男は言った。
「ワタシはエヴァの最終話、好きですよ。個人的にネ」
マスターはコーヒーカップを洗う手を止め、彼に向き直った。
作り笑い…。だが、お世辞にも成功しているとは言い難い。
隣の席の常連が、苦虫を噛み潰したような顔をして見せた。
恋人たちは、声のトーンを落とし、ひそひそと何事かを囁き始めた。

殺伐とした空気に気付いているのかいないのか、男は続ける。
「何故なら、自己啓発本とか好きだからー!」
あまりにもあっけらかんとした口調だった。
まるで店そのものに風穴をあけたかのような静寂。
男は悠然と、キャラメルマキアートをすすった。 妖しくも見苦しい、白痴めいた微笑。
マスターは、昔浅草で見た見世物を思い出していた。 猿を柱に縛りつけ、背中に電極をつけて延々と射精させるという見世物だった。
この男の顔は、縛られ射精を強いられた後の猿のそれにそっくりだ。 それに気付いたとき、彼は嘔吐した。
あとの祭のような静寂のなか、ずるりんという音だけが傍若無人に響いた。

ガラスの割れる高い音が、それに重なった。
高級そうな仕立てのスーツを着こなした男性が、割れたグラスを拳につかんでいた。
流れる血を意に介すこともなく、彼は呟く。
「明日は、雨が降る・・・」
向かいに座っていた和服の女性は、嫣然と微笑み応える。
「ハイな・・血ィの、雨が降りますわ・・・キレイな、紅い・・・」
その言葉を合図に、ガタリと音をたてて、奥のテーブルについていた黒服達が立ち上がった。
サングラスの男達は、店の出口を固める。
女性の目はこれから起こるであろう波乱を見通し、凄艶な光を放つ。
男の腕を取り、流れる血を子猫を思わせる無邪気な動きで舐めた。

店内の殺気は最高潮に達しようとしていた。
 
     
  社長のカキコだ・・・明日は雨が降るんじゃ・・ 個人的にエヴァTV版の最終話付近は好きだった。 なぜなら、自己啓発本とか好きだからー!  
     
     
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