#010
 観世新九郎の上達を知ること


  このごろ名人と称され幕府より紫衣を賜った新九郎が、まだ権九郎と名乗っていたときのことである。

 いまだその奥義を習得できないでいた頃、彼は日々の練習に明け暮れていた。毎朝を入れて権九郎に届けていた長年召し使っている年老いた女中が、ある朝、茶を差し出しながら言った。

「ご主人様の鼓も大変上達なされましたねえ」

 その女中は日頃鼓は聞き慣れているが自ら手に取ることはない。権九郎は妙に思って尋ねた。

「ほう、なぜそう思う?」

「もちろん、私は鼓のことなどわかりませんが、お父様の新九郎様の鼓を数年聞いておりますと、毎朝煎じている茶釜に鼓のが一打ちごとに響くように聞こえます。これまで権九郎様はそのようなことがございませんでしたが、この四、五日はお父様のように茶釜に響きますので、上達なさったのだなと知った次第でございます」

 長年鼓を聞いていると自然と音の微妙な違いを聞き分けることができるものなのだな、と権九郎も感心したという。