泉自然公園
千葉市




新婚の住まいは松戸駅と市川駅のほぼ中間に
定めました。六畳と四畳半、それに六畳の広
さに「台所と手洗いと浴槽」が同居する三階
建て・計九世帯の賃貸「マンション」です。

バスは数分置きでしたが、出勤時刻は松戸側
も市川側も渋滞で数珠繋ぎ。業を煮やして、
駅まで一時間あまり歩いたこともあります。

嬉しかったですよ。ほんとうに嬉しかった!

そのアパートは中学生以来、初めて実現でき
た人並みの生活空間だったのです。それまで
の居室は、冷たい樹脂張りの床に、上階の商
品倉庫を支える鉄柱が二本も居すわり、繁忙
期は山積みの商品が断わりもなく居候、部屋
の仕切りは襖か障子で、誰でもいつでも出入
り自由。隣室の応接は、夜は私用でも、昼は
商談用でしたから、聞きたくもない会話も筒
抜けで、そう、信用供与など要らぬお世話、
現金払いが父の方針でしたが、顧客に対する
大手の商社マン、結構、態度が大きかった。

西日があたる部屋は、都電の車輪の金属音が
朝から晩まで響いている自動車道路に面し、
雨戸がなく、ガラス一枚の窓際が勉強机でし
た。ご丁寧に前の道路は、受験勉強の全期間
中、営団地下鉄の新線建設で、耳栓も意味を
なさない轟音と、地震さえ感知できない振動
を味わいました。杭打ちは、捻じ込むのでは
なく、破裂音を轟かせ、打ち込んでいました
ので、家屋が倒れなかったのが不思議です。

嬉しかった新婚の住まいも、建物が密集し、
道幅は、小型トラックが通ると、電柱の陰に
身を寄せなければならないほど狭く、最初の
子に、手放しで歩ける自由はなかったです。
一方、這っても辿りつける距離に内科の医院
があり、痛みの発作が再発した時は、深夜で
も往診をお願いでき、とても助かりました。

なぜ泉自然公園(若葉区野呂町)に出かけた
のでしょう。憶えていません。同じ条件の公
園は、もっと近くにあったのですから、わざ
わざ出かける必要はありません。しかし涙が
出るほど嬉しかったです。滑っても転んでも
手放しでいられたのですから。あれほど伸び
伸びとした我が子を見るのは初めてでした。
嬉しさと同時に、心が疼(うず)きました。そ
れまでの、ハラハラし通しだった子育てに。







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