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宮本千晴さん
(マングローブ植林行動計画スタッフ・元JICAマングローブ専門家)は、 破壊された海岸の森の復元のために30年近く世界各地でマングローブの調査と植林をしてこられた方です。
宮本さんから、サウジアラビアのマングローブとエビ養殖について下のようにメールで教えていただきました。(K.M.) 紅海のマングローブ 紅海東岸のマングローブはほとんどがAvicennia marina (Forsk.) Vierh.var.
typica Bakhuizen (1921) とされるものですが、 とくに南部ではAvicennia alba
の性質を多分に持っているように見え、樹皮の色が黒く、背丈も5〜8mに伸びて、なかなか立派な森をつくります。
その森の陸側林縁はかならず動物たちの足跡で縁取られています。ラクダ、ガゼル、サギやペリカン、あるいはネズミの類、それもなければ
ゴーストクラブの足跡。毎日森を訪れ、その周りを散歩するのでしょう。
地形が複雑になり、穏やかな潮間帯が広くなると、このアビセニア林に成立の環境を準備され、守られるような形で、ところどころ Rhizophora mucronata 林 が混じります。この種も東南アジアのものと違ってむしろ Rhizophora stylosaといいたいような小柄で繊細なつくりなんですが、岩だらけの砂漠の中に、ある いは沖合の砂州の島にこつぜんと現れる目のさめるような美しい森です。紅海のサウジアラビア領内南から三分の二くらいの範囲にわずか11地域、18林分しか 残っていません。サウジの若い同僚たちも歓喜して胸まで水に浸かりながら見てまわったものです。密生して全体として樹冠が平らなので、ペリカンやヘラハシ サギの営巣地になっていたりします。 マングローブ林のあるところはその下の亜潮間帯にも砂がありますからたいてい海草原になっていますし、沖合には保礁が発達していることが多いので、そこ には藻類がけっこうよく育っています。またマングローブ林の背後の潮間帯最高位には季節的にしばしば藍藻類が黒っぽいベルトをつくります。そういう一次生 産者の4点セット(サンゴまで入れると5点セットですか) の存在がこの淡水の流入のほとんどない海を案外豊かな海にしているのでしょう、資源量は限られてい ると思いますが、漁村が点々と分布しています。 マングローブ域でよく見かけるエイは干物にして昔から砂漠の遊牧民との交易品として重要でしたし、 リヤドでも魚市場には大小の鮮魚とともに毎日半島をは さむ二つの海からくる天然エビがたくさんでていました。 サウジアラビアのエビ養殖 サウジでエビの養殖が始まった1996〜7年ころには、 かなり集約的かつ大規模な方法でブラックタイガーを飼うのがモデルだったと思います。 しかし日本から進出して始めた企業も最初の1〜2回の収穫の後は病気で失敗し、結局ローカルな種に切り換えることでその危機をなんとか 克服したと聞いたことがありますから、現在のやりかたがどうなっているかは知りません。 養殖池の立地はサブカとよばれる沿岸の高塩分の砂質低湿地(海面よりわずかに高い)です。 この標高の微妙な違いによってはいわゆるソルトバンと呼ばれる白い塩田地形になります。 サブカは塩分が高すぎて高等植物は入り込めず、条件によっては藍藻類が多少繁茂することがある程度で、 潮間帯高位と違ってカニの類さえも見かけません。 この砂は潜在的には貴重な環境資源で、もともと山地や内陸からフラッド(氾濫水)によってワディ(特別の大雨のときだけ氾濫水が流れ下る涸谷)を通して運び出され、 それが北西寄りの季節風+日々の強い海風によって生じる沿岸流によって選別され南に移動しながら地形にとらえられて沖積したもので、 こうした砂=土壌層がなければ、この地方にマングローブ林は成立しないといってもいいほどです。 ですから内陸の乾燥がもっと厳しく、漂ってくる砂さえない紅海北部では海岸にまったくというほど砂がなくなり、 単純にそれだけの理由でマングローブ林がなくなります。 沖合の珊瑚礁起源の砂を持つ島々やもっと北だけれども砂のあるシナイ半島にはマングローブがあるのに。 といってもマングローブ林が成立するにはその次の条件である「ある程度以上穏やかな環境」というのも満たす必要があり、 サブカ前面の海岸の向きや珊瑚礁の発達具合によって、サブカが海に接する潮間帯にマングローブが生えるかどうかが決まります。 だから実際にはマングローブ林があるのはサブカ前縁の一部で、小さな規模のものが数キロないし数十キロおきに点々と分布している形ですね。 そしてどんな小さなマングローブ林にもサブカ後背の集落からラクダの踏み跡道がついており、それぞれの林を見ていくと 過去の人間の圧力の歴史がかなりありありと浮かび上がってきます。昔はもっと広い範囲、もっと多くの場所に生えていた ことは間違いありません。 現在ではもちろん自生林のある場所を改変することは厳しく禁止されております。 ですからわたしが直接見た初期の養殖池もマングローブ林からだいぶ外れたサブカの海岸でした。 植えても海風による波と風で、生やすことは大変難しいと分類していい土地です。許可されるのはそういう場所だけのはずで、 わたしもそういう何もないサブカ地帯はエビ養殖を許可していいと考えています。ラクダの頭数をこれ以上増やすよりも、 その方がましではないかと。 もちろん程度問題ですね。ここの自然そのものは監視しやすいのですが、ここにはここの不透明さがあり、 政治的社会的なマグマがありますから、流行ると何が起きるか分かりません。 ただ、環境が厳しすぎて養殖技術に自然のバッファのようなものが小さいので、それほど長くはやれないし、 広くもはやらない……といいのですが。 早い話、ジェッダのある紅海中部は季節的な海面の変動はあるものの 日々の潮汐がほとんどなく、 池への給水や排水もポンプなしにはできないような土地です。 そして東南アジアのような勤勉さに支えられた細やかな伝統的土木技術もありません。怖いのは薬剤でしょうね。 (宮本千晴さんのメール(2005年6月17・18日)から、2005年6月18日掲載) |