楽家 BookReview
2007年版
Release

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Attention
  • 文章に明らかなネタバレがあるときはそのままでは読めないように してあります。すでにその本を読んでいる場合はマウス等を利用して、 文字が途切れている領域を選択すると反転して読むことができるようになっています。

  • ★4つ以上はお薦めです。★4つと★5つは個人的な好みや、 読んだ時の感情によって違っているだけで、ほとんどの場合は差がありません。 ただし、楽也の特徴として「初読の著者の評価は特に甘い」、「簡単に★5つがでる」 という特徴があります。

  • 右端の「有」は所有、「借」は図書館から借りた本、「古」は古本屋で買った本、 「貰」は人から貰った本であることを意味しています。


  • 2007年12月31日月曜日
    ★★★☆☆ グインサーガ115「水神の祭り」栗本薫早川文庫 2007年8月15日 p307
     つなぎの巻。もうそれだけ。でも表紙が綺麗。まあライトファンタジーならありがちな表紙だけど。

    2007年11月11日日曜日
    ★★★★☆ 「遠まわりする雛」米澤穂信角川書店 2007年10月5日 p354
     省エネ主義の奉太郎は、千反田に頼まれたため仕方なく千反田家の近くの神社の祭りに参加する。ところが突然祭りの予定ルートの橋が当日通れないことに。古典部シリーズ4作目の連作短編青春ミステリ。

     短編集というのは作者に合っていると思う。一つ一つはたいした謎ではないが、それを丁寧に紐解いていく過程は見ていて面白い。嘘のでっち上げを含めて。とくに「心当たりのあるものは」の推理の暴走っぷりが面白い。たしかに短編部門の賞にノミネートされた価値はある。

     でも本作を語るなら、ネタバレ→やっぱり青春モノとしての一面。まさかこんな展開が来るとは。あの省エネの奉太郎がですぜ・・・いや冷静に考えれば青春ミステリとしてのスパイスとして、この展開は王道ではあると思う。そう、こんなに早く(でもないが・・・)、奉太郎がそれを自ら認めつつあるというのは予想していなかったのだ。だからこそ楽しめたといえる。しかもその意識っぷりが連作の1作ごとに深まっていく感じがよい、というかウマイと思った。←ここまで。

     2年生になった古典部の面々を早く見てみたい。きっと新入部員も入ってさらに面白くなるはず?

    2007年11月10日土曜日
    ★★★☆☆ グインサーガ114「紅鶴城の幽霊」栗本薫早川文庫 2007年6月15日 p308
     表紙イラストの女の人がずっとタイトルの「幽霊」かと思っていたら、そうでなかった。しかしここまで目立ってなかったのに何もこんな事件に巻き込まなくても・・・まあこのほうが全員が全員、色んな鬱屈を抱えて物語の進展にはよいのだろうけど。

    2007年10月15日月曜日
    ★★★★☆ 「インシテミル」米澤穂信文藝春秋 2007年8月30日 p447
     車でも買おうと考えた大学生結城がバイト情報誌を見ると、誤植としか思えない時給の募集があった。十分に怪しんだが、背に腹は変えられずに応募すると、数日後彼の元には一本の電話がかかってきた。閉鎖空間ミステリ。

     地下空間に集められた12人!と聞いただけで浮き立つようなミステリ読みではない自分にとっては十分な面白さは感じ取れなかった(本書を買った理由は著者が好みの作家という点)。本書内では過去のミステリについての言及が多くあるが、そのほとんどを知らない、というのも理由の一つだと思う。ネタバレ→それでも最後の金額計算により真犯人の目的を看破する、というのは新しい探偵の形として拍手したい。
     米澤穂信のダークさは本作では薄かったと思う。須和内さんがもっと腹黒いかと思ったけど、結局お嬢様商売の域を出なかったのは、なんというかもったいない。続編があれば間違いなくダークの代表として活躍してくれることは間違いないと思うけど、これには続編はないはずだから。
     それとタイトルは韻をたくさん踏んでいる模様。(館に)インしてみる、(ミステリに)淫してみる(本文p403)、(英訳タイトル)the incite millなど、無駄に凝ってる。もっとあるかも?
    ←ここまで。

    2007年10月14日日曜日
    ★★★★★ 「ブラバン」津原泰水バジリコ 2006年9月20日 p388
     40歳になっても昔からの友達くらいしかやって来ない、パッとしない酒場を経営していた。そんなある日、高校時代のブラバン仲間が再結成しないかという話が舞い込んできた。

     ある程度の年代以上の人でないと本当の意味では楽しめないような内容(ていうかそんな本だとは思ってなかったのだが)。というか”部活”というのは学生時代を思い出すのだ! そして最後が予定調和でない、でも大人にありがちな妥協が悲しくもありよかったと思う。

    2007年10月13日土曜日
    ★★★★☆ 「図書館戦争」有川浩メディアワークス 2006年2月 p345
     ・・・風俗治安を守る良化委員会により、出版の自由が著しく阻害された世界で、彼らに対抗するべく、図書館側も戦力を持つに至った。その戦闘部隊に初めての女性隊員が入隊した。図書館を舞台にした荒唐無稽なお話。

     現実世界で起こったらいやなことは、仮想世界であってもイヤなことらしい。たぶんこの本がこんなに評判が良いのは、本読みにとって読みたい本が読めないのが辛くてくやしくて悲しいからである。だから主人公達に必要以上に感情移入してしまう。もちろん、それだけが面白さの原因ではない。戦闘モノ、青春モノとしても十分に楽しめる。

     法律部分が本当にありそうで(実際に同等のものがあるらしい)、その設定感が楽しい。範囲が限定されている戦闘というもよく考えてある。でも作者は女性なのに本当に軍事に詳しいと思う。夫が詳しいのかもしれないけど。

    2007年9月17日月曜日
    ★★★★☆ 「一瞬の風になれ」第一部・第二部・第三部佐藤多佳子講談社 1=2006年8月25日p228,2=9月21日p273,3=10月24日p383
     中学時代それなりには優秀なサッカー選手だった新二。そして中学時代は陸上選手として期待されながら退部していた連。この2人が強豪でもない春野台高校陸上部に入部した。その3年間を丁寧に描いた青春モノ。

     全部で3冊に分かれているが、おおよそ高校1年、高校2年、高校3年と学年ごとに1冊となっている。作者がしつこく取材した成果が表われるような陸上競技固有の世界の描きこみや、選手のメンタル面での描写はまるで自分が体験しているような気分に。もちろんそれは一人称で書かれているおかげでもあるのだが、より疑似体験度を高めている。それだけにまるで自分が青春しているような気分にさせられるので、本屋大賞をとったのだろうし、それだけの価値はあると思う。

     ネタバレ→最後が大会途中で終わってしまうのがもったいない。というか面白かっただけに物足りない。確かにこの辺で終りにしないとキリが無い、というのは分かるけど。でもいまさら続編出す意味はほとんどないのは当然ではあるが。読者すべてを満足させる終わらせ方は難しい。←ここまで。

    2007年8月20日月曜日
    ★★★★★ 「愚者と愚者」打海文三角川書店 2006年9月30日 上p341下p327
     前作の後の世界。まだまだ混沌とした首都圏の攻防と多くの人々の物語。

     海人はもう完全に司令官となった。おのれ一人のことだけでなく孤児部隊のこと、常陸軍のこと、日本のことを考える必要がでてきた。幼少時から見守ってきた読者としては「成長しなたー」という感じ。でもまだまだ20歳ほどの青二才だからいろんなことで悩む。でも軍事では悩まず、的確な指示を出し続ける。仕事ができる男という感じでカッコイイ。それに対して椿子。彼女はいつものごとく破天荒にビジネスに遊びに全力投球。見ていて気持ちいい。

     いろんなことが起こったが結局最初と同じ状態に戻ったような感じ。まだまだ戦争は終わりそうもないし、話は続きそう。2人の主人公はラストのときにどうなるのだろうか。今回も一部のメンバーが死んでいっているが、その代わりに新たな登場人物たちが続々とやってきた。彼ら彼女らの今後をまだ読みたい。続編を望む。

    2007年7月29日日曜日
    ★★★★☆ 「5」(ご)佐藤正午角川書店 2007年1月31日 p506
     結婚八年目、夫婦仲も醒めている中(なか)夫婦は、バリ島へ旅行に行くことになった。そこで夫 志郎は不思議な女性に遭遇する。一方、妻 真智子は小説家津田伸一と不倫関係にあった。人の記憶についての物語。

     主人公は実は小説家のほうだが、なんていうか鼻に付くタイプの人間で、しかもハンパない人間なのでちょっと疎遠にしたいタイプ。だからこその小説家という感じもするのではあるが。

     「愛はいつか醒めるもの」ではあるが、それを感性ではなくて記憶として捕らえるところが面白い。確かに一緒に過ごした時間が大事であるのだから人間関係はすべて「記憶」に依存しているのだが。ネタバレ→小説らしいというべきは石橋の存在。現実に一滴のファンタジーを加えると上質の小説になる、という見本のようなキャラクター。もっとそのミステリアスな石橋を追及して欲しかった。そして小説家津田伸一のその後も。←ここまで。

     小説家津田伸一は、作者自身の分身でもあると思うがどうだろう。久しぶりに佐藤正午を読んだのでなんともいえないけど、投影したキャラクターではあると思う。

    2007年7月28日土曜日
    ★★★★★ 「裸者と裸者」打海文三角川書店 2004年9月30日 上p351下p333
     日本が戦場になる世界の話。

     この本を読んだ後、すべての都会や田舎の風景が破壊され、荒廃した世界を夢想してしまう。半端なく残虐な世界だが、それでも人は生きていく、生きていかないといけない、という切迫感が強いのが上巻。そして、そんなものは糞食らえ、という下巻。上巻と下巻の対比が面白い。

     ネタバレ→ラストは予想範囲だったけど片割れだけで存在できるのだろうか。←ここまで。

    2007年7月1日日曜日
    ★★★★☆ 「しをんのしおり」三浦しをん新潮社 2002年5月日 p?
     エッセイです、エッセイ。笑えます。オタクすぎます。無茶な生活が楽しそう。

     貧乏ネタや古本屋ネタも面白いけど、とくに大型書店で自分の本を平台の良い場所に移動させるとか、楽しすぎ。でも翌日元に戻す本屋もすごいけど。今は直木賞取ったので前よりは羽振りがよくなったのかな?

     前に1冊だけ小説は読んだことあるけど渋かったんだけどね。こんなにネタな人とは思わなかった。

    2007年6月29日金曜日
    ★★★★☆ 「ラッシュライフ」伊坂幸太郎新潮社 2002年7月日 p266
     新幹線グリーン車を丸ごと1両買い取る男と彼に買われた女、離婚しない不倫相手の妻を殺そうとする女、相手のサッカー選手、失業した男と汚い野良犬、有名な探偵、それを信奉する男2人、そして泥棒と盗人と老夫婦。彼ら彼女らの人生が激しく交差して人生は織り込まれていく。エンターテイメント小説だと思うけどミステリぽくもある、著者らしい話。

     話がどんどん転がっていき、意外な展開とその種明かしの連続。気持ち悪いシーン多少あることを除いてゾクゾクさせてくれた。細切れに話は進んでいくが、意外にテンポは悪くなかった。

     「重力ピエロ」の泥棒さんがまた登場。いいキャラしてる。他作品でも出ているのかな?

    2007年6月4日月曜日
    ★★★★☆ 「夜のピクニック」恩田陸新潮社 2004年7月30日 p343
     高校生活最後の歩行祭。融は出発前だというのに貴子に会ってしまった。一方、貴子は今日の歩行祭にある賭けをしていた。映画化もされた青春小説。

     歩行祭とは夜間も含めて歩き通す学校行事。現実に存在する行事のような気がする。特に夜友達と歩く、という非日常が思わぬ展開をもたらしてくれそうである。
     80年代から90年代にかけての時代を髣髴とさせるホンワカ話。それはそれでイイ。携帯電話がある現代なら友達とメールで連絡を取り合いながらの移動になるんだろうな。

     本作はミステリ感はほとんどないが、だからこそ青春小説としては面白い。それは欠点でもあるかもしれないが。

    2007年6月3日日曜日
    ★★★☆☆ 「グラスホッパー」伊坂幸太郎角川書店 2004年7月30日 p322
     鈴木は妻の仇を討とうしていた。鯨は議員の秘書を自殺させようとしていた。蝉は一家皆殺しを実行中だった。そしてその三つの運命が重なりだす。エンターテイメント小説。

     最初のシーンからゾッとした。だからといって単純な暴力的な話かといえばそういうわけでもない。それぞれの登場人物達のとがっている個性がうまくさばかれていて、重さを感じさせない。そんなところがスタイリッシュなのかもしれない。

     伊坂幸太郎の小説で仙台以外が舞台の小説を初めて読んだ。

    2007年5月10日木曜日
    ★★★☆☆ グインサーガ113「もう一つの王国」栗本薫早川文庫 2007年4月15日 p311
     前半のガンダルとの対峙は面白い。グイン並みの力の持ち主がいるなんて、という興味があった。だが後半は、全く想定外の方向への展開で今までの緊迫感が断絶されたためにテンポが悪くなった感じがした。

    2007年5月9日水曜日
    ★★★★☆ グインサーガ112「闘王」栗本薫早川文庫 2007年2月15日 p314
     戦闘シーンが面白い。確かに作者がそんなに間違っていないはず、というだけのことはあると思う。スイランの正体は予想範囲内ではあったけど、結構な大物だったのは意外。

    2007年5月8日火曜日
    ★★★★☆ グインサーガ111「タイスの魔剣士」栗本薫早川文庫 2006年12月15日 p3xx
     美形の戦士がアルド・ナリスっぽすぎる。

    2007年5月7日月曜日
    ★★★★☆ グインサーガ110「快楽の都」栗本薫早川文庫 2006年10月15日 p3xx
     渋い戦闘シーンは面白い。

    2007年5月6日日曜日
    ★★★☆☆ 「重力ピエロ」伊坂幸太郎新潮文庫 2006年7月1日 p485
     遺伝子研究を売り物にする企業に勤める兄と、落書き清掃業を営む弟。兄は普通だけど、弟は誰もが振り返る美男子。2人と癌になった父が住む街で連続放火事件が発生していた。そして、その現場には常に落書きが残されていた。いかにも作者らしいミステリ小説。

     「本当に深刻なことは陽気に話せ」という内容が、すごく印象に残った。単純にまさしくその通りだと思ったから。でも実際にこのことをやり通すのは簡単ではないのだけど(覚悟が必要)。
     ネタバレ→その上記の言葉が表すようにレイプという重い命題が小説内にあるが、その重さを払い退けようとする兄弟の行動が重さを感じさせない。それを称してスタイリッシュと言えばその通り。謎解きもなかなか面白いけど、犯人があまりに予想範囲内でまた結末がちょっと都合が良過ぎなのがかなり気になった。でもそうしないとカッコつかないのは事実。というか登場人物の端役を含めたほとんどのキャラクターがカッコ良過ぎ。しかもそれほど嫌味がない程度で。(あーでも橋の上で会った端役の人はちょっとやり過ぎと思ったが)←ここまで。

    2007年5月1日火曜日
    ★★★★☆ 「夏期限定トロピカルパフェ事件」米澤穂信創元推理文庫 2006年4月14日 p246
     タルト事件から1年、2人とも高校2年生となり夏休みを迎えた。互恵関係しかない2人だったが、小佐内さんから夏休み中にスイーツ巡りのパートナーに選ばれたのは小鳩君だった。時代を反映した暗さも漂う青春ミステリ。

     今回も毒が一杯。でも最初の短編では知恵比べから。だから前半はほのぼのと読める。特にシャルロットの短編は小鳩君の犯人っぷりが(慌てぶりを含めて)楽しめて、そして小佐内さんの探偵っぷりが「そっちか!」という感じで意表を突かれて面白い。

     2人の中学時代の人格はタルト事件でもあらわになることはあったが、今回はそれが鮮明に表れてくる。小鳩君を「狐」と呼ぶ理由もよく分かるし小佐内さんを「狼」と呼ぶことも十分に理解できてしまう。

     ネタバレ→ラストが急展開で次が非常に楽しみである。互恵関係だけではなかった2人を見ることができるのか、それとも著者らしいさらに数歩も先にいった関係(予想外の関係)を築くことなるのか?青春ミステリを強調するなら単純に前者であるが、どうだろうか。←ここまで。

    2007年3月10日土曜日
    ★★★★☆ 「夢を与える」綿矢りさ河出書房新社 2007年2月18日 p305
     ゆうちゃんは、スターチーズの看板キャラとして6歳のときからCMに出演。少しずつではあるが茶の間での認知度も高まってきた。そして高校生になったときブレイクする。チャイルドモデルとして芸能界での活躍とその後を描いた芥川賞受賞後第一作。

     前2作がいかにも10代らしいキャラクターと文体で感情を表現したり周辺を描写していたが、今度は一転中堅どころのような文体になっている。それを悲しむべきか喜ぶべきかはともかく、間違いなく作者は大人になってきたのだということは分かる。つまり別の言い方をすれば綿矢りさでなくても同じ小説を書くことはできたかもしれない。ただし芸能界の描写やマスコミのしつこさはもしかすると芥川受賞で彼女自身が体験した高揚と不安から発想された話かもしれない。

     ネタバレ→全体を眺めると最初と最後だけ1人称が変化している。意識させるほどその変化は大きくはないが、つまり夕子が主役だったのはそこだけという意味もあり、構成として面白い。
     本書の後半になってブレイクしてからの夕子の環境の辛さに読み進める速度がガクッと落ちた。明らかに破滅への道を、そして本のオビの言葉が暗示するバットエンドへの予感。崩壊してやっと安心して読み進めることができた。前半の淡い初恋が懐かしい。
    ←ここまで。

     著者は新たな力も発揮したが、次作ではどうなるか楽しみでもある。

    2007年3月3日土曜日
    ★★★★☆ 「まだ見ぬ冬の悲しみも」山本弘早川書房 2006年1月20日 p346
     巨大なSタキオン粒子加速器を用いて特定空間内において過去にさかのぼることができるようになった。そしてパイロットである<俺>が2ヶ月前の世界からやってきた。そして今度は俺が半年前にタイムトラベルをする。彼女に振られないようにするために。SF短編集。

     「と学会」会長らしい、楽しいホラ吹きショーである。いかにもありそうな物理学的な言葉や定義を散りばめて、それを読者になっとくさせてしまう豪腕、見事です。全編、漫画家鶴田謙二の小説版のようなストーリー。絵が無くても空想させてしまう言葉と定義には参った。
     お気に入りは「バイオシップ・ハンター」。特にマイクロブラックホールに食われている彗星の中の「海」に潜むバイオシップの群れのシーンはあまりに綺麗。雄大な宇宙に思いをはせてしまった。まるで現実世界のように。これ以外の短編もそれぞれ異なる味があってとてもおいしい果実たちである。筆者のもっといろんな引き出しを覗いてみたい。

    2007年2月28日水曜日
    ★★★★☆ 「砂漠」伊坂幸太郎実業之日本社 2005年12月15日 p412
     大学生になって同じクラスになったもの同士で飲み会が行われることになった。そのとき隣に座ったのがやませみのような髪型をした鳥井。近くにいた静かな女の子、南。たくさんの男達に囲まれているけど超然としている東堂。そして遅れてやってきた騒がしい男、西嶋。彼らの大学生生活が始まる。たぶん青春小説。

     大学生が主役で合コン話があったりするから、ただの居心地の良い話かと思ったらそれだけではなく、砂漠を前にした最後の骨休みをしていることをかなりの揶揄の目でも見ている。ちょっと砂漠に顔を出すと痛い目にあってしまうところとか。

     ネタバレ→もっともかっこ悪くて、でも実はカッコよい生き方を選択しているのが西嶋である。いろいろとぶつかっていくところだけでなく、ほとんどお金がなくても必要となれば高価なシャレた服は買うところとか。砂漠にいる人々の多くもこの願望を持っているのではないか。だから強面の古賀さんも彼をかわいがっていた。あと東堂への音声の無い告白シーンはよかったな。そして最後のシーンで北村くんの内心が説明されるが現実はたぶん、その通り。だからこそ北村くんが主役なのだ。←ここまで。

     麻雀パイを本文にここまで差し込んだ小説は初めて見た。麻雀が分かると2倍楽しめる小説なんて最近なかなか無いしね。

    2007年2月19日月曜日
    ★★★☆☆ 「くらのかみ」小野不由美講談社 2003年7月31日 p327
     旧家の蔵座敷で親戚の子供達が集まって「四人ゲーム」をはじめた。絶対に四人目で終了するはずのゲームだったのに終わることがなかった。蔵座敷に入ったときには四人しかいなかったはずなのに、出るときには五人になっていた。児童向けミステリとして書かれた一冊。

     児童向けでありながら、さすがに小野不由美が書くだけのミステリに仕上がっている。子供が1人増えたことなんて、途中で忘れてしまうくらいに。ネタバレ→毒事件を経て、物語が解決に向かうにつれて、その増えた1人が重要になる。そして最後には芋づる式に犯人が見つかる下りは爽快である。その1人を全く予想できなかった自分は「情けない!」という感じだった。ただ座敷童子が蔵屋敷から出てきた理由が弱く感じられ、それに違和感を感じた。子供向けなんだからもっと明確にすべきだったのではないか。←ここまで。

     悪い言い方をすると、「他作品より、とにかく十二国記を早く書いてくれ」という気持ちが強い。

    2007年2月11日日曜日
    ★★★★★ 「週末のフール」伊坂幸太郎集英社 2006年3月30日 p301
     あと8年で小惑星が地球に衝突することがわかってすでに5年。多くの人たちがいなくなったヒルズタウン。だが残った人たちにも様々な生活があった。連絡短編集。

     傑作。特別な極限状況下の設定のおかげではあるとはいえ、様々な人々の本音がみえる。その人の真実の姿が見える。それぞれの人生模様をうまく描ききっている。いろんな年齢・性別・状況の人たちの(生きるためだけでない)サバイバルが息づいている。だからかもしれないが、特にオススメの一遍でも紹介しようとしたけど、どれもいろんな味で楽しめたので選べなかった。

     ある短編に出ている人たちのその後も別の短編で垣間見れる。これは連作短編集のお楽しみでもある。サバイバルな世界なので、彼・彼女たちの消息が判明するとホッとする。

    2007年2月10日土曜日
    ★★★☆☆ 「太陽の塔」森見登美彦新潮社 2003年12月20日 p205
     女なんて不要、と言いながらも彼女を作ってみたり、ぼろアパートでニートをしてみたり、ストーカーをしてみたり、そして妄想を暴走させたり。そんなモラトリアムな大学5年生の日々。第15回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

     学生らしい「青さ」が好ましい。このとんがって議論ばかりしたがるあたりが。主人公の独白であり、実際は面倒そうな男であるにもかかわらず、それほど鬱陶しくないのはきっと文体の面白さのおかげだと思う。というか妄想のあまりのアホらしさが面白いおかげかもしれない。

     たいしてファンタジーなシーンがあるわけではないけど、妄想そのものがファンタジーでもあるのでファンタジーノベルの資格があるのかもしれない。

    2007年2月9日金曜日
    ★★★☆☆ 「春期限定いちごタルト事件」米澤穂信創元推理文庫 2004年12月24日 p251
     小鳩くんと小左内さんは、2人揃って高校に合格した。2人は相棒同士ではあるけど、恋人同士ではない。ある契約に基づき、小市民を目指していた。作者お得意の青春ミステリ。

     相変わらず「毒」が全開。慣れている人にとっては米澤穂信作品に必須のスパイスである。でも表紙からしてライトっぽく見えるから、これが米澤穂信の初めてという人も多いかもしれない。

     あまりに普通の風景からミステリを作り出す手腕はさすがだが、ちょっと主役達のジレンマに自分が疲れてしまい、他作品よりは評価が低目となった。

    2007年2月8日木曜日
    ★★★★★ グインサーガ109「豹頭王の挑戦」栗本薫早川文庫 2006年8月15日 p315
     表紙買いしたくなるくらい今回の表紙は楽しそう。そして内容もその通りの内容に。前半はともかく、後半の旅一座モードは楽し過ぎた。劇の内容が公演ごとにレベルアップしていく様は「がんばれ」と言ってしまいたくなった。あとがきにもあるけど、作者もとても楽しめたそうだ。

    2007年1月28日日曜日
    ★★★★☆ 「八月の路上に捨てる」伊藤たかみ文藝春秋 2006年8月30日 p122
     自動販売機補充員のアルバイトをする敦。社員の水城さんと配送しながら千恵子のことを考えていた。短編2つからなる芥川賞受賞作品。

     自動販売機にジュースを補充をする人たちの仕事振りや裏側の世界を垣間見れたこと、そして敦の現在と水城さんの過去。現場の忙しさが、家庭でののっぴきならない状況を忘れさせる。脚本家崩れ、クリエイター崩れなんて世界にごまんといるかもしれないけど、日常に埋もれていく様子はせつないけどたくましいと言うべきか。

     もう一遍もなかなか興味深い。淡々と過ぎゆく、でもちょっとだけ前日と異なる日常が感じられる。暮らすということは、つまらないことに反応していくことが必要なのかもしれない。人は大きすぎないイベントをいつでも求めているからか。

    2007年1月18日木曜日
    ★★★★★ 「ボトルネック」米澤穂信新潮社 2006年8月30日 p248
     ノゾミを弔うために東尋坊にやってきた嵯峨野リョウ。崖下を覗き込んだとき、まるで彼女に誘われるかのようにして彼も落ちる。が、気が付くと市内の公園のベンチだった。米澤穂信らしい青春ミステリ。

     注意:正直なところ、星5つですが必ずしもオススメできません。作者の小説を何冊も読んだことがある人なら分かると思いますが、青春モノに少し黒墨を落としたミステリを作者は得意としています。本作はそれらの中でも抜群に濃いです。オススメしません。

     ネタバレ→ミステリのためにSFとファンタジーの世界を少し借りた話がないわけではないが、今まで現実的なミステリ一本やりだった作者が、こんな設定を使ったのが意外だったし、そしてそれがすごくうまくいったところは「さすが」と思った。あくまでもミステリとして存在できているところは素晴らしい。その反面、ダークな部分の強調ぷりは読者自身のダーク面を浮き立たせる効果も高く、その結果、「読み進めたくないけど読みたい!」という作品になっている。希望が無い人、失った人、諦めた人、無視する人、冷たい人、残酷な人、愛が無い人が登場するがサキだけが唯一の救い。
     ラストをどう締めくくるのかと思ったが最後のメールの内容にはニヤリとさせられた。米澤穂信の黒墨に自分もかなり慣れてきているのを感じた。
    ←ここまで

    2007年1月14日日曜日
    ★★★☆☆ 「アヒルと鴨のコインロッカー」伊坂幸太郎東京創元社 2003年11月25日 p331
     大学入学を機にして東北の街に引っ越してきた椎名は、アパートの隣の部屋に挨拶に行くと、初めて会ったその彼から依頼を受けた。一緒に本屋を襲わないかと。最近、読書サイトでは評判の伊坂幸太郎の作品。

     ミステリなんだろうと思って読み始めたら、まるで「パン屋再襲撃」のような話に。しかし実際にはそんな話でもなく、過去と現在の同時進行でお話は進む。(ネタバレ→あまりにも気(我)が強すぎていらつくキャラである琴美(何で警察に通報しないんだ?)のせいもあるが、←ここまで)読みにくい・読み進めたくない話だったけど、どうな結末を迎えるのか、その興味だけで最後まで読んだ気がする。でも結末のシーンは非常に綺麗だ。映画化されるらしいが、このシーンのためだけで映画化する価値はある。

     登場人物の女性陣が特徴ありすぎる気がした。主役格から端役まで気が強すぎたり、感情を表さなかったり、一方的だったり、気が弱すぎたり。







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