LEGATO改造手記
決断編
我が家にも長男が生まれました。当時はまだ1歳の幼児でしたが、この先家族とどのように接したらよいか。これはお父さんとして、重大な課題でした。最初は派手には動けなくても、おいおい幼稚園、小学校と進学していくとき、何を教えたらよいのか。算数や国語などは数学の教師免許を持つママに任せるとして、父親としては「普段できない体験をさせる」ことが役割なんじゃないかなあと思ったわけです。
加えて、私は大のクルマ好き。20歳で免許を取り、21歳で買った中古のブルーバードSSSターボを手始めに、CRX、プレリュード、ワゴンR、プレリュード(VTEC)、デリカ・スペースギアと、大よそ一通りのカテゴリーを体験してきました。結婚し家を建て、子供が生まれ、生活環境がファミリー化してきた現在、もう「スポーツカー」というわけにもいきません。子供が生まれた当時に所有していたのは、上記の「スペースギア」とカミさん用の「ワゴンR」の2台。遠出や大きな買い物のときには「スペースギア」。近所の買い物には「ワゴンR」。普通の生活には十分過ぎるほど便利でした。
もともと出不精の私としては何か外へ飛び出すための起爆剤が必要でした。旅行でのホテルの予約、当日の天気の心配、渋滞予想調査などなど、「面倒だからやめようぜ!」と言いたくもなる煩わしさから解放される何かが欲しかったのです。そんなとき、街で1台のクルマとすれ違いました。トラックをベースに後ろ部分が居住スペースに改造されており、ルーフには山ほどのキャンプ道具を括りつけ、オマケに後ろには家族のものと思われる数台の自転車を積載した大型の「キャンピングカー」。それまでは気にすることもなかったカテゴリーでした。
「キャンピングカー」へ興味が急激に高まり始めました。自分の趣味と実益が合体するような予感。専門紙を数冊購入し未知の分野を覗いてみました。「思いついたら今夜にでも旅行可能」「宿の予約なんか必要なし」「普段は別室として使っています」「税金が安い」・・躍りまくる勧誘の記事。あっちからオイデオイデされているような誘惑の見出し。しかし、なにより驚いたのは、キャンピングカーの内装の豪華さ。「こりゃ1回現物を見にゃいかんな・・」。そんな気持ちが呼んだのか、近々、東京お台場で「キャンピングカーフェスティバル」なる催しが開催されるらしいじゃないですか! 渋るカミさんを説得(論破?出任せ?詐欺?)し、子供とのふれあいをダシ、いや求めて、当日フェスティバルに向かいました。狙いはトラックベースのキャンピングカー試乗。
98年11月。東京・お台場「キャンピングカーフェスティバル」。ドンヨリとした天気。だだっぴろい広場には屋根もなく、数百台(オーバーかな?)ものキャンピングカー、トレーラーなどが展示されていました。私とカミさんは会場に到着するまで、トラックベースのキャンピングカー「OX(オックス)」に狙いを絞っていました。スペースギアを下取りに出せば、いずれ中古ぐらいはローンで買えるだろうと考えていたからです。
会場に入ると、最初に見慣れた顔のクルマに出会いました。ついさっきまで運転していた愛車「デリカ」の顔をしていながら、後ろはまるっきりキャンピングカー仕様のクルマ。私の目がクギ付けになりました。「なんだこれは?」。それはまるで、初めてオーストラリアに上陸した外国人がカンガルーを見たような驚き。今まで見たこともないカテゴリー。ここのブースは「セキソーボディ」という会社でした。もちろん知りません。この業界では老舗中の老舗だったことは後から知りました。
フラフラと吸い寄せられるように展示車両に近づくと、一人の営業マンが私に近づいてきました。「いかがですか?」と尋ねられた私は「ベース車はスペースギアですか?」と聞き返しました。営業マンは「いいえ、これはデリカカーゴという営業用バンがベースのLEGATO(レガート)と言います」「ふ〜ん」プライスボードを見ると400万円弱と書いてありました。私は無意識に「スペースギアを持ちこんだら加工できるの?」と聞いていました。
営業マンはニコリと微笑みながら「やれますよ」と自信ありげに答えました。
後部のドアを開けて中を見てみました。頭で想像していたキャンピングカーよりは随分とシンプルな感じでしたが、ベッド、ソファ、テーブル、キッチン、トイレ等およそキャンピングカーに装備されていると思えるものは一通り揃っていました。車内、いや室内の正面に運転席が見えるという異質な感じ。ベッドを引き出してみると、畳み二畳ほどの広大なスペースが広がっています。何事も体験と、ベッドによじ登って寝てみましたが、大の字になっても両手両足が壁に接しないほどゆったりとしたものでした。あとで知ったのですが、キャンピングカーは「ヨット」の機能性が取り入れられているらしく、使われる単語もキッチンと言わず「ギャレー」、リビングと言わず「ダイニング」と呼ぶそうです。なんかカッコつけているみたいで馴染めません。
もう一度後部ドア(これもエントランスドアというのが正解)から車外に出て、全体を見回してみました。見上げるように高い全高(2860mm)、広い全幅(1900mm)そして長い全長(5400mm)。サイズ的にはまさに保冷車。車体を拳でノックしてみましたが、表面はFRPで塗装が施されています。しかし華奢な感じはありません。さきほどの営業マンに材質は何かを尋ねたところ、アルミフレームで作った骨格に断熱ウレタンを挟みFRPでサンドイッチした「ハイドロバッグ製法」という技術で壁を作っており、強度、軽さ、断熱、防音に優れているとのこと。はは〜ん、家屋で言えば「2×4工法」のようなものか。車体の後ろ半分を切り取り、この「壁」をパコパコと組み立てて箱(シェルという)にして載せるようだ。車体との接合部分の強度は大丈夫なのだろうか?何せスペースギアは世界で唯一のオフロード四駆ミニバン。山道でシェルだけ落っこちちゃったらシャレになりません。その辺の溶接にも営業マンは自信タップリの答え。
とりあえず他のクルマも見たかったので、一旦この場を離れることにしました。最初の1台にかなりの時間を割いてしまい、他車をテキパキと物色。何十台と見させてもらいましたが、頭の中は『あのクルマ』で一杯でした。コーヒーブースでカミさん&息子とお茶をしながら、我が家にはあれがベストなんじゃないかと話し合い、意見はほぼ一致しました。幸い元々スペースギアを所有していること、スペースギアのルーフ部分が擦ってベコベコに凹んでいたこと(改造時ルーフは切り取っちゃうので返って好都合!)など、条件がいい。いいことだらけじゃないですか! 気分は盛り上がり、その日はパンフレットと簡単な見積もりだけもらい、近いうちに同社の工場を見学させてもらうことを約束して会場を後にしました。
数日が過ぎ、最大の問題が降り掛かりました。それは「資金」。見積もりでは約300万円程度の改造費が必要でした。そもそも計画では、スペースギアを下取りに出して不足分を足して中古の「OX(オックス)」を購入するというものでした。中古の「OX」はせいぜい400万円も出せば程度の良いものが探せます。今回の計画だと、スペースギアを下取りに出すわけにもいかず、諸経費込みでまるまる350万円ぐらい捻出しなければなりません。やっぱり「OX」にしようかなぁ。因みに左の車が「OX」です。
しかし「OX」には欠点があります。トラックベースの宿命とも言えるもの。乗り心地の悪さと非力さです。試乗ができなかったので体験したわけではありませんが、どの雑誌のユーザーレポートでもその2点については皆さん指摘しています(これは「OX」特有のものではなくトラックベースキャンパーに総じて言える特徴という意味です。けして「OX」がダメな車という意味ではありません)。あと私は気にならないのですが、トラック然としたスタイルが受け入れられないという方も多いようです。その点、スペースギアには強力なエンジン、乗用車の乗り心地、悪路を難なく走破できるスーパーセレクト4WDを装備。これらを捨ててまで買い換える気にならないのも事実でした。
実は家のローンの一部を中抜き返済するために貯めていた貯金がありました。計画では年明けにも返済する予定でしたが、散々悩んだ末、今を楽しむために「改造」を決意しました。ローンの件は4〜5年延びてもイイや、まだ若いし・・。
年末にセキソーボディ本社まで赴き、契約を行いました。同社は埼玉県にあり、私の住む茨城県からは車で50分くらいの位置だったことも大きな決断材料でした。あとあとのメンテを考えると近いに越したことはないですからね。年明けの1月初旬にスペースギアを入庫させられれば、完成予定は2月中旬とのこと。え?1ヶ月ちょっとでできちゃうの?
展示場にあったレガートはバンベースのプロトタイプであって、スペースギアのショートボディをベースにするのは1号機になるとのこと。お役所への提出資料(強度計算書など)やネジレ試験などは私の車でやり直しすることになるらしいのですが、今は問い合わせが殺到している段階で契約はポツリポツリの段階らしく、幸いにして早い納期が可能だったようです。
98年12月。契約金として現金100万円(前金)をたたき置いて、私は愛車の改造を依頼したのでした。