ポンポ、沖縄へ行く
月明かりの那覇港。
沖縄までの道のり
4月10日月曜日/11日火曜日/12日水曜日 長崎→熊本→鹿児島→那覇
長崎に着いて一夜明けました。
外は雨が降っています。そうすると思い浮かぶのはあのメロディです。雨の長崎と前川 清がすぐに結びついて
しまうのは、いいかがなものかと思います。
運転手は昨日撮れなかった長崎の風景をバックにしたポンポの写真を撮ろうとしました、が!
『今日も雨だった』ぐらいの雨ではありません。猛烈な風に乗って雨が降りしきります。こんな天気ではカメラを
出せません。粘っているうちに、ポンポを中島川にかかる石橋にこすってしまいました。見ると塗装が二センチぐらい
はがれています。一気にヘコむ運転手。
<あなたも、なかなかしつこいですな。いいかげんあきらめればいいのに> 茶色オオカミが助手席から言いました。
この機会を逃したら、またいつ長崎に来れるか分からないんだよ。
<この天気じゃ無理ですって。お昼ご飯に行きましょう>
運転手は長崎の海岸通りにあるバーミヤンへポンポを走らせました。
<中華街もあるのに、どうして全国チェーンの中華レストランにいくんですか>
だって、駐車場があるからね。
<なるほど>
平地の少ない長崎の街の中では、駐車場のあるレストランというのは貴重です。
バーミヤンのメニューに醤油ラーメンの写真があったので、これ、と注文してみたら、予想通り、とんこつラーメンに
なって出てきました。ウェイトレスをつかまえて、ちょっと、これ写真と違うんだけど、と文句なんか言いませんよ。お
いしくいただきました。
雨の眼鏡橋に……
雨の長崎港。どこまでいっても雨。
雨と路面電車。どちらも長崎名物?
<ところで、これからどうするんです?>
茶色オオカミが餃子をつまみながら言いました。
沖縄に行くんだ。
ぶはーっ、と餃子が飛んできました。汚いなあ、もう。
<お、おきなわあ?>
茶色オオカミは目を白黒させています。
うん、東京から船に乗ると三日かかるけれど、鹿児島から乗れば二日で着くから。
<たった一日しか違わないじゃないですか。だいたい、ここまで読んできた人が黙ってませんよ。せっかく長崎に着い
て、めでたしめでたしなのに、沖縄、ですと? まじめに額に汗して働いてる人たちが黙っちゃいませんよ>
うん、まあ、それはそれとして。この際、ポンポに沖縄を見せてあげようかな、と思ってさ。
<あながいつか地獄を見ますよ>
運転手は雨の中、鹿児島港をめざしました。
那覇行きフェリーの出航時刻までに着かなければいけません。タイムリミットは明日11日の16時です。
運転手は島原半島の多比良(たいら)からフェリーで有明海を熊本県長洲へ渡り、国道501号から3号へ
乗り継ぎました。
そして深夜、熊本市のネットカフェでホームページを更新すると、明け方、また走り始めました。
鹿児島までは九州自動車道が通じていますが、ポンポで走る勇気はありません。東シナ海に沿って、アップダウンと
カーブを繰り返す国道3号をひたすら南下します。高速道路がなかった時代、鹿児島までの道は遠かっただろうな、と
思います。
そして熊本を出て十時間後の午後二時すぎ、ようやく鹿児島市に入りました。
有明海を見ながら島原半島をゆく。
有明フェリーに乗船。熊本へ。
夜明け前。雨は上がった。
国道3号を南下中。東シナ海が見える。
フェリー乗場で乗船手続きをしますが、ここでちょっとしたトラブル。
受付の女性が車検証を見て、「これ、貨物車ですか?」と言い出したのです。ナンバーの『88』を見てのことでし
た。『88』だと貨物車扱いで、航送料金が一割程度高くなってしまいます。
「いや、乗用車ですよ」 と運転手は言い張りました。「車検証にも『乗用』って書いてあるし」
「でも、『スバル360』って何ですか?」
なにい? 往年の名車、スバル360を知らないだとう?
でも、運転手はにこやかに笑って、携帯電話の待ち受け画面を見せました。
「ほら、このクルマ。貨物車じゃないでしょ」
「あ、なるほど」
これで手続き終了となり、ポンポは『フェリーあかつき』に乗り込みました。
沖縄までは24時間、一泊二日の船旅です。 ■
あの船に乗るよ、ポンポ。
トラックが邪魔だね、ポンポ。
今度はフォークリフトが来たよ、ポンポ。
前に進めないよ、ポンポ。
何とか乗れてよかったね、ポンポ。
鹿児島港を出ました。桜島は見えません。
予定より一時間半遅れて那覇港に到着。蒸し暑いです。
沖縄の猫はスリムでかっこいい。しかし、どの猫も警戒心がかなり強くて、なかなか写真を撮らせてくれない。
まずは那覇から。
4月13日 木曜日
沖縄滞在の初日、昨夜の雨はようやくやんだようです。
どうも今週はすっきりしないお天気。長崎で降られた雨雲が関東に移動して集中豪雨にもなっているようですね。
今日の沖縄の最高気温は二十三度、最低気温は十九度、暑くもなく寒くもなく、多少湿度が高いのを除けば、
このうえなく過ごしやすい陽気です。
<しかし、これでは沖縄に来た意味がありませんなあ。カーッと照りつける太陽がないと>
見れば茶色オオカミが大あくびをしながら伸びをしています。
それは内地の人の勝手なイメージだよ、と運転手は言いますが、多少そんな天気を期待していたのも確かです。
とりあえず、運転手は那覇の町をポンポで探検してみることにしました。
やはり沖縄は地域色が濃いですね。街の雰囲気も違えば、歩いている人も違う。どちらかといえば自分も南方系の
顔立ちだと勝手に思っている運転手は、沖縄人(うちなーんちゅ)に親近感を覚えます。
<ちょっと、歩道の女子高生に見とれないでください!>
エキゾチックな顔立ちの女の子に、運転手の視線は釘付けです。後ろのクルマのクラクションが響きました。
那覇には客船が着く港がいくつかありますが、運転手が好きなのは泊港(とまりこう)です。ここは離島便が
発着する港。朝と夕方には久米島、座間味島などからのフェリーがやってきます。
<ここから船に乗ったら、もう帰れませんよ>
茶色オオカミが言います。
わかってるよ、もうこれ以上遠くには行かないって。
とは言うものの、少し未練が残る運転手です。
泊港。後ろは泊大橋。
その泊大橋を渡ってみる。海が見渡せて気持ちがいい。
泡盛館の近くにあるヘアピンカーブの坂は、きれいで眺めもいいうえに、ハンドリングが楽しめます。でも、
ポンポにとっては少し馬力不足かも。
ねえ、サンフランシスコにも似たような坂があったよね?
<あまり知ったふりしないほうがいいと思いますよ>
はい、すみません。
地元の走り屋さんが来るらしい。
お天気は相変わらずすっきりしません。国際通りから一歩入った迷路のような市場にも行ってみました。カオス的な
感じがして興味をそそります。お惣菜を売っているお店で『ポーポー』という春巻きのようなものを見つけて買って
みました。なんだろう、と思ってひと口食べてみると、クレープの生地だけをまるめて棒状にしたようなお菓子でした。
お菓子だと思って食べれば、なかなかおいしいのですが、うーん、ちょっと騙されたような……。
そうしているうちに、ぽつりと雨が降り出してきたので、あわててポンポに避難すると、今度は大粒の雨が降って
きました。スコールですね。歩いている人は大変そうですが、運転手にはポンポがいるので安心です。
それにしても、曇りと雨の天気が続いています。九州の長崎から晴れの天気がありません。
てるてる坊主でも作って、ポンポにかけておいたほうがいいかも、と運転手は思うのでした。 ■
首里城の近くで。このあたりは那覇のお屋敷街。
薄日が射した海。
沖縄最北端の岬へ。
4月14日 金曜日
明け方、那覇を出て沖縄本島北端の辺戸(へど)岬をめざしました。
往復で二百四十キロの道のりは、ポンポにとっては、かなり走りがいがあります。それも行きと帰りでは道を変えて
みることにしました。行きは沖縄のメイン国道、58号線を北上しますが、帰りはその反対側の県道で戻ります。
地図で見ると、帰りの県道がかなりうねっているのがわかります。
<こいつはしんどそうですなあ>
茶色オオカミが早くも少しげんなりした様子で言いました。
そんなこと言わない。がんばろうポンポ!
朝のラッシュになる前に那覇を出たので、すいすいと気持ちよくポンポは前に進みます。宜野湾、普天間、北谷、
読谷、と次々に町を通過していきます。名護の手前で海が広がりました。
それにしても国道58号は、砂利運搬のダンプトラックがひっきりなしに通ります。どこに工事現場があるので
しょう。たて続けに五台、六台と、ダンプにポンポの脇を追い越されていくのはこわいものです。
沖縄北部の中心、名護(なご)でひと休み。名護の先に大きな町はありません。
<あの、こんなこと言ったら、名護の人たちに怒られると思うんですけど>
何だい?
<名護に、ジャスコもツタヤもモスバーガーもマックもガストもあるのに驚きました>
名護をバカにするなって言われるよ。
<どこに行っても日本全国、同じ物が手に入るんですねえ>
便利な世の中になったもんだ。
<でも、昔からある商店街は静かでしたな>
クルマを停められないからだめなんだ。
<クルマってライフスタイルを変えますね>
ああ、まったく。僕がいい例さ。
国道58号。辺戸岬はもうすぐ。
着きました! 海を見ているポンポ。
途中で晴れてきたので、お、こりゃあいい、と思っていたら、またすぐに曇ってしまいました。
カーブを曲がりトンネルをいくつかくぐれば沖縄最北端の辺戸岬。
那覇から走り続けて六時間かかりました。
眼下にくだける太平洋の波。本土復帰を願った記念碑などを見ていると、さすがにはるばる来たなあ、という感慨が
湧き起こります。しばらくぶらぶらしていると、団体客のツアーバスがやってきました。
バスから降り立った男性旅行客がポンポに興奮しています。運転手が端から見ていると、ポンポの隣で記念撮影する
人までいました。たしかにこんな沖縄のはずれにスバル360がいるとは誰も思わなかったでしょう。
<こりゃ、商売になりますぜ>
と茶色オオカミが運転手にささやきました。<一人一回五百円で写真撮影、どうです?>
運転手は無視して沖縄そばを食べることにしました。
沖縄本島北部の東海岸を走る県道は、地図で見た通り、カープの連続、アップダウンの連続でした。通り過ぎるクルマ
はほとんどありません。うっそうとした木々の中に作られた道を一人行くポンポ。こんなところで止まってしまったら、
JAFを呼ぶのにも苦労するに違いありません。それに夜は通りたくない。
上り坂はときに2速、時速30キロでえっちらおっちら登り、下りはブレーキ加減を気にしつつ降りる。
がんばれポンポ! と声をかけたくなります。
坂道の途中でひと休みしていると、マーチクラスのレンタカーがポンポには目もくれずに走り去っていきました。
沖縄そば。運転手に味の比較はできません。なんでも旨い。
沖縄本島北部東岸。ごつごつした岩がつづく。
こんな標識に出会った。ヤンバルクイナには出会えなかった。
辺戸岬からひたすら南下をしますが、本島北部の東側はあまり開発されておらず、余計な看板や建物などがないので、
国道58号よりも景色ががいいかもしれません。でも、基地反対の立て看板が、道沿いにたくさんあったっけ。
沖縄の基地問題、根が深いです。現在渦中の辺野古付近は通りませんでしたが、沖縄北部はそのほとんどが基地と
演習場です。運転手は、日本は占領されてるわけでもないのに、どうして外国の軍隊が日本にいるんだろう、と
不思議です。安全保障条約なんて、掛け捨ての生命保険みたいなもので、効果があるのかないのかわかりません。
<ちょっと、政治のハナシはそれくらいにしときましょうよ>
茶色オオカミが止めてくれました。
ポンポは、ところどころ海を見下ろす高台を走りながら、また名護に戻ってきました。ずっと山の中を通ってきた
ので、名護がずいぶんと都会のように感じます。
ここから那覇に向かってゆくにしたがって、しだいに都会になっていきます。夕暮れ時、那覇に向かう主要道路は
軒並み渋滞です。那覇周辺は台地なので坂道が多く、ポンポにはつらいです。
運転手はいらいらして、何度か急ブレーキをかけてしまいました。ごめんね、ポンポ。
<急ブレーキをかけるたびに電流が運転席に流れるようにしましょうか>
茶色オオカミが冷たく言います。すみません……。
さて、明日は晴れてくれるかなあ。 ■
ハマヒルガオ(?) 花の名前も知らないのに写真を撮っている。
風まかせでもなんくるない。
4月15日 土曜日
うーむ、今日も曇りか!
運転手はうなりました。
沖縄に来て三日目。まだ晴れの日はありません。
<日頃の行いが悪いからですな。定職にもつかずぶらぶらしてるからですよ>
茶色オオカミが運転手の痛いところをついてきます。
それとこれとはカンケイない!
運転手にはポンポの運転という立派な仕事があるのだ!
<還暦を過ぎた親御さんが泣いてますぜ>
ったく、そこまでいうか。
運転手はポンポを出しました。写真が撮れないと、ただなんとなくポンポを走らせているだけです。
<なんか目的を作ったほうがよくないですかね> と茶色オオカミがあくびしながら言いました。
目的?
<例えば沖縄うまいものを探す旅とか>
僕がグルメじゃないのを知ってるだろ……。今日は南部の戦跡をまわるんだよ。
<あいかわらず、お固いですなあ>
ほっといてくれよ。それに、こんなふうにあてもなく走るのは好きなんだ。
<ラクしてませんか?>
ラクといえばラクだね。風のおもむくまま気のおもむくままに走らせればいいんだから。
焦って目的地へ走る必要ないし。
<もっと、こう、しゃきっとしてくださいよ。しゃきっと>
沖縄にいるんだ、なんくるないさあ。
これはたぶんシークワァーサーの花(?)
運転手とポンポはまず那覇市の南、海軍壕跡へと行きました。沖縄戦の司令本部があったところです。
順路を追って見学しているうちに、見学者の口数がだんだん減ってくるのがわかります。
そこから県道を一時間ほど南下するとひめゆりの塔です。塔のまわりには、団体客がひしめいていました。そこを
修学旅行生がにぎやかに通り過ぎて行きます。
資料館を出ると、ついに雨が降り出していました。ひめゆりの塔から、沖縄本島の南端、喜屋武(きゃん)岬までは
すぐです。
晴れていればもっときれいだったかも。
ポンポは国道を外れ、岬に通じる集落の中の細い道に入りました。すると小雨の中を一人の若い女性が傘もささずに
歩いていました。着ている服からして、どう見てもこの辺に住んでいる人には見えません。運転手はポンポを止め、
思い切って声をかけました!
「岬まで行くなら、乗りますか?」
<ちょっと、あなたそんなことしたら奥さんに怒られますよ>
茶色オオカミがあわてています。
雨が降ってるのに、見過ごすわけにはいかないよ。ほら、キミ、レディが乗るんだから、助手席を空けてくれたまえ。
<まったく、もう。知りませんよ>
茶色オオカミはぶつぶつ言いながらリアシートに移動しました。
喜屋武岬にて。太平洋が見渡せる
彼女は雨の中やはり困っていたらしく、二つ返事でポンポに乗り込んできました。ミチコさん以外でポンポに乗る
女性は初めてです。しかし女性が一人で、それもバスに乗って沖縄本島の南の果てにやって来るなんて、珍しい。
「そうですよねー」
彼女は屈託がありません。聞けば仕事をやめてふらっと東京から沖縄へ来たとのこと。なんだか運転手と似ています。
通りかかったのがポンポだったから乗ったのかな、と思ったのですが、彼女はクルマのことには興味ないらしく、
唯一もらしたコメントは「ミッション車、よく運転できますね」でした。
晴れていれば絶景のはずの喜屋武岬も小雨の中ではゆっくり景色を楽しむことはできません。早々に立ち去ることに
なりました。そして、ひめゆりの塔に行きたいという彼女を塔の前で降ろすと、運転手は平和祈念公園へと向かいます。
え、それだけ?
そうですよ。彼女のメルアドもケータイ番号も聞いてませんよ! 彼女には指一本だって触れてませんから!
<何、興奮してるんですか>
いや、ちゃんと言っとかないと、帰ってからミチコさんがこわい。キミからも言ってくれよ。
<えー、ほんまですわ。このアンちゃん、なんもアヤしいことしてへんで>
なんで関西弁なんだよ。
<でも、ちょっとだけ後悔してませんか>
まあ、……ほんのちょっとだけね。
海に出る道を発見。
平和祈念公園の資料館をゆっくりと見てまわると、もう四時ちかく。那覇まで帰る道では、雨の週末で大渋滞です。
一緒に走るバスもぜんぜん動きません。
茶色オオカミが、雨の中、バス停でじっとバスを待つ人たちを見ながら言いました。
<彼女は無事に帰れますかねえ>
なんくるないさ、沖縄だもの。
運転手はクラッチの踏み過ぎで疲れた足をさすりながらそう思いました。 ■
ガジュマルの木の下で雨宿りしてます。
夕日の道。
やっと晴れた!
4月16日 日曜日
毎日お天気ばかりを気にしている運転手です。
今朝も曇りのうえに、ときどき小雨がパラつきます。またか、と運転手はため息をつきますが、お天気には
勝てません。沖縄東部にある海中道路を通って、伊計島へ行ってみることにしました。
ポンポは今日も快調にエンジン音を響かせて、国道58号を北上します。
<そんなに写真ばかり撮ってどうするんです?>
茶色オオカミがコーヒーを飲みながら言いました。ねえ、僕のコーヒーは?
<よく飽きませんねえ。人と違って表情があるわけでもないし、つまらなくなりませんか>
ポンポにだって、表情はあるよ。ほら、今朝はまだ眠たそうな顔をしてる。コーヒー飲みたいな。
<スバル360はいつだって眠たそうな顔じゃないですか。今どきのクルマはもっときりっとしてますよ>
きりっとしてるというより、怒ってる顔じゃないかい。
<こんな間の抜けた顔じゃいけません。クルマに緊張感を持たせましょう>
じゃ、どうするの?
<ライトの上にきりっとした眉毛を書いてやったらどうです? あるいはサングラスをかけさせるとか>
キミもそんなこと言うんだね。ポンポより自分の顔に緊張感を持たせたら? それよりコーヒー!
運転手はコンビニで缶コーヒーを買いました。沖縄はコンビニがどこにでもありますが、セルフ式のコーヒーショップ
が少ない気がします。運転手は那覇市内に気持ちのよいカフェを見つけました。毎日一回はそこに行っています。
次第に空が明るくなってきました。今日はもしかしたらお天気になりそうです。
沖縄ではこの週末、清明祭(しーめーさい)といって一族親戚がお墓に集まって先祖供養をするならわしがあります。
先祖供養といっても、お墓の前で宴会をするのだそうです。沖縄のこと、お墓まではクルマで行くでしょう。そして
宴会だからお酒を飲むでしょう。今日は飲酒運転する人が多いんだろうなあ……。
ゆっくり走って、沖縄東部うるま市の海中道路に着きました。『海中』はといっても、トンネルではありません。
五キロほど海の向こうの小さな島へ、遠浅の海の上に造った道のことです。
ようやく雲が切れて青空が見えてきました。沖縄に来て初めての晴れの天気です。
青い空と海の間をまっすぐに道が伸びています。
しかし、今日は風が強い。さえぎるものが何もない海中道路で走ると、ポンポは風に流されてしまいます。ハンドルを
しっかり握る運転手。橋のたもとにあった沖縄名物『アイスクリン』のパラソルが飛びそうになっています。
そしてついに太陽が顔を出しました。
空気は暑くなくても、南の太陽はやはり強烈な光です。
晴れを待っていたのに、運転手は困りました。写真を撮ろうとすると、太陽の強い光を反射してポンポの白い車体が
明るくなりすぎるのです。
困った、困った、と言いながら、何度もシャッターを切る運転手。やはり沖縄は晴れていないと絵になりません。
海中道路を行くポンポと補助輪付き自転車。
飛ばされそうになアイスクリンのパラソル。
海中道路を渡ると、平安座(へんざ)島、さらに伊計島まで橋でつながっています。
平安座島の漁港にポンポを停めようとすると、後ろから口笛で呼び止められました。近づいて来たのは、ランニング
シャツ姿の六十代とおぼしきおじい。赤銅色の肌がさらに赤くなっていて一目で酒を飲んでいるのがわかります。
「いっやー、これ360だろ、なっつかしーなあ」
うちなーぐち(沖縄方言)なのを適当に標準語訳しています。
「オレね、ダイハツだっけ、ミゼットの大きいやつに乗ってよ、サトウキビ運んでたの」
この間、適当に受け答えする運転手。
「あのさ、オレ、向こうの浜比嘉島で民宿やってんだけど、橋の向こうまで乗っけてってくれない?」
平安座島は、伊計島ともうひとつ浜比嘉島という島とも橋でつながっています。おじいの浜比嘉島は漁港から見える
ほど近い島ですが、伊計島とは方向が違います。
そう言いながらもすでにおっさんは助手席の取っ手に手をかけています。
昨日は若い女性が座ったポンポの助手席におさまる酒臭いおじい。運転手はしかたなくポンポを走らせました。
「うーん、よく走るねえ、ベリーグッド! でさ、さっき言ったオレの民宿、橋渡って、左なんだよね」
乗る前は橋の向こうまで、と言ったのに、さらに自分の民宿まで連れていきたそうなおじい。運転手は約束通り橋を
渡ったところでおじいを降ろしました。
<女の子のときと違って冷たいですなあ>
茶色オオカミがからかうように言いました。
運転手はさっさとまた引き返し、今度こそ伊計島へ向かいました。
ところが、島の道沿いにある墓地の前にはお参りに来た人たちのクルマがずらりと停められていて、大渋滞になって
いました。そこに観光客のレンタカーが来ると、もういけません。お巡りさんも警備員もいないので、ドライバー同士の
譲り合いでノロノロ進みます。お墓では重箱料理に、ビールそれから泡盛……。
伊計島の奥まで行って引き返します。とくに見るべきものはありませんでした。さて次はどこへ行こうかと地図を見た
とき、『読谷飛行場跡』という文字が運転手の目に入りました。旧海軍が造って、その後は米軍が使用していたので
しょう。ふつう、空港の滑走路にはクルマが立ち入ることはできませんが、地図で見ると、滑走路跡がそのまま道路に
なっているようです。行ってみよう!
島の道をゆく。
同じく島の中。
国道58号を脇にそれ、陽が傾きかけたころポンポは滑走路に出ました。
まさしく滑走路でした。オレンジのセンターラインはありましたが、なにも遮るものがないそこは、滑走路と表現する
しかありません。今にもゼロ戦が降り立ちそうな滑走路をクルマやバイクが行き交っていました。
こういう素晴らしいところでは、写真を撮っても撮っても、うまく撮れてないように運転手は感じてしまいます。
もっといいアングルがあるんじゃないか、と思ってしまうのです。何回もシャッターを押す運転手。それでも、やっぱり
太陽というライトがあるのとないのでは写真のできばえが違います。
茶色オオカミが運転手の肩を叩きました。なんだい、今、忙しいんだ。
<『Gメン75』がやれそうですな>
滑走路を横一列になって歩くアレね。(知ってる人いるかな?) そうだ! スバル360が横一列になってやったら
どうだろう!?
<緊張感なさすぎます>
でも、ぜったいかわいいよ。
<ここ、いちおう公道ですから>
茶色オオカミは冷たく言いました。
いいと思うんだけどうなあ。
運転手はカメラのファインダーをのぞきながら、夕日を浴びて進むスバル360の列を想像してみるのでした。 ■
「滑走路」はこんな感じです。いちおう「道」です。
夕日をバックに。こうやって見るとポンポもかっこいいぞ。
ハイビスカスの花、青い空。
お疲れモードの最終日。
4月17日 月曜日
今日が沖縄滞在最後の日。
毎朝お天気ばかりを気にしていた運転手。今日は朝から晴れのようです。朝五時半、まだ暗いのですが、空は夜明けの
青色がまじりかけ、月が出ています。
よし、日の出を見に行こう! 運転手は言いました。茶色オオカミくん、起きろ。
<もうちょっと寝てましょうよ……>
だめだめ。沖縄に来て日の出を見られるのは、これが最初で最後だからね。
<どこに行くんですか>
知念岬。
運転手はポンポをスタートさせました。
宵っ張りの那覇の街。朝は空いています。あっという間に街を抜け、ポンポは時速60キロで沖縄本島東南に位置する
知念岬をめざします。
日の出までに間に合うかなあ……。
<もう無理ですってば>
はたして、あたりはどんどん明るくなっていきます。急げ急げ。
しかし、岬まであと十キロという所で、ついに太陽が昇ってきました。
<あと、三十分早く起きればよかったのに>
そんなこと言ったって、起きれなかったものはしょうがない。
<いつも肝心なことに間に合わない人生ですなあ>
わかってるよ。これからもっと早めに行動すことにしよう。
<早くなるのはあきらめることだけでしょうね>
太陽が昇ってきた。
それでも岬の上から輝く太陽を見て、運転手は満足です。知念岬には涼しい風が吹き渡っていて、すがすがしい
気分です。
今日は、沖縄南部をまわります。おととい来たときに雨だったので、リベンジで写真を撮ります。
斉場ウタキ(御嶽…沖縄の霊場のこと)を見たあと、ニライカナイ橋へ行ってみました。
ニライカナイ橋。ここはクルマにおすすめです! 県道86号(南風原知念線)の終点近くにあります。
那覇から知念に向かって走るほうがよいでしょう。海の見えない台地の上を走り続けますが、切り通しの短いトンネルを
抜けたとたんに太平洋が目の前に広がります。橋の途中でクルマを停められないのは残念ですが、切り通しの上から橋の
全景と海が見渡せます。観光名所ではなさそうで、看板も何もないのがかえってすっきりしています。
切り通しのトンネルを抜けると……、
目の前に太平洋が広がります。
カーブがきついので、橋の下にダイブしないように気をつけましょう。

ニライカナイ橋。走りながら眺めがいいのはわずかに三十秒ぐらい。(画像を合成しています)
また喜屋武岬へと行きました。今度はポンポと一緒にを海岸近くにも降りてみました。青い海をバックに写真を撮って
いると、またここに来ることはあるかな、と思います。
よく晴れていた空に、お昼を過ぎた頃から雲が広がってきました。
急に木々や海の色が冴えなくなってしまいます。こうなると、もう写真を撮る意欲も失せてしまう運転手。
もう那覇に帰ろうか。
<そんなことでめげてどうしますか。根性!>
茶色オオカミははりきっていますが、運転手はお疲れモード全開です。帰ろうよ。
休憩をしにコンビニの駐車場へポンポを停めようとしたら、ブレーキ操作を誤って、ポンポのタイヤが勢いよく
車止めに乗り上げそうになりました。集中力が切れかかっているようです。
少しお昼寝して、結局、那覇に帰ることにしました。
晴れの喜屋武岬。
海を見つめるポンポ。じつは砂にスタックしかかって動けないポンポ。
那覇の泊港でポンポを停めてぼんやりしていると、茶色オオカミが言いました。
<オリオンビールと泡盛で一杯やりませんか>
茶色オオカミが運転手を泥酔の海に誘おうとしています。
いや結構、気持ちだけ酔っとくよ。
<自分に酔ってるとロクなことになりませんよ>
酔えない人生もロクなもんじゃない。
久米島からのフェリーが港に入ってきました。今度沖縄に来たら、離島にも行ってみよう、と思ってしまう運転手。
明日は東京行きのフェリーに乗らなければいけません。
<沖縄も今夜で最後だというのに、つまらないですね>
茶色オオカミが憮然としています。
分かってるって。家についてポンポを無事に車庫に入れたら飲むよ。だから、りうぼうに泡盛を買いに行こう。
ポンポがいるから、一升瓶だって買えるよ! ■
*りうぼう…運転手の行くカフェの近くにある沖縄の地場スーパー。土産物屋などで買うより安いから。
夕暮れの那覇泊港。今日で沖縄の旅も終わり。
+ + + + + +
旅の終わりに……。
翌朝、那覇新港からフェリーで東京へ。二泊三日の船旅のあと、二十日朝、ポンポと無事に帰宅しました。
船から降りようとするといきなりクラッチペダルが踏んだっきり戻ってこなくなるというトラブル発生。
少し焦りましたが、以前も経験したトラブルだったので、足の甲でペダルを戻しつつなんとかギアをつなぎながら
走ることができました。
長々と読んでいただいたみなさま、ありがとうございます。
ポンポとはまたこれからも、どこかへ出かけていきます。どこかでお会いできるといいですね!
18日朝の那覇新港。東京行きのフェリー『ありあけ』をバックに。
*フェリー『ありあけ』を利用して沖縄に行こうと思われた方のための参考ページ。>こちらをご覧ください。
