吉本浩一がメール友達の野口ひろみとメールを始めたのは高校に入学したときだった。

あれから3年、お互いの学校や部活のこと、好きなタレントや音楽と話しが続いて、今では大学進学の悩みを打ち明けるようになった。
ただ不思議なことに、どちらからも、写真の交換や、直接電話に踏み切るようなことは一切なかった。
住まいはさほど遠くもない隣接市のはず。

















なのに浩一は、突然、この87日の夕方に、とある喫茶店で会ってみたいと言い出した。
最初は何かと渋っていたひろみも、浩一のねばりに根負けしたのか、ついに折れてOKを返した。

当日、目印のケータイを右手にかざした相手を見つけて、二人は席に着いて自己紹介をすませた。
お互い好感を持ったようで、初対面なのに、意気投合して、話はとんとんとはずんでいく。
するとひろみは、ちょっと顔を曇らせて、口ごもりながら思い切るようにしていった。

ごめんなさい、もうこれ以上隠し通せません。
実のメール主は、この8月で79歳になるうちのひろみおばあちゃんなんです。
学校生活やいまどきの話題は、みんな、孫のわたし野口みかのくちうつし。
だから会うのだって、なかなか “うん” といえなかったの。
でも怒らないで、決して悪意でだますつもりじゃなかったんだから。
ただつれあいをなくしてひとりぼっちのおばあちゃんに、もう一度青春のゆめを見させてあげたかったの。
たまたま見つけた君のメールアドレスを、二の足を踏むおばあちゃんにすすめたのもわたし。
おかげで、おばあちゃんもすっかり青春をとりもどしたようになりました。
でも、ここまで白状したうえは、ちゃんと覚悟してます。

ゆめは今日でオワリと。  ありがとうございました。



ここで、浩一の口をついてでた言葉は

まっさか!こんな偶然があろうとは。
僕だって、今は独り身で、この8月で79歳を迎える浩一おじいちゃんの身代わり、吉本有里也。
大学に進学したら、もう地元でおじいちゃんの代筆もやれないから、今日は無理をお願いして、みんなぶちまけ、謝るつもりだったのに・・・
もう、いいでしょう、さっきから向こうの席で、雑誌を読むふりして、こちらを心配そうに見ているのが浩一おじいちゃんなんだ。



エッ、ここにいらっしゃったの?

じゃ、わたしもと、片隅の席にいるひろみばあちゃんを手まねいた。
こうして4人同席になると、ひろみおばあさんの顔をしげしげと眺めていた浩一おじいさんは、おずおずと切り出した。

「も、もしやひろみさんの旧姓は、西城じゃありかせんか?」

これには、ひろみおばあさんが、度肝を抜かれて、「どうしてそれを!」

それじゃ、あなたは当時憧れのミス桜坂高校の西城ひろみさん!
私もフアンの同級でしたが、なんせ、いたって影の薄い方で、とてもじゃないが、近寄ることもできませんでしたよ。


以外な話の展開ぶりに口を潜めていたみかが、ひろみおばあちゃんの肩をたたいた。

「そうなら話が早い、二人はこれから直接メールしたら、そしてお茶のみ友だちってことで、ねぇ、おはあちゃん?」

「私は浩一さんさえよければ、願ってもないこと、また青春を続けられるんだから。」

もちろん私も願ったり叶ったりですよ。」

「ねぇ、有里也くん、私たち二人身代わり同士もきっと神の思し召しじゃなくって? 今まで通り、地でいけばいいんだし、いいわね。」

「そりゃ僕だって大賛成!めでたしめでたしってところで、4人握手でしめくくりましょうや。」



そのとき、大輪と小輪の花火が夜空を焦がしたのを見とどけたあなたは、よったりの行く末をやさしく見守ってくれよね、いつまでも・・・






リンデ 2007.08.07 8月生まれの人に捧げる一話 オワリ

提供サイト:ぷちろーど
 2007.8.12 アップ