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ブリテン「キャロルの典礼(祭典) A Ceremony of Carols Op.28」
<ブリテン>
ブリテンBrittenイギリス(1913-1976)は20世紀最高の作曲家の一人である。なぜかイギリスの有名作曲家は多くない。そのためかルネサンスのバード、バロックのパーセル、あとはビートルズだけだっていう口の悪い人もいるがそんなことはない。さて、ブリテンはたいへんスケールの大きい作曲家で、管弦楽曲や声楽曲の分野にも及ぶ。16もあるオペラと教会音楽は特筆すべきものであろう。また日本とも不思議な縁がある。それは1940年日本政府は皇紀2600年のための奉祝曲をブリテンに委嘱した。「シンフォニア・ダ・レクイエム(死者のための交響曲)」を提出したが、天皇に対する無礼とし、抗議文書と共に拒否された。平和主義者ブリテンは、当時中国を侵略した日本を批判したかった。この作品は彼の代表作の1つ、「戦争レクイエムOp.66」(1962年)の素地となった。後者の大作は第2次世界大戦でドイツ空軍のため壊滅したコヴェントリーのカテドラル再建祝賀コンサートのために委嘱された。彼の思いは第2次世界大戦で亡くなった人々への祈りと、500年の歴史をもつ教会の再建を機に敵同士の和解の重要性を訴えたかった。ブリテンは平和を祈る人であったのである。
<「キャロルの典礼(祭典)Op.28」>
「キャロルの典礼(祭典)」は、ウェストミンスター大聖堂少年合唱団のために作曲された作品(1942年)で、時は第2次世界大戦(1939-45)の最中であったのは興味深く、ブリテンの意図も理解できる。曲は11曲で構成、第1曲と第11曲のグレゴリオ聖歌がそのまま引用され、他は14世紀と15世紀の英国詩9編が選ばれている。ここにブリテンの意図ははっきり見える。第一にイエス誕生を寿ぐ素朴な詩が選ばれている。そうした喜びの根源的理由として、カトリック神学観、つまり人間の原罪を取り除いた救い主イエスが誕生された日であるからとしているのである。第二には平和への願いを感じさせる詩を選んでいる点である。
「キャロルの典礼A Ceremony of Carols」は、我が国では「キャロルの祭典」の名で知られているが、筆者は敢えてこのようにした。といってもこの作品は典礼音楽ではなく、コンサート用作品である。カトリック教会において(ブリテンはカトリック教徒)この作品に準拠した典礼は存在しない。だが降誕祭の第1ミサに先だって行われる非公式な典礼、「キャンドル・サーヴィス」といわれるものはある。それは参加者がローソクを手にして行う聖歌と祈りのセレモニーである。ブリテンはそれに似たステージ上で行われる宝石のように美しい式典を想定したのではないだろうか。また最初と最後(第1曲と第11曲)に歌われるグレゴリオ聖歌“今日、キリストは生まれた”は、降誕祭の「晩の祈り(ヴェスペレ)」で用いられる“マリアの歌(マニフィカト)”のための交唱(アンティフォナ)である。「キャロルの典礼」は「晩の祈り(ヴェスペレ)」を模して、いわば小ヴェスペレを想定したとも考えられる。「戦争レクイエム」ではもっと大幅に伝統的な典礼式文(レクイエム)に世俗詩をコラージュのように挿入している。彼の一つの書法と思われる。
どちらにしても「キャロルの祭典」は適正な訳とは思えないのであるが。この作品を一つの典礼のパロディとして、ブリテンは意図したと思う者である。
<「キャロルの典礼(祭典)Op.28」について>
全体は12曲で構成で3声部合唱(少年合唱ための作品 女声合唱でも演奏される)にハープが伴う。
| T 入堂Procession |
| グレゴリオ聖歌“今日、キリストは生まれた”(ラテン語)が行列とともに喜ばしく歌われる。これは主の降誕の祭日のための「晩の祈り(ヴェスペレ=旧・晩課)」での“マリアの歌(マニフィカト)”のための交唱(アンティフォナ)である。ここに典礼の開幕が告げられるのである。 |
| U うれしい主の降誕よ!Wolcum Yole! |
| 同じ言葉が、連祷のようにくり返される。降誕祭を待ち焦がれる無邪気な気持ちが、叫びのように舞い上がる。クリスマス・シ−ズンの多くの祝日が呼ばれている。“早く来て!”といわんばかりに。 |
| V そのようなバラはないThere is no rose |
| 聖母マリアのことを最高のバラと譬えている。それは受肉の神秘、つまり神の子の誕生に一番近く関わった方だからである。伴奏が同じ音型(完全5度の下降)がグランド・ベース(固執低音)として打楽器を思わせるリズムを刻み続ける。 |
| Wa あの小さい赤ん坊がThat yonge child |
| ソプラノ独唱で、みどりごをあやす聖母の姿、そして聖母が歌う子守歌の美しさを歌い上げる。牧歌的情景である。 |
| Wb こもり歌Balulalow |
| ソプラノ独唱と合唱。6/4拍子と3/2拍子が入れ替わり美しく絡む。まさしくゆりかごを彷彿とさせられる。ここでは聖母でなくわれわれが子守歌を歌い、神を讃えるのである。 |
| X 四月の朝露のようにAs dew in Aprile |
| 中世のイギリスの詩の中で最も知られたものである。美しい静寂の夜の聖なる光景を絵のように描いている。曲も色彩的にきらきら輝いている。 |
| Y この小さな赤ちゃんはThis little Babe |
| 曲はユニゾンから2声のカノン、そして3声のカノンになっていく。“私の魂もキリストと共に戦います”から軍楽を思わせる勇ましい曲想となる。作曲者の平和への願いが強く込められている。詩は一見アナーキーなことばが飛び交う。それは非暴力、非武力の力強い主張である。作曲者も強く共感しているようである。 |
| Z 間奏曲Interlude |
| ここではハープのソロとなる。第1曲のグレゴリオ聖歌“今日、キリストは生まれた”の頭のフレーズが引用され、変形したした音型で何度もあらわれる。最後のグリッサンドは、キリストの誕生を羊飼いたちに知らせる天使たちのたてる羽音を思わせる。 |
| [ こおりつく冬の夜にIn freezing winter night |
| 十二月の夜、馬屋の中で貧しく生まれたキリストの厳しい状況が歌われる。寒くて、貧しい馬屋。動物たちと共にキリストは眠る。しかし、ここは王の宮殿にも優る! 救い主が眠っておられるからである。 |
| \ 春のキャロルSpring Carol |
| ソプラノとメッゾ・ソプラノの2重唱。ここでは前曲「[ こおりつく冬の夜に」とは対称的に、キリストの誕生の喜びを歌い上げる。この喜びを春と寓意される。 |
| ] 神に感謝Deo Gracias |
| アダムによって始まった原罪はキリストによって取り除かれた。それはつまり、聖母マリアを通して生まれた御子によってであった。ここでキリストの救罪の業を讃える。この喜びのクライマックスで、ブリテンの個性が発揮される。曲は大胆に陽気に表現される。 |
| ]T 退堂Recession |
| 入堂と同じグレゴリオ聖歌“今日、キリストは生まれた”が行列とともに喜ばしく歌われる。そして静かに「キャロルの典礼」が閉じられていく。 |
<「キャロルの典礼(祭典)Op.28」の対訳>
| 国本静三訳 |
<グレゴリオ聖歌=マニフィカト交唱> |
<作詞者不詳:14紀> |
<作詞者不詳:14紀> |
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詩<ジェームズJames、ジョンJohn そしてロバート・ウェッダーバンRobert Wedderburn:1561年> |
<作詞者不詳:14世紀> |
詩<ロバート・サウスウェルRobert Southwell(1561?-95)> |
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詩<ロバート・サウスウェルRobert Southwell(1561?-95)> |
詩<ウィリアム・コーニッシュWilliam Cornish(14?-1523)> |
<作詞者不詳:15世紀> |
<グレゴリオ聖歌=マニフィカト交唱> |
| ベンジャミン・ブリテン「キャロルの典礼(祭典)」 フェリックス・メンデルスゾーン「3つのモテットOp.39」 |
| キャロルの祭典Op.28 聖セシリア賛歌Op.27 キリストとありて喜べOp.30 テ・デウム ハ長調 ユビラーテ・デオ ミサ・ブレヴィスOp.63 |
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