楽家 BookReview
2002年版
Released

Home // Book / 2005 / 2004 / 2003 / 2002 / 2001 / 2000 / 1999 / 1998 / -1997 / Library

Attention
  • 文章に明らかなネタバレがあるときはそのままでは読めないように してあります。すでにその本を読んでいる場合はマウス等を利用して、 文字が途切れている領域を選択すると反転して読むことができるようになっています。

  • ★4つ以上はお薦めです。★4つと★5つは個人的な好みや、 読んだ時の感情によって違っているだけで、ほとんどの場合は差がありません。 ただし、楽也の特徴として「初読の著者の評価は特に甘い」、「簡単に★5つがでる」 という特徴があります。

  • 右端の「有」は所有、「借」は図書館から借りた本、「古」は古本屋で買った本、 「貰」は人から貰った本であることを意味しています。


  • 2002年12月29日日曜日
    ★★★★☆ グインサーガ82「アウラの選択」栗本薫早川文庫 2001年12月15日 p314
     物語をどう作成すれば読者だけでなく作者も楽しめるのか。グインサーガの「あとがき」を読むたびにそれを思う。作者は自分の作品を冷徹に見詰めながら、「作者が一番最初の読者」という。
     今回は敵から逃げる設定であったが、いわゆるどちらも選択できない「究極の選択」を迫られるシーンがある。普通のファンタジー小説では、そういったシーンでは都合の良い「第3の選択」が登場する。ところがここではそんな都合の良いことはなく、あっさりと一方を選択する。現実のシーンでもどこかで「選択」をしなければならない。そんな「選択」をしてしまったシーンが今回のオススメ。

    2002年12月28日土曜日
    ★★★★☆ 「羽の音」大島真寿美理論社 2001年5月 p141
     菜生は姉と二人で暮らしている。入院しているミキオを見舞いに行ったり、まじめそうな姉の様子が突然変わったり、学校をサボったり。そんな毎日をつづったお話。

     ネットにある女の子の日記をそのまま日記型小説にしたような。だから読みやすかった。ナニという程のものではないが、最後もそれなりで終わっているし好感が持てる。何より舞台が12月だったので今のリアルタイムを感じて読めた。舞台と同じ季節というのは読者にも必要だ。

    2002年12月24日火曜日
    ★★★★☆ 「キッチン」吉本ばなな福武書店 1988年1月30日 p226
     祖母が亡くなり、どうしようもなくなっていた、みかげ。そんな彼女を「拾って」田辺家へ連れてきたのは、雄一だった。吉本ばななのデビュー短編集。

     女性に人気のある作家なのでもっと少女っぽい話を書く人かと思ったら、軽妙な書き方をする人だった。少女っぽいというより80年代の少女漫画や90年代のトレンディードラマを思い出した。重い話をさらりと軽いように見せかけて書いている。これは簡単そうで難しい。

     ネタバレ→3編の中では「満月」がよかった。ハッピーエンドだし、タクシーの夜の長距離移動なんて本当に90年代のトレンディードラマ状態。でも完成度は高い。ただ、どの短編にも言えるのだが、誰かが死んでから、という極端なストーリーばかりなのは気になった。まあデビュー作なので仕方ないか。←ここまで。

     先週テレビを見ていて欧米で有名な日本人の3位(かなり意外)だったので、これは読まないと!と思ったので借りてきた。よいきっかけだった。(ちなみに1位は黒澤明で2位は中田英寿)

    2002年12月22日日曜日
    ★★★★☆ 「黒と茶の幻想」恩田陸講談社 2001年12月10日 p619
     大学時代からの仲間4人、彰彦・蒔生(まきお)・節子・利枝子。既に各々の家庭を持っていた4人が、久しぶりに一緒にY島に旅行することになった。ただし一つの課題があがった。それぞれが「美しい謎」を持ちよること。そして彼らは過去の日々を見詰め直すことになる。「三月は深き紅の淵を」「麦の海に沈む果実」と関係が深い一作。

     昔の仲間との付き合い。過去の一時期を共有したものにとって、やり易く、そしてとてもやりにくい。それが男女混在ともなると、その付き合いが続くことも稀だ。

     ネタバレ→4人の登場人物、4章の構成。それがそれぞれの一人称になっているが、2章は彰彦だと予想できた。その時点で3章節子、4章蒔生で決まりだと思っていた(読めてしまってつまらないかも、と甘く見た)。しかし2章の最後の衝撃により、もしかしてという疑惑。その通り3章は蒔生となっていた。4人の中では最も秘密が多い蒔生。それを3章に持ってきた時点でヤラレタ、と思った。ただなんとなく蒔生の言う通り、梶原憂理との三角関係の真実が単純すぎて抜けちゃった感じがした。1章・2章がうまい=導入がうまいという恩田陸らしさとも言える。←ここまで。

     数々の「美しい謎」の提示と解決。なるほどとうなづく話ばかり。この安楽椅子探偵ぶりは恩田陸の真骨頂であるが、今回はその上に美しい「Y島=屋久島」の自然の風景。自分も同じ道を通ったことがあるのでなんかそれを思い出してしまった。いずれもう一度行って見たい。問題は誰と行くか、ということか。

    2002年12月15日日曜日
    ★★★★★ 「ルー=ガルー 忌避すべき狼」京極夏彦徳間書店 2001年6月30日 p753
     近未来。子供達は普段は学校には通わず、月に一度のコミュニケーション研修のときだけ顔を会わせる。研修後、牧野葉月はいつも神埜歩未(こうのあゆみ)といることが多くなっていた。別に友達でもなく、たいして言葉を交わすわけでもなかったが。「端末」や「人口食物」や「清潔」に支配された未来世界の事件を描いた、京極夏彦初の未来物。

     未来社会は、今より良い世界になるとは思っていない人が多い、というか既にそれが当然のこととされている。環境問題の悪化・テロの時代・多国籍企業の台頭・未成年犯罪者の増大などあまりに多くの問題を抱えているためだ。本書は多くの読者の意見を取り入れてインスパイアされた小説である。それなのにこんなにも乾いた未来観を示している。何となく心配になった。

     分厚い割には説明部分が少なく、会話や心情部分が多くを占めるので実際には非常に読みやすい。ネタバレ→構成も非常にうまい。葉月とカウンセラーの不破静枝の一人称が章ごとに交互に現れ、ここぞの場面でこの2つが交錯した。これによって殺人事件の真相解明への緊張感が増幅された。やられた、という感じ。

     欠点を挙げれば都築美緒のハイテクを都合よく使い過ぎたことか。こういうキャラは好きなんだけどね。美緒に関しては特に読者の意見が反映された気もする。そのためか美緒の戦闘シーンには少し京極夏彦らしくなさを感じた。
    ←ここまで。

     表紙イラストのキワモノぶりは本当にこの小説に似合っている。彼女らのイラストを思い浮かべながらこの本は読んだ。

    2002年12月8日日曜日
    ★★★★☆ 「竜とわれらの時代」川端裕人徳間書店 2002年10月31日 p444
     手取の里に住む高校生の風見大地は、弟の海也と共に恐竜の化石を見つけた。それから10年後、彼はアメリカの大学のDr.候補となって発掘チームの一員として故郷の里に戻ってきた。恐竜を始め、アメリカ・科学・宗教・原発・テロ・文化・地域という、いろんな問題への提起も込めた一品。

     あいかわらず思うけど川端裕人は知的好奇心旺盛な人だ。毎回いろんなテーマで小説を書いてくる。「夏のロケット」を始めとする科学的テーマは、多くの人が興味を持つけれどほとんどの人がそのレベルから抜け出せないテーマである。それが小説になり、そして非常に魅力的な題材になるとは川端裕人が登場するまで予想できないことであったと思う。

     本書では架空の恐竜「テトリティタン」という竜脚類(つまりブロントサウルス・ブラキオサウルスのようなタイプ)の化石が主役の一つである。これらを発掘するための手法が凄い。CTスキャンして発掘の場所を先に割り出すのだ。これなら確かに発掘スピードは速くなる。そして化石標本をCG化し、それらのデータをネット上にデータベースとして構築し、誰でも閲覧できるようにする。このアイデアが実現したら確かに素晴らしい「知識の共有化」が起こるだろう。

     科学と宗教の問題も本書の重要なテーマである。特に福音派キリスト教では「進化」を認めていない。これは人間は人間であり、猿から進化したものではない、という考え方である。「進化」を当たり前のものとして教育を受けたものにとっては滑稽だが、彼らは本気だ。実は自分が卒業した高校は、少しミッション系だった。それなので稀に牧師さんの説法があったのだが、その牧師さんがやはりこの「進化」の話をしたのだ。凄い違和感を感じたのを今でも覚えている。

     そして本書でも2001年9月11日のテロの影響が色濃く反映されている。この本が2年早く出版されていたら内容は異なっていたかもしれない。ネタバレ→話の流れの都合上、恐竜→アメリカ→テロ→原発となっていった可能性は高いと思う。そのため原発問題をあまりに多く取り上げ過ぎて、難解になりすぎたのではないだろうか。原発の部分をはずして科学と宗教の問題に重点をおいたほうが単純でよかったと思うのだが。でも宗教→テロとなるので避けられない道だったともいえる。←ここまで。

    2002年11月24日日曜日
    ★★★★★ 「すべての雲は銀の…」村山由佳講談社 2001年11月20日 p483
     大学生の祐介は、長野のJR上田駅前のハンバーガーショップで人を待っていた。彼は恋人由美子を兄に取られてしまい、東京に居たたまれなくなって逃げてきたのだ。そんな待ちぼうけの彼のところに子供がやってきて「とうちゃん」と言われてしまう。それが彼にとっての荘園ライフのが始まりであった。著者の集英社以外の初作品。

     村山由佳といったら激しい恋愛物を得意とするが、今回はそれらに比べると静かでしみじみとした恋愛物?である。というか荘園ライフの大変さや楽しさ、田舎の密な人間関係、花屋という職業の大変さ、そして子供の不登校問題、など今までの村山由佳らしくない、生活に密着した小説である。たぶん「学校」という恋愛小説としてよくある舞台装置が全く出てこないためにそう感じるのだろう。この生活観の強さは作家である村山由佳が、千葉の先っぽで半農生活していることにより得た「生」の感覚からきたものであることは間違い無い。その生活観がとても新鮮で興味深い。恋愛物というより、信州の秋から冬にかけての素晴らしい風景を思い浮かべなら読む小説として楽しんだ。

     タイトル「すべての雲は銀の…」とは、英語で「Every Cloud has a sliver lining.」という格言を直訳したもので、意味は「どんな不幸にもいい面はある」である(直訳:すべての雲は銀色の裏地を持っている)。

    2002年11月17日日曜日
    ★★★★☆ 「7days in BALI」田口ランディ筑摩書房 2002年9月10日 p213
     行方不明になった親友のミツコを探しにバリにやってきたマホ。マホは、そこでオダという日本人に案内され、濃密な世界、濃密な音楽を体感することになる。そんなバリでの不思議な7日間を綴った人間の精神世界を飛び巡るお話。

     バリという場所の「濃密」な世界をよく言葉で表わしている。自然・神・動物・虫・人間・音・風景が溶け合った世界。とある画家が描いた緑多く黒々とした熱帯雨林の絵を思い出した。そしてガムランの音も。人間の耳には聞こえない、ドレミの最上段のオクターブの「シ」の音の更に上の音。そんな誰もが行けない世界。それを感じ取ることができたミツコ。読んでいてまるで自分もバリを旅した気分であった。

     ネタバレ→ガムランや人々の唱和が響き合い憑かれた少女たちが踊るトランス状態のなかで、不良白人とセックスしてしまうシーンは、想像するとかなり刺激的で最大の山場であった。もちろんこれが主題ではないのだが、このシーンがあまりに鮮烈で、他の重要なシーンは物足りなかった気分。←ここまで。

     バリ島では10月にテロ事件があったので、今はちょっと行きにくいが、この濃密な空気は味わってみたい気がする。オダの言葉「人は世界とせめぎあっていて、だいたいは引き分けているが、バリにくると人は負けが込んでしまう」を味わってみたい。それで世界観が変わるのも面白いかもしれない。

    2002年11月10日日曜日
    ★★★★★ 「ミシン」嶽本野ばら小学館 2000年11月20日 p134
     最新流行のファッションやアイドルや、それに右往左往させられる同級生を嫌う私。自分の乙女心と中原淳一や吉屋信子「花物語」にしか興味のない私。そんな私がたまたまパンクバンド「死怒靡瀉酢」(シドヴィシャス)のボーカル"ミシン"に自分と同じ物を見つけた。中編2つを収めた著者の初めての小説。

     引き込まれる文章。練り込まれた美しい文章。日本語の、言葉の扱い方を知っている作家。正直言ってこの作家の得意とする「ゴスロリ」と言われる世界は苦手なのだが、滅茶苦茶に作品に引き込まれた。ふと自分もそんな世界に踏み入れたいくらいに。

     もう一つの話である「世界の終わりという名の雑貨店」は主人公が多少癖があるにしろ、まっとうな20代の男であったので、より感情移入し易かった。だから彼の言葉には聞き入ることができる。「自分で自分の取り決めた規範が煩わしくなり、息苦しくなり、窒息しそうになるのですが、その不自由さもよし。限定された生活こそが、生活にエレガンスをもたらすのです。」、「貧乏であっても貧乏臭いことはしない」、「ライフスタイルを制限することはとても貧乏臭いことだ」。自分はなぜ人が高価なブランド服を着るのか良く分からない人間だったが、「限定された生活がエレガンス」という言葉で初めて理解した。たしかにカッコ良さだけで着る人間は馬鹿に見えるわけである。

     大正ロマンを現代の舞台に置き換えたら、と考えればこの作家の作品はとても面白い。好き嫌いがはっきりする作品だと思うが一読をオススメする。

    2002年11月8日金曜日
    ★★★☆☆ 「じーさん武勇伝」竹内真講談社 2002年8月20日 p242
     僕のじーさんは若い頃から無茶ばかりを繰り返してきたが、80歳を過ぎてますます盛ん。そんなじーさんが再婚することになった。僕の小学生のときの担任で初恋の人だ。そして2人はサイパンに新婚旅行に出かけたのだが。竹内真のデビュー作を含む連続短編集。

     ホラ話はこうでなくてはいけない、という見本のようなお話。ネタバレ→そこがとてもよく、そこが悪いともいえる。きれいすぎて不満が残るということか。←ここまで。

     竹内真を応援したかったので本を買おうかどうか迷ったのだが、ちょっと装丁があからさま過ぎて買う気が失せた。中身はいいんだけどね。やはり装丁は重要だと思う。

    2002年10月25日金曜日
    ★★★☆☆ 「隠密利兵衛」柴田錬三郎新潮文庫 1993年8月25日 p402
     津軽藩の剣術指南役浅岡利兵衛は突然、藩を致仕して放浪の旅に出た。彼は後世に旅日記を残したが、それはただの武者修業とは異なる内容であった。表題作を含む短編集。

     6編からなる短編集であるが、長編と違って柴錬の悪い癖である話が横道にそれる話は少なめ。(とはいっても一つだけちょっと...)面白かったのは「叛臣十内」、「白猿剣士」、「会津の子鉄」。特に剣士モノとしては異色である「会津の子鉄」が面白い。博徒の成り上がりが中心に描かれているのだが、これだけで長編が一つ書けるのでは、という充実感がある。

     暇つぶしとして読むにはとても面白いが、それだけの価値しかないというのが柴錬の欠点か。

    2002年10月21日月曜日
    ★★★★☆ 「国境の南、太陽の西」村上春樹講談社 1992年10月12日 p294
     12歳の僕は島本さんという左足をひきずる転校生の女の子といつも一緒だった。でも中学校は別になってしまい疎遠になってしまう。17歳の僕はイズミという女の子と付き合っていた。でもある事件がきっかけで別れてしまう。暗黒の20代が終わり、30歳で有紀子と出会って結婚した。そして36歳のある日、あの「吸引力」に出会う。村上春樹お得意の「僕」の物語。

     ギリギリの淵をさまよう物語を書かせるとやはり村上春樹はうまい。ネタバレ→だから一線を越えるまでのまでの物語は抜群に面白い。ところが一線を越えてしまってからはモチベーションが下がったせいか、だるく、そして蛇足に感じられた。最後のほうになってイズミが登場?したのが特に不満。ストーリー的必然は分かるけど、島本さんに集中しているときにイズミが出てきたので気がそがれた。
     これは喪失の物語なのであろう。登場する3人の女性たちは皆、喪失を味わっている。「僕」自身は喪失したことがなかったのだが、生まれて初めて本当の喪失を味わう。人間は一人だと欠けている存在である、というのは事実なのかもしれない。それでも一人でいられるというのは、自分が欠けていることに気付かない鈍感な人間と、それを別のもの(例えば趣味)で埋めた人だけなのだろう。
    ←ここまで。

     タイトルから最初は旅の物語かと思った。しかし実際には曲名であった。このタイトルのことに関して、主人公たちが言うように実は「国境の南」がメキシコだなんて確かに現実的すぎて(ロマンチックではなくて)がっかりするのが良く分かる。

    2002年10月14日月曜日
    ★★★★☆ 「妻の帝国」佐藤哲也早川書房 2002年6月30日 p345
     わたしは魅力的な瞳を持つ不由子という女性と知り合い、三度目のデートで彼女の部屋に泊まった。しかしそこで聞かされたのは、彼女が既存のイデオロギーをすべて否定し、直感による民衆独裁のみを肯定していることであった。それを承知で不由子と結婚した。そして結婚一周年の記念日についにそれは始まるのであった。作者佐藤哲也の妻である作家佐藤亜紀の影響もある?かもしれないSF作品。

     佐藤哲也は久しぶりに読んだ。日本ファンタジー大賞受賞作品「イラハイ」は一部で絶賛だったが、自分にはあまりにくどい文体で読みきれなかった作品だった。それに比べると横道に逸れる無駄話がなく、ストーリーも進む本書は作者(それとも自分?)の成長があって読ませる作品になっている。(それでも「章建て」という概念がないので一息つきにくい作風は変わっていないが)

     妻が最高指導者である国で夫はどうすべきなのか、それは見ていて面白い。ネタバレ→とはいっても、内容としては滅亡していく物語なのでキツイ所も多い。コンテナにぎゅうぎゅうに詰められた個別分子(敵?)を海に捨てるというのは想像したくないけど、嫌なものである。荒廃する日本はうまく描けていると思うが、実際のところこんな風になったら、現状の日本なら駐留米軍や時間が経てば国連軍がやってきてそこまで進まないうちにクーデターは終わってしまう気もする。そしてそのままアメリカの信託統治国とかになったりしそう。←ここまで。

    2002年10月9日水曜日
    ★★☆☆☆ 「柳生刺客状」隆慶一郎講談社文庫 1993年5月15日 p196
     関ヶ原の戦い。その最中、家康が死んだことに気付いた柳生宗矩。自分の立身出世のためにこの秘事を秀忠に告げる。父嫌いで一致した秀忠と宗矩は、表裏を担当して自分たちで覇権を握ろうとするが...「柳生刺客状」他の計5短編からなる短編集。

     全体的に説明口調が多すぎるせいか、そのたびに物語がブツ切りになってしまい短編では楽しめない。特に表題作「柳生刺客状」は「影武者徳川家康」を読んでいるものにとっては物足りなさ過ぎる。物語の存在価値が見出せない。それでも5作の中では「張りの吉原」と「狼の眼」は、単純な時代小説らしくて楽しめたことは楽しめたのだが。

     期待していただけに失望が大きい。史実を元に物語を膨らます隆慶一郎作品は、長編に限るということか。

    2002年9月26日木曜日
    ★★☆☆☆ 「江戸っ子侍」柴田錬三郎集英社文庫 1982年8月25日 p461,p486
     旗本の家を勘当された浅形新一郎は、身なりの良い義賊に誘われてお姫様の誘拐を手伝うことになる。そして善悪入り乱れた戦いの舞台は江戸から東海道をこえて京都・大阪へ。美丈夫・姫様・義賊・富裕商人・好敵手・大塩平八郎など入り乱れる痛快時代小説。

     血沸き踊る面白さがあったと思えば、オイオイな展開が続いたりという波の激しさ。これはこの小説が新聞小説だったせいだと思う。キャラ捨ても激しい。物語序盤で登場したキャラも旅する過程でほとんど忘れられている展開、物語の中盤で登場したテコ入れキャラは作者がいらないと思ったのか早々と退場、といった感じ。どのキャラクターも人物造形は面白いのに生かしきれていない。なんか「剣と旗と城」と同じ悪い面が目に付く。当時の人気作家なのだが、大衆小説の悪い面が目立つ。

    2002年9月15日日曜日
    ★★★★☆ 「深夜特急6 -南ヨーロッパ・ロンドン-」(文庫版)沢木耕太郎新潮文庫 1994年6月1日 p243
     ついにヨーロッパに到達し、そして旅の終わりを考えはじめた。「深夜特急」シリーズ最終巻。

     特に印象に残ったのは、ミケランジェロの「ピエタ」、イタリアのポモドーロのおいしさ、ポルトガルという国の好ましさ、入国管理が厳しいことで有名なイギリス、などなど。あいかわらず沢木節が炸裂して面白いのだが、ロンドン後に訪問したであろう国々の話が読めなくて残念、というのが-1の原因。これで終わりなのが寂しいのだ。ネタバレ→だって「ワレ到着セズ」だし。(つまりまだ続きがある)←ここまで。

     同時収録されている井上陽水との対談も面白い。沢木耕太郎の博打必勝法の研究がなるほどなるほど。万単位のかねで、億単位の人と同じテーブルに就く度胸は俺には無い。これが研究者(探求者?)沢木耕太郎との違いなんでせう。

    2002年6月24日月曜日
    ★★★★★ 「プラナリア」山本文緒文藝春秋 2000年10月30日 p266
     次に生まれてくるときにはプラナリアに、と願う女性。彼女は乳がんを煩って以来、いつもそんなことを願っていた。表題作を含む5編からなる短編集。直木賞受賞作。

     なんとなく気分的に落ち込んでいるときに読みはじめたので、すーっと、お話が入ってきてかなりの速さで読み終えた。どの短編もブツ切りに近い終わらせ方をしているが、それもいろんな想像ができて楽しい。5編の構成順も非常にうまい。ちょっとなー、という感じの「プラナリア」で始まり、これもアリだなと「ネイキッド」を読み、そうなちゃうんだよなーと「どこかではないここ」を読み、「囚われ人のジレンマ」を読んで学生時代を思い出し、「あいあるあした」で心温まる。それぞれがそれぞれの味を出しハーモニーを奏でている。作者と編集者の息がピッタリあってできた作品集かもしれない。

    2002年6月15日土曜日
    ★★★☆☆ 「劫尽童女」恩田陸光文社 2002年4月20日 p322
     別荘地で伊勢崎博士を拉致しようとする組織の一団が着々と準備を進めていた。一団のリーダーである"ハンドラー"は、そこで近所の少女と仲良くなるのだが...路線としては「MAZE」「上と外」のような冒険物である。が、考えようによっては「麦の海に沈む果実」「光の帝国 常野物語」にも通じるファンタジーな面もある、つまるところ恩田陸らしい一品。

     面白いんだけど、食い足りない、といういつもの印象。ネタバレ→単純な連作短編集ならよかったのだけれど、全5作のうち2作が前後編で長すぎてそこでバランスを崩している。説明したい物語の部分なのだ、というのは分かるのだけれどもう少し単純に"遥"が活躍する別の話を1作入れたほうが面白かったはず。
     ラストに関しては、他の作家ならもうちょっと違った結末を作るところを恩田陸らしいまとめ方。例えば村上龍ならもっと重い結末にするだろうし、門田泰明なら壮絶なドンパチを描くだろうし。
    ←ここまで。恩田陸が書いた「AKIRA」のような作品。

    2002年6月3日月曜日
    ★★★★☆ 「悪魔のパス天使のゴール」村上龍幻冬舎 2002年5月10日 p381
     イタリア セリエAで活躍する日本人サッカープレイヤー夜羽冬次(ヤハネトウジ)の友人でもある作家のケンはイタリア中部の街メレーニアに彼の試合を見に来た。その夜、ケンは冬次からあることを調べて欲しいと頼まれる。ミステリの皮をかぶった恋愛小説とか、ファンタジーとか時代小説とかはいっぱいあるけれど、これは本邦初のミステリの皮をかぶったサッカー小説。

     正直な話、ミステリとしては二流。だが、サッカー小説としては超一流。特にミレーニア対ユヴェントスの最終戦を書いた最後の110ページは圧巻。サッカーの試合と同じように90分読むのにかかる。一気読みをオススメする。ワールドカップで盛り上がっている心を更に盛り上げた。確かに本の帯にヒデ(中田英寿)が書いているけど「言葉で展開するサッカー」にこれだけドキドキさせられるとは思わなかった。おかげで目が肥えた。サッカーの試合の見方のレベルが1つ上がった感じ。
     ネタバレ→ただし、夜羽冬次がオーバーヘッドキックでゴール決めたのは、ちょっと出来過ぎ。サッカーを知っている村上龍にしてはちょっと雑な気がする。確かに強豪ユヴェントス戦なのでラッキーな勝ち方にするしかないし、アンギオンの影響があるのだ!という謎を強めるのにはいいのかもしれないが、「悪魔のパス」で決めて欲しかった。←ここまで。

     それと本書は実は紀行ものとしても楽しめる出来。イタリア・フランス・ベルギー・オランダ・メキシコ・キューバと各地を移動していく風景を的確に捉えている。どこも食い物が旨そう。フランスの隠れ家的なシャトーホテルやキューバの楽天的な世界に憧れた。

    2002年5月19日日曜日
    ★★★★★ 「DIVE!! 3 SSスペシャル’99」森絵都講談社 2001年7月20日 p196
     突然のオリンピック内定の発表。それに揺れた要一を中心に描いた3巻。

     ほぼ予想通りに要一が主役となった。まえの2巻から感じる「優等生」要一の話なので面白くないかなー、と思っていたら「オリンピック内定」という予想外の展開。これによって揺れに揺れた要一の心を描いたので、やっぱり楽しめた。サラブレッドの優等生にも心があるのだ、という当たり前の一面と、オリンピックの魔力を感じさせる展開。自分の力で自分の道は切り開く、というのは現実的には大人たちにさせてもらえないだろうけど、小説としてはこちらがベストなのは当然か。

     4巻が最終巻らしいが主役は間違いなくコーチの夏陽子だろう。これ以外ありえまい。それでこそ話が引き締まる、というもの。

    2002年5月14日火曜日
    ★★★☆☆ 「1973年のピンボール」村上春樹講談社 1980年6月20日 p207
     翻訳者として働く「僕」。そして故郷の街に残った鼠。昔、いれ込んだピンボールマシンを思い出す「僕」。そして故郷を出ることを考えはじめた鼠。「風の歌を聴け」の続編?といえる風景を描いた物語。

     抜け殻となった僕や鼠にとって、すべての出来事はただ過ぎていくもの、というスタンス。そのため物語としてはさほど劇的ではない。逆にそれだけ読者の感性が問われている。そのためか、あいかわらず文章はうまいにもかかわらず、それほど面白くは感じられなかった。でも、広い空間にたくさんのピンボールマシンが並ぶ異様な光景とその結末だけは、そんな自分でもしっかりと読めた。

    2002年5月9日木曜日
    ★★★★★ 「国語入試問題必勝法」清水義範講談社 1987年10月20日 p219
     英数を得意とする高校生浅香一郎は、苦手とする国語を克服するために月坂という家庭教師の教えを受けることになった。月坂は国語問題を解くための秘術を教えていく。受験生必読?の短編「国語入試問題必勝法」を含む、笑える・泣ける短編集。

     学生の頃、実はこの本を読んだことがある。それも「国語入試問題必勝法」だけを読んだ。その必勝法には大笑い。しかし、それ以外の短編は読めなかった。その原因は、自分の「小説」という物語に対する面白さを読み取る能力の低さもあったが、やはり短編集の始めにある「猿蟹合戦とは何か」があまりに読みにくい話であったためでもある。正直なところ今でも読みにくい。しかし残りすべての短編には大満足。

     特によかったのが2作品。しんみりしたのは「霧の中の終章」。自分自身が老人になったときの姿を思った。蛍光燈のように消えていく「自我」。ボケに対する恐怖を感じた。
     大笑いしたのが「人間の風景」。素人4人組の小説には思わず声を出して笑ってしまった。特に原稿用紙の枚数を稼ぐために
    「番号」
    「一」
    「二」
    「三」
    「四」
    「五」
    「六」
    「七」
    「八」
    「九」
    「十」
    と、登場人物達に対して点呼をしたシーンを実際に小説内に書き、それで本当にページを稼いだ清水義範はスゴすぎる。小説の「禁じ手」を逆手にとって意味あるシーンとして使いこなしている。それと小説内で登場する小説家が「現代小説に水戸黄門のような時代小説の人間が割り込んでくるぐらいの発想のほうが面白い」というは、なるほどと唸らされた。(ネガティブハッピー・・は確かにこの発想)

    2002年5月4日土曜日
    ★★★★★ 「ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ」滝本竜彦角川書店 2001年12月1日 p237
     美少女戦士VSチェーンソー男の戦い。ひょんなことから美少女戦士を手伝うことになった主人公の葛藤を描く。第五回角川学園小説大賞特別賞受賞作品。

     人間、若いときにはモヤモヤする何かを抱えている(ここでは高校生のとき)。突っ走るべき道を求めている。人によって、それが不良への道となったり、甲子園や東大を目指す原動力になったりするのであるが、世の中のほとんどの人は実はそれがない。だからなんとなく大学へ行ったり、なんとなく就職・フリーターになったりする。そのモヤモヤを押し殺しながら。
     そんなモヤモヤの対象となる「チェーンソー男」を発見した主人公。複雑になりすぎた世界に現われたあまりに「単純な悪」。そういったモヤモヤの対象が見つけられず、ガードレールに散った友達。ネタバレ→主人公と友達との対比が、後半になるにつれて明かされていき、物語の重点が移り始める。そして主人公も実はモヤモヤを吹っ切るために賜りたかったものが「死」であったこと。しかしながら、与えられたのは「緩慢な死」だった。それに対する「生きていく決意」は作者自身の決意のような気もした。この小説は私小説としての一面もあるのではないか。←ここまで。

     突飛な設定からこれをただのヤングアダルトと考えるのは間違い。羊の皮をかぶった狼、といったところ。

    2002年4月26日金曜日
    ★★★★★ 「リセット」北村薫新潮社 2001年1月20日 p362
     「滅私奉公」という言葉が少しづつ声高に叫ばれ始めた時代、神戸に住む真澄(ますみ)は、本好きな女学生であった。お嬢さん学校に通う彼女には八千代さんという裕福なお友達がいた。ある日、彼女のお家で流行の「啄木かるた」を遊ぶことになる。それが運命の始まりを告げた。北村薫の「時と人」三部作の最後を飾る一品。

     戦前という暗い時代も、実は「いろいろあった」ことを感じさせる情景描写。そしてお嬢様らしい、やさしくて穏やかな語り口。この穏やかな描写に触れると自分の気持ちも穏やかになっていく。たぶん、それにはそうとう救われたのではないか。
     そして東京オリンピックまで、あと数年に迫った時代の埼玉の情景描写。決してすごく昔ではないのにそれでも懐かしい風景を感じた。ネタバレ→本書の主題の「時」なんてどうでもいいや、と思いながら読んでいたらついに現われた「時」。そしてラストまで続く展開。最後のほうは予想できたけど、「時」の主題とあまり関係なさそうな前半部だけでも北村薫らしい穏やかな話で十分に堪能できた。それでいて「時」の展開に無理はなく、「スキップ」「ターン」よりも自然な展開に思えた。輪廻転生という話は東洋人には馴染み深い思想だからかもしれない。←ここまで。

     「啄木かるた」の話が出てくるが、どうして石川啄木が人気があるのか分かった気がする。フッと心に染み入るいい歌を歌っている。そのうち気が向いたら詩集でも読んでみるか、という気にさせられた。それともう一つ木下夕爾の詩がよかった。

      ひばりのす

    ひばりのす
    みつけた
    まだたれも知らない

    あそこだ
    水車小屋のわき
    しんりょうしょの赤い屋根のみえる
    あのむぎばたけだ

    ちいさいたまごが
    五つならんでいる
    まだたれにもいわない

    最後のひとことが、なんともニヤリと笑えていい。

    2002年4月20日土曜日
    ★★★★★ 「永遠の仔」天童荒太幻冬舎 1999年3月10日 上p422下p493
     十七年ぶりに再会した3人。それぞれ看護婦・警察官・弁護士という立派な職業に就いていた。しかしその再会は、彼らがそれぞれに負っていた傷を思い出させることとなる。親子問題・老人介護問題などへの提起も含む「泣かせる」社会派ミステリ。

     作者の綿密な取材に対するお疲れさま、という5点。いろいろ考えさせられた、という5点。ただミステリとしては3点ぐらいだと思う。
     小説のネタバレではないが主観的な考察(もっと客観的にやりたいのだが...)→確かに今の世界は、どういっても弱者に負担を強いる世界なので、常に人は強者になろうと努めていないとやっていけない。 自分も子供の頃は、親・または大人は完璧な人間だと思っていた。しかし実際に大人になってみて・または大人たちと対等に付き合うようになってからは、実は大人もかなりいい加減な人間であることが分かってきた。 実際に自分を省みてもわかるが、自分が子供の頃に想像していたレベルに自分は全く達していないし、達している人間もさして多くないということを知っている。 自分に親となり子供でもできれば多少は大人になるのかもしれないが、それだけでは大人になりきれないのかもしれない。そして、そこにこそ本書のタイトル「永遠の仔」という表現が生まれる場所ができるのかもしれない。←ここまで。

     老人の痴呆症・介護の問題は特に考えさせられた。自分の親も年だということも分かっている。介護とかの問題も考えなくてはいけないのだ。そんなことは永遠に訪れない、他人事だと思っていたのだが。

    2002年4月1日月曜日
    ★★★★☆ 「コンセント」田口ランディ幻冬舎 2000年6月10日 p298
     兄の死により兄の幻影を見るようになった女性と彼女を取り巻く世界の物語。話題の作家、田口ランディの処女小説。

     この物語は刺激に満ちている。ネタバレ→まずは死体の話。序盤はこの話で盛り上がる。蛆の話を読むと食事がしたくなくなるような描写の連続。次にセックスの話。喚きながら激しい、またはいきなりの。さらに比喩としてのコンピュータ。精神構造の違いがOSの違い、ハードディスクが動き出す。こういった小説の中でコンピュータがここまで例として用いられたのは初めてではないのか。そしてシャーマン、またはユタの話。精神世界・癒しに話が繋がるとは思わなかった。こういった刺激が小説を面白くしていたのだが、最後の錯乱状態とその後の絶対性の展開には、ちょっとガッカリした。こうも風呂敷きを広げてしまうと畳むのが難しいは分かる。だが、こういった「転」の展開では無い方法で最後を締めてもらえたら、もっとかっこよかったのではなかろうか。プラグとコンセントで癒しになってしまうのは正しいのだと思うけれども、ここまで刺激的だったのだからもっと予想外の展開を期待してしまった。それなのでマイナス1。←ここまで。

     一部の批評家から盗作だとかと言われているようだが、そんな感じは微塵も感じなかった。多少の類型性はあっても癒しの時代を写す新時代の作家の一人ではないだろうか。

    追記2002年4月2日:田口ランディが「アンテナ」などで盗用を認めて改訂文庫版が出版されることになった。まさにタイムリー。

    2002年3月25日月曜日
    ★★★★☆ 「スプートニクの恋人」村上春樹講談社文庫 2001年4月15日 p318
     「ぼく」にとってすみれは親友でもあり、愛する人でもある。小説家を目指すすみれは、気の進まない会合でミュウという女性と知り合った。出会ってしまった。それまでは、たばこを吸いながら夜中に行動しいいかげんな格好をしていたすみれが、禁煙して昼間に働きスーツを着るまでに。そんな「半身」との出会いと別れを描いた小説。

     これは恋愛小説というべきなんだろうけど、ファンタジーという側面も強いのだろうか。村上春樹に詳しい人なら分類の問題が生じると思うが、そこまで村上春樹の本をまだ読んでいない自分にはまだよく分からない。読むまでは「ノルウェイの森」と同じタイプの話だと思っていた。現実性の強いタイプの。
     読後感としては、理解しきれない”混乱”が残った。それは、本当に大事な人(半身)を喪った経験がないからかもしれない。その一方で、人は理解してくれる人がいるから存在できるのだ、という感覚は年を取るごとに実感として分かってくる。

     ネタバレ→ギリシャから帰国した後の、にんじん君の万引き事件は蛇足かどうかを考えてみた。「僕」の孤独感を高めるためには必要な話だったと思う。それはにんじん君が「僕」に独白を強いることができる唯一のキャラクターだったからだ。半身を喪った「僕」に語らせるために必要だったのだと思う。←ここまで。

     本書では村上春樹らしくないコンピュータの描写が登場する。でも村上春樹にコンピュータやインターネットは似合わない。しかし時代性を取り入れない小説はフィクションとしては問題ではある。次回作には携帯メールをプチプチする「僕」が登場したら見物である。村上龍なら何の問題はないのだけれど。

    2002年3月16日日曜日
    ★★★★☆ 「密告」真保裕一講談社 1998年4月6日 p346
     事務方の警察官として淡々として日々を費やす萱野(かやの)。そんな彼にも8年前には射撃のオリンピック候補選手という輝かしい過去があった。「密告」で自滅するまでは。そんな彼にまたしても「密告」の疑いがかかった! 社会派ミステリ長編。

     「密告」、いわゆるチクリとも言われる一般に卑劣とされる行為である。そのためか、序盤は非常に気分が重くなり読みにくかった。しかも社会人のイジメが登場する。オイオイ、こいつら中学生かい、というような陰惨なやり方である。しかも法を守るべき立場の警察官がやるので最悪である。舞台となっているのは神奈川県警なのだが、去年・一昨年の神奈川県警の不祥事を思い出した。というよりこの本は予言していたのかもしれない(1998年出版なので)。

     良くも悪くも、この本の真実性・気持ち悪さは真保裕一の取材力のレベルの高さを物語っている。公務員の天下り問題は国家公務員だけでなく地方公務員にも及ぶのだ。知り合いの知り合いである元警察署長なる人物が土建屋の顧問をやっていた事実を知っていたりするので、余計に感じ入った。公務員の給与が安いためかもしれないが、不景気の世の中では逆に高かったりするし。天下りしなくても余生を暮らせるシステムを考えないと。

     なんやかんやとあるが、後半はほとんど一気に読めた。意外な真犯人とともに読み応えのある一冊である。

    2002年3月6日水曜日
    ★★★★☆ 「アジア旅物語」小林紀晴世界文化社 1996年11月20日 p269
     小林紀晴の初期の紀行文・フォト集。タイ・ヴェトナム・香港・マカオ・インド・ネパール・バリ、そして東京。

     初期の作品なので、とても瑞々しく、そしてとてもセンチメンタルな内容。この本買ったとき、そのころの自分にはとても楽しくて、勿体無くて、最初の2編を読んでから残りを読まずにとっておいたのだが...これを読みながら逆に当時の自分を確認できた気もする。

     鮮烈な言葉は「自由」。日本人は確かに自由だと思った。パスポートを取得するのに大変な国々。パスポートがあっても自由には海外に行けない国々・人々。そして自由に国内の好きな場所に住めない人たち。日本人は働き過ぎなエコノミックアニマルかもしれないが、こういった自由には恵まれている。さらにネパール人青年の言葉「日本の若者にはチャンスがある。それなのに遊んでばかり。もったいないよ。」この言葉は、自分はもっと自由になれる、会社や仕事や地域からも、という思いにさせられた。

     本書は現在改題されて「ハノイの犬、バンコクの象、ガンガーの火」として幻冬舎文庫から入手できる。

    2002年2月16日土曜日
    ★★☆☆☆ 「戦国海商伝」陳舜臣講談社文庫 1992年11月15日 上p401 下p419
     日本史の教科書にも出てくる「寧波の乱」。その最中、日本の船から一人の子供が助け出されていた。その助け出された子供、佐太郎が明と日本の間を行き来しながら、商人として成長していく様を描いた時代小説。

     上巻は主人公の成長期でもあり、明代の中国の情景がとても楽しい。上巻だけを見れば評価は5をつけてもいいくらい面白い。なのに下巻は、なんというか無理矢理な感じがあってつまらない。話の流れが御都合主義なうえ、突然時間が飛んだり、唐突な展開が起きたり、登場人物の動向の説明だけで終わってしまう場面ばかりになる。下巻から登場した魅力的な人物達も生かしきっていないように思われた。
     倭寇の話が書きたかったのだろうが、毛利の話とか明の転覆とか話を盛り込み過ぎて消化しきれていない。陳舜臣といえば大物だが、どうしてこんなに下手な話にしてしまったのか疑問が残る。

     上巻だけなら読む価値がある本。

    2002年2月2日土曜日
    ★★★☆☆ 「puzzle」恩田陸祥伝社文庫 2000年11月10日 p153
     九州西北部に位置する廃虚の島「鼎島」(かなえじま)。ここで不可思議な3人の遺体が発見された。乗り込んだ2人の検事、関根春と志土。不思議な魅力をたたえる廃虚の島を舞台としたミステリ。

     分かる人には分かるが、モデルとなったのは通称「軍艦島」と呼ばれる長崎県沖に実在する廃虚の島。東京ドームほどの小さな島に、高層アパートが建ち並び最盛期には人口5000人を数えた。廃虚マニアには有名な島ではるが、社有地のため許可なく島に上陸はできない。場所が場所だけにミステリのネタとしてはよく使われているらしい(実際のところは良く知らないが)。
     関根一家の長男が出てくるので「六番目の小夜子」「象と耳鳴り」を読んだ人にはオススメではある。ネタバレ。→春による推理はなかなか面白いのだが、志土による真実はちょっと強引。単独の短編としてはちょっと弱いのではないか。たぶん「象と耳鳴り」のような短編集の一遍としてなら、味付けの一つとしてよかったのかもしれない。舞台装置が面白かっただけに残念。←ここまで。

    2002年1月30日水曜日
    ★★☆☆☆ 「地球人のお荷物」アンダースン&ディクスン
    稲葉&伊藤訳
    ハヤカワ文庫 1972年9月30日 p330
     星間調査部員アレックスが乗っていた哨戒艇は、惑星トーカに不時着した。ここはDクラス種族ホーカが住む惑星であった。熊のぬいぐるみとしか思えない姿態のホーカ人達との関わりを描く、実はコメディーSF。

     そう、表紙のイラスト。これがすべてを物語っていた。このイラスト通りのキャラクター達が行き交う話なのである。もうちょっと普通のSFと思っていたら、西部劇・推理物・海賊物・宇宙戦争など「なんでもあり」な特殊なSFだった。一番笑えたのは殺されないけど太らされてしまう人質の話。ダイエットしたい女の人には要注意の惑星だ。

    2002年1月19日土曜日
    ★★★★☆ 「黒祠の島」小野不由美祥伝社ノン・ノベル 2001年2月20日 p346
     友人のライター志保が失踪した。彼女を探すべく式部(しきぶ)は九州西北部の島、通称”夜叉島”に向かう。その島ではたくさんの風鈴・風車が各家々につるされていた...小野不由美初の本格推理小説。

     滅多に”本格”ものを読まないが、小野不由美が書いた本はすべて買うことにしているので読んだ。よそ者に対して排他的、そして古くからの因習を守る島。横溝正史は一度も読んだことはないが、まるでそんな雰囲気がプンプンした。この手の本は読まないので、ある意味非常に新鮮だった。
     やっぱりこれはネタバレ。→とくに驚くシーンもなく、ほんの少しづつだが島の実体が分かってくる。そして、ついに敵の本丸とおぼしき島の実力者神領(じんりょう)家の屋敷へ。そして守護さんにまで対面。まあここまでは、じわじわととても吸い込まれた。しかし物語は急転直下、こんなに最後で探偵役が行き詰まる、という予想外の展開。しかも、あっと驚く真犯人と真の探偵の登場。反則ぎりぎりの解決のような気がして、これが評価-1の原因となった。ただし自分には本格推理を読み込んだ経験がないので、これは専門家の評価を見て欲しい。←ここまで。

     バックアップメンバー伊くんにはもっと活躍して欲しかった。トータルでは面白かったので、探偵式部シリーズとして次回作では伊くんも活躍させて欲しいが、十二国記のほうが優先だよなー。

    2002年1月10日木曜日
    ★★★★★ 「姫君」山田詠美文藝春秋 2001年6月30日 p253
     ”食べ物”と”枕”を探して街の中をあさっていた姫子は、定食屋のゴミ捨て場で摩周(ましゅう)を発見した。”食べ物”と”枕”の両方を姫子はとりあえず得るのだが...中編2つと短編3つからなる小説集。

     山田詠美の現時点での最新単行本であるが、今という時代が取り入れられていて、そして山田詠美自身の文体も進化?していて興味深い。主人公の心情の連続吐露により、ページは文字によって埋め尽くされ、あまりの文字数の多さに読むほうとしてはちょっとボーゼンとする。小説としては好みではない短編2編にこの傾向があった。
     この小説集のなかの白眉は「MENU」。「私は一番自分が好き」という考え方に憧れた。当然のことにしなくてはいけない「私は一番自分が好き」という考え方ではあるが、なかなか「私は一番自分が大切」の気持ちが強くて「好き」にはなっていけていない(今日もそんな出来事がリアルワールドであったので)。
     表題作「姫君」も面白い。とくに表紙イラストの2人を思い浮かべながら姫子と摩周の2人が動く様が見えた。これは表紙イラストを書いている真鍋昌平の絵が非常に現代若者像を写しているからだと思う(真鍋昌平は漫画雑誌アフタヌーンで「THE END」という漫画を連載中)

     ちょっと殺伐とした話が多い中、最後の短編「シャンプー」には、ホッとした。この短編には「僕は勉強ができない」路線の、昔ながらの山田詠美がある。







    最初に戻る // Home // Book / 2005 / 2004 / 2003 / 2002 / 2001 / 2000 / 1999 / 1998 / -1997 / Library

    楽也 RakuYa in 楽家