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太陽の沈んだこの街はそれでもまだ暑くて、 通りには魚と果実の腐った匂いが満ち溢れている。
座り込んだまま動かない老人はまるで街の一部のようだ。
歪めたしわをそのまま固めたような微笑みを絶やさず、薄汚い人形を抱いて座っているこの老人の素性を知るものは少ない。
彼はただ単に「人形爺い」と呼ばれている。 それで充分だ。
彼は日がな一日座っている。
眼の取れかけたフランス人形を抱きながら地べたに座っている。
唐突に老人の視界を影がふさいだ。
腕がさっと伸ばされ、人形を掴む。
「…アンナ!アンナ!」
老人の悲痛な叫びも空しく、黒い影は彼の娘を連れ去り姿を消した。
ややあって、黒服の男が現れた。
なんだかこの男には見覚えがあるような気がしたが、今はそれどころではなかった。
「爺さん、コレを見な。あんたから赤ちゃんを取ったのはコイツだよ」
老人は渡された写真と黒服の男とを等分に見比べる。顔には当惑の表情が浮かんでいる。
「コイツはとっても悪い奴なんだ。早く赤ちゃんを奪い返してやらなきゃな。さ、これを使って」
老人の手の上に銃が置かれる。
銃をおずおずと撫でる手。過去を思い出すように。
やがてその手は流れるようにするすると動き、弾丸を込め安全装置を外す。
黒服の男はその様を見て満足そうな笑みを浮かべる
「そう・・・そうだ。爺さん。あんたにならヤれるぜ。せいぜいがんばんな」
老人の顔にはいつの間にかあの微笑みが戻っている。
歪めたしわを固めたような。
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