Rope


愚かな、願い。
莫迦莫迦しいのは俺の方。
縛られて居るのは俺の方。
未来への夢。
断ち切れぬ想い。
其れで居ながら人でさえ無くなっても構わない。
自己矛盾。
二律背反。
引き裂かれる様な痛みを抱いて、俺の想いは何処へ行くのか・・・

「や・・・も・・・イク・・・っん・・・・・・っ!!」
「・・・サンジ・・・っ・・・」

叩き付ける、己の欲望。
通じぬ想いの、霧の様な不確かさ。
其れを象徴する様な、白く濁ってぬらついたモノ。
どろりと熱く吐き出したソレで、サンジの中を一杯に満たす。
同じ程に濡れた白い滴りが、張り詰めたサンジの其れからも弾けて飛び散る。

部屋に漂う吐精の匂い。
雨の如く滴る汗。
激しく荒く、紡がれる息。

ずるりと自身を抜いた後口から、とろりと白く溢れる想い。
抱え上げて居た脚をどさりと投げて、大の字になって天井を見る。
ゴロリと転げ落された儘、荒い吐息も引き切らぬサンジ。
気配を隣りに感じながら、波に揺れるランプを見詰める。
夜の室内を薄暗く照らす頼り無い焔。
吐き出してしまえば終ってしまう交わりの様に、油が切れれば消えて暗闇に被われる。
そんな小さな火の揺らめきに、得も言われぬ寂寞感・・・空虚な気持ちに胸を鷲掴まれる。

何時からこんなに・・・なってしまったと言うのだろう。
意味を為さない毎夜の契り。
想いの丈は想う相手に伝わる事無く、唯憎しみを、煽り続ける。
いっそ切り刻まれて、此の身など消えて無くなれば良い。
そうは思えど捨てられぬ願い。
誓った高み。
生への執着。

巡る想いは出口も見えず、悪戯に廻り続けては己を苛む。
吐精の後のぐったりとした、力の抜けた躯を襲う惨めな想い。
夜を重ねれば重ねる程、其れは何処までも深みに填まって・・・

「・・・おい・・・」

珍しく、横に転がるサンジが呟く。
穏やかに。
罵倒するでも、嘲笑うでも無く。

「今・・・何時だ・・・?」
「え・・・?あ、えっと・・・」

・・・こんな事は初めてだ。
戸惑う余り、間抜けな言葉が口から漏れる。
何が何だか判らない。
判らない儘、薄ら照らされた時計へと視線を移す。

「0時・・・否、1時近いかな。」
「・・・そうか。」

高鳴る鼓動。
言ったと覚えた、瞬間。

ズ・・・

縄の擦れる音が響いて、俺の視線を釘付けにする。
目の前には・・・信じられない光景が、有った。

「な・・・」

思わず吃って、言葉に詰まる。
目の前ではサンジが・・・するすると己を戒めた、縄を・・・

「いっ・・・てぇ・・・クソ。又跡が付いちまったじゃねぇかよ、阿呆野郎。」

・・・解いて、居た。
いとも簡単に。
手慣れた手付きで。
真っ白になる、頭の中。
如何して・・・何で此奴は・・・

「何で・・・って顔だな、クソ腹巻き。俺の方が船の中じゃ上なんだって言ったろう。
 伊達にガキの頃から船員、やってんじゃねぇんだよ。」

返す言葉も失って、唯呆然と言葉を紡ぐサンジを見遣る。
赤黒く痣の様になったロープの跡を然も痛そうに摩りながら、投げられた上着を手繰って煙草に火を点ける。
身を起して床の上に伸びやかな脚を組み、咥えた其れを深く、吸う。

「ロープ・ワークはクルーの基本。
 俄仕込みのお前ぇなんかの半端な縛り、解くのなんて簡単なんだよ、莫迦。」

自在に・・・そんな風に簡単に、解ける、なら。

「いい加減気付けよ、ボケ。
 手前ぇも一つ歳喰ったんなら、ちったぁ自分の甘さ加減を知れってんだ。」

深く、吐く。
昇る白煙。
燃え止しの先からは細くたなびく薄らとした、紫煙。

「阿呆面しやがって・・・ったく。如何してくれるんだよ、又シャツ破いちまって。
 あんまりしょっちゅう服なんて買うと、ナミさん怒らせちまうだろ。
 そんな事も解んねぇほどオネンネなのかよ、其の『歳』にもなって。」
「あ・・・」

0時を回って今日は11月・・・11・・・日。


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