封 書

第3話



ベルは叫んだ。

ポヨ嬢、君なのか!!

そう!そうよ!ポヨよっ!

ふと足元を見ると、さっきベルの目の前でアッと言う間に貝に飲み込まれていったコーヒーミルのハンドルが転がっていた。

よぉ〜し、このハンドルで思いっきり叩き割ってやる!待ってろ!いま、助けてやる!ポヨ嬢、危ないから壁から離れて、後ろにさがるんだ! ゴン ガッツン ガキガキ ゴンゴン!

ベルはチカラの限り叩いてみた。けれど、ピンク色の真珠にはヒビすら入らなかった。

どうしたら割れるんだよ〜 ポヨ嬢を助けたいのに〜

ベルは体中のチカラが抜け、ガックリと肩を落とし、両膝を地面にドンと着けた拍子に、バックを落としてしまい、中身がコロコロッと転がり出た。
それは、ネリネの球根だった。ベルはピンと閃いた。

そうだ!球根を植えてみよう。ネーレーイスはひとりで寂しいのかもしれない。ネリネの花が咲いたら、寂しさも癒え、陽気で優しい慈悲深いネーレーイスに戻るかもしれない…



ベルはピンク色の真珠を取り囲むように、こんもり溜まった砂を掘ってはネリネの球根を植えた。
持って来た最後のネリネの球根を植え終わった頃である。
疲れ果てたベルの耳に、柔らかな陽光のような歌声が聴こえてきた。
その歌声を聴いている内に、いつしかベルは夢の世界へと誘われていった。

ベルは夢を見た。
ネーレーイスの妖精がネリネの花に囲まれて、楽しそうな笑顔で黄金の椅子に座り、そしてポヨ嬢も笑顔で歌い、踊っていた。

          箱入り娘のネーレーイスの妖精よ♪      一緒にポヨとダンスしましょ♪


そんな夢の光景に目を細め、見入っていたベルの頬に、冷たいものが吹き付ける感触があった。
ハッと夢から目覚めたベルは、現実に迫る危険な状況に我が目を疑った。

貝が呼吸したのだろう、海水が流れ込み、ベルの身体がプカプカ浮いていたのである。
このままでは溺れてしまう。
林檎の形をした真珠なのよ?!


あぁーポヨ嬢! ポヨ嬢と脱出しなければ!


そんな合い間にも、ベルの身体は海水にドンドン持ち上げられ、ついに真珠の真上まで達した時のことである。
成す術もないベルは、何を思ったか、咄嗟に真珠に優しくキスをした…というか、実のところはキスと言うより思いっきり吸い付いたのである!海水の浸入を妨げるための苦肉の策だったのだ。
ところが、この吸い付きが意外な効果をもたらしたのである。

どんなに叩いてもヒビさえ入らなかった固い真珠に、ベルが吸い付いた部分から、なんの抵抗もなくスッーと自動ドアのように開いたのである。
ベルは急いで真珠の中に頭から滑り込み、命綱のアイビーを頼りに真珠の下底まで降りて行った。
中は海水など一滴も入らぬ程、静かな時がゆるゆると流れているように感じられた。
目を凝らすと、薄いベールの向こうにベッドが見え、そこに横たわる少女と紛れもなく愛するポヨ嬢の姿があった。
ベルは逸る心を抑え、二人を驚かさぬよう、そっと声を掛けた。


愛しのポヨ嬢…ボクだよ、ベルだよ…


その声に振り向くポヨ嬢の瞳に、満身創痍のベルの姿が映った。





第4話へつづく     創作者 ぷちろーど・あき 

2002.11.26 UP