ポンポ、長崎へ行く (1)


4月1日 土曜日


 こんにちは。運転手です。

「ポンポで長崎まで行きます」と宣言したところ、サイトを見た方から、はげましのメールをいただきました。

 ありがとうございます。


 しかしながら、正直、運転手はちょっと(かなり)不安です。

 何せ、これまで一日に百キロメートル以上走ったことがないんですから。

 ええ、ええ、わかっていますとも。そうとう無謀なことだって。

 失敗したら思い切り笑ってやってください。

 途中で何かあってリタイアするなんて、十分すぎるくらいに考えられます。

 だからあんまり期待しないでくださいね。


 とはいえ、これは長年の夢(?)でしたから、楽しみでもあります。思い切り貧乏旅行なんですけど。

 ミチコさんも行くのかって?

 今回は残念ながら、お留守番です。猫がいるものですから。(うちの猫は外出できない)

 そのかわり、あるものを一緒に連れていく予定です。さて?



 おととい、もしものときのためにプラグを買いに行きました。

 オートバックスに行ったら、「ウチは四輪(専門)なんで、2サイクルのは置いてないんですよ」ときました。

 でも、「どこにありますか?」って聞いたら、「バイク屋さんならあるかも」と答えてくれたので、ありがとう、

近所のバイク屋に行ってみました。

 ところが、この店のおじさん、商売っ気がまったくなし。


「すみません、プラグなんですけど」

「プラグ? ウチ、あまり置いてないよ」(背を向けたまま答える)

 ふつうのお客さんなら怒りそうですが、運転手はこういう人に親しみを感じます。

B7HSB6HSなんですけどね」(しつこく聞く)

「あったかなあ……」(動かない)

「結構探しまわって、ここに来たんですよ」(嘘)

 するとおじさんはようやく立ち上がって、棚をごそごそやり始めます。

「ああ、あった。B6HS……、B7はないな」(一番下から色あせたプラグの箱を取り出す)

「何本いるの?」

「二本」(2ストなんだから)

「はい……、ええと、(二本で)840円」(安すぎない?)

 で、プラグを手に入れました。新品だけど古そう。いいのかな、これで。なぜか不安は解消しませんでした。



 そんなこんなで、もうすぐ出ます。

……そば屋の出前? ■


4月2日 日曜日 東京→静岡 (本日の走行距離202km)



 今日から長崎にむけて出発です。といっても楽しい気分よりは不安が先に立つ運転手、若干緊張ぎみ。

毎日十時間以上もポンポを運転するなんて生まれて初めてのこと。

 ミチコさんはお留守番なので、そのかわり、ミチコさんの花ねこを連れて行くことにしました。


 しかし運転手がこの日起きたのは9時。荷物の積み込みをそれからやると、すでにお昼の12時を過ぎています。

 で、出発。なかなかスターターを回そうとしない運転手。でも行くと決めた以上は行かなきゃいけません。

ミチコさんが見送ってくれます。

 運転手はこの旅の出発点を東京駅にしようと思っていましたので、まずは東京駅に向かいます。

 長崎まで、国道1、2、3号をメインに、佐賀県鳥栖から国道34号を走る予定です。東京の桜の花は

満開を過ぎ、花びらを盛大に散らしています。今日が見納めかもしれません。

<『サクラチル』ですね> という声がしました。<こいつは縁起が悪い>

 誰かと思ったら、茶色オオカミくんじゃないか、と運転手。

 茶色オオカミは運転手が一人のときに現れる、不思議なやつです。昨年の暮れ、運転手が入院したときに

初めて会いました。

<一人じゃお寂しいでしょう。わたくしも一緒に行きますよ>

 はいはい、勝手にどうぞ。


 いよいよスタート。緊張のひととき。

 14時30分、いよいよ東京駅前から、ポンポと一緒に出発です。あ、そうだ茶色オオカミも。

 長い長い旅の始まり、ドラマチックだなあ……と感傷にひたろうと努力する運転手。まったく無駄なことを、と

冷ややかな目で見る茶色オオカミ。ほっといてくれ。

<ほら、事故に気をつけてくださいよ。あなたはともかく、スバル360をキズつけたら社会の損失です>

 相変わらず、口が悪いね。と運転手がぼやくと、対向車線では追突事故処理中。はい、安全運転します。

(この日は、三件もの事故現場に遭遇しました)

 第一京浜に入ると、いつしか雨がぽつりぽつりと降り出しました。一時間走って、ようやく多摩川を渡ります。

これから先は初めての道、いつしか前傾姿勢でハンドルを握る運転手。川崎から国道1号に乗り換えると、

雨はしだいに本降りへ。風もかなり強いようで、ポンポの車体が風に流されそうになります。

 横浜の手前で1号は横浜新道(有料バイパス)と一般国道に別れます。今日は渋滞がひどい、バイパス使おうかな、

と走りながら悩む運転手。

<やめといたほうがいいですよ、どうせ急いだって、たいして変わらないんですから> と茶色オオカミ。

 それもそうなので、一般国道へ。すると当然渋滞にはまるポンポ。しかし急がば回れ。この後は土砂降りの雨と風に

なりました。雨が風で波状になって叩きつけてきます。遠くの空では稲光。この雨の中、高速走行したら事故に

なりかねないなあ、と思った運転手。

<ほら、渋滞のほうがよかったでしょう> ああ、まったくその通り。時間がかかったけど。


 20時。小田原市浜町のローソンでひと休み。雨は上がって、星が見えてきました。この後はいよいよ

箱根越えです。運転手はまだ箱根峠を走ったことがありません。まあ大丈夫だろ、とやや楽観的に考えていました。

 しかし! 振り返れば、渋滞、土砂降りの雨よりも、箱根越えがこの日のハイライトでした。おそらくこの先も

こんなにしんどいことはないだろう、と思えるほどでした。 だいたい夜の箱根越え自体が無謀すぎるかもしれ

ません。箱根湯本まではすいすいと登ります。しかし、この後がたいへん。急な坂道、ヘアピンカーブの連続、

ポンポのエンジンがうなります。もちろん三速トップで登れません。せまり来る後続車に道を譲りつつ登ります。

<ほう、西の空には三日月ですな。箱根の山にかかる三日月もなかなかですねえ> 茶色オオカミが感心しています。

 こっちはお月見どころじゃないんだ。運転手に茶色オオカミをかまってる余裕はありません。

それよりも、がんばれ、とポンポに声をかけてやりたいくらいです。エンジンの焼きつきが心配なので、

20分登っては10分程度休む、の繰り返しで小田原を出てから一時間半後、ようやく峠を越えました。


『国道1号最高地点874m』の看板を過ぎると、今度は長い下り坂。おまけに濃霧。とある方から、下り坂でも

アクセルを踏むように、とのありがたいアドバイス。オイルが落ちないで、これまた焼きつく恐れがあるからだそう

です。ときどきポンポを止めては、エンジンを空ぶかしする運転手、なかなか慎重です。なにしろ運転手が頼れる

のポンポだけなのです。ポンポのエンジンが止まってしまえば、運転手はどうすることもできません。

<能力の限界が浅いですな>

 分かってるよ。そんなことぐらい。


 そして、ようやく目の前に三島、沼津の街の明かりが見えてきたときには、ほっとしました。

小田原を出てから2時間半、ようやく道が平坦になりました。ポンポが箱根を越えたのです。ブラボー!!

 あとは高速道路のような国道1号を静岡へ一直線。そして、午前0時を回った頃、静岡駅前に到着しました。 ■
 

 空に三日月、眼下に街の灯。すばらしい!



4月3日 月曜日  静岡→名古屋


 朝起きると、昨夜の暴風雨がうそのような快晴。

 ポンポを運転するのもすがすがしいですね。さっそく運転手は静岡市を海のほうへ向かいます。

 静岡市は運転手が大学の四年間を過ごした街。街を走るのは、大学を卒業して以来のことです。

見覚えのある風景に運転手は懐かしさでいっぱいです。運転免許を取って、中古のスターレットを

買い走り回った記憶が甦ります。


 道の向こうに富士山!

 ミチコさんの花ねこを連れてきました。

 静岡は暖かくてのんびりしていていい街です。水もおいしいし、なんといっても富士山が見えます。

今朝は雨の降った後なので、冠雪した富士山がくっきりと見えます。ポンポと富士山の写真を

撮りたくなった運転手。清水の三保の松原へ行ってみることにしました。海岸沿いに出て、国道150号を

まっすぐ走ります。空と海の青がすばらしい。

 学生の頃には授業が終わった後に、海まで原チャリ(50ccスクーター)を走らせたなあ、と思い出す運転手。

よそ見をして縁石にぶつかって前輪を破壊したことも思い出しました。


 三保岬の突端まで行くと、富士山が海の向こうにその勇姿を見せました。来たかいがあります。運転手は

一時間ほど写真を撮り続けることになりました。

 すると、松の木の後ろから声が聞こえます。

<あのう、サシデガマシイようですが、海風はスバル360の車体に悪影響だと思いますけどね> 

 出たな茶色オオカミ。この風景を前にして撮らずにいられますか。ひっこんでなさい。


 三保の松原を離れると、また海沿いの道を走ります。この国道150号はいいですね。太平洋が近くに見え、

気持ちよくスピードがでます。そういえば、同じこの道で、免許を取ってわずか一ヶ月でスピード違反で

捕まったことを思い出しました。時速30kmオーバーで一発免停。悲しかったなあ。

 また、このあたりはイチゴの産地でもあります。

<ずらずら並ぶイチゴ農園のけばけばしい看板が風景を台無しにしてますな>

 リアシートに座った茶色オオカミが言いました。また、無駄に敵を作ろうとしてるな。

 そんなこと言ったら、立ち続けで呼び込みしてるお姉ちゃんたちに悪いだろう。

<……イチゴ狩りしますか> いや、遠慮しとく。


 今日は運転手おすすめの静岡ドライブをご紹介。

 150号から離れて、用宗(もちむね)から大崩海岸(おおくずれ)を目指します。

 その途中の道に、気になる本屋を発見。本好きの運転手、さっそく立ち寄ってみると、土間に古色蒼然とした

木の本棚が並んでいます。雑誌は新しいものの、棚の上のほうにならんだ本は古本のようにホコリをかぶっています。

しかし、これが新本。この本屋が仕入れて、二十年、三十年、売れずに残っているのでしょう。ちゃんと本に

スリップ(売上票)が挟まれています。聞けば、本屋を始めたのは、昭和十二年頃だそうです。

本屋の名前は『石部屋書店』という変わった名前でした。


 崖っぷちを走る。(これは焼津からの上りの景色)

 『日の出』にて。春野菜とあさりのパスタ。

 大崩海岸を走る道はアップダウンにカーブが続きますが、昨日の箱根峠に比べれば、たいしたことはありません。

ここの途中には太平洋の絶景を見下ろすレストラン『日の出』があります。運転手も学生のとき、訪れたのを

思い出しました。<一人で行ったんですか?> 野暮なこと聞くもんじゃないよ。茶色オオカミくん。


 大井川橋(旧国道1号)を渡る。

 中山峠を登るポンポ。向こうに大井川橋が見えます!

 焼津からは県道122号を走り、旧東海道の大井川橋に出ます。陽が傾いて寒くなってきました。そのまま、

小夜の中山峠を越えて駿河から遠江へ。今でこそ道路も立派ですが、昔は深い山の中だったでしょう。峠を降りると、

運転手の勘に響く神社を見つけました。鳥居をくぐると、高い杉木立のなかに巨大なクスノキがありました。

すごい、と思って見ていると、宮司の奥さんが出て来て、お茶を呼ばれてしまいました。

 お社の規模は大きくないものの、由緒ある神社のようです。名前は事任(ことのまま)八幡宮。

<名前も何かいわくありげですね。『ことのまま』なんて、『レット・イット・ビー』あるいは『ケ・セラセラ』

ですな。ここを宣伝して、観光地にできませんかね>

 またヨコシマなことを考えてるね。こういう場所こそ、そっとそのままにしとくほうがいいよ。


 山里に夜の闇が落ちてきていました。茶色オオカミがあくびまじりに言います。

<まだ静岡から百キロもきていませんよ> 

 運転手はここから一路名古屋をめざします。しかし国道バイパスはいけません。ポンポにはペースが早すぎる

のです。運転していてほっとするのが、旧東海道。杉並木がところどころに残っていたりします。

しかし、まっすぐ走っているつもりの道が、いつの間にやら、国道1号本線に合流してしまいます。

<トラックに追突されたら、一巻の終わりですな>

 茶色オオカミが言いますが、運転手は無視します。

 大型トラックが追い越していくたびに風圧で飛ばされそうになるポンポ。今日の目的地は名古屋です。 ■
 


 

クルマ天国・名古屋、五車線の道。

4月4日  火曜日  名古屋→高槻


 国道一号をずっと下っていると、気がついたことがあります。それは何か?

 風景が変わらない!

 行けども行けども、ポンポの運転席から見えるのは、ファミレス、本屋、インターネットにハンバーガー、

コンビニ、ドラッグ、カー用品、といったお店の看板、および広告です。それは、(当然のことながら)

運転手に向かってよく目に入るように設置されており、いかにして目立つか、という苦労がしのばれる

デザインとなっているのです。

 その結果、東京を出てから名古屋に至るまで、道路沿いにMの字を何個見たことでしょう。

あるいは「本」の文字。道路標識がなければ、ここがどこだか分かりません。

 道の両側を埋め尽くした看板の並木は、そのほとんどが、赤、黄、青でできており、さながら

香港のようです(行ったことないけど)。日本人特有の繊細な色遣いはどこへ行ったのでしょう。

どの看板も、他の看板より目立とうとした結果、単なる木立の中の一本にすぎなくなっています。

<まったく、もって許せん!> そう言いたいわけですな。

 そうだよ、茶色オオカミくん。わかってくれるかい。

<でも、その看板を見分けて、しっかり利用してるあなたは、いったい何なんです?>

 う、答えにつまる運転手。 まったくその通り。コンビニを見つけてはトイレ休憩、それにインターネットカフェが

なければホームページの更新もできません。

 わかってるよ、これらのお店がなければ、この旅行も成り立たない。……でも、わずかなドライブインぐらいしか

なかったポンポの時代は、どうしてたんだろう? 

 僕のほうがこれらのお店を求めているのか、それとも本当は、これらのお店に僕の行動が決められていたりして。

 長良川を渡る。

 さて、今日は名古屋を出発して、神戸を目指します。東海道も今日で最後。ポンポは朝の名古屋の街を走ります。

しかし、道路事情がよいのかどうなのか、走るペースが異様に速く感じます。ポンポはついてゆくのが精一杯です。

路線バスまでが東京では考えられないスピードで走っているようです。寝不足の運転手には少しつらい感じ。

 国道1号を四日市方面に向かう途中、三日月橋をわたると、『スーパー銭湯 ポカリ(ホカリ?)の湯』が

現れたので、運転手はお風呂に入っていくことにしました。

 さっぱりした運転手、これで眠気もなくなったか、と思えばさにあらず、とても眠くなってきました。やばい。

ブレーキを踏むタイミングが遅くなってきているように感じます。こんなときは、寝るにかぎります。

運転手は「本」の看板を出した店の駐車場に入りました。

<看板に助けられてますな> と茶色オオカミ。ああ、まったく、その……通……り、zzz……。


 石薬師宿。ここは観光地化されていない。

 今日はさすがにだらだらムードの運転手。お天気が花曇りなのも、ぼんやりする原因かもしれません。それでも

ポンポは四日市を過ぎ、いよいよ鈴鹿峠、最後の山越えに向かいます。

 ミチコさんに『今、四日市にいます』とメールすると、さっそく返事がきました。

『4月4日に四日市に着くように出発したの? 4はわたしのラッキーナンバー!!』

 …………。

 貴重な発見をしてくれたミチコさん、文章に「4」が四つ入ってますけど……。


 さすがに国道1号、大型トラックがひっきりなしに行き交います。鈴鹿峠も例外でなく、トラックに

あおられながら、坂道を上るポンポ。峠を越えて運転手は1号を外れて山里の集落を通る県道に降りました。

とたんに静かな光景が現れます。すれ違ったのは、農家の人の軽トラック一台。とくに見るべきものもないのですが、

ポンポにとってはこちらのほうがほっとします。しかし、この県道がずっとつづくわけもなく、再び1号に合流。

東海道の終点ももうすぐです。

 近江平野の国道1号を一直線。曇ってきました。

 (今日、十回目くらいの)ひと休み。

 大津から京都の間は、ひさびさの渋滞。春の旅行シーズンでもあるのでしょう。京都から大阪へ向かう道は

混雑していそうだったので、運転手は京都の街を抜け、国道171号をバイパスすることにしました。

 暗くなってきたと思ったら、いきなり雨が夕立のように降り出しました。あっというまに本降りに。初日に続いて

雨の中を走るポンポ。ワイパーが雨を払いますが……、ふと気がつくと、運転席側のワイパーが外側に倒れて

戻らなくなっている! 慌ててポンポを道脇によせて、ハンドルの下からワイパーの付け根をのぞき込みますが、

悲しいことに運転手にはまったくわかりません。

 場所は京都と大阪の中間、高槻市。神戸まであと一時間はかかりそうです。

 ワイパーを動かさないまま、雨の中を走れるかなあ。

 屋根を打つ雨音響くポンポの中で、途方にくれる運転手。どうしたものか……。 ■



* * * >ポンポ、長崎へ行く(2) に続く