なぜエビ養殖は批判されているのか?



批判されるエビ養殖
 富裕国への輸出のために生産されるエビは、生産国にとって重要な外貨獲得の手段です。「途上国がエビを育てて、先進国に輸出して、お金を稼げるなら、いいんじゃない?」と思われるかもしれません。ですが、途上国におけるエビ養殖の急速な拡大は、さまざまな問題を生産地に生み出してきました。
 1980年代終わりから、第三世界のエビ養殖業、特に輸出目的に急速に発展した集約養殖に対し、 生産地の自然資源・環境を収奪・破壊、地域住民の生活をおびやかしているという批判が、相次いでいます。

エビ養殖業の構造 ―青の革命―
 エビ養殖業が批判される理由のひとつは、エビ養殖事業が巨大なアグリビジネス企業と、それを後押しする政府の介入なくしては成り立たない点です。
 集約養殖を行うために必要な大量の飼料や薬品はアグリビジネスが寡占的に供給します。同時に、ポンプで水を入れ替える集約養殖では、電力が安定して供給されなければなりません。また、収穫された大量のエビを冷凍加工して輸出するためには、冷凍庫・交通・港湾施設の整備も必要です。そして、世界銀行・アジア開発銀行・FAOなど国際機関が経済開発のために、日本の政府と商社はエビの開発・輸入のために、政府開発援助(ODA)によって資金・技術を提供してこの構造の土台を築いてきました。
 大量のエネルギーと水をついやすモノカルチャー(単一種栽培)であり、種苗(種子)・飼料・薬品(化学肥料)の供給から流通までアグリビジネスが支配し、それをODAが支える構造は、第三世界の農業を席巻した「緑の革命」に似ているため、アジアのエビ養殖は「青の革命」と呼ばれています。

自然環境の破壊と住民が受ける被害
 エビ養殖に対するもうひとつの批判は、自然資源を大量に使って環境破壊を引き起こし、地域の暮らしをおびやかしていることに対するものです。

 土地の囲い込み
 アジアのほとんどの国々では、エビ養殖池は沿岸に建設されています。ひとたび池を作ると決まれば、その場所は鉄条網で囲いこまれます。自給のための魚介類を採っていた住民、そこから漁に出る零細漁民にとって、海岸に出られなくなることは深刻な問題なのです。
 また、バングラデシュでは、エビの国際価格の高さにつられた都会の人々がエビ養殖池主となるために警察・行政の力を借りて地域住民を脅かし、不当に安い価格で土地を借りてエビ養殖池に転換した、という報告もあります。

 マングローブ林の破壊
 東南・南アジア沿岸を覆っていたマングローブ林が消えたおもな原因は、沿岸住民による燃料確保のための過度の伐採と、水田への転換であると考えられていました。 しかし、1980年代に始まったエビ養殖ブーム以降、エビ養殖池の建設がマングローブ消失の最大の原因となりました。
 現在、東南アジア諸国はマングローブの伐採を厳しく制限しています。けれども、エビ池建設のためのマングローブ伐採は今もおこなわれています。
マングローブ林は地域の共有財産です。枝・幹は薪や木炭の燃料や住宅用建材として、葉は屋根やタバコに、実は食料に、とさまざまな形で利用されています。マングローブがなくなれば、こうしたものをすべてお金を出して買わなければなりません。けれども、マングローブのもっとも大切な役割は、防風林・土留めとして熱帯の台風がもたらす高潮から住民の家屋、生命と財産を守ってくれることです。マングローブがなくなれば、沿岸に住む人々は、よりいっそう自然の脅威に曝されるのです。
 また、よく知られているように、マングローブ林は沿岸のさまざまないきものが幼生期をすごす「ゆりかごで」です。マングローブ林がなくなれば、漁業資源を含む沿岸生態系に大きな影響が出ることは当然予想されます。実際、エビ養殖場がつくられたところでは、必ずといってよいほど漁民が漁獲の減少を訴えます。けれども、談話以上の、マングローブ林破壊前後の沿岸生態系の変化(たとえば魚種や漁獲量)についての資料や環境影響評価例はなく、その因果関係を明らかにすることはたいへん難しいのです。

 周辺水系・土壌の汚染
 集約・準集約養殖では池の水質管理のために大量の水を使います。そのために、養殖池の取水・滞留水・排水は地域の暮しに大きな被害をあたえうるのです。
 集約・準集約養殖では高栄養な人工飼料を大量に投与します。消化されなかった飼料とエビの糞によって池水が汚れるのを防ぐために、ポンプを用いて水交換を行わなければなりません。大量の淡水が必要でになるわけです。
 地下水を大量に揚水すれば、地下水位は低下します。また、エビ収穫後、池を浚って底に堆積した底泥をきれいにしますが、ほとんどの池水は塩水ですから、底泥にも大量の塩分が含まれます。こうしたことで、周辺の河川や地下水の淡水域や農地に塩害が引き起こされることもあります。 
 また、飼料を投与する養殖池の栄養塩や有機物濃度は高く、エビの病気が発生しやすいのです。そこで、病気の発生を防ぎ、また、成長を促すために、さまざまな薬品が投入されます。 こうして、池水交換や収穫後の池浚いによって、塩分だけでなく周辺水域に比べて高濃度な栄養塩・有機物・化学物質等を含む水が周辺水系に排出されることになります。排水は河川・運河を経て、最終的には沿岸海域へと放流されます。化学薬品の拡散に関しては抗生物質に対する耐性菌の出現が、また、バクテリアについては自然生態系におよぼす影響も危惧されています。

 病気とイタチごっこのエビ養殖
 池環境(水質・底泥)の悪化とエビの病気の発生とは表裏一体です。エビ養殖池がつくられて間もない、池が汚染されていない初期には、十分な生産をあげることができます。けれども、年を経るにしたがって、底泥には食べ残しの餌や糞とう有機物が堆積し酸素を消費、池の水管理は難しくなります。池環境の悪化にともない、生産量はしだいに減少し、病気発生のリスクは大きくなります。
 1980年代から、台湾、フィリピン、タイ、インドネシア、スリランカ、インド、ベトナム、マレーシアなど東南・南アジアのすべてのエビ養殖生産国で、ウィルス性の病気は数年おきに発生し、そのたびに生産額の2〜10割の多大な損失を出しています。

  そして池は使い捨てられる −?
 生産性の低下と病気による死滅のために、集約池は5年、準集約池は10年で放棄されると言われます。とくに外部資本がエビ養殖をおこなう場合には、1〜2年で元手を十分に取り戻す利益をあげ、池が古くなってエビの病気が発生すると、その池を放棄して、ほかの場所にあらたに池をつくる、「焼畑式」エビ養殖、通称ヒット・エンド・ラン養殖が行われています。アジアでは1985〜95年の間に15万ヘクタールの池が放棄されました。
 では、放棄された池はどうなるのででょうか。熱帯アジアのマングローブ域では、池を掘った後には硫酸性土壌が露出するため、農地への転用は難しいと言われています。ただし、実際に池の跡地がどう利用されているかについての調査はきわめて少ないのです。

エビ養殖は地域に利益をもたらしているのだろうか?
 このような環境リスクをおかしてまでおこなわれるエビ養殖業ですが、生産地域住民の生活向上に貢献しているのでしょうか。
 これについては、だれがエビ養殖をおこなっているのかで分けて考えるのがよいようです。
 中小規模のエビ養殖生産者が多いタイでは、病気が発生してエビが全滅する経営リスクは高いけれども、稲作の生産性が低い地域やマングローブ林地域において、エビ養殖をおこなうことでで所得が向上したり、関連企業への就業できるといったプラス面があるという報告があります。
 他方、他の国々の報告では、エビ養殖池を経営するのは外部資本である場合が多く、地元の人々の雇用機会はほとんどありません。また、土地を養殖池として貸し出さざるをえなかった小地主の利益はごくわずか、土地で稲作をして自給する場合よりも少ないこともあるといいいます。
 こうして見ると、自分が池主にならないかぎり、近年行われているエビ養殖で地域j住民の生活が豊かになるとは考えにくいのです。そして、池主になったとしても病気の発生による損害のリスクはやはり負わなければなりません。



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