ルルの大冒険 初夏の日は長い、まもなく7時なろうという時刻なのに、まだ真昼のように明るい。気 温は30度を超えているだろう。今年は梅雨に入ってからは、殆ど雨が降らない。そのせ いか気温が高くても湿度が低くて、朝晩はかなり涼しい。その暑い日差しの中を、一人の 女が、自転車を懸命にこいでいる。名を山本彩と言う。可成り急いでいるようだ、額から は、玉の汗が流れ、汗が目に入り痛い。それを手で拭い、走り続ける。家に早く帰らなく ては、そんな思いで、彼女は急いでいる。家には、子犬が彼女を待っている。今年の一月 に、飼い始めたマルチーズのルルだ。今月で、6ヶ月になる。大分大きくは、なってきた が、大人になるにはまだ、少し時間がかかる。エアコンはつけていないので、家の中は、 可成り暑くなっているかもしれない。締め切っているわけではないが、開けておいても大 丈夫そう窓は開けてあるので、それ程、室温が高くはなっていないかもしれない。保冷材 を、タオルに包んで玄関に置いてあるので、子犬は何時も、その上で横になっている。  彩は近所のスーパーで、パートで働いている。一日おきの勤務で二交代で、早出が10 時から2時までで、遅出は2時から6時までだ。一ヶ月働いても、大した金額にはならな いが、小遣い位にはなる。彩の夫は大手の量販店に勤めている。二人は学生結婚で同い年 だ、早いもので結婚してから、もう十年以上がたっている。元々彩は、浦和市の生まれだ 近くに国立の埼玉大があるのに、東京の私立の大学に入学した。国立のほうが、入るのが 難しいと言うこともあるが、少しでも家から離れて自由になりたかった。別に、彩の家が 特別厳しかった訳ではないが、そんな年頃なのだろう。大学は入りやすい経済学部に入っ た。一応一流大学だ。何か目標があった訳でもなく、学部など、実際どうでも良かった。 -1-