ラスト・レター
The last letter
小松崎 松平
by Matsuhei
Komatsuzaki
第一章 怪しい店
機内アナウンスが、無事に離陸したことを告げると、シートベルト着用のライトが消えた。村井敬一の前列の一団が緊張感から解放されて、急に騒がしくなり、フィリピンなどで用いられているタガログ語が飛び交った。日本で出稼ぎを終えて、フィリピンへ帰る女性たちらしかった。村井はシートベルトを外すと、椅子に深く座り直し、背中を背もたれに密着させて、両脚を前の方に伸ばしてから、全身の筋肉を弛緩させ瞼を閉じた。村井の背広の内ポケットには、一人のフィリピーナの訃報が仕舞われていた。
村井がその訃報を受け取ったのは、一週間前の三月下旬の金曜日だった。その日彼は、夜九時過ぎに出先から戻り、四階建てマンションの二階通路に設置されている郵便受けから、エア・メールを取り出し、405号の自室に入った。そのメールをダイニング・キッチンで開封すると、まず目に入ってきたのは、deathという単語だった。内容は、フィリピン人女性リンダ・R・デ・ロサリオの突然の死を知らせるもので、享年三十二歳であった。
村井がリンダと出逢ったのは、一九八八年の秋だった。そのころ、村井は電子部品業界の業界紙記者として、都内中央区の会社に勤めていた。村井は三十一歳を過ぎたばかりで、コンピューター関連の新しい雑誌の編集長に就任し、仕事が楽しくなり始めていた。編集長になったからといって、週刊紙の新聞の原稿書きから解放されたわけではなく、月刊雑誌の原稿と並行して書き続けていた。そのため、昼間に取材したものを夕方から残業して原稿書きを進めることが多く、絶えず仕事に追われるような状態だった。
その日の仕事が片づくと、会社の近くの居酒屋で刺身を摘みながら、焼酎割りなどを飲むことが日々の楽しみになっていた。金曜日の夕方には同僚たちを誘って、フィリピン・パブやカラオケに行き、ストレスを発散させていた。独身なので稼いだ金を自由に使えたし、適当に性欲も満たしていた。
村井は、東武伊勢崎線の西新井駅の近くに2DKのマンションを借りて住み、もう三年目に入っていた。そこからなら銀座まで約四十分で行けるし、家賃も東急東横線沿線などよりは安いので、独りで暮らすにはちょうど良かった。何よりも、村井の卒業した高校が近くにあり、同級生たちの何人かがいまでも同じ地域に住んでいるため、第二の故郷と呼べるほど、その街には、親しみがあった。
村井はマンションのある地元でも飲むこともあり、駅前の数軒の店にも顔を出していた。夏季は、焼酎をビール割りにしたような「ホッピー」という下町の独特な飲み物を、冷凍庫で冷たくしたジョッキで飲むのが最高だった。摘みは、モツ焼きや煮込みなどの手頃なもので良かった。勤め先の近くで飲んでの帰りに、また地元で飲み直すことも多く、部屋に帰るのは、午前一時過ぎになる日もあった。
村井の住む近所に「俺の島」という洋風のカラオケ・バーがあり、村井はその前を通るたびにどういう店なのか気になっていた。いつも飲みに行っている駅近くの店で知り合った仲間は、
「あそこへ行くのは、やめといたほうがいい」
と注意してくれた。なぜなのか、と村井が訊くと、
「あそこは評判が悪い。やくざが出入りしているという噂があるし、知らない客が飲みに行くと、新宿の歌舞伎町並みにぼったくるらしい」
と、答える者がいた。
その忠告に従ったわけではないが、村井はしばらくの間、「俺の島」の入口の扉を押さなかった。村井は一軒の店に通い出すと長い方で、新規開拓を好まなかった。人によっては、一日のうちに五、六軒の店を梯子するらしいが、村井は長っ尻の方だった。
一九八八年五月初旬、東京の桜が葉桜に変わる頃、村井はある会社の設立パーティーを横浜のホテルで取材し、現場から直接帰宅することを自社の事務員に電話で連絡してから新橋までJRで戻った。行き付けの地下の居酒屋で午後八時過ぎまで飲み、西新井駅に辿り着いた時、午後九時過ぎていた。翌日は土曜日なので、いつも顔を出す家庭的な店の前まで行った。しかし、あいにく臨時休業を知らせる張り紙がガラス扉に張られていた。雇われ女将と手伝いの者が一人いるだけの小さな店であるだけに、女将の都合でときどき臨時休業することがあった。村井は舌打ちをして、歩き始めた。空腹気味だった。同じ通りの並びにある「蟹ラーメン」店に入り、大盛りを食べた。次に「ホッピー」を飲ませる居酒屋の前に行き、暖簾をくぐったが、三十人ほど座れるカウンター席は、あいにく満席だった。
「村井さーん、その辺、一周してきてよぉー。すぐに空くからさあ」
店の女将が村井の顔を見て、笑顔で声をかけてくる。店内は、モツを焼く煙がたちこめていた。
村井は、西新井駅東口商店街の通りを真っ直ぐ歩き出してから、一ヶ月に二度くらい行く店の前に立ち止まった。そこは六十過ぎの夫婦が経営している店で、客層は高齢者だった。カラオケの曲も戦前、戦中、焼け跡世代のものが多く、戦後生まれの村井には適さなかった。今夜は老人たちの懐かしのメロディーを聴く気にはなれない、と思い、村井は再び歩き出し、ラジオでCMを流している薬屋の前の十字路を過ぎ、肉屋の前を通り越して、とうとう「俺の島」の前にきてしまった。ブルーの扉の前で立ち止まり、耳を澄ますと、中からカラオケの音と誰かが唄う声が聞こえてくる。村井は随分迷った末に、扉を押した。怖いもの見たさが勝った。
「いらっしゃいませー」
赤いミニスカートを穿いた二十歳代後半の丸顔の女性が、村井を見て、挨拶した。店内は、十人ぐらい座れそうなL字型のカウンターとテーブル席が四つあり、全部で三十人ほど入れる広さだった。左奥には、大人二人がやっと立てる狭いステージがあり、マイクスタンド、カラオケの機器が設置されている。テーブルは満席状態で、村井は、入口近くのカウンターの空いている席に座り、先程の女性にビールを注文した。
村井は店内の客の様子を見た。近所に住んでいながら、知っている顔はなかった。客の年齢層は四十代から五十代が多いようだ。それぞれラフな格好であり、中年の女性客が五人ほどいるものの、村井のようにネクタイを締めた勤め人風の客は見当たらない。飲み仲間から聞いていたこの店の噂を思い出し、それとなく、やくざ風の客を捜してみる。それらしい者は見当たらない。
先程のミニスカートの女がお絞りとビールの中瓶、野菜の煮物の突き出しを運んできた。村井はお絞りで手を拭き、女が注いでくれたビールを一口飲んだ。
「何か召し上がりたい物があったら、おっしゃってください」
女は、カウンターの端に置いてあるメニューを取り、村井の横に置いて、テーブル席の方へ戻っていった。ホステスらしき者は、先程の女性ともう一人の小柄な同年齢ぐらいの女だけで、カラオケのリクエスト曲を客から訊いたり、ミネラル・ウォーターやアイス・ボックスの入れ替えなどで忙しそうだった。
「ミカちゃーん、焼きうどんができたわよぉー」
カウンターの奥の方から甲高い声がして、湯気の立つフライパンを持って現れたのは、和服にエプロン姿の五十歳過ぎの中年女だった。その女は皿に焼きうどんを盛りつけた。ミニスカートの女が返事をして、カウンターを挟んで受け取った。
「ママァー、荒井さんは、フォークよ、フォーク」
ミカが言った。
「あら、そんなハイカラな物で食べるの? 割り箸でいいじゃないの」
ママがカウンターの中から笑いながら言った。
「オイ、ここは、昼間は喫茶店をやっているのだろう、フォークぐらい置いてあるんだろう?」
真ん中のテーブル席から、青いジャンパーを着た五十過ぎの男が反論する。
「馬鹿にしないでよぉ、あるわよぉ、フォークぐらい」
ママは、奥の調理場に入り、すぐに出てきて、カラオケセットが設置されている横の出入り口から、フロアーに現れると、真ん中のテーブルに進み、
「荒井サーン、ハーイ、フォーク」
と言って、客に差し出した。さらに
「わたしが食べさせてあげましょうか」
と言い、顔を客の方に近づけた。
「オイ、オイ。大人をからかうのは止してくれよ。ママに食べさせてもらったら、高く付くだろう? それでなくてもこの店は、高いんだからさあ」
客は、慌てて上半身を壁際に引っ込めた。
「あら、わたしが怖いの? あっ、そうか、家で待っている奥さんが怖いんだ」
ママのジョークに、客たちは声に出して笑った。
「カミサンなんか、怖くねえよ、何も悪いことをしていないから」
荒井と呼ばれた男は、腹が空いていたのか、うまそうに焼きうどんをほおばり始めた。
村井は、三十分ほどで中瓶のビールを三本飲んでしまった。塩味の蟹ラーメンを食べた後だけに、のどが渇いていた。メニューを開いて見ると、居酒屋と違い、カレーライスやスパゲッティー類が中心で酒の摘みになるような物はあまりなかった。
「後は、どうされますか」
村井が三本目のビールを飲み干してしまうと、ミカが訊いてきた。
「ボトルを入れて下さい」
村井は、国産ウィスキーの銘柄を言った。
「ママァ、新しいお客様が、おニューのボトルをご注文よ」
ミカは、カウンターの奥にいるママに大声で叫んだ。
「ハーイ、ありがとうございまーす」
ママは、すぐに大きな声でカウンターの中から返事した。
ミカがボトルとアイス・ボックスやミネラルウォーターを運んできて、村井の前にセットした。
村井は、ハイピッチで水割りを飲み続けていた。ときどきミカがテーブル席から立ち上がって、カウンターの客のグラスを覗き、新しい水割りなどを作りに来る。しかし、次第にテーブル席にいる時間が長くなり、客に勧められるままにビールや水割りを飲んで腰を落ち着けてしまった。もう一人の女は、専らカラオケの操作や後かたづけを行っていた。カウンターの客は、二人連れか一人で飲んでいる者で、常連らしくホステスから放って置かれていても、文句を言わなかった。
小一時間も経った頃、ママがエプロンを外して、柿色の和服を粋に着こなし、テーブルやカウンターの間を回りながら、客たちに愛想を言って、機嫌を取り始めた。小太りの躰に焦げ茶色の帯が似合っていた。間もなく、村井の席に近付き、妖艶な笑みを浮かべて、
「いらっしゃいませ。こちらは、初めての方ね。『俺の島』へようこそいらっしゃいました。ボトルを入れていただき、有り難うございます」
ママは丁寧に頭を下げた。さらに村井のグラスを手に持ち、新しい氷を入れて、ボトルからウィスキーを注ぎ足そうとした。
「まあ、もうこんなにお飲みになったの? お強いのねえ」
村井のボトルは、三分の一ほど空いていた。テーブル席の客たちは、焼酎割りを飲んでいる者が多く、ウィスキーを飲んでいる客は、カウンターの客たちだった。
村井に水割りを作り、ママは空いていた隣りの止まり木に座った。
「ママも何か飲みますか」
村井は、相手の心を察知して勧めた。
「あら、戴いてよろしいの……。それなら、お言葉に甘えて、わたしはおビールを戴くわ」
ママは、小柄な女にビールとグラスを持ってくるように命じた。ビールが運ばれてくると、村井は注いでやった。ママは、村井のグラスに小ぶりのグラスを軽く打ち付けて、一気に飲み干した。
「ああ、美味しいわぁ」
ママは、顎をのけぞらせて、一番美しく見えるポーズを作った。
村井は、すかさずママのグラスに注ぎ足した。
「このお近くに住んでいる方ですか」
ママは、二杯目を飲み干し、村井に訊いてきた。
「ええ、小学校の裏の宮田コーポに住んでいます」
村井は正直に答えた。
「あら、すぐ近くじゃないですか。宮田さんは、この辺りのお大尽よ。何しろ、先祖から譲られた広い土地をたくさん持っているから。その上に、建築会社も経営しているでしょう、まったく羨ましい方だわ」
ママが羨望の眼差しを見せた。宮田一家は、村井たちが住んでいるコーポの一階を住宅兼事務所にして住んでいた。
ママは、五分ほど村井の隣りに座って雑談をしてから、
「カラオケもありますので、楽しんでいって下さい」
と言って立ち上がり、テーブル席の方に移っていった。村井の目から見ても、こなれた動作だった。
村井は、その夜、「俺の島」で二時間ほど飲み、一万三千円を支払って、自宅に帰った。「俺の島」は、噂話を聴いて想像していたよりも、家族的な雰囲気で営業している店ではないか、何故いままで「やくざが出入りしている店」という噂を信じていたのか、村井は歩きながら不思議に思った。
その後、村井は週に二日ほど「俺の島」に飲みに行くようになった。地元の店としては、料金も程々であり、ママたちの客のあしらい方も、それなりに良かった。昼間は喫茶店を営み、店の客層も広く、夕方の早い時間に行くと、中年のおばさんたちでテーブル席が占拠されていることもあり、近くの生命保険会社支店の、外交員たちの集まりだったりした。午後十一時を過ぎると、中年の男たちがふらりとやってきて、カウンターで大人しく飲む光景が見られた。そのため、村井の目には、「やくざ」の影がこの店から見えなかった。
七月に入り、東京に梅雨明け宣言が出されて、生ビールの美味しい季節になると、連日、村井は「ホッピー」を飲むようになっていた。これを飲ませる店は限られており、西新井駅近くの「茂」が村井の行き付けだった。ただ、常連が大勢いるため、午後六時から九時頃までは、タイミング悪く行くと、カウンター席が満席状態で、女将から「悪いわねえ、その辺を一周してきて」と言われる日もあった。
ある夜も午後八時頃に「茂」に顔を出したが、満席で、仕方なく村井は「俺の島」へ足を向けた。そこで二時間ほど飲んでいると、十人ぐらいの男たちが入ってきた。常連客ではなかった。髪型が角刈りの者もいた。三人は黒のスーツ姿で、後はラフな格好をしている。ママは、それまで三人で飲んでいたテーブル席の常連たちにカウンター席に移動してもらって、新しくきた客に席を作った。ママは妙にそわそわして、ぎごちなかった。
「オイ!」
新しい客たちの一人がママを呼び、カウンターの奥に入って、何かを相談していた。ミカたちは、テーブル席にビールやコップなどを慌てて並べている。
ママが漸くフロアーに戻り、新しい客たちの前で
「いらっしゃいませ」と改めて挨拶し、
「主人がいつもお世話になりまして、有り難うございます」
と付け加えた。先程、ママをカウンターの奥に呼んだずんぐりとした男が、横に立っていた。村井は、それで全てを理解した。恐らく、ママの亭主は、今夜の新しい客たちに――明らかに堅気には見えない、その筋の者たち――関連した職業なのだろう。そこから「やくざ」の噂が広まっていったのだろう、と村井は推測した。
新しい客たちが来てから、誰もカラオケを唄おうとはしなかったし、ミカたちもいつものように客に勧めなかった。それどころか、ミカたちは、カウンターの常連客にすら、冗談を言う雰囲気ではなかった。村井は、初めて「俺の島」の店の意味を理解した。テーブルの席では、男たちが大声で喋り、辺りを気にすることなく、声に出して笑っている。「凌ぎ」がどうのこうのというその業界の話題もでている。ママの亭主は、愛想を言って、スーツ姿の男たちの機嫌をしきりに取っている。常連客たちは一人、二人と次々に帰っていった。村井は、一時間ほどでいい加減に店の雰囲気に耐えられなくなり、帰る算段をしていた。すると、
「さっ、次の店に行こう」
テーブル席の中で、年嵩の中心人物と思われる六十歳過ぎの男が、立ち上がった。それを合図に他の者たちも、一斉に立ち上がり、スーツ姿の一人がママの亭主に何か耳打ちした。
「有り難うございます。いえ、いえ、それでけっこうですよ、いつもすみません」
ママの亭主は、盛んに恐縮している。その間に、男たちは次々にドアの方向に歩き始めた。ミカが慌てて扉の所に小走りで行き、扉を全開にして、男たちが表に出るのを一人ずつ頭を下げて、見送っている。ママも横に立ち、求められるままに握手をしている。
ママたちは、五分ほど外に出ていて、店内は、カウンターの客たちだけになり、あたかも役者がいなくなった小さな芝居小屋のような雰囲気になった。
「ちぇっ、何でぇ、あの連中は――」
カウンターの隅に一人で飲んでいた客が、舌打ちをして、不満を表した。他の客は何も言わなかった。
間もなく、ママとミカたちが戻ってきた。ママの亭主は、男たちについて行ってしまったらしい。ミカたちは、テーブル席の後かたづけを始めた。
「さあ、これから飲み直そう、みんな」
ママが誰にともなく言った。
「お客さんたち、こちらに戻りますか」
ママは、先程、後からきた客たちに席を譲った三人組に、申し訳なさそうに訊いた。
「ママ、ここでいいよ。また、移るのはしゃくだから」
三人組の一人が吐き捨てるように言った。
「さあ、誰か、一曲唄ってよ。鈴木さん、いつもの歌を聴かせて」
ママがカウンターの隅で飲んでいた客に催促した。
「ママ、俺とデュエットしてくれる?」
鈴木は、すぐに反応した。
「ええ、いいわよ」
ママが応じて、自らカラオケをセットし、
「さあ、すぐに始まるわよ」と言って、鈴木をせき立てた。
二人は、『銀座の恋の物語』を唄い始めた。ミカたちが、テーブル席の後かたづけをしながら、狭いステージの方を見て、拍手をしたり、一緒に唄っている。
その夜、「俺の島」では、カウンターの客たち全員が唄わされ、村井にも順番が回ってきた。村井も唄うことは嫌いな方ではないので、少しハスキーな声を絞るようにして唄った。ミカたちは、流行りのコミック・ソングなどを客とデュエットで唄って、場を盛り上げていた。ママは、客に勧められるままに、ビール、水割り、日本酒を代わる代わる飲み続けている。午前零時を過ぎてからも、新しい客が三組入ってきて、店の雰囲気は良くなっていった。結局、村井は、午前三時過ぎまで「俺の島」で腰を落ち着けてしまった。
村井は、「俺の島」にやくざが関係しているらしい、と判ってからも、以前と同じように飲みに行った。大なり小なり、飲食業は、その筋の者につけ込まれやすく、協力金のようなものを月決めで上納している。警察が介入しようとしても、古くからの習慣は、すぐには消滅しない。店の経営者たちは、嫌々ながらも、保険のつもりで領収書の取れない金を地回りに支払っている。「俺の島」も、その悪習を絶ちきれずに、東京の下町で営業する店の一軒だった。
村井は、「俺の島」に何度か通い、次第に店の内情も判るようになってきた。ママの亭主は、暴力団などの組員ではなくて、社員三人ほどの不動産会社を経営しており、「俺の島」が忙しいときは、キッチンに入って料理なども作るまめな男らしかった。ママたちは以前よりも村井に親しく接するようになっていった。「俺の島」の常連たちとも、次々に名刺を交換する機会が増えていった。
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