| ダンプのあんちゃんは、ヨロヨロと車道に出てきた桜ちゃんを目ざとく見つけ、ハンドルを大きく切って避けてくれた。 |

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桜ちゃんは、自転車に跨ったまま片足を付いて、ボゥーと車道に立っていた。
そんな桜ちゃんの足に冷たいものがかかった。
「ピチョ…ピチョ、ピチョピチョ…」 「冷たい!」
振り返ったら、顔にもピチョ!
「桜ちゃん!なぁ〜にやってんのぉーー!危ないじゃん!」
そう言って、水鉄砲を持った男の子が、近づいて来た。
「涼…ちゃ…ん?」
桜ちゃんは、何だか分からなかったけど急に泣きたくなって、涼ちゃんに、泣きながら言った。
「ふぇ…あのね、真っ直ぐ走れないの…お友達、先に行っちゃったの…だからね…お家に帰れないぃのーー ウッ、ウッ…」
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すると涼ちゃんは、「そっかぁ…チャリから降りてみな。直してやるからっ…もぉ、泣かなくて平気だよ。桜ちゃん、チャリの後ろ、シッカリ持っててョ。」
涼ちゃんはそう言うと、桜ちゃんの頭をグリグリ撫でてくれて、自転車の前輪を両膝でギュッと挟さみ、両手にグッッとチカラを込めて、サドルを真っ直ぐに直してくれた。
「よしっ、これで真っ直ぐだ! 乗れるかっ? 涼が後ろから、桜ちゃんちまでついてってやるよ。」
桜ちゃんは頷いて自転車を漕ぎ始めた。
「わぁー走れるぅ〜♪」
振り返ると、涼ちゃんが、ついて来てくれた。
嬉しくて見上げた空に、一番星がキラッと光った。
「あっ、一番星だ…夜になっっちゃう!」
桜ちゃんは慌てて必死にペダルを踏み、一目散に自転車をこいだ。
ついに、お家の近くの商店街の灯りが見えた頃、ホッとして後ろを振り返ってみた。でも、いつの間にか涼ちゃんの姿は……なかった。
「涼ちゃん、お家までって言ったのに……もぉいいや、一人で帰えろっ…」
桜ちゃんは、ちょっと淋しく、ツマラナカッタ。
最後の難関、自転車を押しながら坂道を上り、息を切らして玄関のベルを押す。ピンポン…と呼び鈴が鳴り、ドアが開くのを待っている間、何となく後ろを振り返ってみた。
サッと電柱に隠れる人の影と、自転車が見えた。
「あれっ?涼ちゃん?」
そう思った瞬間、不意にガチャッと玄関のドアが開いた。
確かめる術もなく、家の中の蛍光灯の光を浴びた途端、一気に疲れが出た。
桜ちゃんは、ボソッと「ただいまぁーーー」と言い、家の中に入ろうとしたが、玄関の入り口をふさぐように長女の緑ちゃんが、仁王立ちになって腕組みして、通せんぼをした。
長女の緑ちゃんは、凄まじく怒っていた!
両親の不在中に、勝手に自転車で遠出した桜ちゃんに、怒っていた!!
そう、桜ちゃんは両親に叱られたのではなく、長女の緑ちゃんの前でうな垂れたのだった。
とにかく緑ちゃんの剣幕は、すごーーーっく、怖かった!……自転車を直してくれた涼ちゃんのことを、お母さんに話すのさえ忘れてしまったほど。
数日後、 淡い色の桜が咲いて、3歳違いのあの日の涼ちゃんは、中学一年の入学式を迎え、桜ちゃんも無事、小4になれた。


少し大人になった桜ちゃんは、今でも気になっていることがある。
あの日、電柱に隠れていたのは、本当に涼ちゃんだったのだろうか?
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おわり
2002.3.8 UP
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