皆さん一緒に考えて下さい

………日本への巨大地震が世界へ与える影響について………

「国の内外から救援物資が続々と羅災地に送られてきた。瓦礫の町には、すいとんやうどんの屋台店が立ち並び、乗合馬車がほこりっぽい町を走り、無料乗合バス、無料乗合船が市民の足となった」
「鉄道も、鉄道連隊の懸命の作業で、9月5日には東北信越方面が、9日には京浜線が開通した。しかし、開通当座はどの列車も、罹災地を脱出して郷里へ向かう人びとで、また、東京にいる親戚や知人の安否を気づかってやってきた人たちで、ごったがえした」
「マヒしていた経済活動の再開は、当面、政府の課題であったが、井上蔵相は、震災直後の9月8日、30日間の支払猶予例を出し、さらに日銀から銀行へ特別融資をするなどの声明も出したので、取りつけ騒ぎも無く、東京では17、8日ごろ、ほとんどの銀行は再開した。27日には、震災地を支払い地とする手形の再割引を日銀が引き受け、それによって日銀が損失を受けた場合、1億円だけ政府が補償するという震災手形割引補償令を出した。のちにこの手形が、金融恐慌を引き起こす直接の原因となった。ともあれ銀行の再開で給料賃金支払いの目途もたち、商業活動も息を吹き返した」
「昭和2年(1927年)3月14日、衆議院予算委貞会で、時の蔵相・片岡直温が『本日、渡辺銀行が破綻しました。』と発言し、翌15日から取りつけさわぎがおこった」
「4月には貿易商社の神戸・鈴木商店が破産し、鈴木商店に巨額の貸し出しをしていた台湾銀行がついに休業、取りつけさわぎは野火のように全国に広まった。休業銀行は37、なかでも、皇族や華族との取引が多い十五銀行の休業は、人々に深いショックをあたえた」
「もはや市民にとっては現金だけが頼りとなった。札束をつめた柳行李が日銀から続々と運び出され、裏面が白紙の札も印刷、発行されるというひどい混乱ぶりであった。この金融恐慌という未曾有の嵐の直接の原因は、震災手形(大震災確災者の救済処置)の処理問題であったが、根本的には第一次大戦以来の日本経済の矛盾を露呈したものであった」
「震災直後の朝鮮人殺傷事件は、一応沈静したが、24日、大杉栄、伊藤野枝夫妻が殺害されるという事件が、また翌月10日には亀戸署の警官が南葛労働会員を10名も殺害した事件が明るみに出た。しかし、テロに対する批判の声は、治安出動をした軍隊や警察に対する感謝の声にかき消されてしまうという状況だった」
「この大震災で、軍部と警察は治安維持と救済活動を通して民衆の信頼を回復したが、これに対して大正デモクラシーは敗北へと追い込まれていった」

これは、大正12年(1923年)の関東大震災についての記述です。研秀出版・グラフィックカラー昭和史1『大正から昭和へ』からの引用です。震災直後の混乱と、それへの対策として出された震災手形割引補償令が4年後の金敵恐慌の引き金になったことを書いています。また、大正デモクラシーの雰囲気が消えていったことも述べています。
そこで、もし大震災が首都圏を襲ったらどうなるのか、震災の後遺症とでも言うべきことを考えて見たいと思います。資料は「ニューズウイーク日本版」(1995年2月8日号)の、『“東京大震災”は世界不況を招く』です。
まず、日本国内の影響について、こう述べています。

「(1)日本の家庭や個人の保険加入率は欧米の水準に比べて著しく低い。震災で財産を失った人々は、ゼロから生活を立て直さなければならない。工場が倒壊した企業も同じことだ。どちらの場合も資産は一瞬にして消えうせるが、負債は残る」
「(2)日本の株式市場に投じられた外国資産は全体の8%と、過去最高水準に達している。この資産が突如として引き揚げられれば、株価はもちろん急落する。日本の銀行や保険会社の支払能力は、株価がある水準を割り込まないことを前提にしている。だから株価が急落すれば、日本の金融システムそのものが破綻する可能性もある」
「(3)一般に、大地震のような災害は資本逃避と通貨の弱体化を招くとされている。しかし、第二の関東大震災が起これば、すでに過大評価されている円がさらに高くなる可能性が大きい。外国人投資家が日本から資金を引き上げるとしても日本の投資家が海外資産を売却して持ち帰る額のほうがはるかに大きいと思われるからだ。円高が進むと、日本から巨額の資金を円建てで借り入れているアジア諸国は負担が一気に重くなる。その一方で日本の金融機関は、目減りするばかりの海外資産の売却に走り、パニックはさらに悪化するだろう」
「(4)大きな災害は復興需要を生み、GNP(国民総生産)を押し上げる効果もあるとみなされている。しかし、『フロー』の増加分は、実際には破壊されたものの穴埋めにすぎない。国民の富の『ストック』は減少し、国民は前よりも貧しくなるのだ」
「(5)先行きへの不安も高まって、国民は消費よりも貯蓄を重視し、資産購入にもリスクを慎重に検討するようになるだろう。そうなると、地価が下落する。不動産を買うか、現金で持っているか、大地震に見舞われた後は現金を選ぶ人が圧倒的に多いはずだ」

そして、世界的な影響を、関東大震災当時の日本と今の日本(1995年当時)比較し、こう述べています。

1.関東大震災当時の日本は、

今のタイ・アルゼンチン程度の「新興経済国」で、震災被害がGDP(国内総生産)の1/3に及んだといっても、世界は余波を受けなかった。当時の日本の輸出品(繊維製品・軽工業製品)の代わりの輸出国はいくらもあった」

2.それに比べ、今の日本は、

「(1)日本の投資家が海外に資産を保有している。日本は慢性的に不足する「資本」の一大供給国である。大震災が起こると大量の復興資金が必要になり、日本が一転して資本の輸入国になる。これが実質金利を押し上げ、世界の景気に冷水を浴びせることになる。海外に日本は1兆ドル以上の資産を保有している。大半は流動性の高い国債。こういう資金のごく一部を引き上げただけで、相手国の金融市場は混乱する。アメリカ・マネーの流失がメキシコの「金融危機」を招いたのはつい最近のこと」
「(2)外国の機関投資家が日本に資金をつぎ込んでいる。日本の株式市場に投じられた外国資金は全体の約8%と、過去最高水準に達している」
「(3)在外日本企業が多数の労働者を雇用している。イギリス(雇用・輸出収入を日本企業の現地進出工場に大きく依存)などは大きな打撃を受ける。東南アジアの衝撃はもっと大きい.産業基盤のかなりがマヒ、失業急増、輸出は激減し、通貨の切り下げを余儀なくされ、政治不安も招きかねない」
「(4)日本のハイテク機器や部品に頼る欧米企業が多い。メモリー・チップは世界の50%、液晶デスプレイは90%、NC工作機械・高機能セラミック等の戦略的分野で支配的地位を占める。これらの供給が途絶したら、世界のハイテク産業は甚大な被害を受ける。現在のアメリカのパソコン業界も、安い半導体がなくてはなりたたない。この10年間日本の自動車・家電メーカーは生産拠点の海外移転を急ピッチで進めてきた.しかし、高付加価値部品の生産は今も国内にとどめているためその供給が途切れれば海外工場の生産ラインも停止するだろう」
「(5)日本企業の直接投資がアジア諸国の経済開発を支えている」
「(6)円建てで資金調達している外国企業が多い。円が乱高下すると、先進各国の中央銀行が「協調介入」したり、アメリカの財務長官が緊急声明を発表することもある」

 と述べて、

「東京は日本の産業と行政の中枢である。大企業の本社が集中し、東京の決定はアジアや欧米諸国の人々の生活にすら影響を与える。また、世界各国の政府が資金を調達する国債金融センターでもある。東京で、再び関東大震災級の地震が起これば、その津波はたちまち世界経済をのみこむだろう。世界的な景気後退と政治危機を招くことば十分に考えられる」

と結論付けています。

世界に対する責任という視点からも、地震に対して強い国づくり、地震に対して強い産業・企業作りが必要だと、責任ある立場の皆さんに求めたいと思います。

私たちとしても、自分の位置から、これらの点について考えてみたいと思います。銀行・証券会社にお勤めの方、メーカーや商社にお勤めの方、経済学部の学生さん等、皆さんが仕事や勉強を通じてお考えになったことをお知らせ下さい。

2003年2月15日 

日本地震情報研究会



  



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