制作者:国本静三

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シックの多声音楽




<多声音楽の誕生>


 多声音楽polyphonyは“多くの声”を意味するギリシア語“ポリフォーニア”に由来する。書法上の技法が対位法で、線的書法線的対位法といわれる)が主眼となる。そして各声部が旋律、リズムにおいて自立している。そしてそれらは記譜されている。ということは偶然に生じるものを享受するのでなく、理論において形成されていることを示している。

 対位法counterpointの語源はラテン語の“punctus contra punctum
(<音対音>の意味)で、これがはじめて用いられるのは14世紀の理論書である。しかし多声音楽の実例はもっと早く、9世紀末にはオルガヌムが記録されている。この多声音楽の響きはあたかもゴシックの教会建築をみるようである。石造りの巨大な高い塔をもつ都市の大聖堂(カテドラル)に対応するように思える。

 オルガヌムorganum
ラテン語はギリシア語<オルガノン>に由来し、楽器のオルガンと同原の語。初期(9-13世紀)の多声音楽の代表的な一形態である。グレゴリオ聖歌の旋律を用い、その旋律を定旋律 cantus firmusという。またはテノールともいう。

 ゴシック期の多声音楽は、フランス、パリ、ノートル・ダム大聖堂中心に重要な展開があった。そうしてフランス全体へと広がり、ヨーロッパの国々も追随していった。そうしたゴシックの多声音楽は発展と様式から2つに分けられる。




アルス・アンティクア(12世紀〜13世紀)>


 アルス・アンティクアars antiqua古い技法を意味する。その代表的なものがオルガヌムorganumである。初期の多声音楽の一形態であり、一つの書法としての技法である。9世紀末から形成されていった。オルガヌムは多声音楽の作曲技法で、完全1度、完全4度、完全5度、完全8度の完全協和音程を原理とする。

 完全1度、完全4度、完全5度、完全8度の音程は完全協和音程といわれる。これらの音程間の2つの音は、同時に響かせると1つの音のように完全に協和するからである。これらの音程を構成する音の振動数の比が物理的にシンプルでかつ溶け合うのである。完全1度は1:1、完全4度は3:4、完全5度は2:3、完全8度は1:2となる。これは同じ音の長さで動く平行オルガヌムであった。ここでいう完全協和音程は純正調just intonation≠純正律pure temperament←これは純正調に近い一つの調律法に過ぎない)においてのみ実在する。また教会旋法で作られている多声音楽では完全協和音程が、筆舌に尽くしがたい表現力を発揮する。平均律temperamentでは完全協和音程はあり得ない。

 オルガヌムではグレゴリオ聖歌が引用される。これを定旋律cantus firmusといい、これを受け持つ声部をテノールtenoreといわれた。こうしたミサ曲を定旋律ミサ曲という。9世紀末頃よりこの定旋律の下に音がつけられ、11世紀より上に音を重ねるようになった。2つ以上の声部が同じ音の数、音の上降下降が各声部がほぼ同様に動くやり方ことを平行オルガヌムという。




<3つの形が順次発展>
 <1. 平行オルガヌム>

 9世紀末より下に音を重ねる。下記の楽譜は上声がグレゴリオ聖歌定旋律としている。下声部が重ねられた声部である。

完全5度

完全4度
完全4度によっているが、若干自由な扱いが見られる例





<3つの形>
 <2. 自由オルガヌム>


 
11世紀になると自由オルガヌムが現れた。それは平行オルガヌムを脱し、定旋律に対して音の動きを反行・斜行、相互の音を上下に交差もさせている。

 下記の楽譜は定旋律の上に音を重ねている。下声部がグレゴリオ聖歌ミサ曲第4番キリエ定旋律として使い、完全5度、完全8度・完全1度と完全4度によるオルガヌムが形成されている。下記は反行(上声部と下声部の動きが反対になること。下声部が下降+上声部が上向なったりその逆のことをいう)、斜行(動きとしては反行だが、両者同音=完全1度になる)や平行(同じ音程で両者動く)も見られる例。




<3つの形>
 <3.メリスマ・オルガヌム>


 12世紀にはメリスマ的オルガヌムが現れた。それは定旋律の音型は長く引き延ばした音価を取り、上に重ねる声部は定旋律に対してより多くの音の旋律線をもち、技巧的に動くものである。まさしく横に流れる線と線の組み合わせのような技法、線的対位法といわれる所以である。

 メリスマ:母音に充てられた装飾的な音型が下声部に対して上声部に置かれている。下声部はグレゴリオ聖歌ミサ曲第4番キリエ定旋律となっている。定旋律は引き延ばされ、長い音価が与えられ、上声のメリスマ的音型が重なってオルガヌムが形成されている。



 こうしてより技巧的で複雑な書法が発展していく。レオナンLéonin(12世紀)ペロタンPerotin(c.1160-1220)等が活躍した。アルス・アンティクアはノートル・ダム楽派や全体のフランス音楽を含めていわれる。前者は2声のオルガヌムを残し、後者はレオナンの後を継ぎ、3〜4声部オルガヌムが多い。

ペロタン 3声部「降誕第1ミサ」アレルヤ唱の手写譜
最下声部にグレゴリオ聖=定旋律を置き、メリスマの多い上声2部によるオルガヌム





<アルス・ノヴァ(14世紀)>


 アルス・ノヴァars nova新しい技法を意味する。14世紀に起こった新しい多声音楽であった。特にフランス、イタリアに起こった新しい流れであった。音価、リズムの記譜法も確立されてつつあった。そして黒い音符が用いられたため黒符定量記譜といわれている。こうした記譜法によって作られる音楽がより技巧的になるのも必然であったし、そしてより表現ゆたかな音楽が展開されていった。代表的な作曲家はマショーである。

 マショーMachautフランス(c.1300-77)は、我が国では作曲家としてよりフランス詩人としての方がよく知られているかもしれない。彼は先ずは司祭、そしてフランス・アルス・ノヴァ(14世紀)の最大の音楽家の一人、優れた画家でもあった ミサ曲、モテトゥスや世俗歌曲を146曲。ミサ曲、モテトゥスや世俗歌曲など146曲の作品があるが、彼の名は「ノートル・ダム・ミサ曲(4声部)」によってたいへん有名である。音楽史上、教会音楽の中で名を留めた最初の音楽家でもある。1364頃にランスの大聖堂のために作曲されたと思われる作品。ランスのノートル・ダム大聖堂で働いていたからである。

 「ノートル・ダム・ミサ曲(4声部)は次の意味で史上最古のミサ曲である。一人の作曲家によって書かれた通作ミサ曲、しかも作者が明らかな多声音楽のミサ曲の最初のものである。グレゴリオ聖歌(通常式文第4番の“キリエ”定旋律としてテノールが受け持っている。このようなミサを定旋律ミサ曲ともいわれる。


黒符定量記譜の例

マショーの手写譜の一例 黒符定量記譜ながら単声音楽作品

参考ディスク

CD UCCA-3102「ゴシック期の音楽」(発売2002/6/26)

A.ノートルダム楽派/オルガヌム
レオナン「地上のすべての国々は(2声)
ペロタン「地上のすべての国々は(4声)
B.アルス・アンティクワ/モテトゥス
作者不詳「アレルヤもてほめ歌え」
「いま愛は嘆く」「誰かが私を見ているかどうか」
「苦難の海で」「おお、限りなくやさしき乙女マリアよ」
ペテルス・デ・クルーチェ「ある人たちは習慣的に歌を創るが」
アダン・ド・ラ・アル「私の感じる甘き苦悩は」
C.アルス・ノヴァ/モテトゥス
作者不詳「フォーヴェルの家の子郎党は」
フィリップ・ド・ヴィトリ「恥知らずにも歩きまわった」
「ネブカドネツァルの像のもと」
作者不詳「カタカタカットン、ある朝ロバンは」
「フェーブスは地から昇り」
ギョーム・ド・マショー「運命の女神の約束に」
「ああ、この苦しみ! どうして忘れられよう」
作者不詳「荒れ地の深い森へ」
ギョーム・ド・マショー「ダヴィデのホケトゥス」

デイヴィッド・マンロウ指揮、ロンドン古楽コンソート

録音1975/4/10


1998-2008


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