最初のうちは、二人して病院に行って、診て貰ったりした。二人とも体に異常は見つから ず、健康そのものだ。子は授かりものとは、良く言ったものだ。望まなくても出来る事も 有れば、幾ら望んでも出来ない夫婦もいる。今では二人とも諦めた訳ではないが、そんな に焦らずに、そのうち出来るだろう位に思っている。そんなこともあって、数年前から彩 は犬を飼いたがるようになった。近くの大きなスーパーに行くときは、必ずペットショッ プを覗いている。でも、二人して暇つぶしの格好でペットを見ているだけで、本当に飼う つもりが有る様には思えなかった。                         しかしその日は違っていた。いつものように二人で、店の中に入っていく。ガラスのショ ーウインドウが並んでいる。右端の一番下のショーウインドウの中に、一匹のマルチーズ がいた。生後二ヶ月の雌だ、他の子犬と違って、ガラスの外をじっと見つめている。   普通ペットショップの子犬は、自分の世話をしてくれる店員の方を見ていることが多い。 後は、大抵寝ている事が多い。でも、その子犬は違っていた。彩が顔を近づけると、その 彩を子犬は見つめ返してくる。普通子犬は、外の知らない人間には、あまり興味を示さな いものだ。だからこちらを向かわせようとして、ガラスを叩いたりする客もいる。良く、 ペットショップを訪れる彩には、その辺の所は、良く分かっていた。           一寸、興味を引かれその子犬をじっと、観察してみる。勿論見かけは普通の二ヶ月の子 犬だ。しかし自分を見つめ返す瞳は、理知的で感情豊かな強い光を放っている様に彩には 思えた。                                     彩は店員を呼んで、その子犬を抱かせて貰うことにした。店員は慣れた手つきで、その子 犬を抱いてくると、「可愛いでしょ」と言って彩に渡してくれた。           -3-