免震構造建築は地震力を小さく押さえる

第8回 免震建物の設計法

ここに掲載する設計法は、設計の専門分野についてのものは割愛し、免震の建物を建てようとする一般の方々が、理解の出来る言葉と内容を表記します。
 その内容は、実態を正確に伝えたいとする思いを込めているつもりです。

免震という定義も本当は範囲が広くて難しく、制振(震)といわれるものと境目もつけがたいものです。制振の一部に免震が含まれる、という定義もある位です。
 何もない所に1本の線を引くことにより、「あっち」と「こっち」,「右」と「左」,「上」と「下」というように定義付がしやすく、事柄を伝えやすくなります。国境線にも使われている位です。

ここで制振とは、超高層等に多く使われている、制振ダンパーといわれるエネルギー吸収装置を使った建物を「制振建物」とします。
 免震は、免震装置といわれるアイソレーター,ダンパー等を使った建物を「免震建物」とします。
 一般に制振と言われるものに比べ、免震の地震動に対する減衰性能は、比較にならない位に高性能なものです。

免震設計法には、色々な方法があります。

* 地震力が建物に入ってくるエネルギーの釣合法とでも言う方法で、上部建物や免震装置・基礎構造を地盤の違いごとに、釣合い関係によって決めてゆく方法があります。

* 建物を一つの固まり質量と考えて、地盤の違いごとに応答値を求め、上部建物や免震装置,基礎構造を決めてゆく方法があります。応答スペクトル法と言っているものです。

* 時刻歴応答解析という方法は、精算法とされているものです。免震装置と上部建物を支える地盤から地震動を加えて、どのように応答するかという事を求めてゆく設計法です。

* 細かい話ですが免震装置の違い、例えば、積層ゴムアイソレーター,滑りアイソレーター,転がりアイソレーター,鉛や鉄等の金属系ダンパー,オイルシリンダーによるオイルダンパー等の違いごとに設計法が異なるとも言えます。

* 上部建物の違いによる、例えば、木造,鉄骨造,石造,レンガ造,ブロック造,鉄筋コンクリート造等によっても、設計法が異なるとも言えます。

* 地盤の違いによる、例えば、岩盤のような良質な地盤を「第1種地盤」と言い、軟弱な地盤を「第3種地盤」と言い、一般的な地盤で第1種と第3種の中位にあるものを、「第2種地盤」と言っていますが、その地盤種別毎によっても設計方法が異なるとも言えます。

* 強風の地域において、軽い建物の免震を設計する場合にも、特別な配慮をした設計法があると言えます。

* 原子力発電所のように危険で重要な建物を免震にする場合、特殊な重さ,重要さ,環境条件等によって設計方法が異なるとも言えます。

このように、設計方法を定義付けることも、細かく考える程難しいものです。しかし、建物を現実的に考えた時に、建築基準法に従って設計し建設することになりますから、「建築確認申請」は必要です。そこで、法的に大別された設計法について、その内容について説明することにします。


免震設計の事前準備

免震設計の事前にまず準備をすることがあります。
1.建設地名地番を知る。
 1) どこの地域か。
 2) どこの地層か。
 3) 海洋との関係は。
 4) 地盤,地質は。
 5) 建築行政区域は。
 6) 風に関する情報。
 7) 雪に関する情報。
 8) 交通の手段は。
 9) 通信の手段は。
10) 地震に関する情報。
11) 凍結に関する情報。
12) 気温に関する情報。
13) 物流に関する情報。
 等に関連する色々な情報が、地名地番によって判って来ます。

例えば、梁材1本を搬入する場合、どの位の長さまでを、どんなトラックで搬入して建て込めるか、という事の判断が出来るようになって来ます。

2.免震建物の基本計画図書をそろえる。
  1) 配置図−敷地廻りの余地,近隣建物の様子が判る。
  2) 平面図−各室用途,建物形状,間仕切り,柱・梁の位置等が判る。
  3) 立面図−全体形状が判る。
  4) 断面図−高さ,各部材位置関係が判る。
  5) 仕上表−建物の重さ,ねばり強さ等を計算出来る。
   等の設計図は、一般の施主に対して設計者・工務店から提示されている、最も基本的な設計図
   書です。

この他に実際の建物を造る時に、専門的に必要な設計図がたくさん有ります。その中で、免震構造設計をする場合に必要なものは、次の通りです。
  1) 梁伏図(木造の場合)
     柱・梁の入れ方が、工務店・地域・加工場等によって大きく異なります。
     通例行われている方法によって、免震装置へ力を伝える「架台」の設計を行うのに是非必要です。
  2) 軸組図(木造の場合)
    柱・梁の架構の判る図面があれば、免震装置へ力を伝える「架台」の設計が容易になります。
  3) 免震対応の設備図
     電力線,通信線,水道,下水道,ガス等の建物への引込みの図面です。
     免震建物は、地震によってゆっくり揺れるように造ることは先にも掲載しましたが、その揺れ動き
     幅の対応図が必要です。


3.地質調査をする。
地質調査は是非必要です。土地の所有者、又は利用する施主が行うのが原則と考えます。
地下深く小さな穴を明けたりする事もあり、この土地にこんな建物を建てたいとする側の行為であるべきと考えるからです。

その目的は次の通りです。
1) 地耐力を知る
目的の建物を地盤が支えるための基礎を、最も安全で適切な方法は何かをみつけるためのものです。
N値という30?の深さを、所定の大きさ,重さで打ち込んで沈む打撃数で表すものを求めます。
2) 地質を知る。
土の性質を充分理解して考えられる先々の変化、基礎工法の選定をするためです。
ボーリングによって、連続的に地質の柱状の作図,サンプルがつくられます。
3) 液状化の可能性がある地層の粒度測定をする。
地盤が液状化すると沈下します。杭を設ける場合や、地盤の改良等のためにも必要です。
砂や土の粒の大きさとその割合等を、サンプルによって測定すると液状化の有無が判ってきます。
4) Vs,Vp値の測定をする。
ボーリングの穴を利用して測定機を挿入し、地表面で振動を与えてその伝わる速さを測ります。
地震は震源地から、固い地層を通って振動が伝わって来ます。その速さが400m/sec以上の地盤を工学的基盤と言い、その深さからの地震動が建物に作用すると考えることにしています。
工学的基盤が浅い程、良い地盤と言っても良いでしょう。


以上の調査は、最小限必要な調査です。

通常の建物の地盤調査は?,?ですが、免震建物にあっては、例え木造住宅であっても?,?が基本的に必要です。最近は調査件数も多くなって来ていますので、安価になって来ています。
免震建物の規模や重要度に合わせて、この他に数多くの地質調査項目があります。
免震設計者に相談をして、必要な調査を決めて下さい。

地質調査の方法にも色々ありますが、信頼性の少ないものも出廻っていますので、信頼出来る設計者に問い合わせる必要があります。私としては、N値標準貫入試験をボーリング孔によって行い、N値,地質,粒度測定,Vs値の調査することを最小限としておすすめします。

調査方法を熟知した、体を使い,手を使い,頭を使って調査を行っている会社で、しかも実力のある人のいる所に頼むのが一番です。安価で良質な地質調査が出来ること間違いなしです。大きな会社で下請けに出しているような所は、避けた方が良いと考えています。


免震告示第2009号により大別された免震設計区分法

1.建築基準法的に四号建物と言われる、木造住宅のような小規模建物用の免震設計法。

2.上記以外で高さ60m以下の建物に限り、告示に規定する設計算定式に適合する免震設計法。

3.精算法とされる時刻歴応答解析法。

法的に大別すると以上の様になります。

以下、この3つの免震設計法について説明します。

■ 免震設計法

1.建築基準法的に四号建築といわれる、木造住宅のような小規模建物用の免震設計法。仮称として「四号免震建築設計法」とします。


□対象建物
木造で軒高9m,高さ13m,面積500?2階建以下の免震建物。

□免震構造計算
   法的には不要ですが、免震装置の耐力の条件計算があります。
   内容を知っている設計者なら簡単に出来上がります。しかし、免震装置の位置,
  上部建物の重さ,架台の鉄筋コンクリートの床版等について、本当に安全なのかの確
  認は設計者として必要と考えています。規準によって鉄筋コンクリートの架台の厚さ
  や配筋が決められていて、その通りで充分ということになっています。しかし現実に
  は、無知な規準通りの使い方だけでは、架台の床版が割れたり折れたりする事も出
  て来てしまう気がしています。

   架台床版・免震装置・基礎版位は、日常時,地震時,強風時,豪雪時の構造計算を
  行い、安全の確認をしておくべきと考えています。規準に適合していれば全て良しと
  いう設計者には、気を付けるべきだと考えています。設計の内容というものは、設計
  者の人物そのものが判断に現れてくるものです。善人ばかりではない設計者が居るこ
  とは、世間一般と同様です。

□四号免震の条件規定
法的に守らなければならない主な条件は下記の通りです。
 1.上部建物は、厚さ180?以上で配筋がD13@200ダブルクロス配筋である鉄筋コンクリート床版の上に載っていること。
 2.免震装置の数は、1階床面積(架台床版面)15?以下に1ヶ所以上とする。
 3.地盤は1,2種地盤で液状化しないこと。
 4.地耐力の強弱によって、基礎の形式が決められている。
 5.隣地との明きは50?以上とする。
 6.通路に使用する隣地までの明きは110?以上とする。
 7.平面・立体形状は、かたよりのないバランスのとれた形とする。
 8.免震装置の点検・取替が出来るようにする。
 9.設備配線・配管の自由継手を必要とする。
10.免震建物である標示板を取り付けること。
11.免震装置は大臣認定品であること。

  等が決められています。

□確認申請
一般の四号建物と同様の扱いがされることになっています。建築主事が不慣れのために、多少まごつく可能性もあります。

□設計期間
実質的期間は、10日前後かと思っています。

□設 計 図

鉄筋コンクリート床版の架台から上の上部建物は、一般の四号建物同様に造ることになります。架台,免震装置,免震用基礎が、免震建物用として追加された状態になります。

□設 計 料
上部建物を支える架台から、下部の全ての設計を行います。計算によって先の安全を確認する当社の場合ですが、50〜60万円程度かと思われます。施工するのに充分な設計図が完備されます。


□「四号免震建築設計法」の問題点
実は、四号免震建築に使用される免震装置が(2001年1月現在)適用される認定品が在していません。しかし、近年中出来てくるものと思っています。
四号免震建築は、小規模に限られています。
免震構造計算は、法的には省略されているといえますが、安全の確認は、是非必要だと思っています。
免震構造設計を精算法=時刻歴応答解析法によって、免震設計の本質を判った経験者だからこそ、多くの検討が省略された四号免震建築設計法を、行うことが出来るとさえ言えるのではないでしょうか。
免震構造設計や施工をする立場の人を選ぶのは、充分な配慮をする必要があると言えます。免震装置や設計料、施工の売上げだけを目的とする業者に充分気を付けるべきなのは、社会全般の物事と同様です。

2.四号免震建築設計法以外で高さ60m以下の建物に限り、告示に規定する設計算定式に適合する免震設計法。仮称として「告示免震建築設計法」とすることにします。


□対象建物
四号建物以外で、高さ60m以下の免震建物。
四号免震建築設計法より上位グレードの免震設計法ですから、四号免震を含む高さ60m以下全ての免震建築で、対象条件内のものであれば、該当することになります。

□免震構造計算
告示第2009号内に、算定式が詳しく提示されています。
概要としては、敷地の地盤の地震力特性を考慮し、免震装置を介して架台上の上部建物と相互間の、地震動の応答を求めて設計します。地震動の大きさは、法的に「極めて稀な地震動」とされる超高層ビルの設計に使われているものです。日常の用途,強風,豪雪の場合も、当然安全の確認をすることになっています。
免震構造計算の詳しいことは、専門的になりますのでここでは割愛しますが、精算法のように考え込めば込むほど大変難しく、深いものであることに気付いている状況です。
本来、免震構造設計は、精算法で行うべきものです。
地震動が免震装置によって建物にどのように伝わるので、どのような建物にするべきかを、その敷地の地盤から地震動によって設計する訳です。
しかし、精算法は高度な技術・知識・経験が必要とされているものなので、簡略法を作ったということです。
免震という大変すばらしい性能をもつ建物を多く広めることが、地震国の安全を守る方法であることを国も認めたことにより、告示免震がつくられたと言えると思います。その為、告示免震は高度な技術・知識が影に隠れて、算定式化されています。
在来耐震設計が建物重量の20%以上の地震力で設計することであったものが、20%で良いという解釈になり、安物造りの競争になって建物が造られて来た結果が、阪神大震災の惨状とも言えると思っています。今回の告示免震の算定式も、同様な事が起こるのではないかと心配しています。
告示算定式には、安全率的な係数が多く含まれています。それは多くのメーカー,多くの設計者の誤差のようなものを、吸収するつもりで作られたのかもしれません。
しかし見方を変えると、安全率係数を採用しない方が、より安全に免震建物が出来る場合もあります。又、その逆もあります。
結論は、高度な技術・知識・経験を持つ、良識ある免震構造設計者にゆだねる大切さがあります。

□告示免震の条件規定
法的に守られる範囲のものであって、それ以外は精算法を採用することになります。
主な条件は次の通りです。
  1.基礎(最下階)の下に免震装置を設けることとする。中間階免震を除くことになっ
     ています。
  2.隣地との明きは50?以上とすること。
  3.通路に使用する隣地までの明きは110?とすること。
  4.地盤は1,2種で液状化対策を施すこと。
  5.全て計算によって安全の確認をすること。
  6.免震装置の点検・取替が出来るようにする。
  7.設備配線・配管の自由継手を必要とする。
  8.免震建物である標示板を取り付けること。
  9.免震装置は大臣認定品であること。

□確認申請
法的には、建築主事確認が原則になっています。主事の判断力によるものか、在来耐震構造の今までの流れによるものかは判りませんが、主事によっては評価機関へ廻すようにする所もあります。主事との事前折衝の必要があります。

□設計期間
主事確認の場合であれば、1ヶ月位(木造住宅)〜3ヶ月位(大型ビル)の設計期間を要します。評価機関廻りの確認の場合であれば、対応にふさわしい資料作りが必要です。2ヶ月(木造住宅)〜4ヶ月(大型ビル)位は、体験的に必要と感じています。

□設 計 図
上部建物を含む免震装置,架台,基礎の全ての構造図が必要となります。
上部建物:上部建物の構造図は一般在来耐震構造設計図同様に必要です。
       造住宅でも、梁伏図・軸組図・部材リスト・詳細をそろえます。
架   台:鉄骨,鉄筋,集成材などの材料により、上部建物を日常時,地震時,強風時,
       豪雪時に安全に支える架台が必要です。伏図,部材リスト詳細をそろえます。
免震装置:採用する免震装置及び、その取付け要領を表した図面が必要です。
基   礎:地盤に適した工法の基礎図が必要となります。
        鉄筋コンクリートの配筋を含む設計図が必要です。

□設 計 料
主事確認と評価機関廻りの別によって異なり、又、規模によっても異なりますので、一口に表現することがむずかしいところです。木造住宅で、最低でも100万円位は必要です。


□「告示免震建築設計法」の問題点
告示免震建築設計法によるものが評価機関廻りとなる場合なら、評価手数料も評価機関も、精算法=時刻暦応答解析法(大臣認定ルート)と同じです。それならば、内容を精査した精算法を採用し、合理的な建物を造る方が良いものと考えます。

3.精算法とされる時刻歴応答解析法。仮称として「精算免震建築設計法」
    とすることにします。法的には高さ60m以上の建物の設計法によりま
    す。


□対象建物
時刻歴応答解析によって設計する免震の全てが含まれます。
四号建物の規模から超高層までの免震設計ということになります。

□免震構造計算
地盤の深層から伝わってくる地震動を求め、上部建物を支える免震装置を介して、基礎から時間の要素をもとに振動応答解析を行います。他の免震建物との比較,安全確認のために、共通の地震動との振動応答解析を行って免震設計を行います。
現地地盤特有の地震動も、人工地震波として作成して解析します。この時刻歴応答解析も、絶対正しいとする方法でもありません。精算法とされる位に精密な解が得られるとされていますが、使い方を誤ったら誤りの解を正とすることになります。
本当に正しいとするものは、有るとすれば神のみが知るところかもしれません。真実は何かと求める正直な生き方の中にしか、正しいものに近づくことは出来ないと思っています。経験を重ねる程、深く考える程に、この意が強くなるような気がしています。

□精算免震建築設計法の条件規定
免震装置を大臣認定品である事以外は、ほとんど自由に免震設計することが出来ます。全て理にかなうものという根拠が必要であるとも言えますが、工学的判断という総合的で経験的な設計法による部分が有るのは当然です。

□確認申請
免震設計の内容を評価機関で評価を受けてから、大臣認定を受けることになります。その認定書を添付して確認申請をすることになります。

□設計期間
規模や難易度により異なりますが、大臣認定取得まで最小限でも3ヶ月は必要と思います。

□設 計 図
上部建物を含む免震装置・架台・基礎、全ての構造図が必要です。

□設 計 料
規模や難易度により異なり決め込みづらいのですが、おそらく最小限でも400万円位は必要ではないかと思っています。


□「精算免震建築設計法」の問題点
評価機関での審査員との交渉には、経験と知識と理論が必要です。
時間も1〜2ヶ月間はかかります。大臣認定期間を含めると1ヶ月程追加となります。
人材と時間と費用がかかり過ぎると思っています。

                                         2002.1.27


  



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