| 封 書 |
| ベルは憔悴していた。 眠れぬ夜を幾晩も過ごし、食物もろくに食べず、人生の友である大好きな、大好きなコーヒーまでをも絶ち、尚、ひたすら願っていた。 ベルの愛すべきポヨ嬢が、一刻も早く帰ってきてくれる事を願っていた。 |
| あの日、ベルの町では隣町との対抗運動会があり、町を挙げて大賑わいをしていた。当然のようにベルの経営するカフェ店は開店休業も同じ状態で客は一人も入っていなかった。 そんな手持ち無沙汰な時間がポッカリ空き、いっそのこと運動会の応援に駆けつけようと思ったベルを、引き止めるかのように、永年使い込んだコーヒーミルの取っ手が壊れ、ベルは修理をするより仕方なかった。 そんな時、 コンコン、と店のドアをノックする音がした。 修理に夢中になっていたベルは、下を向いたまま手を休めることなく少し大きな声で応えた。 |
| 開いてますよ〜どうぞ、中に入って温まってください。 あっ、運動会は勝ってますかね? 応援に行きたいのに、、、ミルがね、、、 ちょっとばっかし機嫌が悪くなっちゃって・・・ でも、直に元通りになりますから・・・ あと少しで熱ーーくて飛びっきり美味しいコーヒー淹れますから 待っててください♪ |
| すると、カチャリとドアが開く音がして、冷たい北風が店内に流れ込んだ。 |
| あっ、すみませんが、寒いからドア閉めてくださいねぇ〜 |
| と、相変わらずミルの修理に余念の無いベルは、下を向いたまま言った。 |
| この時、パタンとドアが閉まる音はしたが、何故か人の気配がなく、さすがにミルの修理を中断してドアの方を見ると、そこには誰も居なかった。 しかし、ドアをよく見ると、枯れ葉色の大きな封筒が挟まっていることに気づいた。 ベルは、汚れた手を拭き拭き、ドアから封筒を抜き取り、封を開けると、大きな貝ガラを薄くスライスした物と星の砂が入っていた。 |
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| なんだこりゃ?差出人もないし、メッセージも書いてないや・・・イタズラかなぁ? |
| この時、ベルはちょっとムッとしたが、それ以上は気にせず、中断していた大事なコーヒーミルの修理に戻った。 ようやくミルが直り、気付けば町を挙げての運動会の賑わいも消えて、北風が吹きつける音だけがしていた。 相変わらず、店に客が入ってくる気配はなかった。 ベルは少々疲れを感じ、修理したてのミルで豆を挽きコーヒーを淹れて飲んでいた。 |
| ハフゥー、労働の後のコーヒーは格別だーーー! |
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チッチッチッ・・・と時計の秒針の音だけが響き渡る店内。 時計を見れば7時になっていた。 秋の7時ともなれば、日はとっくに暮れて真っ暗である。 そろそろ友達とショッピングに出かけたポヨ嬢も帰宅するだろうと、新聞を読んで待っていると、ある記事が目についた。 |
| 今世紀最大の不思議! 人喰い貝か?! 女性二人が行方不明! |
| ベルは我が目を疑い、記事を読んだ。 |
| エッ、まさか、21世紀に人喰い貝だなんて・・・ 被害者が居るのか?!気の毒になぁ〜 何々、被害者の所持品と見られるバックとキーホルダーが 星の砂浜に残されていた・・・か・・・ん、写真が載ってるぞ。 |
| ベルは、そのキーホルダーの写真を見ると、悲鳴にちかい大きな叫び声を上げた。 |
| 何だってぇぇぇーー、このキーホルダーは、ボクがポヨ嬢に贈ったライラックの花を固めた物にそっくりじゃないか!!! | ![]() |
| ベルは、不吉な予感とともに、枯れ葉色の妙な封書を思い出していた。 |
第2話へつづく 創作者 ぷちろーど・あき
壁紙・・・「ひみつさんご」さんより拝借