彼との生活(2)


たった今まで誰かが居たのであろう。
焚き火を消したばかりの白い煙が立ち昇っていて、ゴツゴツした石の脇にはコーヒーカップが置いてあった。

暫く佇んでいると、頭上からキツツキがパラパラッと木屑を落とし、アッという間に地面に矢印の形を作った。
矢の向いてる方角を見ると、そこには大木に絡まったツタの階段があった。
迷ったり、躊躇してはいられない気がした。

「ちょっと不安だけど・・・昇ってみよう!」

ツタの階段を昇り詰め、ホッと一息、遠くの景色に目を向けると、一羽の大きな鷲が飛んでくるのが見えた。
鷲の足には長いロープが垂れ下がり、彼が被っていた帽子がくくり付けられていた。
思わず手を伸ばし帽子を掴んだ途端、鷲は空中高く飛び上がった。

「ウッキャァーー、落ちるぅーーー!! 何処に飛んでくのぉ〜〜」

バランスを崩しながらも精一杯の力で帽子を握り締め、成す術も無く空中を飛ばされた先には、こんもり繁った壮大な森が広がっていた。
いきなり鷲はロープを離した。
私の身体は放り出されるように茂みの中に降り立った。

弾む息を整え、少し落ち着きを取り戻した頃、何処からともなく心地よい調べが響いてきた。
音の方角に目を向けると、犬の音楽隊に合わせて、子犬のバレリーナの舞い踊る姿が見えた。

「わぁ〜〜可愛い♪ なんて安らぐ心地よさ。 あらっ……?」

目を凝らして見ると……たくさんのハーブを傍らに置いて、目を細めながら舞台に見入っている彼の姿があった。
そっと足音をたてないようにツタの階段を降って、声を掛けずに静かに彼に近づいた。
気配に気づいた彼は、私の方にちらっと視線を投げかけ、何事も無かったかのように囁いた。

「あぁ〜遅かったんだね。第一幕が終わって、今は第二幕の子犬の舞だよ。さぁ〜第3幕がメインだから一緒に観よう…」と言いながら、私にコーヒーを勧めてくれた。


常識では考えられない大冒険の末、着の身着のままの彼との移住生活は、今も尚、つづいている。


おわり


2002.5.29UP