楽家 BookReview
2006年版
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  • 文章に明らかなネタバレがあるときはそのままでは読めないように してあります。すでにその本を読んでいる場合はマウス等を利用して、 文字が途切れている領域を選択すると反転して読むことができるようになっています。

  • ★4つ以上はお薦めです。★4つと★5つは個人的な好みや、 読んだ時の感情によって違っているだけで、ほとんどの場合は差がありません。 ただし、楽也の特徴として「初読の著者の評価は特に甘い」、「簡単に★5つがでる」 という特徴があります。

  • 右端の「有」は所有、「借」は図書館から借りた本、「古」は古本屋で買った本、 「貰」は人から貰った本であることを意味しています。


  • 2006年12月17日日曜日
    ★★★★★ 「ロリヰタ」嶽本野ばら新潮社 2004年1月30日 p232
     僕が君に出会ったのは雑誌の取材が終わってスタジオから出たときだった。君はそのスタイリストの押し付けを嫌がっていたよね。表題作と書き下ろし短編を含む1冊。

     「ロリヰタ」はもうほとんど私小説と言っても差し支えない内容。確かに数年前は嶽本野ばらがテレビに出たり雑誌に載ったりすることも多かった頃。そんな自分を客観的に小説の登場人物としてしまい、そして現実にありうるかもしれない出来事、いや作家自身が望んでいるかもしれない世界なのか。枝葉別れした自分の未来を、根気良くきっちりと描いている。言葉で気持ちを伝えられる作家というものへの羨望を感じた。「ハネ」は繊細な作品。折れてしまいそうになる世界を描いている。そして世間は人の心の中などやっぱり何もわからない。

     毎度のことながらすごい数のブランド(メゾンとも言うらしい)名の山々。しかも実在のブランドばかり。それだけでなくP211iとか携帯電話まで具体名を出すし。この小説を10年後に読む人たちはそれらを見てどう感じるのだろうか。村上春樹な「やれやれ」とか町田康風の文体とか、村上龍なアサヒドライという意外なネタ達も含めて、自分には作者自身の成長のあかしのように思えている。まず今の人たちにまず読ませたいという意気込みを感じるから。

    2006年12月12日火曜日
    ★★★☆☆ 「エンド・ゲーム 常野物語」恩田陸集英社 2006年1月10日 p324
     時子は母が倒れたと聞いて長野に向かう。一族とは疎遠のうえ、また父は行方不明となってすでに久しく、頼るものはなかった。母も「裏返されて」しまったのだろうか。現代版の常野物語シリーズ。

     常野シリーズはまったり感と緊張感の場面が発生するので前2作は読みやすかった。しかし本作ではネタバレ→緊張感ばかりで、その「まったり感」がそんなにない。そっちを期待していただけにちょっと評価が辛め。←ここまで。つまりあくまでもホラーが基本となっている。なにせ読者自身の過去のトラウマまで思い出されてしまうくらいだから。

     本作も、ネタバレ→恩田陸作品によくある「新しい世界」が開かれて終了する。←ここまで。そんなところを含めてマンネリ気味を読者としては感じている。「裏返し」たり、「つつむ」発想はとても面白いのだから、もっと「続く世界」を描くタイプの物語も読んでみたい。

    2006年11月26日日曜日
    ★★★★☆ 「さよなら妖精」米澤穂信東京創元社 2004年2月25日 p312
     守屋は1年前までは高校生で、当時は太刀洗や白河や文原と共にマーヤというユーゴスラビアから来ていた同年代の女の子と行動を共にすることがあった。彼女が母国に帰ってから1年、彼女の消息を知るべく当時の友人達を守屋は集めようとする。青春ミステリ。

     青春モノと思って読むと単純にはそれだけではない。いや、ほとんどのところは米澤穂信らしい青春ミステリで、登場人物たちの日常会話から推理していくところはいつも通りである。ネタバレ→ところがこれにユーゴスラビアという国の実情を交えた話が出てくるところが、普通のミステリとは異なる。守屋たちと一緒にユーゴスラビアという国を学び、そして近しい存在にさせられてしまった。つまり国際問題に興味を持たせてしまうミステリである。←ここまで。

     実は最初、妖精というから「まさかファンタジー?」とか思っていた。ユーゴスラビアだからサッカーの元ユーゴスラビア代表のストイコビッチがピクシー(=妖精)が関係する?とも思ったりしたけど、どうやらマーヤ自身を指しての言葉のよう。

     米澤穂信は変わった苗字のキャラクタばかりな気がする。だからかどうかは知らないけど、作者のホームページには登場人物名一覧が存在する。今回は「太刀洗」という苗字。作中で由来も説明される。

    2006年11月16日木曜日
    ★★★★☆ 「愚者のエンドロール」米澤穂信角川文庫 2002年8月1日 p217
     カンヤ祭ももうすぐな夏休みも終盤の頃、奉太郎たち古典部の部員は「女帝」入須冬実(いりすふゆみ)から依頼を受ける。脚本家が病気となって途中で頓挫してしまった映画を完成させて欲しいと。古典部シリーズの学園ミステリ。

     前半は非常に面白い。結末を推理(構築)する作業というのが一般的なミステリではありえなくて面白い。無かった事件=演劇の内容を推測していくという過程は「なるほど」とか「にやり」という感じで非常に共感できた。ネタバレ→しかしラストになってからの状況転換。これがあっけなくて、でも確かにくやしくって。まるで納得してしまった自分を否定されたこと、つまり後味の悪さがマイナス1ポイントの要因。←ここまで。

     サブタイトルが「Why didn't she ask EBA ?」となっている。日本語だと「なぜ彼女はEBAを尋ねなかったのか?」となるが「EBA」の意味が分からない。ネットで調べてみても完全にはわからなかったが、どうもこれは私がミステリを読み込んでいないことを暴露する内容である模様。クリスティとか読んだことないし。ホームズはある程度読んだことあるけど。まるで脚本家本郷さんみたいであると自嘲。

    2006年11月13日月曜日
    ★★★★☆ 「いじわるな天使」穂村弘アスペクト 2005年10月4日 p150
     歌人として有名な穂村弘の短編小説集。1994年発行の「いじわるな天使から聞いた不思議な話」を改題したもの。

     不条理なもの、やさしいもの、残酷童話もの、想像力あふれる一品。思いついたらそのままお話にしてしまったものばかり。子供に読み聞かせるようなものとしても使えるかもしれない。

     短編集なので、どれが好みだったかとか書こうかと思ったけど、どれも面白かったし、すぐに忘れられてしまうような内容でもあったので、書くに書けない。そんなお話たちばかり。

    2006年11月4日土曜日
    ★★★★★ 「氷菓」米澤穂信角川文庫 2001年11月1日 p217
     神山高校に入学した奉太郎は、省エネを実践すべく部活動などする気もなかった。しかし舞い込んだ姉の手紙から仕方なく廃部寸前の古典部への入部を決め、部室に向かうと既にそこには一人の女学生がいた。角川学園小説大賞奨励賞受賞のデビュー作。

     すっきりした構成で読みやすく、長すぎず、そして謎と謎解きの単純な構成に好感が持てた。間違って先に読んでしまった「クドリャフカの順番 「十文字」事件」では4人の一人称という感情移入しにくい部分もあったが、デビュー作では奉太郎の一人称のため、全体把握もしやすく、彼と千反田さんや里志や伊原との距離もよく見えて面白かった。技巧に走り過ぎない、分かりやすいというのは良いことであることに久々に気付いた。それと秀逸なのがタイトル。思わず英和辞典をひいてしまったよ。←皆さんそうですよね(笑)

     青春ミステリとしては非常にオススメ。だから角川もスニーカー文庫から通常の角川文庫に移籍させたのかもしれない。

    2006年10月30日日曜日
    ★★☆☆☆ 「塩の街」有川浩電撃文庫 2004年2月25日 p305
     塩害に苦しむ東京。真奈が行き倒れを拾ったのはそんな東京の真ん中であった。第10回電撃ゲーム大賞受賞作。

     物足りなさを感じてしまったのは何故だろう。食い足りない。登場人物が少ないせいではない。人物の描き込みや内情が描けていないわけではない。物語が淡々としているせいでもないと思う。ネタバレ→最後のカタルシスまでが寂しさの連続のお話だからだろうか。←ここまで。まあイラストが好きではない絵柄だというのも影響しているかもしれないが。

     作者は女性だが、軍事的な部分の取材がよくできていると思う。編集者や夫の助けがあったとはいえ、ここまで書けるというはさすが作家であるというべきか。

    2006年10月29日日曜日
    ★★★★☆ 「犬はどこだ」米澤穂信東京創元社 2005年7月25日 p309
     犬探しとしての調査所を始めた納屋の所に持ち込まれた最初の仕事は人探しであった。探偵型ミステリ小説。

     やる気があるのかイマイチ分からない所長と探偵に憧れる所員、そして喫茶店のマスターとウエイトレスという、ある意味黄金探偵パターン。事件は何気なさを装いながら実はかなりヘビーな内容。しかもブログとストーカーの関係とか、現代的なアレンジも効いている。

     「淡々」所長と「熱血」所員の乖離と接合が、本書の歯車なんだけど、その微妙さが話を面白くしているときもあるし、そうでなく退屈にさせられることもあった。どうやらシリーズ化されるような内容だが、ネタバレ→ラストに納屋自身への不安要素があるのでどうだろうか。シリーズ最終話で桐子と対決!というものもそれはそれで面白いかもしれない。←ここまで。

    2006年10月22日日曜日
    ★★★☆☆ 「禁じられた楽園」恩田陸徳間書店 2004年4月30日 p413
     捷(さとし)は大学で注目をあびる響一と同じ授業を受ける程度で、知り合いでもなかった。律子はアルバイトをする喫茶店のマスターの友人として響一を見ていた。烏山響一は、この2人を彼のインスタレーションに招待する。恩田陸らしいホラーファンタジー。

     インスタレーションという体験芸術は個人的に好きである。思いつくのは養老天命反転地だけど、ここには行ったことがあって個人的には面白かった(最近では税金の無駄使いと言われている)。それを広大な山の中にプライベートで作るという発想はかなり面白い。それがダークな世界でなければ。

     ネタバレ→かなり意外だったのがラスト。まさか世界が転回するなんて。響一の一人称が出た時点で「アレッ?」という気がしていたし、スポットが当たっていたキャラクタがアトリエに揃わないのは変だと思っていたが・・・この転回は特に「暗」から「明」への転回は恩田陸としては珍しいのではないか。またSFチックな樹上の巨石の風景も素晴らしく、この幻想はなかなか頭の中から消えなかった。←ここまで。

    2006年10月9日月曜日
    ★★★★★ 「イリアム」ダン・シモンズ著 酒井昭伸訳早川書房 2006年7月20日 p782
     遠い未来の地球、人口は100万人に制限されていたが、それに疑問に思う人間はいなかった。一方、古代ギリシャではすでに9年に及ぶ戦いが続き、またギリシャ軍がトロイアに攻め入ろうとしていた。そして木星では進化したロボット達が召集を受けていた。ハイペリオンシリーズの作者が描く多彩で重厚なSF小説。

     読み終わらすのに3週間かかった・・・約800ページ2段組、毎日通勤電車で読むのは重かったぞ・・しかーし、さすがダン・シモンズ、まだこれには続編があるぞ!1年後くらいらしいが。しかもさらに増量ってところが凄すぎる。

     未来の道具や社会の創造性もさることながら、LGMという生物の外見・性質・コミュニケーション方法の意外さが一番印象深い。こっちまでイマジネーションの世界が広がる。こんな想像力がある作者には脱帽ものだ。

     ただし、3つの世界が交互に繰り返される序盤は何がなんだかよくわかならい。でも後半の展開につぐ展開には一気に引き込まれた。これが分厚い本を読ませる力だろう。でも1巻で話を終わらせて欲しかったけど。トロイア戦争の話やシェイクスピアを知っていればもっと楽しめるお話。

    2006年9月19日火曜日
    ★★★★☆ 「さくら」西加奈子小学館 2005年3月20日 p380
     大阪の実家に「さくら」がやってきたのは僕が10歳のときでミキが6歳のときだった。父さんが家に戻ってきたという連絡もあり、正月に久しぶりに「さくら」にも会いたくなって、付き合っていた彼女には適当な理由をつけて実家に帰った。家族の愛情を描くお話。

     作者は若いのに家族愛をこんなに綺麗に書けるなんて、きっときっと作中のような家族で育ったのだろうか。血で繋がっている場合の家族(そうでない場合も含めて)は、その関係を清算できないので、意外にドロドロの関係になりやすい。それを含めて、そして上手く話をまとめている。
     「人気者」や「人気者の弟」や「美人の妹がいる兄」という立場は確かに経験してみないとわからない。そしてそんな他人の視線を「ストレート」や「暴投」と表現する作者のセンスは面白い。

     作者と本書は、以前にTBS「王様のブランチ」で紹介されていた。まあ正直期待していなかっただけに、拾い物だったと思う。

    2006年9月14日木曜日
    ★★★☆☆ 「少女には向かない職業」桜庭一樹東京創元社 2005年9月30日 p231
     中学二年生の大西葵は、義父をとても憎んでいた。同じクラスにはとても目立たない宮乃下静香という女子がいたが、実は彼女もある人物を憎んでいた。その二人に接点ができる。青春ミステリ。

     赤川次郎だったら、こんな結末はまず書かなかっただろう。誰でも書きそうで今まで書かれることがなかった結末を書いた、という点は評価したい。綺麗で汚い結末である。そしてそれに至るまではもしかしたら甘酸っぱい物語になる可能性も秘めていた。別にそれを望んでいたわけではないが。

     最近の若手作家はストレートなことが面白い。少し前の作家達がひねっていたせいかもしれない。

    2006年9月12日火曜日
    ★★★☆☆ 「蒲公英草紙 常野物語」恩田陸集英社 2005年6月10日 p252
     日清戦争が終わった頃、東北の田舎にある槇村にいた峰子は、大地主の槇村家の次女聡子の遊び相手としてたびたびお屋敷に上がることになった。ある日その槇村家に客人として親子4人の旅人がやってきた。常野物語のまた別の物語。

     なんというか常野の話ではあるのだけど、どちらかというと幸せな少女時代の話があくまでもメイン。それはそれで面白いのだけど、もっと常野の世界を表現して欲しかった。ネタバレ→話も思ったより短く、ちょっとした日常といきなりの大展開だけで話が終わってしまった気がして、せっかくの面白いキャラクターがもったいなく感じた。←ここまで。

    2006年9月7日木曜日
    ★★★★☆ 「流星ワゴン」重松清講談社 2002年2月8日 p389
     もう死んでもかまわない、という気持ちで駅前をさまよっていた。そこに親子2人連れのオデッセイが目の前で停まった。「早く乗ってよ。」そして過去へ。重い現実を描いた話。

     現実の厳しさがあまりに辛くて、そして人生の分かれ目となった変えることの出来ない過去に悔しさが募って読み進めるのが結構つらかった。振り返りたくない過去は誰にでもあるものだ。それを直視することは、自分にはできない。それを越えていかないと確かに成長はないのだろうけど。
     自分と同い年の親と向き合う、というありえないシチュエーションは考えさせられた。確かに親に比べると自分は間違いなく甘ちゃんだとは思う。ファンタジーなことはしないと思った重松清らしい「現実的なファンタジー」だと思う。

     固有名詞をここまで使うというもの「今」を大切にする重松清らしさかもしれない。オデッセイやユニクロや黒ヒゲ危機一髪が普通に出てくるし。

    2006年9月3日日曜日
    ★★★★☆ 「バスジャック」三崎亜記集英社 2005年11月30日 p228
     バスジャックが定着化し、まるで競技のように設定化された世界。私が乗った高速バスがバスジャックされた。しかし、あまりに稚拙だった。作者初めての短編集。

     全編を通して、そして「となり町戦争」を含めて作者の作品には「諦観」が根底に流れている。その「諦め」がいつも静かな(そしてある意味幸せな)物語を生んでいる。例外は短編「送りの夏」の主人公の小学生くらいか。

     どの短編もよかったが表題作「バスジャック」、「動物園」、「送りの夏」が話の長さもほどよく、そして気持ちよい幸せ感をもらえる。

    2006年9月2日土曜日
    ★★★☆☆ グインサーガ108「パロへの長い道」栗本薫早川文庫 2006年6月15日 p308
     あとがきを読むと今回登場したキャラは何か別作品にかかわりがあるらしい。知らないので意味がない。ここでSFなことをやらなくてもよいから、ロードノベルをもっとやって欲しい。次巻は面白そうと期待しているが。

    2006年8月30日水曜日
    ★★★★☆ 「クドリャフカの順番 「十文字」事件」米澤穂信角川書店 2005年6月30日 p314
     神山高校文化祭「カンヤ祭」では文集「氷菓」を古典部は販売しようとしていた。しかし部長千反田えるをはじめとする部員たち4人は皆悩んでいた。定番というべき学園ミステリ。

     読み始めて気付いたけど、これは実はシリーズ物だった!まあいいか。前話のネタバレはまったくなかったので問題無しとしよう。内容はたぶん作者が得意とする”それほど大きくは無いけど凝った謎解き”となっている。ただちょっとわかりにくいというか、単純にアガサ・クリスティを1冊も読んだことが無い人間だから楽しめなかったのか、という問題はあった(正確には知らなくても楽しめるレベルだと思うが、個人的に気になってしまって・・・という意味で楽しめなかったというかもったいないという気持ち)。

     キャラ立ちしているので日常風景は面白い。単純に健やかでなく嫉妬が渦巻く高校という環境。これはある意味リアルっぽいし、逆にもっと青春青春した面を出して嫉妬面を抑えた描写にしてもよかったかもしれない。

    2006年8月27日日曜日
    ★★★★★ 「マルドュック・スクランブル 圧縮」沖方丁早川文庫 2003年5月31日 p316
     少女娼婦バロットはシェルに言われるがまま、車に残った。そしてその車は爆発する。日本人作家が書いたSFアクション小説。日本SF大賞受賞作。

     ねずみが・・楽俊以来だな・・
    変形して主人公を助ける動物というと、バビル2世の黒豹?を思い出す。しかし「煮え切らない」という形容詞はなかなかよい。個人的にも使いたい言葉だ。

     敵として登場する猟奇的殺人チーム5人組の描写が凄かった。頭に映像が浮かぶとすこぶる気持ち悪さが倍増する。よくこんなものを思いついたものだ。

     本作は3部作らしいので、とりあえず続きを読みたいぞ。

    2006年8月26日土曜日
    ★★★☆☆ 「Q&A」恩田陸幻冬舎 2004年6月10日 p309
     とある巨大スーパーで起きた事件。いや事件ではなかったのか。多くの人が逃げ出そうとしたためにエスカレーターや階段に人が殺到し、多くの死者を出した。そして、それらを調査する人々が関係者に質問をする。すべて応答形式で書かれた恩田陸らしいミステリ。

     最初は正直鬱陶しい感じで全く読み進まず。中盤あたりからかなり面白くなってきて、この構成の妙が見えてきて楽しめた。でも相対的には実験的な部分が多すぎてそれが必ずしもうまくいっていない気がした。過去の質問者が回答者になっている、という部分はなかなか。

    2006年8月25日金曜日
    ★★★☆☆ グインサーガ107「流れゆく雲」栗本薫早川文庫 2006年4月15日 p311
     グインが逃避行をしている間の世界情勢の説明巻。グインサーガのように長いシリーズだと20巻に1回はある。近況報告は楽しみなケースとそうでないケースがある。今回はやっぱりグインが見たかったので、そうでないケース。

    2006年8月13日日曜日
    ★★★☆☆ 「夏の名残りの薔薇」恩田陸文藝春秋 2004年9月30日 p384
     山深くにある隠れ家的なグランドホテル。秋も深まる頃、また今年も3人の伯母達から招待された沢渡家ゆかりの人々。そんな人々が織り成す愛憎劇。

     恩田陸お得意の少人数空間でのミステリである。ただしちょっと単純では無いのだけれど。感想としては自分はミステリが苦手なせいか、それとも少し恩田陸を読みすぎたせいか楽しめなかった。キャラクタは非常に魅力的なんだけどね。
     本書のポイントは巻末にある著者インタビュー。恩田陸のひととなりがよくわかる内容で非常に楽しめた(小説以上に)。また本書出版時点での恩田陸作品が並べてあるが、その8割以上をすでに読破済みであった。

    2006年8月12日土曜日
    ★★★☆☆ グインサーガ106「ボルボロスの追跡」栗本薫早川文庫 2006年2月15日 p313
     いたしかたないとはいえ、アストリアスと条約を結ぶとはね。大人の対応ですよ。あとで遺恨になりそうだ。

    2006年8月6日日曜日
    ★★★★☆ 「川の名前」川端裕人早川書房 2004年5月31日 p381
     夏休み、脩と河童とゴム丸の3人は桜川で見かけた怪しい生物の跡をたどるべく、川周辺を探索していた。少年達と川のかかわりを描いた夏休み向け少年小説。

     ネタバレ→謎の生物がペンギンと知ったときは「えー」だったけど、確かにペンギンですら非日常であることは間違いない。また、ゴム丸は見ていて面倒なキャラだとは思ったけど、それをしっかり描けるのは作者が子供しっかり見ているからできることだろう。あと残念というか、女性キャラである委員長は主たる冒険には絡んでこない。これはライトノベルではなくてジュブナイルだからなのだろうか。まあ小学生ならこのぐらいの距離が妥当だからかもしれない。←ここまで。
     タイトルの「川の名前」が本書に適切なタイトルであることが分かるのは物語も終盤になってから。それまでなんでこのタイトルなのか、まったく想像もつかなかった。だって桜川ってただのドブ川だったし。そして川の名前で住処を表す考え方が面白い。たしかに国境や県境なんて人間が勝手に決めたものだから。

     最初は恐竜を思わせるシーンから始まるので前作を思い出し、フットサルが出てくるあたりは「これが次作につながったのか」と思わせるような記述がたくさんあって作者の成長というか移り変わりが楽しめた。毎回テーマが変わる川端裕人固有の楽しみである。

    2006年8月2日水曜日
    ★★★★☆ 「対岸の彼女」角田光代文藝春秋 2004年11月10日 p288
     友達のできない娘にいらだちつつ、自らも先に進めない小夜子。そんな状態から逃げ出そうと仕事を探す小夜子。何度も不採用になっていたとき、ある会社でたまたま同じ大学出身の女社長に出会う。2人の人生の対比と交差を描いた直木賞受賞作。

     なんか本当にありそうな人生で怖い(別にホラーではない)。普通にこういう人がたくさんいるはず。そんな日常感覚が作者の持ち味だし、確かに本作は他の作品と比べても非常に分かりやすい。直木賞の価値はあると思う。

     海に憧れるのは海のないところで育った人たち共通の想いだと思う。一度は海のそばに住んでみたい。

    2006年7月29日土曜日
    ★★★★☆ 「アルカロイド・ラヴァーズ」星野智幸新潮社 2005年1月25日 p155
     咲子は自分の住んでいるマンションが燃えているとの電話を受けて、急いで現場に向かっていた。ベンジャミンや陽一がいなくなればイイと願いつつ。幻想と現実のはざまを描いた話。

     原色が飛び交う話である。色はあまりにも色とりどり過ぎる原色の森。そこで繰り返される9人の愛と嫉妬と生と死の繰り返し。よくこんな世界を創造できたものだ。永遠に9人の生死が繰り返される世界は9人にとっては間違いなく楽園であり、そこを追い出されて現世に来たのであれば間違いなく9人にとって現世は煉獄である。だってやり直しが効く世界は、どう考えたって楽園には違いない。嫉妬や殺戮がどんなに繰り返されようとも。

     読めば読むほど気持ち悪くなるに、それでも読み進めてしまった。全員にはオススメできないが、この幻想と現実のはざまを体験したい人はどうぞ。

    2006年7月28日金曜日
    ★★★★☆ 「僕たちの戦争」荻原浩双葉社 2004年8月15日 p428
     2001年9月、ニューヨークでテロが起きた頃、健太は海でサーフィンをしていた。初心者でもない健太が海で溺れて気が付いたとき、古めかしい日本家屋で目が覚めた。同じ頃、砂浜には吾一が打ち上げられ病院に搬送された。現代と第二次世界大戦末期の日本を結ぶ2人の19歳の戦争物語。

     おなじみのタイムスリップものだが、一捻りが効いていて「入れ替わり」でもある。現代にやってきた吾一を最初は話せなくしたり、健太がフライトシミュレータ好きという設定とか、それなりによく考えてある。航空隊で少しずつ人が減っていく様は、目頭が熱くなった。

     ネタバレ→ラスト、本当にミナミの元に帰って来たのはどっちだったのだろう。本当は2人ともミナミの元に返してやりたいがそれは許されない。作者も考えたくなかったか、自分の考えを押し付けたくなくてこんな結末にしたのか。本作のすべてはここにある。←ここまで。

    2006年7月27日木曜日
    ★★★☆☆ グインサーガ105「風の騎士」栗本薫早川文庫 2005年12月15日 p314
     そろそろ来るかなと思っていたアストリアスがついにやってきました。しかもなんていうか、恨み怒りでレベルアップしたかと思ったらしょせんは単純な武人だったりするし。でも住民の話とか暗い話ばかりで、そのために1巻も使われるのはちょっと。まあグインがいるから、それなりにすっきりだけど。

    2006年7月16日日曜日
    ★★★★☆ 「愛がなんだ」角田光代メディアファクトリー 2003年3月14日 p218
     マモちゃんから電話。「今から飲みに行かない」。既に真夜中、でもマモちゃんに会いたい一心で私は行く。好きで好きで一緒にいたい恋愛小説。

     正直キツイっす、というストーカーまがいの話なんだけど、別にそこまで話は重いわけじゃなく、でも実際は人生をそれにかけてしまう意味では重いんス。だって好きな人のために仕事をさぼって、そして会社を辞めるなんて、そこまで出来る人ってある意味幸せじゃん。そんなこと俺ら凡人にはできないっスよ、とマモちゃん風に言ってみる。

     なんか現実にありそうでなさそうで、そんな話が書けるのは角田光代らしい。あと飲み屋のメニューに刺激されてビールが飲みたくなったよ。(実際に飲んだし)

    2006年7月13日木曜日
    ★★★★★ 「銀河のワールドカップ」川端裕人集英社 2006年4月30日 p378
     今日も再就職活動に失敗して公園のベンチでタバコを吸っていた花島。球技禁止と書かれた公園の真ん中で小学生達がサッカーをしていた。転がってきたボール。花島は無意識にそれを蹴っていた。サッカー少年達とコーチの物語。

     久々にフットサルをやりたくなってきた!これを読んでサッカーしたいと思わない奴はいないに違いない。自分も小学生のときにサッカー部にいた(2軍の補欠)ので、そういう点では非常に感情移入しまくりだった。
     サッカーの生中継をラジオでするとリスナーには分かりにいケースが多い。これは小説でもいえる点ではあるけど、想像力さえあれば子供達の動きが手に取るように分かる。後ろから指揮する司令塔の声さえ聞こえれば。

     あくまでもジュブナイル小説であるけれど、実はかなりサッカーの戦術に詳しい。さすが川端裕人だと思う。サッカーワールドカップが終わった今だからこそ、まずはジュニアの強化から、という意味でも今読みたい本。

    2006年7月8日土曜日
    ★★★☆☆ おいしいコーヒーの入れ方\「聞きたい言葉」村山由佳集英社JBOOKS 2005年5月31日 p219
     かれんは鴨川に行きたいということをついに両親に言うことを決心する。シリーズ9作目。

     今回は大きな変動前の兆候の巻。これから始まる遠距離恋愛のための助走。それなのである意味平穏というべき状態。次巻以降がポイントになるかも。

     あとがきにもあるけど、同じ話を長く書き続けていくと、作者も登場人物も成長というか年を取っていく。まだまだ登場人物たちは若いけど。

    2006年7月6日木曜日
    ★★★★☆ 「瞳の中の大河」沢村凛新潮社 2003年7月25日 p399
     軍学校を出たばかりの少年といってよい隊長アマヨクは自らの責務を果たそうと誓っていた。これまで恩を受けた叔父さんのためにも。山々に囲まれた国で起こる戦争を描いた英雄譚。

     一人の主人公を中心としたその歴戦の骨太な年代記で面白い。なのになんというか物足りなさを感じてしまうのはなぜだろう。なんとなくご都合主義なところ?いや、そんなのは小説全般に当たり前のこと。では、ありがちな話だから?そんなにありがちでもない。信念を貫き通すというカッコ良過ぎへの嫉妬?まさかね。これだけ骨太に書かかれているから、軽さもなくて楽しめているし。・・・そんな感じ。

     ほどほどの長さの架空戦記を読みたい人にはオススメ。

    2006年7月4日火曜日
    ★★★☆☆ 「ストロベリーショート」素樹文生メディアファクトリー 2006年2月20日 p188
     平凡な39歳主婦つた子さんはある日連れ去られ、そこでショートストーリーを書くことを要求された!数十編のショートショートからならなる小説集。雑誌「ダ・ヴィンチ」に連載されたもの。

     アホらしすぎてつまらないのばかりだなー、と読んでいると「アレッ、これって」という感じに収束していくことに気付くと意外に面白かったと気付くショートショート集。つた子さんの話や編集者の話を読んでいると、実際に作者もネタがなくてこんな話ばかりになったのではないか、と疑うばかり。

    2006年7月3日月曜日
    ★★★★☆ 「神の子どもたちはみな踊る」村上春樹新潮社 2000年2月25日 p201
     地震があったので母親はボランティアで神戸に行ってしまった。小さなアパートだけど母親がいないと狭く感じる。ある日、父親らしき姿を見かけた。阪神淡路大震災によってたぶん少しだけ影響を受けた人々を主役とした短編集。

     分かりやすくて面白いのが「タイランド」「蜂蜜パイ」。静謐さの「タイランド」と、ハートフルでちょっとしょっぱい「蜂蜜パイ」。「UFOが釧路に降りる」と「かえるくん、東京を救う」は村上春樹のもう一つの世界の典型版。ちょっと異色は「アイロンのある風景」か。他の作家でも同じような話が書けそう。

     地震はテーマではなく、きっかけとなっている。だから話が重いわけでもないけど、村上春樹らしい重さがある短編集となっている。

    2006年6月24日土曜日
    ★★★★☆ 「地図にない国」川上健一双葉社 2004年7月15日 p377
     スペインバスク地方に古くから続く祭、エンシエロ。街中を走る牛の集団の前を走ることで男達が自分の勇気を示す祭だ。そんな喧騒のなかに三本木はやってきた。野球選手、女優、作家、作家志望、闘牛士、テロリスト、元テロリストが行きかう胸躍るお話。

     生きている価値を見出すためにエンシエロを走る元サラリーマンのおじさんを自分と重ね合わせてみた。どうでもよくなってくると原点に立ち返りたくなる。そしてそんな彼に触発される引退保留中の野球選手三本木。いかにも主人公然としていて、そして野球に戻りたいがためにエンシエロを走る姿は青春小説そのものだ。ネタバレ→しかし、あのラストにはびっくりした。ハッピーエンドは確かに単純すぎだけど、いやまさかね。なんともある意味後味が悪い部分もあったりする。←ここまで。

     スコットランドの風景もバスクの風景も気持ちが良さそう。特にスコットランドの田舎でゴルフというのはなかなか。

    2006年6月23日金曜日
    ★★★☆☆ 「少女@ロボット」宮崎誉子新潮社 2006年2月25日 p248
     あとがきを読むとよい。これは若者の仕事の現場を伝えた貴重な記録だ。そんなオハナシたち。

     軽そうに話は書かれているので、「これなら俺でも続きを書けそう」と思うけど、実際には体験していないので気持ちが書けないのに気付く、そんなありそうでなさそうな都会の現実感が特徴。特に「子供だヨ!全員集合」の女性教師のやさぐれ感がよい。しょせん教師といえど、という感じ全開なのが、疲れた感じなのがよい。労働者はみんな疲れているのだ。

    2006年6月19日月曜日
    ★★☆☆☆ 「KAIKETSU! 赤頭巾侍」鯨統一郎徳間書店 2006年2月28日 p277
     久留里一太郎は浪人ながら、正義の心根を持つ侍であった。そんなとき読み売りをする勘太から殺しがあったことを告げられる。一太郎のスレスレの活躍を扱った連続短編集。

     時代背景に関して時代小説以上に細かく扱いながら、でもそんな記憶はすぐに忘れてしまえる鯨統一郎ならでは脱力感。これがなんかうまくハマっていない。なんというかご都合すぎる。もう少しパターンを変えながらやれば面白くなったはずなんだけど。この面白く無さの原因は、作者というか、鯨統一郎という素材を生かしきれなかった編集者に責任があると思える。

    2006年6月4日日曜日
    ★★★★☆ グインサーガ104「湖畔のマリニア」栗本薫早川文庫 2005年10月15日 p316
     なんていうか吟遊詩人マリウスの「女性のこころをどうすればつかめるか」講座。まったく侍女さんを久しぶりに登場させたと思ったら、この扱いか。それもまた良し。面白かったし。

    2006年6月3日土曜日
    ★★★★★ 「永遠の出口」森絵都集英社 2003年3月30日 p313
     小学生の頃、私は姉から「紀ちゃんには永遠にできないね」と言われると、どうしても我慢ができなかった。私と家族と学校を丹念に扱った連続短編集。

     児童文学作家の頭の中をみてみたい。まるで自分自身が子供時代に戻ったかのようなお話を作っている。小学生時代、中学生時代、高校生時代、そんなすべての時代の感情を今すべて思い出せるなんて普通はできない。大人が忘れてしまったものをずっと覚えているのが児童作家なのだ。うらやましい。

     大人になると子供時代はよい思い出しか思い出せないけど、よく考えてみれば大人以上に過酷な世界だ。子供には辞めるとか逃げるという選択肢は実質的には存在しないから。だから心が傷付く。大人は逃げてしまうからダメなのかも。

    メモ:別府の北にある国東半島にある両子寺(ふたごじ)は紅葉が綺麗なお寺。

    2006年5月29日月曜日
    ★★★☆☆ 「ねじの回転」恩田陸集英社 2002年12月10日 p444
     昭和史の謎の1つ、二・二六事件。その舞台裏に未来の国連から派遣された歴史修正チームがいた。

     個人的に歴史モノは好きだけど、近代史は苦手。だから今回のこの小説で、二・二六事件のおおまかな流れがわかった。しかも暗殺未遂となって生き延びた2人が終戦へのキーマンになるなんて。

     歴史のお勉強にはなったけど、歴史修正に関する重要なタイムパラドックスが複雑だったりして最後のほうでは「何がなんだか・・・」という感じになってしまって評価は低め。あとは「二・二六事件の空間」と「歴史修正チームの空間」の間をいったりきたりする展開のため、集中力が切れやすかったのも低評価の原因の一つか。

    2006年5月28日日曜日
    ★★★★★ 「ゼウスの檻」上田早夕里角川春樹事務所 2004年11月8日 p306
     人類が月、火星と移住圏を広げた未来、木星にも宇宙ステーションが既に出来ていた。その中のひとつ「ジュピターT」では、男でも女でもない「ラウンド」と呼ばれる両性種の人類がコロニーを作っていた。そこから出ないことを約束して。SFでありジェンダーをテーマにした小説。

     本書にもあるが、確かに現在の人類の文化は男と女があることを前提に作られている。体の性だけでなく、心の性であっても男女が前提で、その中間という概念はない。ラウンドにとっては確かにその文化は「差別」が存在していると思う。

     そして皮肉な結末。これは予想外。淡々とした話なんだけど、隠れた激情が見え隠れする。それが意外に気持ちよかった。

    2006年5月21日木曜日
    ★★★★★ 「自転車少年記」竹内真新潮社 2004年5月25日 p413
     自転車の補助輪をはずしたばかりの昇平は、勢いに乗って初めての坂道を一気に下った。そして草太と奏が遊んでいた庭に突っ込み、出会う。少年時代の冒険から成長して大人になるまでを描いた青春小説。

     自転車に乗りたい!と思わせるお話。ロードレーサーが面白そう。元々自転車は好きなほうだけど、ロードは考えたことが無かった。早く走るのに興味がわかなかったし。

     基本的には「カレーライフ」と同様の手法で書かれているが、違うのは子供時代から大人までをノスタルジックに描いているところ。終りのほうでは、懐かしい気分にひたれてしまう。そんな作者と同年代の人に読んでもらいたいお話。

    2006年5月11日木曜日
    ★★★★★ おいしいコーヒーの入れ方[「優しい秘密」村山由佳集英社JBOOKS 2004年5月29日 p212
     一人暮らしをはじめたショーリが久々におばさんの家で一泊する。翌日突然おばさんから「なにか隠していない?」と聞かれた。村山由佳の直木賞受賞後第1作。

     自分でこのサイトを見て気付いたが、7巻を読み忘れていた。全く違和感無く読めてしまったのだけど。たしかにかれんがいつのまに○○○志望になっていたときはびっくりしたけど、それ以外は全く気にならなかった・・・

     今巻の最大の見所は、ネタバレ→律子とのシーン。修羅場修羅場修羅場。怖いよコレ。美人がもったいないよ、と思いながら読む。優しいことの残酷さを思い出す。←ここまで。

    2006年5月10日水曜日
    ★★★★☆ 「いつかパラソルの下で」森絵都角川書店 2005年4月30日 p247
     世の中の悪徳をすべて廃したような父親から逃れるべく二十歳のときから同棲を繰り返し家に寄り付かなくなった長女。彼女には同じく二十歳で家を出た兄と、父親のお気に入りだった妹がいた。そんなある日、父親が事故で亡くなったという知らせが来る。そしてありえない訪問者が母をかき乱す。児童向けが多い作者の大人向けのお話。

     ネタバレ→セックス(濡れない)セックス(暗い血な)セックスな話の部分はあるけど、それはあくまでも手段であって、本当は親子の関係について書かれている模様。確かに親の教育によって子供は相当影響受けるけど、大人になればそれはあくまでも自己責任で成長しなくちゃならないのだな。まあルーツはたしかにたどりたくなる。家紋とか(笑)
     最後のほっこり感はよかったよかった、という典型的な終わり方だけど、世の中は意外に収まりやすいものだからこれでいいのではないか。
    ←ここまで。

     2章の舞台となる佐渡の話がでてくるが確かに相川地区は少しずつ寂れていく地区であった。狭い道路とか奉行所跡とか。2年前に行ったことを思い出した。

    2006年5月4日木曜日
    ★★☆☆☆ 「裏山の宇宙船」笹本祐一ソノラマノベルズ 2005年6月30日 p427
     台風が通り過ぎた後の気持ちのよい朝に、犬の散歩で裏山へ行ってみると土砂崩れを見つけた。そして正体不明の物体がそこから顔を覗かせていた。田舎町の高校生文(ふみ)とその仲間達による調査が始まる。本作は10年前に文庫で書かれたSFのノベルズ版。

     発想は面白いし、キャラクターはできているんだけど、あんまり面白くない。人物の掘り下げが浅いのか、それとも10年前の作品の古さのせいなのか、高校生なのに携帯電話をもっていないせいか(10年前だから仕方ない)、この本を読んだのがあまりに細切れの時間過ぎて話にのめりこめなかったせいなのか。10年前にこの本を読んだら面白かったかもしれない。イラストだけ現代風になっているから余計にギャップを感じたのかもしれない。

     最後にあるノベルズ版あとがきなどの部分の後日談だけはニヤっとした。

    2006年5月1日月曜日
    ★★★★☆ 「九月の四分の一」大崎善生新潮社 2003年4月24日 p203
     13年ぶりのブリュッセル。お気に入りのビール、そして13年前の思い出。グランプラスの広場で出会った彼女。そして13年経って気が付く真実。作者独特の恋愛短編集。

     もーなんども言っているけど相変わらず主人公は編集者だけ。しかも今回は主人公=作者に限りなく近い元将棋ファン編集長まで登場する(作者は元将棋世界編集長)。作中の彼女の職業が、作者の夫人の職業でなかったので、一応フィクションのぎりぎりにあるけれど、作者は限りなく私小説作家といえる。

     表題作「九月の四分の一」でユースホステルが登場するところとか、あまりに不幸な「報われざるエリシオのために」の登場人物たちがこの本の見所。とても渇いていて、そして何も残らないのがこの作家の真骨頂か。

    2006年4月22日日曜日
    ★★★★☆ 「となり町戦争」三崎亜記集英社 2005年1月10日 p196
     ある日、アパートに帰ってみると広報誌にとなり町との戦争が始まったことが告げられていた。その戦争へのかかわりと日常を描く小説。小説すばる新人賞受賞作。

     もっとハードな戦争を描くものかと思ったら役所仕事な戦争が描かれる。それでもやっぱり十分に殺し合いはあるのだけど、ソレはほとんど見えない。主人公も大きくかかわっているようで、実際にその中心からは離れていたことがわかる。そして終戦がやってくると、ネタバレ→彼がかかわっていた人の中にも戦死者がいたことがわかる。はじめてわかる気持ち。そして実際には負けたこと。←ここまで。

     話題になった作品で、2005年中は図書館で借りることは不可能だった作品。ある種の戦争モノをこういう考え方で書き連ねたという点は評価できる作品。

    2006年4月21日土曜日
    ★★★☆☆ 「メシアの処方箋」機本伸司角川春樹事務所 2004年1月8日 p394
     ヒマラヤの奥地の氷河が溶け始めたとき、箱舟が現れた。中からは蓮模様の木簡が出土する。コレが意味するものは何か。遺伝子フィクション。

     登場人物たちが態度悪いです。というか登場人物たち全員がハンドルネームでしかしゃべらないので、そこがちょっとより暴力的でいらつきました。ネタバレ→でも、救世主を自分達で作る、というコンセプトや世間から逃れるためにあえて秘密を公表する手段などはとても面白く読めた。登場人物たちがみなカッコよくないのは、面白くも有り、つまらなくもあったけど。←ここまで。

    2006年4月17日月曜日
    ★★★★☆ 「西の善き魔女 星の詩の巻」荻原規子中央公論新社 2002年7月7日 p536
     生き残るために女王候補となったフィリエルは、課題をこなすための旅に出た。外伝を含めた最終巻。

     外伝である「銀の鳥プラチナの鳥」が面白い。いつも沈着冷静な傍系王族のヴィンセントと実は情熱家でもある女王候補アデイルの対比と友情が楽しめた。砂漠の街というシチュエーションが個人的に好きなせいもある。ネタバレ→でも予想通り、ルーンが高貴の出らしい、というのはお約束すぎた気もする。←ここまで。
     本伝でのルーンとレアンドラの関係もニヤニヤしながら読む。まあありがちではある。

     全巻を通していえるのは、面白いことは面白いけど、謎がほっとかれたままだったり、もっと東の帝国ブリギオンの内情を示して欲しかった。続きを書くことも可能な終わり方だと思うけど、作者はどう思っているのだろう。

    2006年4月6日木曜日
    ★★★★☆ 「西の善き魔女 世界の扉の巻」荻原規子中央公論新社 2002年3月7日 p542
     ルーンと共にあることを決めたフィリエルは、竜のすむ南の森の中で暮らしていた。そんなある日、東の帝国ブリギオンの兵隊達に出くわす。本編と子供時代の外伝からなる第3巻。

     あいも変わらずの大活躍を見せるフィリエル。そしてついに、、、という展開になったところで外伝になってしまうのが残念、という気持ちで読み始めた外伝であったけど、意外にこれが楽しめた。あー、子供ってそうだよね、という懐かしむ感じ。抱きつくって気持ちよさそう。大人になるとできないけど。

    2006年4月4日火曜日
    ★★★☆☆ グインサーガ103「ヤーンの朝」栗本薫早川文庫 2005年8月15日 p318
     ずっと思っていたけど、すこしマリウスの性格がおちゃらけになりすぎてきたような。あと、やおいの影響が少し大きすぎ。実際にはたったの一文だけにあったのだけど、そんなことで大人のグインが動揺しなくてもよいはず。

    2006年4月3日月曜日
    ★★★★☆ 「西の善き魔女 戦いの巻」荻原規子中央公論新社 2001年12月28日 p507
     グラールの首都ハイラグリオン。王宮のそびえる華麗な街。その王宮についに乗り込んだフィリエル。そして王立学問所に入ったルーン。彼らを待ち受ける罠の数々。本格的に物語が動き出した第2巻。

     世界の謎が徐々に見えてくる。禁忌とされる技術の意味。そしてついに目の前に現れる不可思議な世界。ファンタジーとSFの組み合わせは多いけど、今までありそうでなかったある種の「壁」の考え方が斬新に映った。ファンタジーに混ぜるSFの感じがちょうどよい。バランスが重要だ。

    2006年3月26日日曜日
    ★★★★★ 「失はれる物語」乙一角川書店 2003年11月30日 p301
     目覚めると、そこは音も無い暗闇の世界となっていた。ただ右手の感覚のみが残っていた。妻はその右手に語りかける・・・ もともとライトノベルとして出された短編集を単行本として再構成された短編集。

     数年前に購入して、最初の「Calling You」の主人公のいやさにそのまま放置してあった。期待しないで久々に読み始めたら、これがとても面白い世界観の話。さらにそれ以降の短編すべてが独特の視点から描かれている。こんだけ面白いとは思わなかった。正直読み終わったら売り飛ばす予定だったが、それはキャンセル。

     どれも面白いけど、もっとも優しい気分になれたのは「しあわせは子猫のかたち」。内へ向かう男と外へ向かう先住人と子猫の、2人と1匹の関係が永遠に続かないとは分かっていても、ずっと続いて欲しいと願ってやまなかった。

     本書が元ライトノベルとは知らずに購入した。「あとがき」にもあるとおり、これがライトノベルとして売られていたら手に取らなかったのは間違いない。

    2006年3月25日土曜日
    ★★★☆☆ 「星々の舟」村上由佳文藝春秋 2003年3月30日 p389
     父と死んだ母の間に生まれた兄・弟そして継母の連れ子の妹と継母との間に生まれた妹。4人兄弟と父、そして兄の娘のそれぞれの視点から見た、それぞれの物語。

     連作短編というよりは、同じ時間軸で少しずつ変わっていく物語となっている。それぞれの話は物悲しくて濃厚であるけれど、各人の視点となっていて話が少しブツ切りにされてしまうのが残念。個々の話をもっと語ってもよかったような気もする。

     直木賞を本作で受賞したが、村山由佳としては少し落ち着き過ぎで物足りなかった。

    2006年3月19日日曜日
    ★★★☆☆ 「西の善き魔女 旅立ちの巻」荻原規子中央公論新社 2001年11月7日 p520
     雪また雪の奥深い地セラフィールド。ここに住む少女フィリエルは15歳の年の女王聖誕祭のパーティに行くために精一杯のおめかしをしていた。その胸に運命の首飾りを着けて。ハリポタブームのおかげで日の目を見た和製正統派ファンタジー小説。

     かなり前から気にはなっていたけどずっと読んでいなかったので、読書モードになった今読み始めた。まだ序盤なのでまだまだという感じだが、次を読みたい!という気持ちがあるので実は面白い小説であることが分かる。
     ネタバレ→なかなか良かったのは国の秘密話。女系で成り立つ国家の意味。そしてそのための女学校。ファンタジーとはいえ、これは大人のためのファンタジーなのかもしれない。学園生活の話は面白いけど、ルーンの女装は少し無理があるような。まあ、実はルーンも何者かであって・・・というエンディングが見えないわけでもない。←ここまで。

    2006年3月16日木曜日
    ★★★★☆ 「別れの後の静かな午後」大崎善生中央公論新社 2004年10月25日 p197
     半年のパリ滞在からの帰国。なにもやる気がない日々。そして毎日鳴る電話。あるときその電話を取ると、見知らぬ女性からの電話だった。大崎善生らしい静かな短編恋愛小説集。

     連作短編集ではないが、主人公はすべて男性で、そして全員が編集者か元編集者という、作者のお得意のパターン。そういえばエロ雑誌の編集者が主人公の話も過去にあったっけ。
     どの短編も心に染み入る「ほのかさ」が感じられる。この機微はまるで女性作家のようにも思えるが、やっぱりこの作者固有の感覚だ。たまにどうしても読みたくなる作家の一人だ。

    2006年3月9日木曜日
    ★★★★☆ 「黄昏の百合の骨」恩田陸講談社 2004年3月10日 p309
     百合の強い香りがする白百合荘。そこに理瀬は死んだ祖母の遺言により半年住むことが義務付けられていた。だが、その館を人々は魔女の館と呼ぶ。「麦の海に沈む果実」の理瀬のその後を描くミステリ。

     今作の舞台は長崎。そういえば、恩田陸は北海道やら函館やら屋久島やら各地を舞台にするミステリが最近目立っている。長崎といえば坂道が多い。その坂道の下のバス停に集まるバス待ちの高校生たち。互いを意識し合い、そして見定めようとしている。なんか青春している、という感じ。
     でも本作の魅力は、少人数ミステリに尽きる。恩田陸お得意のシーンだ。この重苦しさの中で続々と起こる事件がわくわくどきどきを増加させる。
     実は前作の話をすっかり忘れていたけど、問題なく楽しめた。でも前作を知っていれば間違いなく、2倍楽しめる。

    2006年3月6日月曜日
    ★★★★☆ 「天使の卵」村山由佳集英社 1994年1月25日 p193
     浪人生となった僕は、朝の満員電車の中にいた。そこに一人の女性が乗り込んできた。数日後、思いがけない場所で彼女に再会することになる。作者デビュー作。

     ソバージュなんて言葉を久しぶりに聞いた。また携帯電話も話に出てこない。そんなバブルの頃の青春モノであるが、時代背景を除けば普通に面白い。
     ネタバレ→結末は知らなかったけど、紹介文などに「衝撃の結末」と書いてあったのを何度も見たので、ある程度予想通り。まあ死なせ方が強引な気はしたが。近作に比べるとやっぱりこの辺のストーリーの弱さは気になった。←ここまで。

    2006年3月2日木曜日
    ★★★★☆ 「剣闘士スパルタクス」佐藤賢一中央公論新社 2004年5月25日 p354
     ローマは侵略した地域から多くの奴隷を調達した。その中でも見込みのあるものを剣闘士として闘技場で殺し合いをさせた。この闘技場で最も多くの歓声を浴びた剣闘士こそスパルタクスであった。作者お得意の歴史小説。

     確実に楽しい読み物を読みたいと思って久しぶりに佐藤賢一に手を出してみた。やっぱり安定した面白さ。ヨーロッパの重厚と退廃をきっちりと感じさせてくれる人物描写は作者らしい。ネタバレ→この作品には特徴があって会話がある意味全く無い。いや正確にはあるのだが、いわゆる『「」』で囲っていない。『「」』で囲ってあるのは、ほとんど主人公の内心だけである。それがよかったのか悪かったのか。実験的ではあると思う。←ここまで。

    2006年2月28日火曜日
    ★★★☆☆ グインサーガ102「火の山」栗本薫早川文庫 2006年6月15日 p317
     火事で英雄が死ぬことはないのだ。

    ★★★☆☆ グインサーガ101「北の豹、南の鷹」栗本薫早川文庫 2006年5月15日 p322
     タイトルは良い。

    2006年2月23日木曜日
    ★★★★☆ 「クレオパトラの夢」恩田陸双葉社 2003年11月5日 p263
     妹を東京に連れ戻すためにH市にやってきた恵弥(めぐみ)。しかし彼には別の目的もあった。作者お得意のミステリー。

     心理戦重視なので、登場人物が動くと登場人物同士の間で綱引きが発生する。この絶妙な駆け引きは恩田陸ならでは。特に魅力的な登場人物たちばかりなので、ぐっと引き込まれる。ネタバレ→最後まで思わせぶりなだけではあるけど、今回のエンディングは有りだと思った。←ここまで。面白かったな、と思うだけにもっと長編でもよかったと思う。

     そうそう、H市こと函館市の勉強にもなった。確かに両側が海で風が強ければ火事の危険性は高い。

    2006年2月20日月曜日
    ★★★★☆ 文庫版「カレーライフ」竹内真集英社文庫 2005年1月25日 p766
     「カレーライフ」の文庫版。内容は、基本的に全く同じだが、作者のホームページによると、文庫化にあたり章ごとにサブタイトルが付いたとのこと。作者の意向でこれが付いたのだが、個人的には無かったほうがよかったかと。サブタイトルを読むと内容がある程度見えてしまうからだ。それはともかく再読しても面白かった、ということを付記しておく。

    2006年2月19日日曜日
    ★★★★☆ 「シャングリ・ラ」池上永一角川書店 2005年9月22日 p592
     地球温暖化が深刻となった近未来。国際社会は炭素排出量によって税金が課税される炭素本位経済となっていた。東京はその炭素問題に対応するために森林化された。そして人々は空中巨大都市アトラスに移り住んでいた。そんな中、地上に残された人々の反政府組織に、國子(くにこ)が戻ってきた。新世界を描くサイエンスフィクション。

     炭素経済の考え方にまず脱帽。ありえない世界かもしれないが、こんな世界観を思いつくというのが素晴らしい。資本主義経済以外の経済世界なんてまったく思いつかない。さらに「カーボニスト」をはじめとした造語もよく出来ている。またニューハーフ超人モモコさんが楽しめた。いつものオバアではなく、ニューハーフでそれをやっても違和感がないのが良い。沖縄的なところを排除しても、いつものユニークさを全く失っていない。

     ネタバレ→終盤に差し掛かったあたりで強烈な新キャラ投入がちょっとどうなんだろうという気はした。そのためか最後のほうの乱戦で少しご都合主義なところが目立ったような気がする。でも最後がめでたくチャンチャンでないところが良い。←ここまで。

     政治経済宗教と最新テクノロジーを融合させたところは、SFならではの醍醐味だと思う。







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