テーマ:「不動産の利回りについて」

 平成183月期から減損会計基準が全面導入されることを受けて、「不動産の利回り」に関する議論が活発になっています。
そこで今回は、この利回りについて考えてみたいと思います。

 

1 鑑定評価手法と利回りとの関係

土地と建物とから構成される不動産の鑑定評価手法には原価法と収益還元法とがあります。
これらのうち、利回りが必要とされるのは収益還元法です。収益還元法で用いられる利回りの代表的なものに、 
「還元利回り」と「割引率」があります。この2つの利回りの違いを確認するのが本稿の主題です。

 

2 収益還元法と利回りとの関係

収益還元法にはおおきく分けて2つの手法があります。1つが直接還元法であり、
もう1つが
Discounted Cash Flow 法(以下、DCF法という)です。下の(1)式で表されるのが直接還元法であり、
これは一期間の純収益と利回りから収益価格を求める手法です。この直接還元法で用いられる利回りRを「還元利回り」といいます。

 それに対して、下の
(2)式で表されるのがDCF法であり、連続する複数の期間に発生する純収益および復帰価格を、
その発生時期に応じて現在価値に割り引き、それぞれを合計する手法と定義されます。このDCF法で用いられる利回りYを「割引率」といいます。
DCF法が適用されるのは、例えば、投資不動産を3〜5年保有して、その後転売することを想定した収益価格を査定するような場合です。
このときの将来の転売価格が復帰価格です。


3 鑑定実務における還元利回りの参考数値

本稿では、還元利回りや割引率の算定方法については割愛し、鑑定実務で一般的に用いられている数値をご紹介します
(社団法人日本不動産鑑定協会調査研究委員会調べ)。

土地のみから構成される不動産の還元利回り・・・・・・・・商業地・住宅地ともに5.0

土地と建物から構成される不動産の償却前純収益利回り・・・平均で9.1%、概ね610%台

 

4 還元利回りと割引率の相違点

(1) 手法に起因する相違点

 「還元利回り」は直接還元法に、「割引率」はDCF法によって用いられる。第一の相違点はこの手法の相違によるものです。
減損会計に関する議論のなかには、「還元利回り」を「割引率」としているものが少なくありません。読み手の私達がきちんと峻別する必要がありそうです。


(2) 性質上の異同

では、次に具体的な数値例を使って、両者の性質を見てみましょう。

@     償却前純収益(=純収入):10,000千円

A     割引率:5

B     純収益は永久に続くものと仮定し、不確実性は一切ないものとします

 まず、DCF法で収益価格を求めてみましょう。仮定より復帰価格を無視するので、DCF法の算定式は(2)式の第1項のみとなります。

 1年後の純収益9,524千円,2年後9,070千円,……,n年後10,000千円×1.05n

 数列の無限等比級数の公式を用いて求めると、DCF法による収益価格は200,000千円と求められます。

 
 次に、直接還元法では、
10,000千円÷0.05200,000千円となります。

 両者は一致しました。これは、不確実性のない世の中では、還元利回りと割引率が性質上全く同じものであることを意味します。
(2)式の第1項から(1)式が導き出されることより証明されます。しかし、不確実性が全くない世の中などあり得ません。
では、この不確実性を、直接還元法やDCF法ではどのように考慮するのでしょうか。

 DCF法では、不確実性を毎期の純収益akの予測で考慮します。これに対して、直接還元法では、不確実性を還元利回りで調整します。つまり、DCF法における割引率は不確実性(リスクプレミアム)の影響を受けておらず、直接還元法における還元利回りは不確実性(リスクプレミアム)が加味されたものとなっているのです。


よって、一般的には、割引率より還元利回りの方が高く、その差は
15%程度です。

 

5 最後に

 還元利回りと割引率の違いを検討してきました。本稿では、直接還元法とDCF法のどちらが優れているかについては触れませんでしたが、
不動産情報(取引情報・成約賃料情報など)の開示制度が未整備である現状に鑑みれば、豊富な実証データを必要とするDCF法は、
発展途上の手法といえます。一方、直接還元法は、DCF法のような将来予測を明示しないため、評価の過程が分かりづらい面があります。
しかし、直接還元法は伝統的に用いられ確立された手法であり、現在までの還元利回りの実証データを整備することで説得力を高める努力がなされています。

 

 次回のテーマは「使用借権付土地の評価について」です。

 

以上