オペラ「シンデレラ La Cenerenttola,ossia La bonta in trionfo」
<作曲の経緯>
ロッシーニ ★の名声は
オペラ・セーリア「
タンクレディ」
(1813年ヴェネツィア初演)と
オペラ・ブッファ「アルジェのイタリア女」
(1813年ミラノ初演)によって不動のものとなった。1815年から7年間、ナポリ派の本拠地、ミラノ・スカラ座にまさる権威と伝統をもつナポリ・サン・カルロ劇場に腰を据えて、毎年1作のペースでオペラ・セーリアの力作を発表していった。「イギリスの女王エリザベス」
(1815年ナポリ初演)はその活躍ぶりを示すものである。ローマのアルジェンティーナ劇場とヴァッレ劇場の両劇場から新作オペラの依頼され、オペラ・セミ・セーリア「トルヴァルトとドルリスカ」
(1815年ローマ初演ヴァッレ劇場)とオペラ・ブッファ「セビリャの理髪師」
(1816年ローマ初演アルジェンティーナ劇場)を発表したが、失敗となった。その理由がローッシーニの作品にあるのではなく、演奏や舞台の不備、音楽以外の多くの事情によるものであった。
こうした時ローマのヴァッレ劇場からまた1816年12月26日シーズン開幕の新作を依頼されたが、すでに2作の作曲を依頼を受けていたし、また提出された台本「宮廷のニネッタ」
(原作はフランスのきわどい笑劇だった)が気に入らなかったので延期された。ロッシーニはクリスマス2日前にこの台本による作曲を諦め、別の台本を探すことになる。ロッシーニはフェレッティに話を持ちかけ、有名な
シンデレラ(イタリア語ではラ・チェネレントラLa Cenerenttola,ossia La bonta in trionfo善意は勝つ)に決まった。その後台本制作
(計22日)と平行して作曲は24日間で完成した。ロッシーニの速筆は有名だった。しかし、今明らかにされている点は、第1幕終りのアリドーロのアリアと第2幕初めの短い合唱の3つと第2幕フィナーレの前のクロリンダのアリアは、
アゴリーニAgolini(ローマの教会音楽の作曲家)が作曲したということである。さらにレチタティーヴォ・セッコの全部分もアゴリーニと他の助手たちが作曲したということである。
「シンデレラ」の初演は、カーニヴァル・シーズンの呼び物として1817年1月25日ヴァッレ劇場で初演されたが、練習不足のため評判はよいものでなかった。「セビリャの理髪師」ほどの失敗でないとしてもその真価は認められなかった。しかし、その後この両作品は、1年も経たない中にイタリア国内はもとよりヨーロッパ中に上演される人気オペラとなっていった。
<題材と台本>
シンデレラ(灰かぶり姫)の話は広く知られている。この話の源泉は一般に
ペローPerraultの「童話集Les Contes」
(1697年出版)に収められているものとされている。この話の類型はもっと古くからヨーロッパ全土や南北アメリカにも見られるといわれている。またシンデレラを題材にしたオペラも18世紀半ばのラリュエットからマスネ
(1899)やフェラーリ
(1900)まで10作はあるだろう。しかし、ロッシーニの「シンデレラ」では超現実的幻想世界は排除されている。その理由はロッシーニが伝統的なオペラ・ブッファ、つまり題材や舞台設定は身近にある生活からとるのが普通だったし、そうしたやり方を目指していた。そしてローマの観客に合った良質な笑いや自然な表現趣味を考慮した結果である。
台本作者フェレッティが直接に取り入れたのはペローの童話でなく、イズアール作曲「サンドリヨン」
(1810年パリ初演オペラ・コミック劇場)やパヴェージ作曲「アガティーナ」
(1814年ミラノ初演スカラ座)で扱われたシンデレラ像を参照したと考えられる。それはペローの童話とは異なる登場人物や道具立てからもわかる。例えば継母でなく継父、王子の師アリドーロ、王子と従者の身分交換等があげられる。
<物語>
時と所:スコアには時代と場所指定はない。一般に18世紀頃に設定されてきた。王子ドン・ラミーロがサレルノの王子と書かれている点から、場所をイタリアのサレルノとも考えられるが、明かではない。
序曲:オペラ・ブッファ「ラ・ガッゼッタ」(1816年ナポリ初演)の序曲をそっくり転用した。またこのオペラの動機や音型の一部も使われいる。
第1幕:貧乏貴族ドン・マニフィコ男爵の古い屋敷
この家の2人娘が、おめかしをしてはしゃいでいる。もう1人の娘シンデレラ(チェネレントラ)は実の父の死後、この家に再婚してきた母の連れ子で、2人の血のつながらない義姉妹とは打って変わって汚い身なりである。姉妹たちはシンデレラを女中のようにこき使っていた。そこへみすぼらしい乞食が物乞いに来る。姉妹は追い払おうとするが、シンデレラはそっとパンとコーヒーを与える。実はこの乞食はサレルノの王子の師であった。王子の花嫁にふさわしい心のやさしい娘を変装して探していたのである。
王子は花嫁を選ぶために領内のめぼしい娘を宮殿に招いていた。落ちぶれた貴族のドン・マニフィコの家にも迎えの使者が訪れてくる。姉妹はシンデレラを叱りながら宮殿に向かう準備を始める。
この時、師アリドーロからシンデレラの情報を得て、王子が従者に変装してこの家にやって来る。そこへシンデレラが現れ、見知らぬ男の姿に驚く。しかし、2人は一目見て好意を抱き合う。そしてこの男性に問われるまま身の上をシンデレラは語る。そこへ継父ドン・マニフィコが現れると、従者(実は王子)が王子がここを訪れると告げる。
仰々しい偽の王子(実は従者)の出現! そして2人の姉妹をわざと褒めそやす。その気にさせて宮殿へ馬車で2人の姉妹を送り出す。急いで追おうとしている父親にシンデレラは“1時間でもいいから宮殿に行かせて下さい”と願うが、父は聞き入れない。そこへアリドーロがやって来てこの家には3人の娘がいるはずだと告げると、継父ドン・マニフィコは末娘は死んだと答える。悲しみくれるシンデレラをアリドーロは呼び寄せ、馬車に乗せて宮殿へと送り出してやる。
王子の宮殿。偽の王子がおもしろおかしくドン・マニフィコの父娘のお相手をしている。姉妹は早くも王子の妻の座を巡ってのいさかいを始める。偽の王子は父に酒倉管理官に任命しようという。そしてすっかりその気になってしまった落ちぶれ貴族ドン・マニフィコ!
偽の王子が王子に2人姉妹の傲慢ぶりを報告する。もう少し様子を見るためこの芝居を続けることになる。姉妹は競って偽の王子に妻に選ぶことを強要する。彼が片方を従者(実は王子)に与えるというと、姉妹は平民はいやだと怒る。そこへヴェールを被った美しい娘が到着したことが告げられる。本物の王子と偽の王子までも彼女にすっかり魅せられてしまう。ヴェールを取った姿を見て姉妹と父は驚く。でもこの娘の真相は誰にも分からない。(最後の6重唱の結尾は「序曲」の第3動機によっている。)
第2幕
第1場:宮殿内
父と2人娘には現れた娘が似ているもののまだシンデレラとはわからない。負けてはならぬとばかり対策を練る。3人は俗物ぶりを発揮!
偽の王子がシンデレラに求婚すると、“私はあなたの従者を愛しています!”と拒絶する。これを聞いて飛び出てきた本物の王子が“私は単なる従者!”というと“かまわないわ、でも私のほんとの姿を見てからにして。この腕輪と同じものを付けてる者を探して下さい。”といって片方の腕輪を差し出して宮殿を去って行く。真実の愛を確信した王子は直ちに娘を探し出すために馬車の手配をする。何も知らない父ドン・マニフィコは偽の王子に娘との結婚を迫るが、ついに真相が告げられる。
ドン・マニフィコ邸内。下女姿のシンデレラがいる。そこへご機嫌斜めの継父と義姉妹が帰ってくる。空は嵐模様。 −嵐Temporaleの間奏曲− 嵐の後、王子と従者が本来の姿で登場。そこへ現れたシンデレラを見て彼女こそ腕輪の主とわかり、2人はことの全真相がわかり驚き、喜ぶ。(6重唱“Qesto 'e un nodo avvilppato”) だが、虫の収まらぬ3人の父姉妹! 王子は彼らを一喝する。でもシンデレラは、王子に私への愛に免じて3人の無礼を許すよう取りなす。そして王子と花嫁シンデレラは宮殿に向かう。そこへ王子の師が現れ、弟子の幸せを喜ぶ。そして姉妹に対してシンデレラに許しを請えと進言する。
第2場:宮殿の大広間
宮殿に現れた継父と義姉妹にシンデレラはやさしく許しを与える。義姉妹を抱擁して喜びを歌い上げるのであった。(このオペラ屈指の難曲アリア!)