「初めてじゃない!」
まだ黒の詰襟学生服の僕が、朝のラッシュにわく電車内でふと目が合った濃紺制服の女学生。 キリッとした眼差しなのに、どこか寂しげな風情が感じとれたあの日。
次の駅で彼女が降りるのを見送っていたが、 そうだ、自分もここで降りるんだと気づき、あたふたと閉まりかけの列車からプラットフォームに転がり出たのはいいが、
彼女にもろにぶっつかってしまった。
そのはずみで彼女のカバンから赤い筆箱がこぼれ落ちて、中身が地面に散乱。慌てて拾い集めて、ゴメンと手渡し、後も見ずにそそくさとその場を離れたんだった。
その時目に焼きついたのが、なんとも珍しいキャップ、吹流しに、緋鯉と真鯉が揃った鯉幟セットだった。
夕方帰宅して鞄を投げ出し、ふと胸のポケットに手をやり、唖然とした。
なんとあの真鯉キャップつきの鉛筆がいつの間にか・・・その端にはA.M.のイニシャルが読み取れる。
いくらどさくさとはいえ、あの時の状態でどうしてこんなポケットに紛れ込んだのか、一向に合点がいかない。
さぞかし彼女は、今頃、大切な宝物の一部が足りないのに気付き、卑怯な盗人野郎と僕を恨んでいるに違いない。
でもでも、明日には、事情を説明して返ぜば、きっと解かってくれる筈・・・・
ところがおっとどっこい、これが甘かった。
翌朝、遅刻覚悟で、彼女の姿を追い求めたが、遂に見つからず、その後の努力も、ことごとく徒労に終わり、あの一件は、いっときの幻だったんだと自分に言い聞かせるようになっていた。

そんな後ろめたいわだかまりを封じ込めるように、これまで机の引き出しの奥深くに仕舞い込んだ記憶が、今ふってわいたよな無言のボトルメールのおかげで、ベールを剥がされてしまったのだ。
大急ぎで帰宅するや、その紙切れの上に吹流しと真鯉キャップの鉛筆を二本並べて見比べていた。
すると、やおら真鯉鉛筆が透明の手に操られるかのように、か細い文字を綴り始めた。

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