日本の「経済協力」がフィリピン先住民族の土地と文化を破壊
する〜サンロケダム建設問題〜









    
    
      サンロケダム建設に反対する周辺住民達のデモ


日本の公的資金で建設される巨大ダム


 莫大な公的資金を使って、住民や環境保全を無視した巨大事業を
推し進める。最近日本国内ではこうした公共事業の問題性が声高に
叫ばれるようになってきた。だが、海外で進められている日本の事業
には、なかなか国民の監視が届かない。今、フィリピンでは日本の公
的資金による「経済協力」が先住民族の土地と文化を破壊しようとし
ている。
 ルソン島北部アグノ川に建設中のサンロケダム。345メガワットの発
電、下流87,000ヘクタールの灌漑を行う、とされるこの事業はフィリピン
と日本の経済協力の筆頭だ。日本の政府系金融機関・国際協力銀行
はサンロケダム建設の最大のスポンサーで、既に融資した分を含め
約800億円の融資を約束している。だが、フィリピン経済への貢献が
喧伝される一方、上流2000世帯が住居や水田を失う、下流36の自治
体も深刻な洪水被害を受ける等の問題が懸念され、周辺の住民、特
に建設地上流に住む先住民族イバロイ人達は激しく反発、国際協力
銀行にも融資の停止を求めている。


危機にさらされる先住民族の村


 切り立った山道を車で2時間いくと、山間にのどかな田園風景が広
がっていた。ルソン島北部の山岳地帯コルディレラ地方、ダルピリップ
村。この春、私は地球の友ジャパン、CFFC(フィリピンのこどもたちの
未来のための運動)の主催するスタディーツアーに同行、先住民族
イバロイ人の村・ダルピリップを訪れた。人々が水田で農作業をし、
木造の家々のまわりでは豚やニワトリなどの家畜が歩き回っている。
どこか昔の日本の田舎を連想させるところだ。この地に13世紀頃来て
以来、イバロイ人は自然の恵みを神の贈り物として皆で大切に分け合
って暮らしてきた。
 ダルピリップはイバロイ人にとって最も重要なコミュニティーであり、
聖地でもある。私が訪れた時、この地域にイバロイ人がやって来た
ことを記念する祭が行なわれていた。7頭の豚がダルピリップ住民の
先祖である7家族の霊に奉げられ、7家族の系統ごとに集まり自分達
の一族が皆健在であることを報告する。祭りは3日間続き、世代ごとに
ドラのような楽器を打ち鳴らしながら、輪になって踊り、様々な料理が
皆に振舞われる。遠くの村や町に行った者達もこの日は戻って来て祭
を楽しむ。正にダルピリップはイバロイ人の魂の故郷というべきところな
のだ。
 だが、この楽園のような村ももうじき失われるかも知れない。住民達
はサンロケダムの建設に危機感を強めている。彼らの懸念には実例が
ある。ダルピリップよりさらに上流にあるアンブクラオダム、ビンガダムが
それだ。1950〜60年代に建設された頃、これらのダム上流の川岸には
ダルピリップのような村々があった。だが、川がダムでせき止められ流
れが弱くなったことで大量の土砂が堆積し、水田や家々を飲み込んでし
まったのだ。かつての村だったところは、今はただ厚く堆積した砂が広
がるだけで、昔の面影は全くない。

 ダルピリップで案内をしてくれた、ルイーザ・ベジタンさん(39)は繰り返し
言った。

「私達はどこへも行けません。ここが私達が生活し、私達の先祖が眠る
土地なのです。」。


先祖の墓の前に立つベジタンさん。



高まる反対運動、疑問視される採算性

 サンロケダムへの抗議や批判は高まる一方だ。今年3月、それまで
別々に活動していたサンロケダム上流と下流の反対派住民団体が統
合、同月14日の国際ダムアクションデーでは、36の自治体から集まっ
た人々が、ダム下流の中心都市ダグパンでデモ行進を行った。また
今年7月、ルソン島北東部を襲った台風フェリアはサンロケダム下流周
辺3650世帯の農家に水を配給していた灌漑用ダムを破壊するなど大
きな被害を与えた。現地の農民達は上流のアンブクラオ、ビンガ両ダ
ムが、貯水池の許容量を超えた水を下流に放水したことで洪水被害
が悪化したと巨大ダムと洪水被害の関係を指摘、アジア最大級のダム
であるサンロケダムの危険性を訴えた。さらに大統領諮問局と先住民
族委員会の共同調査団は、「先住民族権利法(先住民族居住地での
乱開発を制限するもの)で必要な住民合意が取れていない」と報告、
サンロケダム建設が違法な事業とされる可能性もでてきた。
 
 これらの問題について、現地の住民達や、FoE Japan、CFFCなどの
NGOは何度も国際協力銀行との会合の機会を設け、事業の見直しと
融資の差し止めを求めてきた。だが現在(01年11月)のところ国際協
力銀行は融資を見直す姿勢を全く見せていない。同行のガイドライン
には「先住民族居住地への配慮」という項目があるにも関わらず、融
資は続けられ、その根拠もほとんどが公開されていない。
  こうした国際協力銀行の姿勢には、この事業がそもそもフィリピンの
ためではなく、日本の企業の海外事業を推進する民活プロジェクトであ
るという背景がある。サンロケダムの発電事業を受け持つのは、丸紅
と関西電力が出資・設立したサンロケパワー社だ。同社はフィリピン電
力公社と契約を結び、技術面で貢献する代わりに、建設後25年間ダム
を所有し、その間発電した電力をフィリピン電力公社に平均価格の5〜
9倍の値で売るのである。契約はサンロケパワー社に非常に有利なも
のであり、フィリピン電力公社からは例え赤字となっても、この事業を止
めることはできない。だが、独立した立場の専門家は「ダムの寿命は25
年程」と報告、事業の採算性は非常に疑わしいといえる。こうした不条
理な開発を現地の人々は日本による第二の侵略だと言う。


ダムは私達にとって死である

 「ダムは私達にとって死である」。現地でよく見聞きしたスローガンだ。
私はサンロケダムの建設で移住した人々が住むカマンガン再定住地を
訪れた。そこでは住民達は十分な農地も仕事も無く、借金を重ねて生活
していた。無機質な住宅が整然と並び、自然と共に生きてきた先住民族
の暮らしはもはや成立しえない。
 この日、再定住地でダム反対のデモが行われていた。人々は「日本は
融資を止めてください!」と叫ぶ。私は日本人として彼らに申し訳なかっ
た。
 なぜなら国際協力銀行の主な財源は財政投融資、つまり私達の年金
や郵便貯金から運用されているものなのだ。公的機関として国際協力銀
行は、サンロケダムのような、現地の人々に大きな混乱と苦しみをあたえ
る事業に融資するべきではない。そして私達日本の市民も自分のお金が、
正しく使われるよう、NGOなどと共に政府へ求めていくべきだろう。

                               2001年12月
               
「昔、あなた達日本人は銃によって我々を征服しようとした。今度はお金の力によって我々の土地を奪おうとしている。」
 イバロイ人の青年、ボヤット・ポクディンさん(28)は、ひどくうなだれた様子で言った。