制作者:国本静三

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「黒い聖母像への連祷 Litanies a la Vierge Noire―ロカマドゥールの聖母―


フランシス・ジャン・マルセル・プーランクFrancis Jean Marcel Poulencフランス(1899-1963)



 プーランクPoulencフランス(1899-1963)はミヨー、オネゲル等と共に6人組を結成し、近代フランス音楽の発展に貢献した。特に後半生で教会音楽の作曲に取り組み、旋法的な音組織の中に無調の音世界を展開した。この作品「黒い聖母像への連祷は女声3部とオルガンからなる編成である。20世紀前半に特徴的であった斬新な書法が用いられている(1936年作曲)。そして教会音楽としてたいへん自然にマッチした佳品となっている。

 さて、
連祷litaniaeラテン語とは先唱と交互に唱える祈りの一形式である。イエス・キリストや聖人を通して神に呼びかける祈りである。「諸聖人の連祷」、「聖母マリアの連祷」、「イエスの御名の連祷」、「イエスの御心の連祷」、「聖ヨゼフの連祷」がある。この「黒い聖母像への連祷」の歌詞テキストは教会公式祈願文でない。公式祈願「聖母マリアの連祷」の内容と形式を含むが、少し趣きを異にしている。多分に民族的な感覚をもつ語で彩られている。それは聖アマドゥールやフランス固有の聖人の名の登場や、素朴な祖国愛の民衆の心が盛られているからである。おそらくこの作品のために編み出された祈願文かもしれない。あるいはロカマドゥール現地で実際に用いられている祈願であるかもしれない。


 
1936年8月、友人作曲家フェルー(1900-36)の自動車事故死の悲報を聞いたプーランクは、すぐフランス南西部にある古くから巡礼地として名高いロカマドゥールを訪れることとなった。というのは偶然彼は、ロカマドール近くのユゼルシュに滞在していたからである。アルズー渓谷を見下ろす断崖絶壁に建てられたノートル・ダム聖堂まで行くには261段の石段を歩いて上がらなくてはならない。その聖堂内で黒い聖母として名高い1mくらいの聖母子像にプーランクは出会い、深い感銘を覚えたのであった。この聖母子像は次のようにいい伝えられている。作者はルカによる福音書18章1〜10節に登場する徴税人ザアカイ(イエスを一目見ようとして桑の木に登った。イエスを家に招き歓待し、イエスから回心の恵みを受けた)である。彼は聖母の召使いとなって仕えたといわれている。聖母の死後、ザアカイはガリアのこの地に来て老後を過ごした。ザアカイはこの地ではアマドゥールと呼ばれ、死後、聖人として顕彰された。黒い聖母像を祀るノートル・ダム聖堂とその左側にあるサン・ミカエル聖堂の間にある岩窟(両聖堂の背後にそびえている!)に聖アマドゥールの墓所がある。そのためこの地は、“聖アマドゥールの岩窟”を意味するロカマドゥールと呼ばれるようになった。

黒い聖母子像 ロカマドゥール

 このくるみの木に彫られた聖母子像は、顔も首も着ているものも全てが黒色のマリア像である。よく見ると聖母の襟ぐりと袖口に金の装飾が残り、全身に銀箔がはられていたようである。昔は宝石で装飾された王冠や装身具で身を飾られていたといわれている。というのは16世紀にこうした宝石類は盗まれ、おまけに聖アマドゥールの墓も荒らされてしまった。また1562年にはプロテスタント武力勢力による焼き討ちに遭った。しかし、聖母像だけは焼失を逃れた。廃墟化したノートル・ダム聖堂は、19世紀中頃に再興された。この聖母像に対して“黒い”という表現は17世紀以前にはなかった。それ以前、聖母像はお顔も白く着色されていたと思われる。ともあれプーランクの黒い聖母像との出会いは、「黒い聖母像への連祷」を作曲させることになった。これを機に教会音楽やカトリック的題材によるオペラなどを作曲するようになり、プーランクの音楽人生に決定的な転機もたらしたことも事実である。



<「黒い聖母像への連祷 Litanies a la Vierge Noire」の歌詞テキスト>
                                        
                                           国本静三訳

Seigneur,
ayez pitié de nous,

Jésus-Christ,
ayez pitié de nous.

Jésus-Christ,
écoutez-nous.

Jésus-Christ,
exaucez-nous.
主よ、
われらをあわれみたまえ。

イエス・キリストよ、
われらをあわれみたまえ。

イエス・キリストよ、
われらの祈りを聞きたまえ。

イエス・キリストよ、
われらの祈りを聞き入れたまえ。
Dieu le Pére, Créateur,
ayez pitie de nous.

Dieu le fils, rédempteur,
ayez pitié de nous.

Dieu le Saint-Esprit, sanctificateur,
ayez pitié de nous.

Trinité Sainte, qui étes un seul Dieu,
ayez pitié de nous.
父なる神、創造主よ、
われらをあわれみたまえ。


神である御子、あがない主よ、
われらをあわれみたまえ。

神である聖なる聖霊よ、
われらをあわれみたまえ。

唯一の神にして聖なる三位一体の神よ、
われらをあわれみたまえ。
Sainte Vierge Marie,
priez pour nous,

Vierge, reine et patronne,
priez pour nous.

Vierge a que Zachée le publicain
nous a fait connaître et aimer,

Vierge qui Zachee ou Saint Amadour
Eleva ce sanctuaire,
priez pour nous.

Reine du sanctuaire, que consacra
Saint Martial et où il célébra
ses saints mystéres,

Reine, prés de laquelle
s'agenouilla Saint Louis vous
demandant le bonheur de la France,
priez pour nous.

Reine, à qui Roland consacra
son épée,
priez pour nous.

Reine, dont la bannieré gagna les batailles,
priez pour nous.

Reine, dont la main délivrait les captifs,
priez pour nous.


Notre-Dame, dont le pélerinage est
enrichi de faveurs spéciales.
Notre-Dame,que l'impiété et la haine
ont la haine ont voulu souvent détruire.

Notre-Dame, que les peuples visitent
comme autrefois,
priez pour nous.
聖なる乙女マリアよ、
われらのために祈りたまえ。

乙女にして天の元后、われらの守護者よ、
われらのために祈りたまえ。

ザアカイにご自分のことをわれらに告げ知らせ、
敬愛するように教えられた乙女マリアよ、

聖アマドゥールと呼ばれるザアカイを
天に迎えられた乙女マリアよ、
われらのために祈りたまえ。

聖マルティアル
(3c初代リーモージュ司教)
聖人に選ばれました。
彼は聖なる奇跡を多く行ったからです。

あなたのみ前にひざまずいて
国王、聖ルイ9世
(13c)は、フランスの
幸せのために祈りました。
天の元后よ、われらのために祈りたまえ。

将軍ローランド
(14c)はあなたのみ前に
剣を献げて平和を願いました。
天の元后よ、われらのために祈りたまえ。

あなたの軍旗は戦いの時には守りとなります。
天の元后よ、われらのために祈りたまえ。

われらを数々のとらわれから
御手で解放して下さる天の元后よ、
われらのために祈りたまえ。

あなたを巡礼すると特別の豊かな
恵みを下さるわれらの聖母よ。
不信仰と憎しみをいつも
取り除いて下さるわれらの聖母よ。

人々はこれからも世々にあなたを訪れます。
われらの聖母よ、われらのために祈りたまえ。

Agneau de Dieu,
qui effacez les péchés du monde,
pardonnez-nous.

Agneau de Dieu,
qui effacez les péchés du monde,
exaucez-nous.

Agneau de Dieu,
qui effacez les péchés du monde,
ayez pitié de nous.

Notre-Dame,
priez pour nous.
Afin que nous soyons dignes
de Jésus-Christ.
神の子羊、
世の罪をのぞきたもう主よ、
われらをゆるしたまえ。

神の子羊、
世の罪をのぞきたもう主よ、
世の罪をのぞきたもう主よ、

神の子羊、
世の罪を除きたもう主よ、
われらをあわれみたまえ。

われらの聖母よ、
われらのために祈りたまえ。
イエス・キリストにふさわしい者と
なることができますように。



参考ディスク

CD GESA-0001

「祈りの聖地
トラピスト修道院で捧げる
グレゴリオ聖歌と合唱曲による平和&マリアの歌」


1.グレゴリオ聖歌「平和を願うミサ」(固有式文)
2.グレゴリオ聖歌「天使ミサ」(通常式文)
3.メンデルスゾーン「3つのモテットOp.39・1〜3
4.メンデルスゾーン「モテット“おお、幸いにして祝福にみちた三位一体よ”
5.プーランク「アヴェ・マリア
6.プーランク「アヴェ・ヴェルム・コルプス
7.デュルフレ「すべてが美しいお方
8.プーランク「黒い聖母像への連祷」
9.ブリテン「ミサ・ブレヴィスOp.63

徳永ふさ子指揮
女声アンサンブル ゲザング・リーベ 合唱
石崎 理 オルガン
国本静三 監修・指導

録音2003/11/3トラピスト大修道院聖堂にて、発売2004/7/20

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