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オペラ「運命の力 La Forza del Destino」
<作曲の経緯>
ヴェルディVerdiイタリア(1813-1901)にとって、「シモン・ボッカネグラ」(1857年初演)から「仮面舞踏会」(1859年初演)までは2年近くの空間期があった。次回作はナポリのサン・カルロ劇場のために契約を結んでいた。ヴェルディがずっとあこがれ続けていた題材は「リア王」であった、しかし、「リア王」制作には時間が足りない。それで「グスタフ3世」に決められた。このオペラ化はすでにオーベールAuberフランス(1782-1871)の「グスタフ3世、あるいは仮面舞踏会」(1833年)とメルカダンテMercadanteイタリア(1795-1870)の「摂政Il Regente」(1845年)として初演されていた。ヴェルディは作曲にあたってオーベールの作曲したスクリーブ台本をもとにして新しい台本を作ることにした。そしてソンマSommaイタリア(1809-64)に台本を依頼した。当時、新作オペラ上演にあたっては国の検閲が必要であった。最初の草案から検閲に引っかかった。それでもヴェルディは例外的に忍耐を示し、検閲の意見に従って変更をした。今日ではソンマのオリジナル台本に従って登場人物の名前や設定をソンマの元の台本に戻している。
1859年1月18日、オーストリアをイタリアから追い出すという大事件が起こった。そうしたイタリア国家統一運動 risorgimentoの政治的前進の中で1859年2月17日、「仮面舞踏会」はヴェルディ第21番目のオペラとしてヴェルディ自身の指揮で初演され、予想しなかった成功を収めることができた。この時彼は45歳であった。そしてイタリア統一のシンボル的存在サルデーニャ国王(在位1849-61、イタリア王として在位1861-78)の名Vittorio Emanuele Re d'Italiaの頭文字を取ると“VERDI”となる。こうした偶然と同時に当時の人気作曲家ヴェルディをも讃えて“Viva Verdi!”がイタリア中の流行語となり、あちこちで落書きで書かれたりした。
1859年8月29日、ヴェルディとジュゼッピーナは長い同棲生活を経て正式に結婚式をあげた。そして10月半ば「シモン・ボッカネグラ」の上演のためナポリへ行った。ヴェルディ自身の指揮で上演され大喝采を受けた。
1859年12月、カヴール首相から国会議員になるよう要請を受け、1861年1月、イタリア全土で行われた総選挙でヴェルディは国会議員に当選した。2月にトリノで第1回イタリア国会が開催され、3月、ヴィットリオ・エマヌエーレUに正式にイタリア国王の称号が与えられた。これによってヴェネート州を除いて教皇領とイタリアの統一が実現した。
第21番目オペラ「仮面舞踏会」後、ヴェルディはサンターガタで農園生活を満喫していた。その2年後、1861年6月、ロシア、ペテルブルグ帝室劇場から新作オペラの依頼が舞い込む。この依頼はペテルブルグ帝室劇場のテノール歌手タムベリックによってもたらされた。ヴェルディの妻ジュゼッピーナも夫に承諾するよう勧めた。まもなくヴェルディはユゴーHugoフランス(1802-85)の「リュイ・ブラス」のオペラ化をロシア側に提案して、何とか承諾を得た。しかし、その頃ヴェルディはスペインのリヴァス公爵ドン・アンヘル・デ・サーヴェドラの書いた戯曲「ドン・アルヴァーロ、または運命の力」(1835年マドリード初演)に興味を移していた。この作家はユゴーの影響を受けており、すぐれた構成をもっていた。人間の及ぶことができない運命の冷酷さを主題としていて、これはヴェルディの好みであった。
レオノーラの父はアルヴァーロの偶然に暴発したピストルによって死ぬ。愛するレオノーラとアルヴァーロ(インカ帝国の王家の王子)は引き裂かれ、レオノーラの2人の兄(オペラは1人の兄になっている)はアルヴァーロは追う。しかし、兄はあげくの果てアルヴァーロに殺され、レオノーラも瀕死の兄に殺されてしまう。アルヴァーロもおかれた運命を嘆き、崖から身を投じる(これは原作と初演版にあったが改訂版にはない)。原作ではアルヴァーロに焦点をおいているのに対してが、オペラではレオノーラを中心とした展開にしている。台本担当は最強のコンビ、ピアーヴェであった。
1861年秋にヴェルディ夫妻はロシアに向かった。しかし、レオノーラ役のラ・グリューアが病気で歌えないので上演は延期となった。1862年10月10日ペテルブルグで初演の幕を上げた。この初演版は改訂版とは多くの点で異なっていた。序曲もかなり単純なものだった。スペインからイタリアに場面を移していた筋立ても混乱があった。アルヴァーロも原作通り自害する結末となっていた。暗い内容をもつこの大作は、ロシアでは好まれなかった。それでも初演版「運命の力」は、その後のロシア・オペラの道を切り開く作品となったのである。それはムソルグスキーの「ボリス・ゴドゥノフ」、「ホヴァンシチナ」やボロディンの「イーゴリ公」などはこの「運命の力」の存在なくしてはその情熱的表現や、時間と空間の構築性は考えられない。その後マドリード、ローマ、ニューヨーク、ロンドンなどで上演されたが芳しい結果ではなかった。
1863年、ヴェルディはピアーヴェに改訂の意志を伝えている。しかし、ピアーヴェは心臓発作で倒れたのでギスランツォーニ(後に「アイーダ」の台本を手がける)に引き継がれた。何度も書き直された後、今日知られているような改訂版「運命の力」ができあがった。1869年ミラノ、スカラ座で改訂版の初演が行われた(台本ピアーヴェ、ギスランツォーニ補筆改訂)。
<音楽的特徴>
「運命の力」は一見暗さが感じられるものの、ヴェルディ中期の終りに至って、親しみあるヴェルディの世界に戻っている面もある。バレーの場面も多く(ex.第1幕第2場第1幕第2場“ようこそHola,hola,hola!”、第2幕第2場“タランテラと合唱”)、フランス・オペラの常套句が顔を出すようである。フランス通のヴェルディならではのことである。アリア的な歌の伴奏方法、伴奏に徹したヴェルディ・オペラ初期のやり方もみられる。そしてコミカルな要素が多く登場するのも興味深い。例えば占い師プレツィオシルラの描き方で笑いとユーモアにあふれる音楽を書いている。新兵に対して士気を刺激し(第1幕第2場“戦争万歳Viva la guerra!”)、“ラタブラン”を歌って愛国主義者を披露する(第2幕第2場“笛や太鼓があたりにこだましLorche' pifferi e tamburi”)。その他では行商人トラブーコ(第1幕第2場“ようこそHola,hola,hola!”、第2幕第2場)、特にイタリアに移った場面で修道士メリトーネの描き方もおもしろい。修道院長をからかい、兵士たちに対するおもしろい説教、修道院では浮浪者にスープを入れながらつぶやく場面も興味深い(第3幕第1場“お恵みを!Fare la carita'”)。こうした楽風は「仮面舞踏会」にもみられたが(陰謀家たちの不気味なユーモアと、オスカルという人物において軽妙さ陽気さを描くことに成功している)、ヴェルディ後期の個性となっていく。
そして観る者を喜ばせうっとりさせる間奏(第1幕第3場“修道士の行進”)は、長くはないが(もっと続いて欲しいと思うが、これが新しい波にいるヴェルディのやり方である!)美しいオルガンそしてヴァイオリンのソロが続く。そして第1幕の序曲ばかりでなく、第2幕から第4幕の各幕の序奏も短いがとびきり美しいものである。
登場する人物たちの描き方もヴェルディの新しいやり方を示している。それはそう明確でもなく強くもなく、鬱々とした心の動きをそこはたとなく描く。これは注目すべき点であろう。登場人物それぞれを表現をする性格的な音楽が与えられている。強い信仰と苦難に満ちた運命を担ったレオノーラに駆り立てるような動機が当てられている。運命の力のテーマである。彼女が登場するとこの動機が流れ出す。これは有名な「序曲」に出てくる有名なフレーズである。彼女に与えられた3つの歌は形式にとらわれずドラマの動きに密着した歌となっている(第1幕第1場“私はさまようみなしごですMe pellegrina ed orfana”、第1幕第3場“あわれみ深い聖母様Madre,pietosa
Vergine”、第3幕第2場“神よ、平和を与えたまえ!“Pace,pace,mio Dio”)。
ヴェルディ・オペラの終幕を大強音で強烈な印象で幕になるのが普通であるが、「運命の力」はそのようには終わらない。むしろ静かに消えていくように終わる。これはそれまでのヴェルディのオペラにはないやり方である。それは第3幕第2場のレオノーラ、アルヴァーロ、グァルディー二神父の三重唱である。アルヴァーロによって瀕死状態の兄カルロは、妹を最後まで許さなかった。ついにレオノーラは瀕死の兄に刺されて死ぬ。彼女は神父の腕に抱かれ息絶える。神父の祈りと共にアルヴァーロに神に身を捧げるよう勧める。こうした場面を経て静かに幕が降りるようにしている。このような宗教的で精神的なヴェルディの表現は、マンゾーニの「婚約者たち」の影響だとされている。ヴェルディはマンゾーニの情熱的な宗教観に感動し、共感を覚えた変貌したヴェルディの姿がある。それまでは教会否定論者だったからである。こうした精神的で平安に満ちた終曲は、「アイーダ」、「オテッロ」、そして「レクイエム」でも適用している。
「運命の力」という題に込められた内容は、第一には18世紀中頃のスペインに見られた民族的差別の問題である。それはすべてのこのドラマの根源となるアルヴァーロ、つまりインカの血を引く混血児としての運命を意味する。第二はアルヴァーロ、レオノーラ、カルロのうごめく苦悩とこの3人の背後を貫き、のしかかる避け得ない重い運命を意味する。つまり、アルヴァーロがこの運命を動かす人物で、レオノーラと駆け落ちしようとした夜に偶然とはいえピストルが暴発する。このため恋人レオノーラから姿を消し、軍人となる。ついには神に救いを求めて修道士となる。追ってきたカルロに血筋の侮辱を受け、決闘となる。深傷で死に行くカルロのためにアルヴァーロは神父を呼びに行く。その時レオノーラに出会い兄カルロのもとへ急がせるが、妹を許せない瀕死の兄は彼女を見て殺してしまう。ついにアルヴァーロ1人が残されることになる。なんという過酷な運命だろう。
<物語>
第1幕
第1場:セヴィリャ、カラトラーヴァ侯爵邸の一室
父カラトラーヴァ侯爵は娘のレオノーラにおやすみの挨拶をする時、求婚者のインカ帝国王子ドン・アルヴァーロについては反対だと娘に言い渡す。侯爵が出て行くと侍女がレオノーラとアルヴァーロとの駆け落ちの手はずを進める。さすがのレオノーラにも迷いがあった。その時アルヴァーロがバルコニーから忍び込み、一緒に逃げて欲しいという。丁度その時突然父の侯爵があわただしく入って来て、剣を抜く。和解を願うアルヴァーロは持っていたピストルを遠ざけるために床に投げ出す。その瞬間に弾が暴発して侯爵に当たってしまう。そして侯爵は娘を呪いながら息を引き取る。恋人たち二人はその場から去り、逃亡生活となった。
第2場:オルナチュエロスの宿屋兼酒場
逃避行の間に二人は離ればなれになってしまった。レオノーラは身を守るために男装して、復讐に燃える兄カルロから逃れようとしている。さて、兄妹は偶然にも同じ宿屋に泊まり合わせることとなってしまった。しかし、兄は妹とは気付かない。陽気なジプシーの占い師プレツィオシルラが“戦争万歳”を歌っている間に、レオノーラは通りがかった巡礼たちに混じり込んでそこへ逃げ出した。妹を見失ったことに気づかない兄カルロは自分の身の上をどこか他の土地で起こったこととして、自らの名前をペレーダといって語るのであった。
第3場:“天使の聖母”修道院の前
男の姿をしたレオノーラは、フランシスコ会“天使の聖母修道院”に隠れ家を求め、やって来る。呼び鈴を応えておしゃべりな修道士メリトーネが現れる。彼女は院長グァルディア神父との面会を求めた。神父と2人になり、レオノーラは自分の身分と事情を告げて、身を隠す場所を懇願した。神父はすべてを理解し、彼女にひとつの岩屋を庵として与えることを約束する。現れた修道士たちには命をかけて罪を償う新しい隠修士が、院内の岩屋に入ることを告げる。そして誰も絶対近づいてはならないと申し渡す。
第2幕
第1場:イタリア・ヴェッレトリ近郊
アルヴァーロは名を隠して、イタリアへに駐屯しているスペイン軍に入っていた。レオノーラはすでに死んでいると信じ込んでいる。その時、近くの居酒屋で争いの音を聞きつけ駆けつけ、仲間の士官を助け出す(彼こそレオノーラの兄カルロだった)。何も知らないで意気投合した2人は友情を誓い合う。そしてすぐに2人は戦場に駆り出される。アルヴァーロは重傷を負ってしまう。介抱するするカルロが偶然に発した自分の家の名“カラトラーヴァ”でアルヴァーロは動揺、これを見て取ったカルロも疑惑を抱く。瀕死のアルヴァーロはカルロに秘密の書類を焼却するように頼む。引き受けたカルロは、その中にレオノーラの絵姿を見つける。とその時、“アルヴァーロが助かった!”という知らせが来る。大喜びするカルロ、“これで復讐ができる!”と。
第2場:イタリア・ヴェッレトリ近郊
数週間後、ここには戦いの残党であふれかえっている。兵士、野営地に群がる人々、浮浪者、おびえた新兵たちである。したたかに商売するトラブーコもいる。修道士メリトーネも現れ、説教をする始末である。
騒ぎがおさまるとそこへ傷もすっかり癒えたアルヴァーロが登場する。カルロが彼を見つけ、身分を明かし、決闘を申し込む。そしてカルロの口から、レオノーラが生きており、彼女を殺すつもりであると告げる。これを聞いたアルヴァーロは怒りを爆発させる。通りかかった巡視兵が2人を引き離す。アルヴァーロはこの時、この地上的苦悩を修道院に入って神に捧げることを決意するのであった。
第3幕
第1場:“天使の聖母”修道院内
修道士メリトーネはぶつぶついいながら浮浪者たちにスープを配っている。これを咎めて院長のグァルディーノ神父は慎みを持てと注意する。そして苦悩するラファエル神父(実はアルヴァーロ、この修道院に入会していた)にはやさしく接するように説く。そこへカルロが仇を打つためにやって来る。すでに修道僧となって神の道を求める彼は、決闘を拒否するが、またしても自分のインカの血筋について侮辱され、アルヴァーロ(ラファエル神父)は決闘に挑むのであった。果たしてカルロは傷を負い、瀕死となる。
第2場:岩屋の庵の前
修道院内の岩屋の庵でレオノーラは神に平和を祈っている。すると人がやって来る気配に心が騒いだ。その時、アルヴァーロが駆け込んでくる。死に逝く者の罪のゆるしを与えて欲しいと信仰あつい隠者に願いに来たのだ。目の前にレオノーラを見つけて驚く。瀕死の兄カルロもやって来て、最後まで誤解の解けない兄は妹を見つけ刺してしまう。それでもレオノーラは神のみ手にすべてを捧げ、満足げに息絶えていく。一人生き残ったアルヴァーロにはなんの慰めが残されるのであろうか。神に身を捧げ、精進して行くのであろうか。
参考ディスク
DVD UCBG1146 ヴェルディ「運命の力」 発売:2006/6/7
ジェームズ・レヴァイイン指揮、ジョン・デクスター
メトロポリタン歌劇場・合唱団
| カラトラーヴァ侯爵:リチャード・ヴァーノン(Bs) レオノーラ:レオンタイン・プライス(S) ドン・アヴァーロ:ジュゼッペ・ジャコーミーニ(T) ドン・カルロ:レオ・ヌッチ(Br) トラブーコ:アンソニー・ラチューラ(T) プレツィオシルラ:イゾラ・ジョーンズ(Ms) 修道士メリトーネ:エンリコ・フィッソーレ(Br) グアルディーノ神父:ボナルド・ジャイオッティ(Bs) |
収録:1984年3月24日メトロポリタン歌劇場
2003
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