最近は,自由化の波によって,航空会社も,顧客獲得に必死なようで,
旅行好きの人間としては,大いに恩恵を受けています。
全日空の「ふるさと割引」なる商品は,期限と方面を決めて,
10000円のバーゲン価格で航空券を,早い時期に売り出すものです。
ちょうど2月に,四国方面が設定されていたので,徳島便を予約。
四国の観光旅行と,ダイエーホークスのキャンプ見物を兼ねて行くことにしました。
羽田から徳島は,まともに買うなら25000円ほどですから,60%引きです。
なお,全日空は,この羽田〜徳島線から4月に撤退することになっており,
スカイマークエアラインズに引き継ぐことになっています。
朝の羽田空港。周囲に高い建物がないので,富士山が見えました。
しかし,搭乗したエアバス機の左翼側の座席だったため,
上空からの富士山は拝むことができませんでした。残念。
機内放送では,「右前方に富士山が見えます」という恨めしい案内。
ワタクシの座席からは,朝日に照らされる太平洋の海面だけが,だだっ広く見えるだけでした。
徳島空港は吉野川の河口の北,鳴門に近いほうにあります。
吉野川の南に広がる市街地までは,バスで約30分。
途中,幹線道路は軽い渋滞をしていましたが,
さほど遅れることなく,JR徳島駅に到着しました。
JR徳島駅の表玄関は,ホテルクレメント徳島が入り,
近代的な立派な駅ビルとなっています。
女性の駅員が配置されている小奇麗な改札口を抜けると,
一転して,古き昭和を思い起こさせる,簡素な田舎の駅でした。
構造物や跨線橋は鉄筋むき出しで,壁や窓枠など基本的には木造。
その跨線橋に,取って付けたように,真新しいエレベーターが造られています。
そして,徳島県には「電気で走る列車」が存在しませんので,
駅の上空には,邪魔な架線が一本もなく,空が広いのです。
数十年前の駅にタイムスリップしたような,あるいは映画のロケに来たような,
そんな落ち着いた風情の駅でした。
ほどなく,牟岐線のディーゼル特急「剣山4号」が到着します。
簡単なつくりの特急気動車ですが,窓も大きく開放感もあって,いい車両です。
朝陽が差し込む車内から,町の風景を見ると,
小松島のあたりでは,家という家が,高々とアンテナを伸ばしており,
アンテナばかりが目立つ街並みとなっています。
大阪や和歌山からのテレビ電波をキャッチするためのようです。
牟岐線の終点は,海に近い町の海部駅。
海部駅は,高架の駅で無人です。高架下には観光案内所があって,
夏になると海水浴などの案内をしているのでしょうが,2月は人影少なです。

海部駅にて。左がJRの特急「剣山」,右が阿佐海岸鉄道の「宝くじ号」
ここからは,第3セクターの「阿佐海岸鉄道」になります。
阿佐海岸鉄道は,海部を出ると,次が宍喰駅,その次は高知県に入って甲浦駅という,
短い路線の上,県境を通りますから,乗客も見込めないでしょう。
たった1両の車内には数人の客しか乗っていませんでした。
途中,宍喰駅の横には学校があって,グラウンドのネットには,
「上田先輩,野球殿堂入りおめでとうございます」という横断幕が。
上田先輩とは,もちろん野球殿堂入りしたパリーグの偉人,上田利治監督。
戦後の荒廃期に,宍喰の町を明るくしようと始まった野球が上田少年を育て,
阪急ブレーブスの監督として5回のリーグ優勝,3回の日本一。
その後,オリックス,日本ハムと監督を歴任した人です。
阿佐海岸鉄道は,ずっと高架,トンネルが多く,カーブも少ない路線で,
かなり贅沢に作られていることが分かります。
ゆくゆくは,室戸〜安芸〜高知と結ぶ幹線になることを見越した
国鉄時代の設計なのですが,平成の世となっては,
高知市どころか,やっと高知県に一歩入ったところで夢絶たれた鉄道といえるでしょう。
終点の甲浦駅も,高架橋はさらに南を目指す雰囲気だけ見せて,断ち切られています。
駅そのものは無人ですが,高架下には,地元の婦人会の人が管理している小屋があり,
バスの待合や切符の販売などができるようになっています。
夏になれば,マリンスポーツを楽しむ人が来るのでしょう。
おばちゃんが出してくれたお茶を頂いて,バスを待ちます。
高知県東部交通のバスは,甲浦から室戸岬を経て安芸へ向かうバスで,
鉄道の夢が絶たれたルートを走ります。
所々,山が海に迫ってくる隘路ながら,道路は整備されています。
潮風にさび付いて,地名すら読み取れない停留所に止まりながら,バスは南下します。
ふと昔の,山本コータローのフォークソング「岬めぐり」を思い出してしまいました。
岬めぐりのバスは走る,窓に広がる青い海よ,
悲しみ深く胸に沈めたら,この旅終えて街に帰ろう ♪
バスの車内を見渡しても,(自分を含め)そんな傷心の人はいなさそうですが,
ギシギシときしむ喧しいバスの音に,頭の中のフォークソングはかき消され,
1時間ほどで室戸岬に到着しました。13時ごろでした。

この写真は,室戸岬の海岸から陸地のほうを望んだものです。
下のほうに家屋数軒があり,その右には維新志士・中岡慎太郎の像があります。
ここを国道55号線が走っており,海面からの標高は15mほどです。
その背後の山の上の方に室戸岬灯台が見えます。この灯台の標高が140m。
なお,中岡慎太郎像から灯台までの直線水平距離は160mほど。
つまり,背後の山は,ほぼ40度ほどの急勾配となっていることが分かります。
室戸岬は,海岸段丘という地形です。
地形は,海によって削られます。そのあと,土地が持ち上げられると,
削られた平らな面は,高い位置に持ち上げられますから,
その周りは急な崖(段丘崖)となるわけです。
さて,荒々しい海で作られた岩場の多い海岸を一通り見物しました。
四国の南の海底には,「南海トラフ」と呼ばれる,大きな海溝(海の谷)があります。
そこでは,フィリピン海プレートが,ユーラシアプレートの下にもぐりこんでいます。
フィリピン海プレートの上に乗っかっていた泥だの砂だのといった堆積物は,
もぐりこむ時,はぎ取られて日本列島にくっつきます。これを付加体といいます。
実際,日本列島のかなりの部分が,こうしてはぎ取られた付加体なのです。
室戸岬では,その付加体のうち,「四万十帯」と呼ばれる地層群があり,
黒っぽい斑レイ岩(マグマが冷えてできた)とともに,奇岩,景勝を作っているのです。
高いところから室戸岬を眺めたいという欲求に従い,登山道を登ることにしました。
国道55号の高さから,段丘の上の段までジグザグに伸びる,0.6kmほどの,短い道です。
この登山道の先は,四国霊場24番札所,最御崎寺(ほつみさきじ)ですから,
お遍路さんの通り道として,歩き易く階段状につくってあり,「へんろ道」とされています。
別に,登山の道具も何も必要なく,普段着,ふだんの靴で登れる道です。
しかあし,この最御崎寺の標高は160m。
日ごろの運動不足がたたって,600mの間に145m上る勾配に,
さっそく息が上がってしまいます。ああ,情けな。
もともと歩くのは好きで,平坦な道ならどこまでも歩くのですが,勾配は体力勝負ですな。
結局,たった600mの遍路道の間で,3回も(!)休憩を取りながら,段丘崖をのぼり終え,
段丘面にたどり着くと,そこはもう最御崎寺でした。

最御崎寺(ほつみさきじ)は,弘法大師(空海)の開基と伝わる古刹で、
四国霊場第24番札所でもあります。
お遍路さんたちがやってきては,参ったり,お経を唱えたり,しており,
札所を回った証拠に写真を撮りたいと,シャッターを押すのを頼まれたり,
まあ,ワタクシは,別に寺は目的ではなかったのですが,ひととおり見物しました。
境内に「鐘石」というのが置いてあり,石でたたくと,澄んだ音がカーンと響きます。
この響きは冥土まで届くそうです。
これは,輝石安山岩の一種で「讃岐石(サヌカイト)」と呼ばれる岩石でしょう。
「カンカン石」とも呼ばれ,これを利用して木琴ならぬ石琴も作れます。
噴火した溶岩が急に冷えたとき,鉱物結晶が少なく,均質なガラス質になったため,
音の響きがいいと言われています。
さて,寺の前の坂道を下ると,海上保安庁の建物の向こうに灯台があり,
そのさらに向こうには,太平洋が広がっているはずです。

室戸岬灯台(明治32年完成),向こうは太平洋,下に室戸岬があるはず
しかあし,その道の突端は,灯台の敷地の柵に阻まれ,その先に進むことはできません。
灯台は年に数回しか,一般公開をしていませんから,
こんな景色のいい開けたところが目の前にあるというのに,
室戸岬を眺めることはできないということです・・・
トホホ,せっかく登ってきたのに!
最御崎寺に戻り,その広大な境内の反対側まで歩いてみると,
室戸スカイラインという道路に行き着きます。
しかし,ここは自家用車がないと走れません。バスも通っていませんから,
結局,徒歩のワタクシは,登って来た遍路道を引き返す他はありません。
今度来るときははレンタカーでも借りて来よう・・・
お遍路さんも,今は室戸スカイラインを使って,クルマで霊場めぐりをするようです。
何せ,最御崎寺ではたくさんのお遍路さんを見かけましたが,
遍路道では1人たりとも会いませんでしたから!
さて,遍路道を引き返し,バスで安芸方面に抜けます。
すっかり陽は傾いてきましたが,西日本の日暮れはまだまだ遅い。
室戸岬の段丘崖は,岬の東側より西側がいくぶん緩やかなため,
岬から安芸までの区間は,平坦な土地もわりと広く,所々に町が発達しています。
国道55号は,海岸線に沿いながら,町々を抜け,奈半利に着きました。
奈半利についた頃は,少しずつ西の空が赤くなり始める夕暮れでした。
後免〜奈半利は,昨年の夏,日本最後のローカル線と言われてる,
第3セクターの「土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線」が開通し,
それに伴って,駅付近は,街づくりが進行しているようで,
新しい道路と,その周りの更地が目立っています。
本当は,この鉄道は,奈半利から室戸を経て,阿佐海岸鉄道までつながったはずなのですが,
もはやその夢は絶たれ,この奈半利が,永遠に終点となるのでしょう。

奈半利駅となはりこちゃん
駅は高架で,エレベーターも完備されています。
ごめん・なはり線は,各駅にキャラクターがあって,奈半利駅は「なはりこちゃん」
「アンパンマン」で有名な漫画家のやなせたかし氏デザインによるものです。
高知県は,漫画のふるさとでもあって,フクちゃんの故横山隆一氏をはじめ,
はらたいら氏,黒鉄ヒロシ氏など,そうそうたるメンバーですが,
今の高知で時めいているのは,どうやらやなせたかし氏のようです。
西の空には,黒い雲が出ていて,夕陽の赤をところどころ塗りつぶしています。
「ごめん・なはり線」の快速列車が高知に着いたときには,すっかり陽は暮れていました。
高知駅の入り口には,プロ野球のキャンプ中ということもあって,
「こじゃんとガンバレ 福岡ダイエーホークス」のオレンジののぼり,
「Fight!! 阪神タイガース」の白に縦じまののぼり
「がんばれ!西武ライオンズ」の白いのぼり
この3つが並んでいました。阪神は安芸市と室戸市,西武は春野町ですから,
高知市ではやはり,ダイエーホークスののぼりが多いようです。

高知駅の売店。敷地からはみ出して,FDHグッズの棚が置かれていた
この2日間は,福岡ダイエーホークスのキャンプを見物しました。
その模様は,「鷹」のページ(こちら)にレポートしていますのでどうぞ。
なお,桂浜と,日曜市についても,すこしばかり書いています。