#018
 怪我をしない呪い札のこと


  天明二年寅年の春、御小姓を勤めていた新見愛之助という人が登城の折り、何に驚いたものか乗騎が九段坂の上で突然暴れ、数十丈(※1丈=10尺=約3メートル)はあろうかという堀へ馬とともに真っ逆様に落ちた。不思議なことに怪我ひとつ負わず、衣服を着替えてそのまま登城したという。

 その後、このことが話題となってある人が尋ねた。

「何か神仏の守護を得ておられるのか。数十丈の高さから転げ落ちてまったく無傷で済むなど常識では考えられん。じつに不思議だ」

「そういえば思い当たるふしがあります。昨年、知人から不思議な守護札(※お守りふだ)をもらい受けました」

 そういって愛之助は護符を手近の紙に書き付けて見せ、次のようないきさつを語った。

 彼の知人が友人と連れだってキジ狩りに出たときの話である。キジを見つけて射たところ、確かに当たったはずなのだが傷つくどころか逃げる様子すらなかった。他のキジは弓術の腕を誇る者達の手によりつぎつぎと倒れてゆくにも関わらず、このキジだけは何本矢を放とうとも一向に仕留められない。あのキジはなんだ、と大騒ぎになり皆で追い回して捕らえたところ、背中に次のようなまじないが書かれていた。

「近所の百姓が書いたものだったそうです。同じまじないを札に書いたものをもらい受け、以来懐中にしております」

 どのようないわれがあるのかはわからない。文字も作り文字らしく何と読むかもわからないが、当時は貴賤を問わず子供などにも持たせていたという。

 

※「サンバラサンバラ」と読む。梵語(サンスクリット)に由来する語で修験者が用いた。「護」という意味らしい。

 

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→→『仙境異聞』巻之三 #061 怪我除けの咒符のこと