| 封 書 |
| ベル、来てくれたのね! |
| ポヨ嬢の足がベルの元へと僅かに動いたとき、ポヨ嬢は、ネーレイスの妖精に「行かないで!」と手をギュッと握られた。 それを見たベルは、ネーレイスに優しく声をかけた。 |
| あのね、お土産があるんだよ。ネリネの花の球根をたくさん持って来たんだ。すぐに植えようネ。花が咲いたら、妖精の歌声も、友達もたくさん戻ってくるよ。だから、怖がらないで… |
| ベルの言葉に、ネーレイスは弱々しく答えた。 |
| 私、とても疲れているの。静かに眠りたいのよ。人喰い真珠の餌食になってしまったんだもの…もう父の宮殿に戻れるはずなど…ないもの。諦めてるのよ。だから、ポヨ嬢を忘れて、あなたはお逃げなさい。 |
| ネーレイスの言葉に驚いたベルは、慌ててポケットを探り、コーヒー豆を取り出した。 |
| この豆は僕の店でも最高級品なんだ。昔の人はコーヒーを薬と思っていたんだよ。慣れないと、とても不味いけど……今直ぐ作るから、一口飲んでごらんよ。 |
| ベルはコーヒー豆を歯で砕き、衣服に付いた海水を絞って、塩辛いコーヒーに似た液体をネーレイスに差し出した。 ネーレイスは、警戒し躊躇していたため、ベルが先にその塩辛コーヒーを飲み、続いてポヨ嬢も口にした。 美味しいコーヒーの味を知っているポヨ嬢にとっては、今にも失神しそうな程、不味い塩辛コーヒーだった。 けれど、ネーレイスにとっては初めての味。 怪訝な顔をしながらも、一口、二口と飲むにつれ、ほんのり顔に赤みが差し、目つきもシッカリしたように見えた。 ようやくネーレイスの警戒心も緩んだように見えたので、ベルはネリネの球根を急ピッチで植え始めた。球根は、真珠の丸い形にそってグルッと一周植え、真珠の中心部には持って来た星の砂を一塊にして置いた。 全ての作業が終わると、さすがに極度の疲れから睡魔に襲われ、ベルは倒れるように眠ってしまった。どの位、時が過ぎたのだろう。ベルは、ポヨ嬢に揺り起こされ、ハッと気づいて辺りを見回すと… |
| ベル、起きて!!! 見て!! あなたの植えたネリネの球根が…… |
| 咄嗟の状況に声も出ないベル。 巨大真珠の養分を吸い上げたネリネの球根は、瞬く間に巨大化し、3人を囲むように根が絡まり、今にも真珠を破壊しそうな程に内圧を高めていた。 ピシッ…と割れ目が入る音がした途端に、パァァーーッンと大きな音がして真珠が弾けた。その衝撃で真珠を飲み込んでいた化け物貝が、ベル達をプッッと吐き出した。ベルとポヨ嬢とネーレイスの3人は、ネリネの巨大化した球根に守られたまま海中遊泳を余儀なくされた。 成す術もなく、ゆらゆらと潮に流され、いつしか3人を抱えた球根は静かに深い深い海底に下りていった。 そこには、ネーレイスの身を心配していた優しい父が待っていて、球根に囲まれたままの3人を嬉し涙で迎えた。 |
ネーレイス、そしてポヨ嬢にベルさん、よく戻ってきてくれた… あの日、私と敵対する海の魔物が暴れ、ネーレイスがさらわれた同時刻に、たまたま波打ち際で巻貝を手にしたポヨ嬢が犠牲になり、とんだ災難に遭わせてしまったね。 ![]() 海は全ての生命の源。しかし、ひとたび荒れ狂うと、全てを飲み込んでしまう巨大な生物までをも産み出してしまうようだ。 娘を助け出していただいたお礼に、ベルさんとポヨ嬢が元の世界へ戻れるよう、道案内をさせましょう。 |
| ネーレイスの父がそう言い終えると、3人を守って抱えてきた球根が解け、ネーレイスは父の元へ。さらに、球根からは見る見るうちに芽が吹きだし、海面めがけてドンドン成長し始めたのである。 |
| さぁ〜この球根につかまって昇っておいきなさい。海面に辿り着いたら、花が咲くでしょう。そうしたら、花びらの花舟が運んでくれましょう。 |
ベルとポヨ嬢は、ネーレイスと父親に「また、お会いできる日を楽しみにしています」と告げ、どんどん伸びる球根の芽を頼りに海面めがけて昇って行きました。
終わり |
第4話(完結) 創作者 ぷちろーど・あき
2003.1.17(金) UP