マロンの初恋


マロンは秋の澄んだ青空を見上げ、故郷に戻った気がしていた。
小さな恋が淡いものとなり始め、晴れない心をもてあました云わば傷心旅行ではあったけれど
一瞬たりとて忘れることなく今も尚、マロンの心を占領している人の名はマッシュー。



そう、あれは2年前の初秋のこと…
マロンは山間の素朴な村に生まれた。
近くには豊富な水量が勢いよく流れ出る滝もあり、都会ではお目にかかれない自然の宝庫だった。

若いマロンの部屋は、一見痛そうな緑のイガで包まれていた。
大きく張った枝には兄弟姉妹は数え切れないほど居たし、見渡せば親戚の木々も大きく根付いていた。
そんな一族の集落の中での生活に、マロンは息苦しささえ覚える毎日だった。
ふと見上げる大空だけが唯一マロンの心を解放してくれた。

そんな或る日、自然の風雨にさらされた硬いイガに隙間ができた。マロンは下を覗いて見たい衝動に駆られた。

「少しだけならダイジョウブよね。誰にも見つからないもの…」

若いマロンの好奇心は止まらない。止まりようがない。初めて覗く下の世界。ドキドキッして、ついつい身体が前のめりになる。

「わぁ〜見えるわっ!面白い!!」

チョコチョコと動いている素敵な茶色の帽子が点々と見えた。
その中でも一際茶色のビロードが素晴らしかったのがマッシューの帽子。
マッシューは力強く仕事をこなし、宝石のような汗がほとばしっていた。

それを見たマロンは、心臓が鷲掴みにされたように、「ドキン!!」と激しく鳴り、ドキドキと波打つ気持ちを初めて知り動揺してしまった。

「なに?この胸の痛みは?」

そう、マロンはひとめで恋に落ち、ついでに弾みで身体もイガの部屋から転がり落ちる所だった。

マロンが「アッ!」と思わず小さな声を上げると、その声に驚くような瞳を向けたのは恋するお相手のマッシュー。

ふたりが、互いの存在を知る鮮烈な一瞬だった。
マッシューが優しい微笑みを向けてくれたのに、マロンは覗いていたのがマッシューに分かってしまったのが恥ずかしくて微笑を返せないままバランスを崩した身体を元に戻すのがやっとだった。
でも気になって仕方がない。大きく深呼吸をして、今度は慎重にイガの隙間から覗いて見ると…

つづく