楽家 BookReview
2001年版
Released

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  • 文章に明らかなネタバレがあるときはそのままでは読めないように してあります。すでにその本を読んでいる場合はマウス等を利用して、 文字が途切れている領域を選択すると反転して読むことができるようになっています。

  • ★4つ以上はお薦めです。★4つと★5つは個人的な好みや、 読んだ時の感情によって違っているだけで、ほとんどの場合は差がありません。 ただし、楽也の特徴として「初読の著者の評価は特に甘い」、「簡単に★5つがでる」 という特徴があります。

  • 右端の「有」は所有、「借」は図書館から借りた本、「古」は古本屋で買った本、 「貰」は人から貰った本であることを表わしています。


  • 2001年12月31日月曜日
    ★★★★★ 「将棋の子」大崎善生講談社 2001年5月23日 p301
     「パイロットフィッシュ」の作者の元々の本業(雑誌「将棋世界」の元編集長)である将棋に関したノンフィクション。

     これを読んで逆にこの大崎善生という人は小説向きな人だと思った。それはノンフィクションとは思えないような会話シーン、そして言葉の豊富さ巧さ綺麗さ。これらだけでも十分うまいのにノンフィクションである事実性がさらに涙を誘う。特に奨励会(将棋のプロ養成機関)を敗れて去っていった若者達の前に広がる暗澹たる現実世界。多くは中卒で資格も無く、将棋の世界しか知らない20代半ばの青年が、この不況の時代に世の中を渡っていくのは非常に困難だ。本書では40歳となった元奨励会会員との邂逅を中心に描かれているが、彼の現実は厳しい。借金をし夜逃げをして生きている。ネタバレ→それでも「自分は将棋が強かった」と「自分は羽生善治(現在の将棋界の第一人者)と将棋をしたことがある」ということが自信となって生きていけている、という話には、その純粋さがちょっとだけうらやましく感じられた。←ここまで。

     ちょっとお涙頂戴なところが強いけど、とても面白くてすぐに読めた。本書の表紙イラストは将棋への夢が感じさせられて、読み終わってから見ると儚いものを感じる。破れた夢を見ているようで。

    2001年12月28日金曜日
    ★★★☆☆ 「デッドエンド・スカイ」清野栄一河出書房新社 2001年6月20日 p278
     博之の部屋に転がり込んできた幸太郎。会社も辞めてしまった幸太郎は生きる意味を既に見失いつつあった。レイヴに魅せられた著者が描く、レイヴと関係ありそうで実は自己の存在について考える・考えた人々を描いた小説。

     表紙を除いて絵や写真といったビジュアルなものがあるわけではないのに、非常に視覚的な小説。刹那的に生きる若者達を説明するためには「視覚的」であることが必要だったのだ。表題作「デッドエンド・スカイ」が最もレイヴ的で視覚的で、そして「音」が聞こえた。それ以降の「140BPM」、「パラダイス・ホテル」はシチュエーションのマヌケさが面白いのだが、無駄に長過ぎた。もう少し短ければもっとレイヴ的でよかったのでは。

     レイヴとは数千人、時には数十万人の人々が踊る音楽の祭典のこと。世界中でレイヴ・イベント(レイヴ・パーティ)が行われている、らしい。著者は「ASIAN JAPANESE2」「小説家」にも登場している。

    2001年12月20日木曜日
    ★★★★☆ 「ななつのこ」加納朋子東京創元社 1992年9月25日 p254
     読書好きのあなたなら、「これは面白い!」と思った本は何冊もあると思う。もしかしたら作者にファンレターを書くほどに夢中になった本もあるかもしれない。(今なら作者にEメール?) そんなファンレターを書くほどに面白い連作短編ミステリー「ななつのこ」に出会った本好きの女子大生駒子が活躍?する連作短編ミステリー。

     加納朋子は北村薫と並び称せられる、ほのぼのしみじみ系推理小説作家である。(とはいっても北村薫に比べればまだまだ無名) 本書では「ななつのこ」という小説内小説を読んだ主人公が、その7つの短編に見立てられた”事件”とはいえない”日常”に遭遇する7つの短編集という凝った作りになっている。デビュー作でもあるので、7つの短編のなかには、ミステリーとしてはイマイチな作品もあるにはある。とはいえ描写は非常に楽しいので、そんな細かいことはどうでもよく、しみじみと楽しめる一冊。

    2001年12月16日日曜日
    ★★★★☆ 「120%COOOL」山田詠美幻冬舎 1994年3月27日 p253
     いろいろな愛(ああ、なんて陳腐な言葉でしか説明できないんだ)について書かれた短編集。

     実は長編かと思っていたので、ちょっと肩透かし。前半の4編は登場する女たちは、山田詠美的ではあるけど、話としては例えば村上春樹的だったり、普通な日常だったりドタバタだったりする。だからといって面白くないわけではなく、これはこれでとても面白い。それに対して後半の5作はいつもの山田詠美。ただ表題作はあまりに山田詠美的すぎて逆につまらない。

     一番面白かったのは「DIET COKE」。物を食べるという欲望の景色を的確にとらえてあって、おいしそうで、それでいて実は食事シーンというのは恥ずかしくグロテスクなものだと感じた。脂っこい食べ物はそんなに好きではないが、実はどうしてもたまに食べたくて食べたくて仕方ないときがある。そんな感情までもが呼び起こされた。

    2001年12月8日土曜日
    ★★★★★ 「パイロットフィッシュ」大崎善生角川書店 2001年10月10日 p245
     真夜中の午前二時。僕は水槽の掃除は決まって夜中にすることにしている。そんなとき電話が鳴った。「わかる?」という十九年ぶりに聞いた彼女の声。静かな静かな恋愛小説。

     大崎善生は「聖の青春」や「将棋の子」などノンフィクションの世界では有名な作家で、今回が初めての小説。それなのにこんなに切なくて、ある意味非常に恐い恋愛小説が書けるとは、確かに誰も想像すまい。構成が完璧で、全く破綻がない。特に最後の最後のページは、その直前を読んだ段階で、もう終わりだろうと思ったら、まだ続いたのでこれは蛇足では?と思って読んだら、さらに完璧な結末(というか終わり方)が用意されていた。

     「記憶」については特に考えさせられた。人は物事を忘れていくものだと思っていたが、確かに実は多くの物事を覚えている。たぶん思い出さないようにしているだけで、本当は簡単に思い出せてしまうのだ。ネタバレ→特に、「感性の集合体だった自分は、年を取って記憶の集合体になってしまった」というくだりは、非常に恐いものを覗いてしまった気がした。作中の登場人物”森本”はこれに気付いてしまい逃げるためにアルコールに走ってしまった。自分が自分ではない居心地の悪さ、これは非常に絶望を思い起こすことだと思う。←ここまで。

     パイロットフィッシュとは、水槽で魚(熱帯魚)を買うときに、良い生態環境を作るために水槽を作ったときに一番最初に入れる健康な魚たちのこと。この健康な魚の糞がバクテリアを発生させ、いい状態の生態系ができあがる。上級者によっては、よい生態系ができた後にパイロットフィッシュを捨てて高級魚を育てる人もいる。

    メモ1:ジョン・バース「旅路の果て」→”それは、どんな長い長い旅にも必ず終わるときがくるということに似ている”
    メモ2:傘の自由化

    2001年12月2日日曜日
    ★★★★★ グインサーガ81「魔界の封印」栗本薫早川文庫 2001年10月15日 p320
     久しぶりに最高評価なのは、グインの「人間宣言」と「内政不干渉」の話が面白かったため。特に「内政不干渉」の話は興味深い。本書はあとがきから分かったのだが、2001年9月11日のアメリカのテロ事件以前に書かれたものである(あとがきは9月8日に書かれている)。それではあるが、外国に対して干渉するということはどういうことなのか、ということ、より正確に言えば「内政不干渉」「自国の利益」とはどういったものであるか、ということがまるで予見したかのように堂々と書かれていたからだ。グインサーガの魅力はSFやファンタジーよりも、こういった政治の話にある、と思っている。

    2001年11月30日金曜日
    ★★★★☆ 「ライ麦畑でつかまえて」J.D.サリンジャー
    野崎孝訳
    白水社 1979年(原作1951年) p306
     実は「ライ麦畑でつかまえて」を、今回読むまでは次のような物語だと思っていた。
     1900年代初頭のアメリカ南部。奴隷制度は制度上廃止されたとはいえ、まだまだ黒人差別の激しかった時代。裕福な白人の子供コールフィールドは、両親が経営するライ麦畑の稲穂の中を黒人の子供アクリーと遊んでいた。とても幸福な世界の中で。しかしコールフィールド家の小作人の子供であるアクリーは、ある飢饉の年に家族ごと解雇されてしまう。2人は大人たちには秘密のライ麦畑の一角で、最後の追いかけっこをし、将来また会おう、と約束する。それから20年が過ぎ、アクリーが20年ぶりに思い出の地に帰ってきた。
    というような話かと、想像していた。(2人のどちらかが女の子で将来を誓い合うでも可)
     しかし、もちろんこんな話ではなく、 「ノルウェイの森」の中でも話題にされていたぐらいだった青春小説。

     正直言って、最初主人公コールフィールドには「ウザイ奴」という印象しかなかった。まあよく世間の人はこんなウザイ野郎のたわ言を読むもんだ、と思って読み進めた。学生寮という閉塞空間の葛藤。うまくいかない勉強。実らない友達関係。何かが起こるたびにいろんなことを思い出してしゃべりだす。しかもよせばいいのにポン引きには捕まるし、女の子には散々な口をきく。これでもか、これでもかと主人公は転落をし続ける。
     こんだけ自分以外の奴らは幾人かを除いて皆バカだ、というような態度を取る人間の言い訳をずっと聞いていると、最初はとにかくげっそりした。しかしそのうち「これってもしかして自分も同じでは」と思うようになり、最後には「もう強がりはよしてくれ」という気持ちになってしまった。信頼していた先生にも裏切られたのは、その先生の言葉や態度がカッコよかっただけに自分も裏切られた気がした。
     「青春の彷徨」という言葉がぴったりする物語。中盤以降はとても面白いんだけど、訳がイマイチ。特に汚い罵り言葉の訳が変。まあ罵り言葉は時代により変遷していくので難しいところだろうが、なんかそういう点では原作で読んだほうが面白いかもしれない。

    2001年11月20日火曜日
    ★★★★★ 「インストール」綿矢りさ河出書房新社 2001年11月10日 p120
     この本の書き出しは次のように始まる。

     自称変わり者の寝言。
     「私、毎日みんなと同じ、こんな生活続けていていいのかなあ。みんなと同じ教室で同じ授業受けて、毎日。だってあたしには具体的な夢はないけど野望はあるわけ。きっと有名になるんだ。テレビに出たいわけじゃないけど。」
     これを読んで面白いと思った人は読むことをお勧めします。自分はストーリー紹介記事とこの書き出しを読んで購入しました。作家は現役女子高生で、本作で第38回文藝賞受賞。

     この本の紹介記事の多くは「小学生と女子高生がチャットで儲ける話」と書かれているが、それは一部にすぎない。ネタバレ→実際にはそこに至るまでの描写、例えば「(高校生における)人生に対する焦りの気持ち」など、自分たちが忘れてしまった景色がここにはある。

     無理していない「意図的なうまさ」が読んでいて楽しい。全体的に読点(、)を減らした文章が勢い込んでいてテンポよく読めるし、五七五調な文章がいいのかもしれない。登場人物の選択も、女子高生とマセた男子小学生という組み合わせが何とも楽しい。まじめな文藝賞作品のくせに再読しても面白いのは、まじめでありながらエンターテイメントでもあるからなのだ。

     ちょっと不思議だったのは「女子高生で携帯電話を持たない子は、世の中にあまりいないのでは?」と「今の女子高生ならパソコンのタッチタイプぐらいはできるのでは?」の2点。今どきの小学生がパソコンの設定ができて携帯電話を持っているのは分かるのだけれど。また、お話におけるエロの重要性を再認識した。あまりにエロなのは問題だが、ちょっとのエロは話の調味料として物語を引き立てる。現役女子高生が作家というだけでも調味料があるのだけれど、それ以外にも男では気付かない、清純派エロ?な情景を見せてくれる。
    ←ここまで。

     表紙カバーの絵が女子高生の絵なのだが、直接的過ぎて残念。もう少し落ち着いた雰囲気にしたほうがよかったのでは。でもこのお話自体は、読み切りマンガにしても面白そう。

    2001年11月17日土曜日
    ★★★★☆ 「約束」村山由佳
    画:はまのゆか
    集英社 2001年7月10日 p94
     小学4年生のとき、僕には生涯の友達ができた。ヤンチャとノリオとハム太。いつも一緒に遊んだ。ある日、ヤンチャが病院に入院した。そこから物語は始まる。

     基本的には絵本のような体裁をとっている。が、実は「大人向けの絵本」なのかもしれない。途中までのストーリー展開はあまりにもありがちで、「まー短い話だから、絵本だから、まあいいか〜」と思って読んでいた。ネタバレ→「約束」。それを果たすことの難しさ。大人になってしまったからこそ、わかってしまう「約束」という思いを遂げる難しさ。子供の頃にした約束のほとんどが忘れさられ反故にされていることに気付く。

     普通の話なら、「スタンドバイミー」のように作家になった「僕」が、少年時代を思いだして語るのだろうが、この「僕」は作家志望であるけれど、なんと、ただの「ぷー」である。この「約束」を果たすことで前に進めるのだという展開は、自分も前に進まなくっちゃ、という気にさせてくれる。
    ←ここまで。

    2001年11月13日火曜日
    ★★★★☆ 「ドミノ」恩田陸角川書店 2001年7月25日 p340
     日本でも屈指の乗降者数を誇る東京駅。そこは多くの人々が行き交う場所。例えば、田舎からオフ会のために上京したおじいさん。例えば、近所の保険会社に勤めるOL。例えば、東京ステーションホテルに泊まっている外国人映画監督。例えば、騒ぎを起こしたいと思っているテロリスト。そんな人たちの間に徐々に起きる出来事を描いた物語。

     タイトルの旨さ、切り口の旨さはさすが恩田陸。ネタバレ→元暴走族達の活躍や、子役たちの確執と活躍は面白いし、クライマックス付近の一気の「ドミノ倒し」な内容は、うまくまとめてあってパチパチと拍手したくなる内容。だが、この「ドミノ」をするための「準備(仕込み)」のために、場面の転換が細か過ぎて、話がコマ切れになった感は否めない。それが一気読みを阻止してしまった点であり、楽しさを削いでしまった原因でもある。←ここまで。

     最近、仕事で東京駅に2度ほど行った。本当は八重洲南口のバスに乗るはずが、間違って丸の内南口のバス停に行ってしまったので、そのおかげで東京駅の構造を覚えていたので、逆に本書の位置関係がつかめてより楽しめた。

     本書のもう一つのお楽しみは、表紙及び登場人物紹介のイラスト。これがなかなかイイ雰囲気のイラストで、多くの登場人物を覚えるのに非常に役に立った。ちなみに表紙の絵の中に登場人物達が隠れている。(表紙は東京駅を変形した俯瞰図イラストにしてたくさんの人間が描かれたもの。「ウォーリーを探せ」のような雰囲気)このイラストレーションは「SENGAJIN」という人が書いている。

    2001年11月3日土曜日
    ★★★★☆ 「ゲルマニウムの夜」花村萬月文藝春秋 1998年9月20日 p251
     僕は修道院に数年ぶりに舞い戻ってきた。社会で犯した罪から逃げるために。芥川賞受賞作。

     神と対局を為すと思われる「罪」または「汚濁」。実はそういった「社会」にしかないと思われたものが、神のいる「修道院」にもあふれている。殺人・強姦・そう爬・暴力・服従・階級・いじめ・破壊・糞尿・腐敗・蛆・臭い・痰・垢。しかし人間はある種、こういった「罪」や「汚濁」を好むものだと思うところがある。それは自分が、この胸くそ悪くなる、食欲が無くなる話の展開を読んでいても、読み止めることができない。目をそらしたいのにそらせないコト、なぜか目が向いてしまうコトだからだ。
     特に2編目の「王国の犬」が興味深い。ネタバレ→これからする予定の「罪」を先に神に「許して」もらい、そして実行する。これは許された罪である、というのは誰も思いつかなかったくだりである。←ここまで。

     本書の表紙の絵も、内容と同じく「胸くそ悪い」絵である。やっぱり見たくないのに凝視してしまう。本書はホラーではないが「恐いもの見たさ」の人にはおすすめできる。ホラーの怖さとは方向が違うが。

    2001年10月31日水曜日
    ★★★★☆ 「風の歌を聴け」村上春樹講談社 1979年7月25日 p201
     8月に帰省して、バーで酒を飲み、タバコを吸い、友と語り合い、女の子を介抱し、ラジオを聞き、レコードを買い、昔のことを思い出し、女の子を慰め、そしてまた東京に戻るまでを綴るお話。村上春樹のデビュー作。

     淡々と、淡々と話は進む。多少のトラブルがあろうと僕は僕のペースで淡々と物事をこなしていく。まるで金太郎飴のように、どこから読んでも同じ印象しか持てない内容。でも一つ一つの会話や登場人物の思考が立っていてるので、「ああ俺もこんな知的な会話ゲームを楽しみたい」と思うウマさ。本来の村上春樹固有の才能を存分に感じられた。

     メモ:ハートフィールド(1909-1938)「冒険児ウォルド」他

    2001年10月28日日曜日
    ★★★★☆ 「野山課長の空白」中場利一幻冬舎 2000年7月10日 p310
     いかつい顔つきをした田口でさえも、逆らえないのが野山課長の目だった。その野山課長はたまに会社を無断欠勤する。それが1ヶ月に及ぶこともあった。田口はその理由を野山課長と同行した東京出張で目の当たりにした。様々な世界を垣間見せてくれる短編集。

     正直な話、かなり胸クソの悪い話が多い。でもそこをさばさばと書けてしまうのが中場利一のすごいところ。大阪の西成地区は、いわゆる一般人が安易に行けるところではない、ということを知ってはいるが、その世界を”力ある者達の生き様”と”金も無いし、どうしようもないけど、ある意味、人間らしい人々の生き様”をこの短編達は覗かせてくれる。中場利一らしくて面白いのは「写真−我妻正美の災難」、逆にらしくなくてホロリとニヤリとさせてくれるのが「指輪−市川健の選択」。どの短編もいろいろな世界を見せてくれて面白いのだが、最大の欠点は、この本を買って手元に置きたいかと問われれば「いいえ」としか言えない点か。それはあまりに現実的すぎて、自分のような、読書に楽しさしか求めないタイプの人間には厳しいからである。

    2001年10月24日水曜日
    ★★★★★ 「放課後の音符(キイノート)」山田詠美新潮社 1989年10月10日 p182
     「私は、まだ恋をしていないけれど、私の周りの人たちは様々な恋模様を見せてくれる」
    そんな”準備段階”にいる女子高生である「私」が、彼女の周りにいる女の子たちの恋模様に影響を受けながら、大人への階段を上っていく様を描いた小品。

     ひとつひとつに主題があって、まとまりが良く、短いので気楽に気軽に楽しく読めた。携帯電話によって情報化が進んだ今でも、同じ情景が繰り返されているとは思えないが、それでも懐かしく、甘酸っぱいお話ばかりである。大人が読むと「失われた時代」を思い出す。高校生が読むとどう感じるかは自分にはもう分からない。でも読んで見るといいと思う。
     あとがきに「時間、お金、感情、すべてにおいてけちな人々」が悪い大人、とある。自分も半分くらい当てはまりそうなので(最近余裕が無くなっている)、ちょっと努力して「人生のいつくしみ方を知っている人たち」になろうと思います。

     この本は図書館で借りたが、実は落書きが書いてあった。しかし、それが内容に合っているので、誰も何も言っていないのかもしれない。それは「YESTERDAY ONCE MORE」の英語詩。昔を懐かしむ歌。

    2001年10月21日日曜日
    ★★★★★ 「The S.O.U.P.」川端裕人角川書店 2001年8月20日 p356
     インターネット上でセキュリティの専門家として有名な巧(たくみ)は、経済産業省から「EGG」というクラッカー集団について調査して欲しい、との依頼を受けた。ちょうどその頃アメリカでは、ハッカーたちの不審な死が立て続けに起きていた...
     川端裕人は毎回いろんな切り口でいろんな世界を垣間見せるのがうまい作家だが、今回はインターネットとオンラインゲームがその主題である。

     最初は有名な日本人ハッカー下村(数年前有名なクラッカーを捕まえるためにFBIに協力したことで有名になった在アメリカの日本人)をベースにしたクラッカー捕物帳かと思いきや、そうさせないのが川端裕人のうまいところ。「引きこもり」や「ネット中毒者」のことから、「ハッカーとクラッカー」という定義にまで至る。
     本書では、いろんなクラッキング手段を行うシーンが多数出るが、これがまた非常に現実に即していて、なかなか恐い。これを読んでTCP/IPの勉強をしないといけないと思ったほど。あとがきには「技術上のミスがあったら著者のミスです」とあるが、ミスといえるものはほとんど見当たらない、という素晴らしい出来。もちろんここでは「ザ・ワーム」や「人工知能(チューリングマシン)」という存在そのものが、「技術上の問題」かもしれないが、これは物語性の部分であるにせよ、実は決して夢物語ではないレベルの話であるからだ。ネタバレ→でも「ルータ擾乱」は確かに恐い。ルータのOSをやられたら確かに通常クラスの技術者ではどうにもならない。←ここまで。

     インターネットは「善意」で成り立っている、ということが骨身に感じた。そしてその「善意」こそがハッカー達の好意であり、それを悪用するのが「クラッカー」である。その「悪意」を削ぐために現行インターネットが終結し、国家が管理したガチガチの第2次インターネットができたとしても、それは面白くないという考え方には共感できた。なぜならインターネットは「個人」が国家や集団と唯一、対等に渡り合える場所でもあるからだ。その自由が失われてはならない。(これが本書の裏の主題)

     「ニコチアナ」などは冗長と感じられる”説明”がくどかったが、本書ではそれを感じさせない展開。ファンタジーの部分をすべて「オンラインゲーム」という設定が吸収してくれたのがよかったのかもしれない。
     本書のタイトルである「S.O.U.P.」は、主人公巧が仲間たちと作ったオンラインゲームである。これを読んでオンラインゲームがとてもやりたくなった。「ウルティマオンライン」やってみたいけど、現状のネットワーク環境・マシン環境では無理。そろそろマシンでも買うかなー。それとトールキンの「指輪物語」も読まんといかんなー(過去に挫折経験あり)。

    2001年10月14日日曜日
    ★★★★★ 「小説家」小林紀晴河出書房新社 2001年5月30日 p281
     写真家であり、フォト・エッセイストであり、最近は小説も書き始めた小林紀晴が、現代の作家にインタヴューしたフォト&インタヴュー。登場する作家は、伊藤たかみ・大鋸一正・角田光代椎名誠・篠原一・清水アリカ・鈴木清剛・清野栄一・中原昌也・藤沢周・星野智幸・村上龍・素樹文生・山田詠美

     インタヴューした作家は、メジャーな人から知る人ぞ知る、という人までいる。基本的には小林紀晴の興味のある作家が中心らしいが、本の最後にある河出書房新社の広告がかなりイヤミ。
     失礼ながら、14人の作家を区分けすると以下のような感じ。
    超メジャー既読作家椎名誠・山田詠美
    未読作家村上龍
    それなりにメジャー既読作家藤沢周(芥川賞)
    知ってる人は知ってる知っていた作家既読作家角田光代・鈴木清剛
    未読作家篠原一・清野栄一・素樹文生
    初めて知った作家伊藤たかみ(本書を読んでから読んだ)
    ・大鋸一正・清水アリカ・中原昌也・星野智幸

     全員のインタヴューの中では、やはり重鎮の村上龍と山田詠美がさすがの内容。村上龍は、現代の問題について何を作家がすべきかを考えているし、逆に山田詠美の場合は、インタヴュアーが男で相手が女性のせいもあるかもしれないが、すごくわかりやすい言葉で話をしていた。この2人に比べるとさすがに他の作家(椎名誠は除く)は、まだ若いので「力(リキ)入っている」という感じがした。村上龍は未読だが、近いうちに「69 Sixty Nine」は読んでみようと思っている。
     へんな人だと思ったのは中原昌也。写真もへんなふうに写っているし、へんなことばかり言っているし考えていて異彩を放っていた。機会があれば読んでみたい。
     清野栄一は「アジアンジャパニーズ2」でも登場しているが、その後の彼の「レイヴ」にかけた人生が見える。そして素樹文生は近作「ゆるゆる日記」でこのインタヴューのことを書いていた。逆から見るとまた違うことが見えている。この2人は、小林紀晴の友人でもある。

     本作は、最近になって小説を書き始めた小林紀晴が「小説とは何か」を聞きたくて興味がある作家たちにインタヴューしている感じが、空回りしているときがあるにせよ、うまくまとまった内容になっている。これはやはり彼自身が写真家でもあるので、写真ですべてを語ることができるせいでもあろう。

     もう買わない、もう買わない、と思いつつまた買ってしまうのが小林紀晴の魅力。ちなみに今回の長野陽一は、またまた著者近影を撮っており、最近はカメラマンとして写真集のリリースを果たした(今月号のアサヒカメラに載っていた)。

    追記:2001年10月17日
    本感想で、メジャーであるとかないとかと書いたが、それを分かりやすく調べるために、次の調査をした。

    ・検索エンジンGoogleで作家の名前を入力し、その検索結果のヒット件数が多い人がメジャー

    この方法で調査したところ次の結果が出た.(調査日10月16日夜)
    順位作家名ヒット件数
    1位村上龍30500
    2位椎名誠16700
    3位山田詠美9100
    4位藤沢周1720
    5位中原昌也1610
    6位角田光代879
    7位篠原一871
    8位素樹文生449
    9位鈴木清剛444
    10位清野栄一363
    11位星野智幸337
    12位伊藤たかみ319
    13位大鋸一正128
    14位清水アリカ104

     かなり順当だと思うけど、中原昌也が5位なのは、作家活動とは別に映画評論や音楽活動などしているため、そちらの経歴でヒットしたのではないかと思われる。旅行記系統が強い角田光代と素樹文生が思ったよりヒットしているのは、旅のホームページが多いためと思われる。逆に思ったより票が伸びなかったのは山田詠美と鈴木清剛。山田詠美はメジャーなのでファンが多い反面、未読者層が多いためかもしれない。鈴木清剛は三島由紀夫賞を取っているのだけれど、やはり芥川賞に比べたらマイナーな賞であることが分かる。村上龍のダントツは予想通り。テレビに良く出るし、作家活動も幅広いからだろう。この結果は「ネット」的ではあるが、相対的には正しい結果だと思う。

    ※ちなみに小林紀晴は1060件ヒットした(2001年10月20日追記)


    2001年10月8日月曜日
    ★★★★★ 「ロックンロールミシン」鈴木清剛河出書房新社 1998年6月15日 p149
     会社を辞めることにした賢司は、会社勤めの最後を飾る日に、仲間たちがいるマンションの一室から出社した。ファッション業界に関わることになった青年の物語。

     仲間たちのところから最後の出社をするカッコ良さ。その始まりからファッション業界に自ら仲間たちと立ち向かっていく、という話だと思ったら、ネタバレ→主役は実は、ファッション業界とは全く関係無く、たまたま友達のところで退職記念に飲み明かしただけだった、という意外な始まり。話の流れからすれば、プーとなった賢司が3人の手伝いをホイホイ買って出るかと思いきや、イヤイヤ手伝うことになるなるなど意外なことばかり。それでもやっぱり青春ものではある。しかも最後も意外な幕切れ。いや、途中の過程から見れば当然の結果であるが、すべてが元の「正しい状態」へと帰結していく。
     会社を辞めるという展開から、主人公は最後はどういった行動をとるのだろうと注目したが、やはり「元のサヤ」に収まってしまうものなのか。ガックリもしたし、またホッとしたのも事実である。もし主人公が、新たな人生を選んでいたら、それが何になったのかは分からないが、従来の小説では「新たな人生」を選んでいたのではないだろうか。そこがこの作家の、そして現代に生きる一般人の特徴なのかもしれない。
    ←ここまで。

     面白いのでほとんど一気読み。200ページもないので短かったというのもあるが、この長さがちょうどよい。

    2001年9月30日日曜日
    ★★★★★ 「アンダー・マイ・サム」伊藤たかみ青山出版社 2001年7月1日 p280
     17歳の高校生である僕のたった一つの特徴は、左手の親指が普通の人より長いことだった。そのことは、とてもとてもいやなんだけど、ケータイのメールを打つのは人の数倍は速かった。幼なじみで親友の清春は、通常より歯が一本多い。そしてみゆきは、顔に大きな傷を負って以来、高校も辞めてしまいフリーターをしている。そんな彼らの物語。

     この小説ではいろいろな人物が登場する。浮気する人、家にこもる人、焦る人、待つ人。まるで現代の病理を抱えた人達でいっぱいの、東京から遠く離れた地方都市。
     そんな中でもやはり注目すべきは、「僕」がみゆきの顔の傷を見つめてしまうシーン。人は本当は見るべきでない、聞くべきではないところにどうしても注目してしまう。みゆきがそのたびに傷つくのでは、と「僕」は思うのだけれど、飄々としているみゆき。どうすればいいのかなんて、やはり分からない。みゆきが言う通り、同情されるのが嫌い、というのは事実だからだ。
     ネタバレ→本書のエピローグは、非常にきれいにまとめられた言葉達であふれている。「誰かが誰かを待っているのっていいよ」、とメールのReの重要性(もちろんメールだけの話ではない)が書かれている。自分がここにいることを確認すること(例えば日記を書くこと)についても書かれている。実際の高校生でここまで行き着くことができるかは疑問だが、なるほどと思うし、本書の主題でもある。←ここまで。

     最近の高校生って、こんなに簡単に万引きをしたりするのだろうか。また授業もこんなに簡単にサボってしまうものなんだろうか。時代の違い、空気の違いを感じた。

    2001年9月22日土曜日
    ★★★☆☆ グインサーガ80「ヤーンの翼」栗本薫早川文庫 2001年8月15日 p314
     ついに80巻に到達。前巻の内容からすると、ここから何かが動く内容かと思ったが、まだ準備段階のまま。イラストが末弥純になって初めて吟遊詩人としてのマリウスのイラストが出たが、ちょっとイメージが今までと違い過ぎる。これではスナフキンだ。
     栗本薫は以前は「あとがき作家」と言われ、面白い「あとがき」が多かったのだが、70巻以降は愚痴が多い。もう少し気楽にやって欲しいとは思うものの、作家も年齢を重ねることによりいろんな葛藤があるのかもしれない。周りは気にせずに好きにやって欲しいと思う。

    2001年9月18日火曜日
    ★★★★☆ グインサーガ79「ルアーの角笛」栗本薫早川文庫 2001年6月15日 p286
     あー、やっぱり主役が出てくると面白い。グイン・サーガって主役が確率3分の1でしか出てこない話なので、主役が出てくると話に重みが出て面白くなるのだ。この巻では、あとがきにもあるようにケイロニア、パロ、ゴーラの3国がついに同じ戦場へと集まる「三国志」の幕開けでもある。各軍がじわっ、じわっと集まってくる様はぞくぞくしてきた。次巻もすぐに読む予定。

    2001年9月16日日曜日
    ★★★★★ 「ザ・ゴール」エリヤフ・ゴールドラット
    三本木亮訳
    ダイヤモンド社 2001年5月17日 p552
     工場長であるアレックスは、工場内でしょっちゅう発生するトラブルの対応に追われていた。そんなとき上司である副本部長ビルから「三ヶ月以内に工場の業績を上げなければ工場を閉鎖する」との通告を受けた。ここからアレックスの奮闘が始まる。

     自分は基本的にビジネス書のたぐいは全く読まない。あの手のものはほとんどが「説教書」だと思っているからだ。でもこれは小説だから読んだ。それは村上龍が「面白い」との推薦文を書いていたので興味を持ったからだった。(逆に言うと小説嫌いな人には読みにくいのかもしれない。500ページもあるし。)でもこれが面白い。工場の生産性を高める方法について書いてあるのだが、非常に分かりやすいのだ。例えもうまい。小学生を遠足に連れて行くときに、どうやったら児童達全員をうまく管理して目的地まで連れて行けるか?という問題の解決は、「管理」という意味合いを考えると非常にうまい。(ただし、これが児童にとって楽しいかは別。好きな友達同士で一緒に歩けるわけではないので)
     「ボトルネック」を見つける過程にドキドキし、それを活用し高めていくシーンは読んでいて「ヤッター!」という感激を味わえる。ただし「問題」を解決しきらず、この小説は終わる。いろいろと生産性を高めれば高めるほど、また新たな問題が発生していく過程には、身につまされた。自分の現在の仕事の専門は「PDM」と呼ばれるものだが、本書では「PDM」に程近い、「SCM」にも関係ある。もしかしたら仕事にも役立っちゃうかもしれない(そんな効果までは考えていなかったが)。

     「あとがき」、「訳者あとがき」、「解説」は、必読。ここはビジネス書の部分ではあるが、本書の背景が分かって面白い。例えばアメリカで1984年にベストセラーになったのに日本ではずっと翻訳されなかったのは、作者が「日本でこの手法が使われたら貿易摩擦になってしまう」と拒んだため、だったというのは面白い。だからといって「あとがき」等だけ読んでも、本書はやはり理解できない。ビジネス書として読むにしても、やはり本文全部を読んでこそ、意味がある本である。

    2001年9月9日日曜日
    ★★★★★ 「華胥の幽夢」十二国記小野不由美講談社X文庫ホワイトハート 2001年9月5日 p365
     圧政を行う扶王(ふおう)を倒し、自ら昇山して才国の王となった砥尚(ししょう)。しかしその治世が20数年に及ぶにいたって采麟(さいりん)が失道した。大きな失政も無いはずなのに、なぜ? 冬栄を含む5編の短編集。

     どの短編も面白いが、現実世界に通じるものがあった、「書簡」、「華胥」が考えさせられた。法律では差別が無いといっている国でも、実際には差別があること。理想の国と実現可能な国は違うこと。他者を非難することについて。そして世の中にはできる人ばかりではないこと。良く考えてみれば、どれも当たり前のことなのだが、人は表面ばかりを見ていて、それらを忘れてしまう。そんなことを仮想世界「十二国」でも感じた。
     十二国記的に面白かったのは、「帰山」。ネタバレ→利広と尚隆の会話は暗示的で恐いものだ。相互の国の破滅の姿は、ありうる想像だからだ。永遠の生も王朝も実際にはありえない。「天」は確かに何のために「王」を作ったのか王自身がそれを考えてはいけないのかもしれない。←ここまで。この短編では、全く破綻無しに「十二国」のシステムを描き切る小野不由美の実力が十二分に発揮されている。他の作家の多くは、自分が作った異世界を使い切れていないのだ、ということを強く思う。だからこそ「十二国記」は面白い。

    2001年9月4日火曜日
    ★★★★☆ 「上と外 6みんなの国」恩田陸幻冬舎文庫 2001年8月25日 p214
     またまた危機に陥った練と千華子。そしてクライマックス。

     恩田陸は基本的にはハッピーエンドな小説家(違うのもあるにはあるが)なので、大団円だろうと思ったので面白くないかなあ、と思ったらさすがにそこは恩田陸。ハラハラドキドキ感がうまい。この本は電車の中で読んだのだが、特にビクッとするシーンのときにちょうど電車が動いて揺れたので非常にビビッた、というシンクロ感も味わったので評価が高いのか?ネタバレ→谷にあるピラミッドの描写は秀逸。風景が目に浮かんで本当にハラハラドキドキで面白かった。フリークライミングが趣味の練に壁を登らせる、というベタな展開ではあったにしても、である。ピラミッドの崩壊シーンなんかも映画を見ているよう。←ここまで。

     俺も大人になってしまった、と思えたのは冒険の面白さもいいけど、2巻の政治やシステムの話が一番楽しめたと思ったこと。そーやって人は大人になっていくのか?

    2001年8月30日木曜日
    ★★★★★ 「東亰異聞」小野不由美新潮文庫 1999年5月1日 p443
     帝都「東亰(とうけい)」。明治も20年を過ぎた頃、開化の時代を巻き戻すような「火炎魔人」や「闇御前」が帝都を徘徊し、事件を起こしていた。大衆紙帝都日報の記者平河新太郎は、便利屋の万造とともに事件を追ううちに、ある華族に会う。

     最初がとても読みにくい。いきなりの古典調の文面、よくわからないモノたち。案内人新太郎が現われて、やっと物語は回り出す。ネタバレ→読みにくい、と思ったのはどういう話か、見えなかったから。でも新太郎が出てきて見えてくると、最初は「物の怪」モノかと思ったら、推理を重ね、お家騒動の風景。話は推理小説、しかも「普通の人」達が、からむ「普通の殺人事件」の様相を見せはじめる。ただ、もう一人の案内人「黒衣」が出てくるときにだけ、闇が増す。そして、衝撃?の犯人の告白。登場人物の中に犯人がいる、セオリー通りの展開。つまらないな、と思った。そのとき一陣の嵐がすべてを変えていく。濃い闇と水上に浮かぶ新たな闇の帝都「東亰」を残して。その水の帝都「東亰」は、怪しくも不思議な美しさを醸し出す。この最後の展開の美しさ、恐ろしさ、これが小野不由美の持ち味なのだ。←ここまで。

    2001年8月16日木曜日
    ★★★★★ 新装版「毎日が冒険」高橋歩サンクチュアリ出版 2001年8月8日 p362
    ★★★★☆ 「サンクチュアリ」高橋歩・
    磯尾克行
    サンクチュアリ出版 1999年
     大学進学→卒業→就職→結婚→子供誕生→マイホーム→中間管理職→浮気→和解→定年→老後、という普通の人生はいやだ、と思っていた作者高橋歩。だからといって何かをしたいという「夢」も無い。そんな彼が夢を見つけようともがき、実現していった日々を綴った自伝。しかも作者24歳のときの自伝。(現在28歳)
     沖縄を旅行中に沖縄本島近海の水納島の民宿で同宿だった旅人から薦められて彼から借りて読んだ本。その旅人は、3年前に2度目の沖縄で渡嘉敷島で出会った家出少女に薦められて読みはじめたそうである。人に薦められ、その本をその場で貸してもらわなかったら、自分が通常読む本ではない。旅をしているとこういったこともある。

     「毎日が冒険」は、ハチャメチャで面白い。カウボーイにあこがれてアメリカに行ったり、路上で弾き語りをしたり、ケンカをしたり。そして怪しげな「成功哲学合宿」2泊3日10万円に参加したり。(←この内容凄いけど、10万は高い。ぼったくり?)そして映画評論では悪いイメージしか自分は持っていなかったトム・クルーズ主演映画「カクテル」にあこがれて店を仲間たちと開こうとする。個人的には一番凄いと思ったのはここでの借金の話。4人の大学生が600万円を集める話がスゴイ。究極的にこの作者高橋歩がスゴイと思ったのはこの借金の話。友達に借金を申し込むのはキツイ。今後の友達との関係が0か100のどちらかにしか転ばない。それでもしなければいけない、という状況には自分は追い込まれたことがない。修羅場をくぐった数だけ人間はやはり成長するのだろうか。
     その後、1994年2月に店は開店、努力の甲斐あって成功。「死んだらゴメン」という超硬派なイベントをやったり、インドに行ってサイババに会ったりする。店は店舗も増え、社長となり経営を始める。ここで普通なら終わるところだが、すごいのは「これでは自分の嫌いな普通の上下関係のある会社になってしまう」と思って会社を辞めてプーになってしまうこと。そして今度は自伝を出そうということで自由にやりたいから自分で出版社「サンクチュアリ出版」を作ってしまう。そしてついに本を出す(1995年12月)、というところで「毎日が冒険」は終わる。

     「サンクチュアリ」はその続編。実は最初の自伝の出版は失敗し、第2段・第3段の本もコケて、借金が3000万に膨らむ。そして仲間達も耐え切れず去っていく。やっとの思いで出版した次の本が売れ、少しづつ力を貯えていく。そして再度自伝として「毎日が冒険」を出版。最初は全く売れなかったが、街頭ゲリラライブをやったりテレビに出たりしてついには書店の売り上げベスト10にも入る売り上げを記録。しかし1998年8月31日を持ってサンクチュアリ出版も解散し(現在は別スタッフが経営)、またまたプーになる。そこで結婚したばかりの美人妻と世界を旅する「グレートジャーニー」へと旅に出る、という話。こちらは「毎日は冒険」よりは短いし、後半は「スピリチュアル」なことについての掲示に終始するが、なかなかいい言葉多し。
    とか
    など。ちょっとカッコつけ過ぎだけど重要なお言葉達。

     今回は珍しく本の大まかなストーリーを書いてしまっているが、これでも実際の10分の1も書いていないので読んでみるとより面白さが分かる。本書は一時期ベストセラーにもなっていたらしいが自分は全く知らなかった。

    黄色い看板と白い看板がある  さて現在高橋歩は、その「グレートジャーニー」から帰ってきて沖縄で「島プロジェクト」なるものを開始し、現在沖縄県読谷村にて「ビーチロックハウス」を営業中。というわけで、8月16日に初めて読んだ作家に会いに8月18日に最寄りのバス亭「都屋」から歩いて10分の「ビーチロックハウス」に行った。ちょっとわかりにくいところにあるが、小さいながらも看板が出ていた。
    狭いけど、なかなかいい感じのプライベートビーチ  午後3時ではあったが店は営業していたのでドキドキしながら入った。いかにも「ロック」だけど開放的な空間。とりあえずホットドック200円とオレンジジュース350円を頼んで適当に座る。いろいろ見ると分かるが本来は夜向けのバーである。でも昼向けにタコライスや沖縄そばなどもメニューにはあった。さて周りを見回すと、若い兄ちゃん姉ちゃんがガヤガヤおしゃべり。そして後から店に入ってきたアゴ髭の兄ちゃん。ムムムと思ったが、とりあえずプライベートビーチなどを見てみたり。

     食い物も食いおわったので、どうしようかと思ったけど、思い切ってスタッフに声をかけてみたらやはりアゴ髭兄ちゃんが高橋歩氏当人であった。いやー作家本人と話したのが初めてだったのでなんか変な気持ち。5分ほどいろいろと話してみたが、沖縄が気に入ったので沖縄に住んでいるとのこと。そして渡嘉敷にある島をパラダイスにするプロジェクトをやっていることなどを聞いた。見た目は本当に普通の若者。もっとヤバイ人かと思ってビビッてたけどそんなことは全く心配いらなかった。最後に握手をして別れたが、うーんなんか幸せな気持ち。普段やったことがない事をやった達成感というのが大きかった。台風のせいで旅の予定が狂ってちょっとブルーだった気持ちが完全に晴れた。

    ・高橋歩ホームページ:http://ayumu.ch
    ・「毎日が冒険」オリジナルは1997年10月発売。

    2001年8月4日土曜日
    ★★★★★ 「ジャンプ」佐藤正午光文社 2000年9月25日 p309
     あなたにもないだろうか、あのときあんなことがなければ/しなければ、もっと違う人生を歩んでいたかもしれない、という想い。アブジンスキーを飲んで酔っ払った三谷は、ガールフレンドの南雲みはる に介抱されながら彼女のマンションに連れて行かれた。南雲みはるは、三谷のためのリンゴを買うために近くのコンビニに出かけた。そして彼女はそのまま戻らなかった。誰にも何の連絡もなく。

     最後まで読み終わると分かるが、読後は「後悔」・「謎」・「気持ち悪い」の感触が残る。でも、読後感が悪いわけではない。逆に自分のことを考えてしまう。あのとき、ああしていたら今頃は、という既にもう意味をなさない想い。年齢が高い人ほど共感出来るし、「後悔」しないためにも若い人が読むのがいいかもしれない。

     ネタバレ→ついに三谷とみはるが再会し、すべての「みはるについての謎」が氷解するシーン。これは恐怖でもあり「気持ち悪い」というほどの事実の照覧。でも「謎」をこれ以上追求できない自分。ありきたりの男女の話でもあるのだけれど、表を裏に返すと物事は全く違ってみえる。この謎解きと結果は、良く考えればありきたりであっても、一人一人にとっては重要な事実なのだ。「ありきたりの出来事ではない」と思って駆け回った三谷の行動が、事実を「ありきたりの出来事」に変えていく。三谷だけに見えない事実。皮肉なんだろう、と思う。
     「秘密」は最後の数ページで真実が明らかにされるが、本書は最後の数ページで「謎」が残る。解明すべきではない「謎」が。タイトルは「ジャンプ」だが、本書こそ「Y」のタイトルが似合うのではないだろうか。
    ←ここまで。
     佐藤正午といったら恋愛小説だが、今回もそれがいかんなく発揮されていて、「ライティング・ビューロー」とか「BOH・TEAのアールグレイ」とか「スペインの香水デュエンデ」とか「横浜のバーニーズ・ニューヨーク」とか「新宿のフルーツパーラー」とか「テラコッタ」とか「ポール・スミス」とかがさりげなく登場する(ほとんどのものの意味が分からないのが如何にも俺らしい)。これらがどうだというわけではないけれど、恋愛小説に女性の好きなモノの登場は必須だ。
     「Y」と違って、別にファンタジーやSFな面も無く、「時間」だけが通り過ぎていく本作。そんな小道具を使わなくても「時間」という「現実というファンタジー」だけで、書ききる力は、佐藤正午の充実ぶりを示すものだと思う。面白かったので一気に読んでしまった

    メモ:松本清張「熱い絹」
    「アブジンスキー」→アブサンとジンとウイスキーを混ぜて作るカクテル。「アースクエイク」とも言う。

    2001年8月3日金曜日
    ★★★☆☆ 「ライオンハート」恩田陸新潮社 2000年12月20日 p293
     不景気のさなかにある1932年のロンドン。親の借金を背負い、大学も辞め、友人にも恋人にも見捨てられたエドワードは、絶望のなか、街をさまよっているうちに女性冒険家エアハート嬢の到着を待つ群集の中に紛れ込んでしまっていた。その彼に向かって一人の美しい少女が、苦しい息を吐きながら近寄っていった。不思議な運命にとらわれた、男女の逢瀬を結ぶ短編集。

     恩田陸としては、異色の作品だと思う。まず日本人が出てこないこと。基本的に恋愛ものであること(今までも恋愛の話はあってもそれは主題ではない)。そして、ネタは平凡だけど、お話がきちんと収束していることが挙げられる。恩田陸は、ネタの発想が他の作家と違う、というポイントは非常に高いのだけれど、物語の最後を意図的に発散させて、読者の想像に任せる、というのが作風であるし、持ち味である。それが全く無いので新しい恩田陸が見える作品でもあるし、悪く言えば他の作家でもできるのは?というマイナス面もある、というのが本作の最大の特徴。
     ネタバレ→とはいったものの、最後の短編「記憶」でハッピーエンドでかつ、「終わり」という感覚を味わえたのは、それはそれでよかった。この短編では、庭をきれいにしていくうちに温室を発見するが個人的には東屋のほうが欲しい(どうでもいいことか)。←ここまで。
     短編「イヴァンチッツェの思い出」では、同題のミュシャの絵が出てくるが、このツバメが教会の尖塔を回る風景というのは、いかにもヨーロッパ的で目に浮かぶ風景である。ミュシャがこんなダイナミックな絵も描いているとは知らなかった。

     この本の不運は、SMAPの「ライオンハート」が有名になったころに、ちょうど売られはじめたので、売名行為ととられたかもしれないこと。たまたまなんだけど。

    メモ:イギリス人歌手 ケイト・ブッシュ セカンドアルバム「ライオンハート」1978年
    lionheart 勇猛(英和辞典より)

    2001年7月29日日曜日
    ★★★★☆ おいしいコーヒーの入れ方X「緑の午後」村山由佳集英社JBOOKS 2000年12月30日 p223
     仲直りした勝利(かつとし)とかれん。ただし、勝利にはどうしてもしなくてはならないことがあった。かれんのために。

     まあ、今回は状況の変化により2人の関係が今後どうなっていくのか、というつなぎの巻。とくに勝利とかれんの間に今後の予感を感じさせる展開はたくさんあるけど、今回は安定モード。ネタバレ→今回の最大の見所は、勝利がフってしまった女の子”りつ子”との関係修復の部分にあるでしょう。最初は最悪です。すっかり今までのキャラクターを忘れて読みはじめたので、りつ子はいやな女だったけ、と思うほど。フった後も男女の友人関係が続くかは疑問だけど、りつ子がけなげでいいです。←ここまで。今巻のお言葉は「自分より先に相手のほうを想ってしまうこと」。なるほど恋愛とはそういうものかもしれない。

     今巻はおまけで、かれんの弟、丈の視点から見た2人と自分についての短編がついてます。これもなかなかです。

    2001年7月25日水曜日
    ★★★☆☆ 「ニコチアナ」川端裕人文藝春秋 2001年6月15日 p363
     メイは、ついに開発に成功した「無煙シガレット」を武器に、ビジネスの世界で力を試そうとしていた。すでにオハイオ州では禁煙法が成立し、合衆国憲法にもそれが適用されるのでは、という「時代」。そして禁煙活動家が実力行使に出る「時代」。メイは突拍子もないカルロスとビジネスパートナーとしてのパットともに活動を開始した。長い旅とともに。

     さて、まず感想を述べる前に批評者である自分の立場を明確にすると「嫌煙派」です。しかも、禁煙の場所でタバコを吸っている人がいると、相手が弱そうな場合に限り注意するくらいの「嫌煙派」です。(高校生・青年などが吸っていてた場合は、自分の身に危険が及ぶ可能性があるので注意しない。オヤジ1人のときのみ注意する)
     ネタバレ→ファンタジーな側面と現実世界の側面が細かく行ったり来たりするので読みにくかった。今までの著作「夏のロケット」「リスクテイカー」などもファンタジーな側面が、往々にしてあったが今回はちょっと物語の内容をあやふやにしてしまうときがあった。
     タバコの問題は、個々人において微妙な側面もあり、自分もそれを常に意識していたから読むのが偏っていたせいもあり読み疲れた面も見逃せない。(個人的な問題でもあるが)
     そういった側面もあり、評価は低めだが、川端裕人の調査能力・切り口の斬新さ・話題の豊富さは、毎回舌を巻くものがある。タバコの栽培種タバカム・ルスティカにはじまり、タバコモザイクウイルス、トラスポゾンの問題などよく調べている。そして時折光る描写はやっぱりうまい。緑に覆われた摩天楼の情景は、異様で、行ってみたくなる場所でもある。
     「喫煙は時間を微分する」という考えも面白い。区切る、というのは周りの喫煙者を見ていると分かる行動である。それと痛い言葉も一つ。「非喫煙者は喫煙者を憎むだけのオートマティックな感情機械」という言葉。それは確か。
     最後の方で「依存(アディクティッド)」という言葉が出てくる。自分がタバコを吸わない最大の理由は「匂いが嫌い」なのだが、もう一つ「ハマってしまう」ことを恐れているせいもある。一本ぐらい吸ってみたいという欲求が全く無いわけではないが、それができない・したくないのは「依存」を恐れているからともいえる。
    ←ここまで

     ぐあー、っと、このようにタバコの話は感情論に左右されてしまうので正常な判断は、嫌煙者にも、喫煙者にもできないでしょう。嫌煙者なので禁煙法などができたらうれしいと思う反面、なんでも法律で縛ると世の中つまらないと思うし。タバコを吸っている人を見るとやはりカッコイイと思う事はあるし、タバコ友達ができるのは、それはそれでうらやましかったりする。でも基本的には嫌煙者であった。(ほとんど感想ではない)

    2001年7月9日月曜日
    ★★★★★ 「DIVE!! 2スワンダイブ」森絵都講談社 2000年12月10日 p194
     中国で開かれるアジア合同強化合宿のための選考会が始まった。伝説のダイバー沖津白波の孫である沖津飛沫は、無難に制限選択飛び(規定競技のようなもの)をこなしていた。待望のDIVE!!の第2巻。

     ネタバレ→第1巻の書き出しでは、かっこよく飛沫が登場したので彼が主人公だと思って読み進めたら、トモが主人公だった。そういう話なんだと思って第2巻に挑んだら、なんと第2巻では飛沫が主人公になっていた。この裏切りはうまい、うますぎる!それは、苦闘の中にいる人物を主人公に持ってきている点。第1巻では、迷いの状態にあったトモが自分の能力に目覚めていく。第2巻では、失望の渦に巻き込まれた飛沫をメインにすえる。実際、トモが主人公で合同合宿のシーンを書いても、飛び込みの技術的・精神的な話に終始してしまい、つまらなくなったに違いない。うまく作者に乗せられてしまった、という感じ。
     というわけで近日発売予定の第3巻の主人公を予想してみた。
    1. ◎ 本命:トモ(2人が交互に主人公の場合)
    2. ○ 対抗:要一(3人が交互に主人公の場合)
    3. △ 穴 :飛沫(うーん、連続はないのでは?)
    4. × 大穴:夏陽子(案外、ありそう)
     まさか他のコーチ人や他の選手ということはないと思うけど...
    ←ここまで

     飛沫と恋人恭子のラブラブ感が非常に好感が持てる(中学生以上向け)。いなかの風景とか、夏休みの風景とか。借りずに買ってもよかったなー、と思っているシリーズ。

    追記:本書内の世界での日本の第一人者として、「寺本健一郎」という物語には登場していない名のみの選手が登場するが、現実世界の今の日本の第一人者は「寺内健」という名前の選手。いやーなかなか。

    2001年7月8日日曜日
    ★★☆☆☆ 「変身」フランツ・カフカ
    中井正文訳
    角川文庫 1968年11月20日改訂 p192
     ある朝、グレゴール・ザムザが不安な夢からふと目覚めてみるとベッドの中の自分の姿が一匹のとてつもなく大きな毒虫の姿に変わってしまっているのに気がついた。という有名な一節で始まる「変身」と「ある戦いの描写」をおさめた短編集。

     はっきりいって面白くなかった。なんで面白くないか、考えてみた。
    1. 訳者がへた。
    2. 改訂版になって文が現代仮名遣いに改められたとは書いてあるが、それも既に文が古すぎて硬すぎる文となっているため読みにくい。
    3. 「解説」に書いてあるが、カフカより後の作家たちは彼の影響が大きいと言っているが、それらの作家たちの「より進歩した洗練された」文章をすでに読んでいるために、オリジナルはアイデアの面白さ以外は粗削りで面白くない。
     こういうことなんだと思う。

     それでも、話の筋は読めても「変身」は、まだ面白かった。しかし「ある戦いの描写」は苦痛でしかなかった。うだうだしていてつまらなかったからだ。でも書き方や登場人物の行動や心の動きを見ていると「洗練されていない村上春樹」のような印象はあった。原書で読めばまた違うのだろうけど。

    2001年7月2日月曜日
    ★★★★★ 「風葬の教室」山田詠美河出書房新社 1988年3月25日 p167
     転勤が多い仕事を父がしているために、転校を繰り返してきた小学五年生の杏(あん)。彼女はすでに「私」というものができあがっているため、周りの子供が「子供」に見えた。彼女の目には大人であっても「子供」な人間や、子供だけど「大人」な人間や、流されている人間や無垢な人間を見て取ることが既にできた。しかし、彼女はまだ小学五年生のためにはみ出ることはできなかった。他に「こぎつねこん」を含む短編集。

     「風葬の教室」は淀みなく話が進み、終わる物語。山田詠美の文章を紡ぎ出す能力の高さをひしひしと感じた。しかもそれを非常に平易な文で書く。独白する主人公が小学五年生なのだが、その主人公に合わせているために文には全く無理が無い。だからこそ、文章のうまさを感じ、そして主人公の心の動きを生身の人として感じ、残酷な世界に立ち向かう心を感じた。
     ネタバレ→どんどんと周囲の嫉妬に包まれていくシーンは辛すぎて2日間も全く読み進められなかった。でも覚悟を決めて読んだらすらすら読めた。学生の頃の、そして今、周囲にいる人達の「人間としての方向性」とか「大人な子供・子供無大人」について想いを巡らしてしまった。あのいじめっ子達の心に楔を打ち込むためにはなんといえばよかったのか、あの気に食わないおやじに「軽蔑」という名の楔を打ち込むにはどうすればいいのか、とか。もっと重要なことは別のところにあるのだけれど。←ここまで。

     「こぎつねこん」も「風葬の教室」と同じ子供の視点からの小説かと思ったら、こちらは回想型。しかも、かなりの短編なのに「風葬の教室」よりも精読を要し、時間がかかった気がした。
     ネタバレ→幸福なために、その幸福が奪われたときの恐怖について書かれているが、確かにこれは真実である。普段はすっかり忘れているが、だからこその恐怖である。たぶん自分は、この感情の制御ができていない・分かっていないのでこれ以上は正しく理解できていない。精読が必要な難解なお話。←ここまで。

     薄いので簡単に読み終わるだろうとタカをくくっていはいけない、ということを学んだ。

    2001年6月29日金曜日
    ★★★★☆ 「風に桜の舞う道で」竹内真中央公論新社 2001年6月7日 p340
     リュータが死んだという噂を聞き、予備校時代の親友ヨージに連絡をとった。10年前、特に人生の目的も無いまま、浪人生となったアキラ。運良く予備校の特待生試験に受かり予備校の寮で暮らすことになる。四月、バスで桜花寮に到着したときに乗り合わせたのがヨージとリュータの2人だった。アキラにとって、とりあえずの目標がある1年が始まる。

     1990年と2000年の2つの時間が同時に進行していく階層(回想)小説。最初は突然ブツブツと話の流れが切れるので読みにくかったが、慣れるとこれはこれで面白い構成だった。10人の浪人生が登場するが、みな個性豊かに描かれている。特にタモツとゴローの今と10年前の考え方生き方の違いが、リュータという強力なキャラクターにより支えられて、男の友情って感じでうるうるものである。特に喧嘩のシーンなど。若くて同じ年代で同じ目的・目標をもった人々が同じ時間と場所を共有する幸せを感じた。
     相変わらずだが、竹内真の構成は非常にうまいと思う。全体の構成を考えてから、細かい筋を書いていくスタイルが確立していて読みやすい。ただ、幕間といえるシーンが何となくつまらないときがあり、物語に集中できないことがある。ここらへんがうまくなればもっといい作家になるはずだ。
     作者略歴をみると1971年生まれなのに1995年も慶応大学に在籍しているので、作者自身が浪人していた可能性は非常に高い。前作(↓)に引き続き身を削っているようなだが、作家というものはそういうものなのだろう。それだけ経験豊富で自分の経験をより膨らませることができる人だけが作家という職業になれるのかもしれない、などと考えた。

    2001年6月22日金曜日
    ★★★★☆ 「粗忽拳銃」竹内真集英社 2000年1月10日 p325
     酒を飲んだ帰り道、ゴミ捨て場で拾った拳銃。モデルガンかと思って撃ってみたら、それは本物だった。その一発の銃声が、彼ら4人の人生に新たな局面をもたらしていく。

     「カレーライフ」同様、青春群像もの。登場人物として見習い落語家・若手映画監督・売れない演劇人・見習いライターが出てくるので、職業の風景が描かれる。特に下北沢界隈の雰囲気の「好ましさ」がにじみ出ていてほのかに楽しい。
     ネタバレ→落語ネタがうまい、面白い。特に「寿限無」→「銃ゲーム」のたとえは座布団一枚もの。
     前半は話がとても突っ走っていて面白い。落語・映画・演劇という各々の世界の若手表現者たちの競演が、とても興味深くて楽しい。ただ銃ゲームが始まった辺りから少しずつ話は苦しくなっていく。特にラストの暴力団とマニアの激突も温和に解決し過ぎている気がした。拳銃発砲・所持をこの程度でうまく暴力団のせいにできるとは思えないような気がする。
     「カレーライフ」のときから感じていた、ある種の文脈(テイスト)は本書では粗削りな分、気付いた。それは「落語調」な文脈。作者ホームページからも分かるように落語も得意分野なのである。
    ←ここまで。

     拳銃が出てくる小説なのに、全く暗くない小説は作者ならではという気がする。本書は第12回小説すばる新人賞受賞作。また本作とは関係無いが作者ホームページがあり、作者が如何にカレーや落語を愛するかが分かる。それらを本作と「カレーライフ」で消費した今、作者の次回作が正念場だと思われる。

    2001年6月19日火曜日
    ★★★★☆ 「縁切り神社」田口ランディ幻冬舎文庫 2001年2月25日 p214
     男と別れた心を癒すために、京都を一人旅をしていた。そんなとき「安井の縁切り神社」という神社を見つけて女は、そこに入っていった。
     表題作を含む”女にとっての別れ”を主題においた12の短編集。

     1作1作が短いので非常に読みやすく面白かった。特に「世界中の男の子をお守りください」が秀逸。多少ケレン味(ネットのお気に入りに田口ランディのコラムを追加するくだり)はあるものの、すごく爽快な女性の想いがうれしくて楽しかった。
     「悲しい夢」を読むと思い出したのが、凶悪事件の風化のこと。ここでは新潟監禁事件の話が出ているけど、そういえば昨年末の世田谷一家惨殺事件もまだ解決していないことをこれを読んでいて思い出した。人の記憶は風化していく。忘れることの必要性と忘れてはいけないことの重要性を思い出した。
     ネタバレ→誉めているのに評価が4なのは、各主人公が異なる短編集なのに、全員の感情描写が似過ぎてないかという点が気になったため。主題が”男との別れ”の話が多いために、出てくる主人公たちの心の独白が似たり寄ったりだったせいかもしれない。最後まで読んでいくと「似ている...」という印象が残ってしまう。話の切り口は非常にうまいので、書き方(文体)をケースにより変えてあったらもっと楽しめると思う。短編集だったので余計にそう感じたのかもしれないのだけれど。←ここまで。

    2001年6月17日日曜日
    ★★★★☆ 「上と外 5楔が抜ける時」恩田陸幻冬舎文庫 2001年6月25日 p213
     不気味なほど静かに進むクーデター。その頃遺跡でも、事態に変化が現われる。

     ネタバレ→ナニー、これは最終巻ではなかっただとー。最後の方でまとまりそうだったので終わるかと思ったら、楔が抜けて秘密が明らかになったところで終わってしまった。まあ表紙の見返しに書いたあったのを読み終わってから気づいたので、いい意味でドキドキしながら読めたけど。
     世界電子政府というのはいいかも。これだけインターネットが広がったということは世界中の人が共通認識ができる「場」ができたともいえる。あまりに理想的すぎるけど持ってみたい理想だ。
    ←ここまで。

     しかし、幻冬舎文庫って発売日は25日だけど、だいたい10日には売っているのだから、そう発売日を書けばいいのにと思った。

    2001年6月15日金曜日
    ★★★★★ 「蛍・納屋を焼く・その他の短編」村上春樹新潮社 1984年7月5日 p177
     「ノルウェイの森」の元となった短編「蛍」を含む短編集。

     この短編集の中で一番面白かったのは「踊る小人」。小人の踊るシーンのウキウキした心踊る楽しい気持ち(体の隅々が反応して素晴らしい踊りを踊る楽しさを感じた)、象を組み立てる工場という想像力、そして小人との契約の話と顛末。これらのバランスが非常に良く取れていて、絶妙な小説となっている。どれか一つの主張が強すぎても、ファンタジー小説や説教小説やケレンな小説となりかねないからだ。
     「蛍」は「ノルウェイの森」そのものである。全く同じじゃないか、と文句をつけたくなるくらい。でも逆に「ノルウェイの森」を思い出しながら読めたので楽しかった。他の短編も「ノルウェイの森」や「パン屋再襲撃」と同じ匂いがした。これが村上春樹の持ち味なのだろう。飄々として意味も無く思い浮かべた情景に取り込まれ、そして取り込まれても全く慌てずマイペースを保ち続ける、という雰囲気。あとがきからもそういった雰囲気が感じられた。

    2001年6月11日月曜日
    ★★★★☆ 「上と外 4神々と死者の迷宮(下)」恩田陸幻冬舎文庫 2001年2月25日 p155
     ついに始まることになった「成人式」。そのころ日本でも情報が集まり出す。

     ネタバレ→成人式から逃げちゃうというは予想外。これでどうやって終わりにするんだ、という状態。しかも人の流れが収束していく。
     ロッククライミングを趣味にするというキャラクター造形はこういう所では役立つだろうが、これを十分に意図的に生かしきらさないところが、逆にうまいと思った。あまりに露骨すぎなくて。
    ←ここまで。

     最終巻も買ってあるので、近いうちに読み終わるはず。

    2001年6月9日土曜日
    ★★★★★ 「ノルウェイの森」村上春樹講談社 1987年9月10日 上p267下p260
     「ノルウェイの森」の演奏を聞いたとき、あのころの、若かった18年前のことを思い出す。記憶という不思議なものによって。

     あまりに有名な村上春樹のベストセラー。これは20歳の頃に読んでおくべきだったな、と思う。たぶん、自分はいろいろ問題は多いにせよ、幸福に育ったせいか、こういった人の別離の問題については感じたことがない。生者は死者と共に生き続けなければいけない、という感情は知らなかった。

     直子はともかく、緑という女の子はかわいい。自分の思った通りに、生きたいと思うように(周りから見れば)生きているからだ。坊主頭の女の子なんて、発想が楽しい。

     下衆な見方をすると、これはエロ小説よりも楽しめる、というか刺激的だ。純文学がそういうものだということは知っていたが、刺激的だ。ネタバレ→とくにレイコさんが美少女に迫られるシーンは、ヒョエーな内容。「白夜行」の内容だったらとんでもない展開になるので、そうなるかと心配したが、この美少女はただの中学生レベルだった。安心。←ここまで。

     「ノルウェイの森」という曲は聞いたことはあるはずだが、全く思い出せずに読んだ。知っていたらもっと楽しめただろうか。個人的にはたまに思い出す私的なバックグラウンドミュージックがあるが、それは曲名も知らない。そんなやさしい旋律なんじゃないだろうか、と思っている。

     それと「やれやれ」というセリフがなんだかおかしくて楽しい気分にさせられた。ワタナベが本当に楽しいときにしかこのセリフを言っておらず、そこは気楽に読める部分だったせいだろうか。

     表紙には何も文字が無く赤と緑だけの美しい装丁の本。ベストセラーになる価値のある本。そして、非常にinterestな小説。

    資料:F・スコット・フィッツジェラルド「グレート・ギャツピィ」「夜はやさし」、ジョン・アップダイク「ケンタウロス」、死後30年以上経った作家。トーマス・マン「魔の山」、ねじを巻く、フォークナー「八月の光」。

    2001年5月28日月曜日
    ★★★★☆ 「国道20号線」小林紀晴河出書房新社 2001年1月20日 p204
     東京から甲府を抜けて信州へとつながる国道20号線。そこに生きる人達のつながりとつながらない思いを淡々と描写していく小説。

     「ASIAN JAPANESE」以来、フォト・ノンフィクションの分野で活躍してきた筆者が、書いた小説。たぶん小説としては3冊目くらいだと思う。小説になったせいか、今までと違ってセックスとかもっとドロドロしたものが増加した。もともと、「しみがある」作家だとは思っていたが、故郷への道をたどるたびのためか、よりそれが強調されている。
     盆地に潜む「閉塞感」。関東平野で育った人間は感じてこなかった感情。車・新幹線で行けば東京まで数時間で行くことができる今であっても、遠いその都。それが主人公たちを押しつぶしている。そんな「しみ」を感じた。
     表紙の写真は、さすがに本業がプロカメラマンなので非常に美しい。ただし、これそのものも「しみ」を感じる写真である。

     ノンフィクションをうまく書ける人は小説も書けるようだ。しかしながら、本書は余りに暗い内容なのでヘビーである。小林紀晴を初めて読むならやはり「ASIAN JAPANESE」しか、オススメはできないと思った。

    2001年5月25日金曜日
    ★★★☆☆ 「パン屋再襲撃」村上春樹文藝春秋 1986年4月10日 p203
     僕と妻は、ある夜、とても腹が減っていた。そんなとき僕が昔パン屋を襲撃したことを妻に話した。すると「もう一度パン屋を襲うのよ」と妻は言った。

     村上春樹というと普通の人は「ノルウェイの森」を挙げる。しかし自分にとっての村上春樹とは、というよりトラウマは、本書「パン屋再襲撃」だった。昔、中学だか高校だかの頃、新聞の2面の広告でこの本の紹介を見た記憶がずっとあったからだった。それを読んだ当時、きっと「パン屋襲撃」という本の続編なんだろうと思った。広告のアオリ文句がそんな感じに書いてあったからだ。実はそうではないということに気づいたのは、村上春樹を初めて読もうかと思った数年前のことだった。しかし襲うパン屋が「マクドナルド」とは恐れ入った。深夜営業ってあったけ?

     短編集のなかで個人的に面白かったのは「象の消滅」と「ファミリー・アフェア」。わかりにくい話が多い中でわかりやすかったからだとも言える。「ねじまき鳥」って村上春樹にとってのキーワードの一つだと思うけど、「ねじまき鳥がギイイッと鳴いて世界のネジを巻いている」というのはおもしろい発想だと思った。まかなければその人(モノ)は止まって(死んで)しまう。それともう一つのキーワードは「ワタナベノボル」。記憶ではノルウェイの森の主人公はワタナベだったはずだから、村上春樹の共通認識なのかもしれない。そういえば漫画家黒田硫黄も「高間」というおじさんキャラがいろんな話に出てくる。どっちが先か、関係無いのかは知らないけど。

     不思議なウツツの中のファンタジィのような話達であった。理解できるような、全くわからないような。

    2001年5月20日日曜日
    ★★★★☆ 「黄昏の岸 暁の天」十二国記小野不由美講談社X文庫ホワイトハート 2001年5月15日 上p242下p255
     戴国では王と麒麟がいなくなり既に六年の月日が過ぎていた。戴の将軍李斎は、戴国を救うために単騎で慶国へとやってきた。戴を助けたい一心で。

     ネタバレ→今回の話は「魔性の子」が日本(蓬莱)側から見た話なのに対して十二国側から見たお話。それが逆に「話の筋が読めてしまう」欠点でもあり、「つなぎの話」として感じられた。まだ泰王も救っていないので余計に「つなぎ」に感じられてしまった。

     ただし、それでも面白い。「つなぎ」の側面のせいで主点がぼやけてしまう欠点もあるにはあったが、各シーンの各キャラクターの振る舞いは非常に面白かった。特に陽子が大逆にあいそうになるシーンでの陽子の対応と、浩澣が諭すシーンはなるほどの理屈だった。

     今回の主役は陽子と李斎なのだが、西王母のシーンを考えれば李斎なんだろうと思う。戴が取り戻されたときの李斎の取り扱いは要注目。やっぱり、武人は無理そうだし。

     今回「国と国の協力」とか「大使館」の話題が出たが、戴が収まり、その後、「王様サミット」みたいな話が出て、あと本編は2・3巻で終わるような感じである。それのための「前振り」な側面が今巻にはあったように思う。(文献:別冊ぱふ活字倶楽部スペシャル4 1996年8月号「小野不由美特集」)
    ←ここまで

     今回のサービスシーンは、範国主従の話ぐらい。よく考えると十二国記って、気を休めて読めるシーンが少ない。それでも再読したくなるのは、「面白い」とか、「イラストを見たい」とかあるけど、自分の生活や考えと照らし合わせてみたい、という思いもあるのではないかと思った今日このごろ。

    2001年5月18日金曜日
    ★★★★★ 「カレーライフ」竹内真集英社 2001年3月30日 p460
     カレー屋を開くことになったケンスケ。彼と彼のイトコ達によって巻き起こされるカレーの日々。しかも、おでんカレー、ラフテーカレー、バーモントカレー、本場インドカリー、そして思い出のカレーと次々とカレーを中心に物語は進んでいく。

     ネタバレ→カレー屋を開くまでの七転八倒の話だと思ったら、ただ単に七転八倒するわけではなく、実は旅本でもあったりする。そして次々と出てくるうまそうなカレー。特に沖縄を意識しているラフテーカレーはすごく食いたい。(明日はカレー屋へ行こう!

     バーモント州というものが本当にアメリカにあるなんて知らなかった。ただしバーモント州にバーモントカレーは無い。りんごと蜂蜜が名物なのは事実らしい。地図で調べるとバーモント州は東海岸のかなり北に位置する。こんな単純で実は誰もが忘れているネタを取り込む作者はうまい。そしてカレーといえば必須のインドへと話は飛ぶ。2人の旅の情景や、盗難事件(ありがち)、そして女の子達との出会い。でも何よりもよかったのはカレー対決!勝負の結果はありがちだけど、「マジックタッチVSスパイス」はとても見所が多く、旨そうで食べたくなった。サールナートの雰囲気も気にかかる。行ける自信が全く無いインドに行ってみたい、と思わせたほど。そして更に沖縄へ。沖縄の雰囲気は、自分としては十分に分かっているので、それを十分に味わえた。いつもゴーヤーチャンプルーか沖縄そばばかりの自分だが、今度行ったときにはまじめにラフテーを食べてみようと思う。

     それとこの本があれば、ある程度カレー料理の本代りになる。特にバーモント編では非常に詳しく作り方が載っており、作れないこともなさそうな気がした。実は生まれてこのかた、まともに料理なんてしたことが無いから余計にうらやましく感じたりもしたのだ。男の料理ってのもカッコイイし。
    ←ここまで

     おいしい部分ばかりが目立つ本書だが、「祖父のカレー」の謎解きといい、伏線といい、お話の収束も、構成も計算通りの小説でもある。それでいて、無理が無く、とても面白い。一粒で二度オイシイを地でいく小説である。竹内真の他の小説も読んでようと思っている。

     いまのところ、今年一番の収穫。いろんな意味でオイシイお話。

    2001年5月14日月曜日
    ★★★☆☆ 「上と外 3神々と死者の迷宮(上)」恩田陸幻冬舎文庫 2000年12月25日 p160
     ジャングルに取り残された兄妹は不思議な声を聞くようになる。そして人の気配を感じはじめる。そのころ、大人たちは兄妹を助けるために行動を開始した。

     いろいろと謎が深まっていく巻。「場」は用意されたというところか。ここからが肝心なストーリーが始まるのだろう。

     作者まえ書きのところで、恩田陸が「一度も外国に行ったことがない」のはびっくり。それなのに、この想像力の素晴らしさはすごい。もちろん、ちょっと「?」と思う部分はあるにはあるけど、全体から見ればたいしたことがない。

    2001年5月10日木曜日
    ★★★★★ 「上と外 2緑の底」恩田陸幻冬舎文庫 2000年10月25日 p160
     ジャングルに取り残された兄妹と周辺を賑わす大人たち。大人たちは必死に情報を集め、兄妹は必死になってジャングルを脱出しようとする。

     前巻では停滞していた物語がずんずん動き出す。前半の大人たちの活躍と思惑の進行が、実は面白い。情報収集の正しい方向性を示している気がする。ネットが広がれば広がるほど、顔が見えることの重要性は増した気がするので。

     一方、兄妹の苦難の道のりは、なかなかきちんと取材したような気がする。そして好きな子の話や、兄妹という微妙な関係も面白い。なんかすごく楽しめた。次はすぐに読めそう。

    2001年5月7日月曜日
    ★★★★☆ 「恐るべきさぬきうどん 麺地巡礼の巻」麺通団新潮OH!文庫 2001年3月10日 p438
     麺地創造の続編。こちらのほうが地図もあり、目次も分かりやすいので便利ではあるが、紹介する店が多少無理矢理っぽくなって来ていることが文からも分かる内容。さすがにディープなさぬきうどんの世界といえども、ここらへんが限度だよー、という感じ。最後に紹介されている東京仕様の「さか田」の話は面白い。そのうち行ってみよ。

    2001年5月6日日曜日
    ★★★☆☆ サイコセラピスト探偵波田煌子「なみだ研究所へようこそ!」鯨統一郎祥伝社ノンノベル 2001年4月10日 p239
     野暮ったいサイコセラピストの波田先生と、美貌の会計士小野田さんと、新米のサイコセラピスト松本さんが送るドタバタコメディではなくて、ユーモアミステリー。

     表紙を見た瞬間にこれは面白そうと思って手に取った(この話にこの挿し絵は最高に合っている)。なにせ鯨統一郎だし、しかもお得意のユーモアミステリーだし、自分の好きな連作短編集だし。結論から言うと期待通りの面白さ。そして欠点はあまりにもその期待の範囲から出ない内容だったこと。あの推理パターンは面白いけど、それだけじゃ足りないのでラブコメ要素も入っているけど綺麗に終わり過ぎている。もっと予想外の面白さが欲しかった。

     これを読んでから精神分析に多少の興味を持った。暇があったらフロイトとかユングとかを読んでみようと思う。

    2001年4月27日金曜日
    ★★★★★ 「恐るべきさぬきうどん 麺地創造の巻」麺通団新潮OH!文庫 2000年10月10日 p316
     ただのグルメ本ではありません。香川弁が楽しい!キャラがみんな愛すべきバカ!あほすぎて楽しい会話!

     http://www.satonao.com「辺境・近境」とこの本の影響により香川に出かけることに。日本全国いろんな名産あれど、ここまで面白い地方発のグルメ本はない!しかも、この本の影響で全国からマニアックなさぬきうどん店に人が集まるその現象。今回文庫化されて全国発売になったのでさらにうどん店めぐりの人が増えるのではないだろうか。

     惜しむらくは多少データが古いこと。文庫化にあたって再調査をしてはいるようだが、味がどうなったかまでは分からない。人気店になると味が落ちることが多いから。それの確認のためにもみんなで香川に行ってさぬきうどんを食おう。

    2001年4月21日土曜日
    ★★★☆☆ 「ショート・トリップ」森絵都理論社 2000年6月 p166
     旅に関するショートショート集。児童文学者らしい作品や、不条理な話、冒険物、コミカルもの、少しだけホラーなものなどいろいろが集まっている。

     全部で40編ほどあるが、個人的なオススメは、「奇跡の犬」「月」。どちらもファンタジー色が強めな作品。(オススメを未表示にしたのは、それによって新規に読む人に新たな気持ちで読んでもらいたいため)

     実はすべての作品が4ページからなっており、そのうち3ページがおはなしで1ページがイラストなのだが、すべてそのパターンのため予想できてしまう(裏切るケースもあったが)のが難点。もっと好きな長さ、つまり1ページものもあれば10ページものもある、という風にした方がよかった気がした。

    2001年4月20日金曜日
    ★★★★★ おいしいコーヒーの入れ方W「雪の降る音」村山由佳集英社JBOOKS 1999年4月7日 p217
     家事上手の大学生勝利と、同居している血のつながらないイトコで高校の先生であるかれんの物語。

     前巻が甘々な展開だったし、基本的にジュニア向けなので期待してなかったが、今回の内容にはなかなか共感を覚えた。それはあとがきに非常にまとめた言葉あるが、「恋愛とはマイナスを補うだけでなく、プラスを伸ばしあえる関係になること」の話をうまく書いてあるからだ。やっぱり自分に自信を持っている人間はカッコイイからなあ。村山由佳も個人的に新作を待っている作家の一人。童話とかエッセイが最近は多いので、ドカンとそろそろ欲しいです。

    2001年4月15日日曜日
    ★★★★★ 「冬栄」十二国記小野不由美講談社 INPOCKET2001年4月号 p61
     戴国の麒麟となった泰麒だったが、「自分は役立っていない」との思いに日々悩んでいた。そんなとき戴王驍宗から漣国への使いを頼まれた。月刊文庫情報誌INPOCKETに載っている読み切り。

     待望のシリーズ最新刊「黄昏の岸 暁の天」が講談社文庫版で出版されたが、個人的には今までX文庫ホワイトハートで買っていたので1ヶ月待つことにした。そのどさくさに紛れて本屋で発見したので購入した。短編なのでボリュームはないが、やはり面白い。最初は、久々に読んだので感覚が取り戻せなかったが、読めば読むほど感を取り戻し、面白くなってきた。(難しい漢字だらけなので実は慣れないと読みにくいため)あと1ヶ月待つのはつらいがとりあえず頑張るつもり。

    2001年4月13日金曜日
    ★★★★★ 「DIVE!! 1前宙返り3回半抱え型」森絵都講談社 2000年4月20日 p220

    前宙返り3回半抱え型  小学生の頃のあこがれから始めた「飛込み=ダイブ」だったが、中学生となった今、さして一流選手でもない知季(ともき)。今までにダイブのために捨ててきたもののことを考えるとダイブを辞めるわけにも行かず、かといって学校生活を捨て切れず、未羽(みう)とも付き合っていた。そんなときに夏陽子(かよこ)というコーチがやってきた。

     一流選手に、それも超一流選手になるということはどういうことなのか、そのピュアな世界を見た。自分のような惰性に生きていた人間でも、専門を選んだ都合上、いろんなものを「捨ててきた」が、極めるためにはそれ以外をすべて捨てなければならない。難しいし、大変だけど、だからこそかっこいい。

     基本的には成長物語なんだけど、かなりマイナーな飛込みの世界をかなりリアルに書いてあって、その方面からも楽しめる。ただ、ちょっと気になったのはプロローグで登場する人物が主役かなあ、と思ったら違かったのはちょっとびっくりした。普通の小説ならそれがパターンなんだけど。

     それと「前宙返り3回半抱え型」のイメージが湧かないけど、左の写真が非常に分かりやすい。これは本の表紙ではなく、中開き。


    2001年4月11日水曜日
    ★★☆☆☆ 「上と外 1素晴らしき休日」恩田陸幻冬舎文庫 2000年8月25日 p154
     運動神経抜群の中学生でロッククライマー志望の楢崎練は、年中行事である夏休み家族旅行として、父がいる南米の都市に別れた母千鶴子と妹千華子と出かけることになった。去年の旅行とは違う雰囲気を引き連れて。

     この段階では、本当はまだ評価しちゃいけないと思う。まだ話は序の口だからだ。しかし、これって5冊まとめて1冊で出すのが本来は妥当なところを、幻冬舎が青田買いをしたような気がする。

     内容的には恩田陸にしては珍しい突発トラブル巻き込まれ型の話である。作者は比較的用意周到な場面での考えた構成が得意なので、これは珍しいと思う。2巻以降は、そのパターンになる可能性もまだ十分にありそう。

     初めて恩田陸の小説を買った(今まではすべて図書館)。初出が文庫の場合に関しては今後は買うことにした。

    2001年4月10日火曜日
    ★★★☆☆ 「花腐し」松浦寿輝講談社 2000年8月1日 p150
     アパートの一室を叩く中年男。そしてそれをあしらうもう一人の中年男。腐臭が漂う場所、腐りだした人生。そんな中年男の回顧の物語。他一遍。

     句読点を比較的少なめにした、独特の調子(節回し)の語り口。そしてずるずると話が引き続く独特のスタイル。その連続性が「腐った」部分をうまく強調していて、人生の後半に入った人達の狂気と現実をうまく表わしている。この節回しに乗せられて読んでしまったともいえる。なんか日本人にとっての気持ちの良い節回しである五七五のような絶妙なハマリがあった。

     テレビで竹中直人がオススメしていた本。確かに竹中直人が好みそうな話だと思った。好みの話ではないけど、不思議な面白さはある。

    2001年4月3日火曜日
    ★★★★★ 「焚火の終わり」宮本輝集英社 1997年10月20日 上p278下246
     茂樹は15歳のときに、父から美花が異母妹だということを知らされた。それから17年の月日がたち、茂樹の父母はすでに亡く、とうとう美花の祖母も亡くなった。葬儀のために子供の頃に焚火をして遊んだ、祖母の岬の家にふたりは出かけていく。

     ネタバレ→読後の最大の感想は「よかった、秘密が秘密のままで。ふたりの関係が途切れなくて」。タイトルが終わりを意味していたので、ふたりが引き裂かれるのではないか、とハラハラしながら最後の最後まで気の抜けない展開だったからだ。登場人物達の方向性や、「父たち」という表現、それらから推測されることを読者は気づいたのだから、主役のふたりが気づかないはずはない。しかし、それについて一言も文中で書かれていないのは、宮本輝の能力の高さゆえだろうか。
     思わせぶりが余計によかった?のが性描写の部分。なんか下手なエッチ系小説なんかより思わせぶりな表記ばかりなので、妄想が働いたぶん濃密な映像がよみがえった。よく考えてみたら、エッチものの定番「兄妹もの」としても読めないこともない。(もちろんそれを期待して読んだ部分もある)
    ←ここまで。

     京都はうまそうなものがたくさんあっていいなあ。漁師の街の定食屋の料理もうまそうだなあ。値段は高いけど、空間に贅を凝らした旅館にも泊まってみたいなあ。こういう描写が簡単にできるのが大人の小説の魅力なのだ。

    2001年3月22日木曜日
    ★★★☆☆ グインサーガ78「ルノリアの奇跡」栗本薫早川文庫 2001年3月15日 p295
     タイトル通りの展開。誰かが内に帰ってくるとその代わりに誰かが外に出る。外に出る人は、旅を楽しみ(正確にはちょっと違うが)、内にいる人々は苦しむ。そうやって内と外の視点を作っている。バランスが取り易い書き方かもしれない。
     とりあえず全体が一段落。次からの展開が楽しみ。

    2001年3月15日木曜日
    ★★★★☆ 「MAZE[めいず]」恩田陸双葉社 2001年2月15日 p244
     自然が作ったものとは思えず、しかし人間が作ったものとは思えない。そんな奇岩が多くそびえたつ国の奥地にある、不思議な構造物。「存在しない場所」、「有り得ぬ場所」と呼ばれる禁忌とされる聖地。その構造物に、たった一ヶ所だけある入口から入った人間のうち、何割かは消失するという。その伝説・その構造物を調査すべく、大量の物資、大量の人員、そして4人が降り立った。

     序文が読みにくかったので、最初はガチガチのミステリかとも思ったが、序文を越えるといつもの恩田節が登場。ホッとする。毎度のことだが、恩田陸は登場人物たちの選定のうまい。ヒロインな女性キャラはいないし、30過ぎの日本人の2人と兵隊上がりの外国人と現地ガイドが主役なのだが(こう書くと花が無い)、なんていうか読者のツボを心得ている。そして対象となる構造物『豆腐』(日本人がつけた通称)が魅力的。建物を対象にした密室トリックミステリは多いが、こういう謎解きホラーミステリは少ないのではなかろうか。ネタバレ→3章までは構造物の謎解きの面白さにワクワク。そして1章から3章までの章題に非常な意味があることがわかっていたので最終4章の章題「DOOR」は何が出るのかとドキドキして読んだ。安楽椅子探偵満が導き出した結論は味気ないものだったが、その後にくる「本当に消失した人達」。ミステリとして見ると結論がつまらなかったので、そのファンタジーな出来事は必要だったのだろう。すげー面白かったんだけど、どうしてもここに引っかかってしまったのでマイナス1となった。←ここまで。

     本書で出てくる名言の一つ、「人間、どんなにハードな仕事をしていても、夕食にまともなものが食べられるとあれば、たいがいのことは我慢できるものである」。これは、日頃、ロクな物を食べていない一人暮らしの人間としては、思わずうなずいてしまった。本書のツボの一つは、その「うまそうな食事」。しかも周りは不毛の大地のなかで飲むうまい酒・コーヒー・食事。その情景にうらやましさを感じながらも読める。

     奇岩といったらトルコ・カッパドキア。本書の舞台は特に明記されていないが、間違いなくトルコ。以前から行きたいとは思っていたけど、いずれトルコを旅してみたい、とまた思わせた。

    2001年3月8日木曜日
    ★★★★☆ グインサーガ77「疑惑の月蝕」栗本薫早川文庫 2001年2月15日 p295
     グインサーガ始まって以来の最悪の「引き」で前巻が終ったせいか、おおっと予想外の展開と思いつつも、まあ昔の繰り返しになるだろうと思いつつ、最後はいつもの「引き」伸ばさないグインサーガとして次巻へ、となった。ちなみに今回は今までずっと裏方に徹してきたヨナが大活躍。

     今巻のマリウスの主張、「ぼくには僕の考えというものがあり、感じる心があり、そしてぼくにはぼくだけの、たった一つの人生がある」という言葉は、最近の作者のトラブルの元だった、ネット上での批判に対する作者栗本薫の叫びのように感じた。というか、これが一番、今巻では書きたかったことなのではなかろうか。

    2001年3月7日水曜日
    ★★★★☆ 「仮想の騎士」斉藤直子新潮社 2000年12月20日 p223
     フランス国王ルイ15世の時代、地方貴族出の騎士デオン・ド・ボーモンは、密命を帯びて、ロシアに渡ろうとしていた。故郷に残した恋人への思いを残して。

     男装の麗人の話かと思ったら、ネタバレ→美貌の男の女装しての活躍譚だった。(本人はいやがってます。趣味ではないそうです(笑))←ここまで。
     個人的には、「史実」の上に少しの「フィクション」を入れた小説は非常に好みである。さらに、細かく笑いを取るサービス精神。この話は非常に面白い。なのに評価が一つ落ちたのは、こんだけ魅力的なキャラクターを登場させながら、十分に活躍しきっていない(消化しきっていない)、つまり、お話が短すぎる、という点がもったいないと思ったため。同系統の「傭兵ピエール」みたく長編のほうがもっと面白かったのではないか。

     第12回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作。この賞出身の作家は、個人的にほとんど好みだったり。

    メモ:「カザノヴァ回想録」窪田般彌訳、河出文庫
       サン・ジェルマン伯爵、(エリクシール、永遠薬)
       コンティ親王(有名なワイン、ロマネ・コンティの元)
       トランプゲーム「コメット」(絵札カード無しで、9でスートを指定出来,カードが無くなれば勝ち)
    追記:ボーモンがロシアに行ったのは史実だそうだ

    2001年3月3日土曜日
    ★☆☆☆☆ 「激突カンフーファイター」清水良英富士見ファンタジア文庫 2001年1月25日 p300
     「ウッシッシ、貴様は世話女房だ。我が輩の世話をしろ!」by バギー
    という書き出しで始まる、正義の味方と悪が大阪を舞台に戦う物語。

     面白いといえば非常に面白いのかもしれないが、一気読みできなかった。本来こういったギャグ小説は読みはじめたら止まらない、というのが必須条件だが、自分はそれができなかった。昔はこういった話も読めたのだが...自分が年を取ってこういう話を面白いと思えない程度の感性に落ちてしまったのだろうか。最後の但し書きとかは面白いのだけれど。とにかく、自分は駄目でした。

     この書き出しを紹介しているサイトがあって、それを見る限りではとても面白そうだったのだが。自分でココに書いていてもこの書き出しはスゴク笑えるんだけど。

    2001年2月28日水曜日
    ★★★★☆ 「夏と花火と私の死体」乙一 (絵:幡地秀明)集英社JBOOKS 1996年10月9日 p229
     田園風景豊かな地域で夏休みを楽しむ小学生の健と妹の弥生、そしてその友達五月(さつき)。隣の県では誘拐事件が起きていたりしたが、とくに事件も起こらず夏休みは過ぎていた。そんな夏休み期間中、みんなが楽しみにしている夏祭りの花火大会がもうそこまでせまっていた。

     殺人事件を子供が解決するミステリだと思っていたら...ネタバレ→その逆で、事件を起こした兄妹が、いかにして死体を隠していくか、というドキドキもののホラーであった。「そんな所でミスるなー」と突っ込みしたくなるハラハラした展開。しかも「本当の」子供らしい発想。それ以上に途中まで読むと分かるが、語り手は死体となった五月ちゃんであった。確かに自分の乏しいミステリ・ホラー小説経験で死体が語り手となるケースは初めて。たしかに選者栗本薫(これは第6回ジャンプ小説大賞受賞作)が言うとおり、それだけでも賞に値するかもしれない。でもウマイと思ったのは最後のシーン、かごめかごめ。なるほど男の子5人と女の子1人いれば「かごめかごめ」は楽しいだろう。逆にこのトリックが未熟でもあるのだが。(入社1・2年目の女性社員だけが冷凍庫の管理をするケースはまず考えられない)←ここまで。でもそれを差し引いても17歳で、この昭和40年代ぐらいの夏の風景を書ききれる力は評価できる。

     もう一つ書き下ろし短編「優子」が付いているが、「夏と花火と私の死体」を読んでからこちらを読むぶんには、心構えが出来ていたので余裕を持って読めた。「夏と花火と私の死体」のほうが出来は上だと思う。

     「ダ・ヴィンチ」で或るミステリ作家が注目の作家として挙げていたのを記憶していて、手に取った。

    2001年2月21日水曜日
    ★★★★☆ 「重金属青年団」花村萬月角川書店 1990年11月25日 p277
     タカミはお店のお客である小説家ブンガクさんを連れて、仲間のいるヘヴィ・メタル・カフェにやってきた。仲間たちは皆バイク「カタナ」に乗るとんでもない奴らだった。

     前半はともかく、全体的にはバイクツーリングの話。ネタバレ→その前半のカップル半殺しがあまり後味が良くないの(自分も稀に山道を車でツーリングするので気分的に恐いため)で、評価がマイナス1。なんだけど、そこさえ考えなければ、作者あとがきにあるように「甘く・荒く・青臭く」な楽しい話。アウトローというより、純粋な彼らの仲間意識の高さがうらやましい。ここまで信頼出来る仲間がいたら、と思う。日本地図を傍らにおいて読むと、自分もその場所に余計に行きたくなってしまう。

     本来主役のはずのタカミの影が薄い、というか楽しいバイクツーリングのほうに気が行ってしまい、あまり見えなかった・見ようとしなかった。女の人が読むとまた違う感想が聞けるかもしれない。
    ←ここまで

     某サイトでツーリングといったらこれがオススメとあったので読んだ。以前から一度は読んでみたいと思っていた、作家花村萬月の初読みとしては上々なスタートを切れたと思う。ところで「カタナ」ってどんなバイクなんだろ。自分は堕落な四輪乗りなので、こういうツーリングの楽しさは味わえない。

    メモ:出羽三山である月山にある湯殿山神社の巨大な岩でできた御神体(山形県)
    文献:本多勝一「北海道探検記」すずさわ書店、武田泰淳「ひかりごけ」新潮社


    2001年2月18日日曜日
    ★★★★☆ 「八月の博物館」瀬名秀明角川書店 2000年10月30日 p533
     テストも受験も部活も恋も関係無く、純粋に遊べた小学生時代の夏休み。期待に膨らむ7月21日に始まり、物悲しい8月31日に終わる、あの夏休み。小学生最後の夏休みを迎えた亨(トオル)は、終業式の日にいつもは右に曲がって家に帰るところを、一度も行ったことがない左に曲がってみようと思い立った。と小説家となった男が書くことから始まるミュージアムの物語。

     とあるサイトで瀬名秀明がバイオホラー以外の小説を出し、それが面白いと書いてあった。本屋に行ってみると帯に「瀬名秀明のみが達しえた」とあった。そして美しい装丁。夏の青空のもと、どこかへ続く道。これを見て思わず買ってしまった。ところが良く考えたら瀬名秀明の「パラサイト・イブ」を持っていたのに読み終わっていない。まずそれを読んでから、と思っているうちに今頃になって読み終わった。
     非常に難しい構成を取っている小説で、うまくまとまるのかと心配した。主人公は、まず普通の主人公「亨」、そしてそれを書いている小説家の「私」、そして実在のエジプト考古学の発掘者マリエット。本書の前半はこの3人が交互に現われ、物語を進めていく。ネタバレ→前半は特に小説家の「私」が出ると、現実世界に引き戻された感じがして読みづらい。というか邪魔な存在だった。この小説家パートで言っている物語の技法は、「小説と科学」で言っていることそのものであり、1月28日にNHKの夕方6時10分からの番組「課外授業 ようこそ先輩」で作家瀬名秀明が言っていたことそのものである。「物語」の裏側が見えてしまうので興ざめを起こすケースも前半は多かったが、中盤になると、逆にそれが楽しくなってくる。たぶんこの小説家パートをどう評価するかで、面白いか面白くないかに別れると思う。
     亨パートはジュニア小説のようなファンタジー世界と、そして鷲巣という同級生の女の子の大人びた感性が楽しい。また高度に発達したコンピュータグラフィックスによる仮想現実が、過去にあったものと全く同じ状態を作ることができれば「同調」によりその世界と繋がる、という新しいタイムスリップのアイデアは感服した。ドラえもん好きで知られる瀬名秀明らしい「道具」だと思う。
     エジプトパートは作家瀬名秀明が、こういった話も書ける実力があるということを証明している。人物伝記的な内容だが、筆致がしっかりしていて最初は「これが本当に瀬名秀明なの?」と思ったほど。
     これら3パートが徐々にくっつきだす。そして「物語」とは何なのかについて考えていくことになるが、ここがイマイチ理解しきれなかった。物語の自由、ということは良く分かるのだが、なんとなく敵をやっつけてしまう。でもエピローグはきっちりと知りたかったことを書いてもらい、そして最後に「それはまた別の物語だ」と終るのは気持ちが良かった。
    ←ここまで

     バイオホラーではなかったので、瀬名秀明の新境地とあるがまさにその通りである反面、本来の実力を出したともいえるし、またその理屈っぽさが今まで通りだとも思えた。それでも「物語についての一考察」という小説として書かれた論文として考えてみても面白いと思う。こういう小説家自身が出てしまうタイプの小説は一人の作家が二度書くことは無いはずなので、もうこの手は使えない。次はどんな手を使うのか非常に楽しみな作家ではある。

    付記:面白かった言葉「ヴンダーカマー」:ドイツ語で、驚異の部屋、という意味。初期の頃のミュージアム的な存在でもある。

    2001年2月4日日曜日
    ★★★★☆ 「さらば長き眠り」原寮早川文庫 2000年12月15日 p588
     400日ぶりに東京に帰った沢崎が事務所に戻ってくると、一人の浮浪者が待ち構えていた。そして久しぶりの仕事が始まる。

     ネタバレ→実は、この話はタイトルから、また前巻の状況から、渡辺(沢崎がいる渡辺探偵事務所の前のあるじ)が姿を現わし、そのことで事件が起こり、そしてもしかしたら沢崎が殉職するのでは、と思っていたが、さすが現実的な本当にいそうな探偵の話だけあってそんな展開にはならなかった。日本の伝統芸の能の鑑賞の話などは、はじめて聞く話で興味深い。はじめて能を見る沢崎が、あまりにも理解し過ぎなのはちょっとではあったが、慧眼の持ち主である沢崎ならそれも可能か。
     本書が1995年に発表されたときに確か有名なミステリー書評家が、非常に反発していたことを覚えていたので注意して読んでいたが、確かにこの真実を知るとまあちょっと無理矢理な気もしたが、そこまで反発しなくても、というのが自分の評価。
    ←ここまで

     実を言うと本書の内容より面白かったのは文庫版特典のあとがきショート小説。沢崎が渋い活躍をする。「エッ」て最初は思ったけど最後は「ニヤリ」。
     原寮の小説を、とくに渋いカッコよさの沢崎がなんで映画化されないのかな、と思ったが、問題はすべて1995年以前に書かれているせいだからだろう。それは携帯電話のことがほとんど書かれてないからだ。「舞台は1990年」と言って、こういった現代物は映画化出来ないだろう。本書ですら携帯電話があれば、かなり違う展開もありうるはずだ。でも沢崎が携帯電話を持ち歩くシーンはあんまり想像出来ない。そういう「古い」キャラクターだからだろう。

    2001年1月21日日曜日
    ★★★★★ 「天使たちの探偵」原寮早川文庫 1997年3月15日 p325
     不本意ながらも小学生の依頼を受けたり、アイドルの自殺事件に関わることになった探偵沢崎の活躍を描いた6編からなる短編集。

     6編がどれもこれも、違った味わいがあって面白かった。最近、実はいわゆる小説小説したものが読めない時期に自分がはまり込んでいた。そんな時にこういった「乾いた」話は、ノンフィクション的な現実味を味わせてくれた。それが久しぶりの感覚でとても新鮮だったし、だからとても楽しめた。
     前2作は長編だったので、このピリッとした短編は格別である。長編は長編の練り込みのよさがあるが、スパッ、スパッと解決していく短編は小気味良さがある。無駄が無いのも気持ち良かった原因かも。(そういう点では「選ばれる男」は多少理屈ぽい)

     実はこの文庫本は発売直後に買ってあったが、6編のうち3編を読み終えたところでずっと読み進めていなかった。ところが最近著者の最新作「さらば長き眠り」がやっと文庫化された。これを期にもう一度最初から読み直したが、それは正解だったようだ。

    付記:「りょう」という漢字が無いようなので似ている字「寮」を使用した。

    2001年1月15日月曜日
    ★★★☆☆ 「夜間飛行」サン=テクジュペリ
    堀口大學 訳
    新潮文庫 1956年2月20日 p283
     商用飛行機の初期、まだ冒険性の高い時代に生きた郵便飛行機会社の責任者と、飛行機乗りのお話「夜間飛行」。そしてサン=テクジュペリのデビュー作でもある「南方郵便機」。2つの中編が納められた、表紙が美しい一冊。(表紙は宮崎駿)

     初期の冒険性の高い飛行機がどんな存在であったかを示す2編だが、「夜間飛行」は、正しく一般的な小説の体を成している。ネタバレ→飛行機乗りにとって、雲の上がそんなに危険な世界とは思わなかった。今のように計器が発達していない世界にとっては。月の光の中を飛ぶのは気持ちよさそうなのに。しかも死ねる人の言葉がこんなにあるなんて。「星の王子さま」(未読)の作者だから助かると思ったのだが。←ここまで。実はこちらは1999年11月に読み終わっている。

     なぜ、もう一つの「南方郵便機」を読むのに時間がかかったのかというと、非常に難解であったためだ。というか読んでもなかなか理解出来ない→読む気が失せる→他の本を読む→忘れる、ということを繰り返したため。本書は改版後の1999年版だが、初版は1956年。そのため訳が古臭くて読みにくいのかと思った。ところが訳者あとがきを見ると訳者自身も「精読を要する」と書いてあった。この訳者あとがきと、その後の解説は非常にまとを得ていて面白い。「南方郵便機」は粗削りでかつ、ピュアな作品で、これが後の「星の王子さま」につながるというは非常に納得した。それくらい、登場人物たちの感情のほとばしるままに物語は揺れ動く。

     小説としてみればやはり圧倒的に「夜間飛行」のほうが面白いが、一般的すぎるかもしれない。そういう意味では注目すべきはラフスケッチな「南方郵便機」かもしれない。







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