公園には誰もいない。
大抵、公園というと近所の子供や母親が集まっていてそれなりに賑わいがあったりしそうだが、
この界隈だと他に色々面白いところがあるからか、誰も来ない。
おかげでゆっくりと惰眠をむさぼれる。
学校から帰ってきて姉の相手をして、まだ腰の辺りがだるい。ちょっと疲れている。
でもなかなか眠くならない。
ただ煙草をふかし、読むともなしにマガジンをめくる。
何故か「魔法先生ネギま!」で手がとまるが、その理由はわからない。
吸い切った煙草を捨てたいけど、捨てるところがない。
しかたなく火がついたままマガジンに挟んで揉み消す。
姉はキレイだ。
もともとまあまあ美人だったが、僕が姉と交わるようになってからさらにキレイになったと思う。
よく、姉は誇らしげにクラスの男達から寄せられたラブレターとかメールとかを見せびらかす。
机の上に山盛りになったそれらを、異常だとは思わない。
僕が興味無いフリをしてやると、つまらなそうにゴミ箱に放り込む。
キロシは姉ちゃんの他に、やらせてくれる人いないの?
いないよ。
あーあ、カワイソウに。姉ちゃんしか相手してあげる人いないんだ…
そして中断していた交わりがまた始まる。
そうやって姉は、自分が上だということをいつも確認する。
忘れないでね。あたしはあなたがカワイソウだからしてあげてるのよ。
僕は無言で腰を動かす。
家ではいつもそんなことを繰り返している。
両親は、それぞれに用事があり、それぞれに敵意を燃やしている。
だから二人ともあまり家には帰って来ない。
毎月充分な額の金が口座に振り込まれる。
振り込み主は父なのか母なのか、それとも親類の別の筋の人なのか、分からないし知る必要もない。
だんだん暗くなってきた。
夕日が沈みつつある、もうそんな時間だ。
吸い終わった煙草を、再びマガジンに挟む。
すぐ近くに先輩が、一人で棲んでいる。
付属の大学生だ。彼も姉に欲情している。
先ほど何の気もなしに通りがかったら、真っ赤な原付が置いてあった。
姉の原付かも知れないと思う。
その場を離れる。
何か良くないものを見たような、後味の悪さを覚える。
彼のラブレターを、姉はあのとき捨てただろうか。
思い出せないが、捨てたような気もする。捨てていないような気もする。
一度、姉が泣いて家に帰ってきたことがあった。
あれはいつだったろう、はっきり思い出せない。
ざあざあと雨が降っていた。
姉は傘もささずに玄関に佇んでいた。
父と母が離婚するかしないかで、かなり揉めていた頃だったから、3年くらい前かも知れない。
お姉ちゃん、と声をかける僕をぎゅっと抱きしめて、姉は囁いた。
キロシ、あなたは姉ちゃんが守ってあげるからね。キロシ。
父と母の争いは親類だの血族だのを巻き込んで、かなり大ごとになっていた。
この家を追い出されるかも知れなかったらしい。
姉は一人で伯父のところに行ってきた。
何をしに行ったのか、何をされたのかは知らない。
姉とあの出来事を話すことは、あれ以来、無い。
だから、姉が覚えているかどうかは分からない。
でも僕はときどき思い出す。
抱きすくめられたときの、セーターのちくちくした感触。
髪からただよってきた石鹸の香り。
煙草をマガジンに挟む。
公園の灯りが瞬き、白々とした光を投げかける。
地面に影が落ちる。
木々を透かして先輩の住んでいるマンションが見える。
先輩の部屋にも灯りが点いている。
どこからか犬の鳴き声が聞こえる。
そういえば、クラスに犬のような女がいた。
隣の席の女だ。
なんやかやと話し掛けてきて、世話を焼いてくる。
何かのはずみで、大人っぽくなったね、と彼女に言われたことがある。
無性に腹が立つ。知った風なことを言いやがって、と思う。
彼女からもらった手紙を、彼女の見てる前で焼いてやった。
彼女は困ったように笑う。
その笑みすらも、なんだか人を馬鹿にしているように思えた。
犬のくせに。
彼女は犬だ。
だから今はふさわしい場所にいる。
煙草をマガジンに挟もうとすると、いつの間にか煙と焦げ臭い香りがただよっている。
キロシ、ここにいたの。
姉の声が聞こえる。
かすかに原付のエンジン音が響いてくる。
何故僕がこんなところにいたのか、姉は聞こうとしない。
僕は黙って姉の背中を抱き、原付にまたがる。
いつだったかのように、セーターのちくちくとした感触。
今日はハンバーグにしたの。
姉貴のハンバーグか。オレが作った方が美味いよ。
姉の肘鉄を食らい、僕は大げさにうめいてみせる。
姉ちゃんしか、相手してあげる人、いないんだからね。
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