような光源の性質を演色性といい、基準光源を100とした評価数(Ra)で表す。


統一の原理=ドミナント  
ドミナントカラー(色相ドミナント)
 多色配色で、一つの色相を主調色として全体に統一感を持たせる技法。
 ドミナントとは、「支配的な」「優勢な」との意味で、全体に統一感を与える原理である。ブルー系で統一する「ブルーアンダートーン」、イエロー系での「イエローアンダートーン」は最も一般的である。
 夕焼けの風景は全体がオレンジ色かかって見え、霧雨に煙る景色は全体が灰色にくすんで見える。
 このように、赤み、黄み、青みなど、一つの支配的な色相に全体を整えると調和が得られ易い。

ドミナントトーン(トーンのドミナント)
 多色配色でトーンを統一することで、イメージに共通性をもたせる方法。
 日本色研配色体系(PCCS)のトーン分類表は、トーンとイメージの関係を示している。
 明るく、軽いイメージにはpale、light、濃く暗いにはdeep、dark、明るく鮮やかなにはbright、vividのグループがマッチする。


色彩調和「統一と変化」  
 色彩調和の基本は統一と変化である。統一のみで変化がなければ、やがて飽きてしまう。変化のみで統一がなければまとまりがなく、乱雑さが目立つ。適度な変化と統一が全体をまとめ、生き生きしたものにする。
 配色技法の一つにトーンオントーン(Tone on Tone)と、トーンイントーン(Tone in Tone)がある。トーンとは、一般的に色彩のもつ調子をいい、明度と彩度の複合概念である。
 トーンオントーンは「トーンを重ねる」との意味で、同一色相で二つのトーンの明度差を比較的大きく取った配色(同系色の濃淡配色)である。例えば、淡い緑+暗い緑、明るい水色+紺色などである。
 トーンイントーンはトーンを統一し、色相は比較的自由に選択する配色である。ただし、高彩度のトーンでは、黄と青が隣り合う場合などのように明度差が強調される事もあり、色相選択には注意が要る。


アクセントカラー  
 色彩調和を色の占める面積から考える。まず、表現したい中心となるイメージを明確にすると、これが基調色(ベースカラー)で、最大面積となる。それに次ぐ面積の配合色(アソートカラー)を決め、最後に全体を引き締めるアクセントカラーを選ぶ。
 アクセントカラーは、注目点を強調することが狙いである。主調色(ドミナントカラー)とは対照的な色相やトーンを用いる。背景色との関係を考え、選色することが大切である。
 全体が暗いトーンであれば、対照的な高明度色を少量加え、反対に明るくソフトなトーンであれば、明度差の高い暗いトーンを選ぶとよい。無彩色、低彩度なトーンに対しては、高彩度色を用いることで強調される。
 アクセントカラーに似たものに、セパレーションカラーがある。配色関係が曖昧な時や、対比が強すぎる場合に色と色との間に、一色挿入することで、調和を図る技法である。セパレーションカラーは、あくまで脇役である点が異なる。


色と認識  
 色を分類する場合、JISによれば、物理的分類と心理学的分類に分けられる。
 物理的分類には、光源色と物体色があり、光源色は光源から出る光の色、物体色は光を反射、または透過することによって得られる色である。
 心理学的分類として、表面色と開口色とがある。表面色は、不透明な物体の表面に属しているように知覚される色で、色相・明度・彩度で表される。開口色は、開口を通して見られる色で、光を発する物体が認識されない条件において知覚される色である。
 自然界における色は、混沌として、常に流動しつつ無限に連続しているかに見える。そのままでは認識することができないものを、ある基準で分類し、他の部分と区別することで、特定の色が認識される。分節によって事物を認識する言語の機能と同じである。赤・緑・青の三原色は、英語におけるアルファベット、日本語における五十音と同様に、その組み合わせで全ての色、言葉を作り出す。


形と色  
 絵画には、形と色という二つの要素がある。
 形の面からは絵画史上、立体物の面処理に画家たちが苦心惨憺してきた。ルネサンス期の遠近法から、セザンヌの「物の形は円錐形と円筒と球とに分解できる」とする立体幾何の構築へ。さらにキュビスムへの歩みがある。水平、垂直と色面によるモンドリアン的抽象絵画への展望も開けた。
 もう一つは、色の問題である。印象派の点描画は色彩学の成果を取り入れた。色は光であり、光は色であることが認識された。色光の混合によって色が合成され、光線のぐあいによって色の見え方が変化する。色彩は対比、融合の効果をはじめ、その組み合わせによって高度な感情表現が可能となる。


<画家の眼>造形  
 「デッサンは物の形ではない。デッサンは物のかたちの見方である」(エドガー・ドガ)

 「画家のパレットは何ものをも意味しない。すべてをつくるのは画家の眼だ」(ルノワール)

 絵画を考える場合、まず画家の眼に映じたものを描写する力、デッサン力が求められる。それが基礎にあって観察眼の見究めたところのものが表現される。
 テーマや、感動や、画家自身の最も表現したいことが、適切なモチーフを得て画面構成される。描線、彩色、肌目などが造形を生み出していく。一つ一つの過程が常に全体と密接に関連して、一つの全体としての絵画空間が現れる。画家の微妙な息づかいが慎重に刻み込まれ、分身としての作品が創造されるのである。
 鑑賞者は反対の過程をたどり、画家の鼓動に共鳴しつつも、全体から部分へとその共感の内容が作品として展開されていくのを味わう。芸術作品は、鑑賞者を得て新たな生命が吹き込まれる。


絵画の形態  
 絵画を眺めるのは楽しい。形態の自由奔放さ、計算され尽く
した構成、絵画という空間にさ迷い、あらゆる束縛から超脱して遊ぶのである。
 絵画を考えるのは苦しい。対象として捉えようとした瞬間から、線の一本、一本、色のまとまりが存在としての認識を要求し始める。絵画は苦しみであり、同時に楽しみである。人間の喜怒哀楽が滲み出て、深い味わいとして凝集している。
 私が絵画と出会ったのは、画家である友人を介してである。熱っぽく語る友人に、絵画の魅力を感じた。美術書を漁り、絵画展にも足繁く通った。ダヴィンチの空気遠近法、絵の具を網膜上で混合することを目指した点描画法などはなはだ興味深かった。
 具象と抽象の意味が長らく分からなかったが、絵を描く立場からすれば、表現したい何らかの欲求がそのような形を取るのである。



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