――――――――――― 個展のお知らせ ―――――――――――
155歳(?)の表現
安藤富と猪井房の「橡の木の葉展」
―――――――――――――――――――――――――――――――
大正時代、神田の商家に生まれた姉妹による風景と人物の日本画です。
穏やかさ、懐かしさのなかに、新世紀を迎える意欲を表わしています。
2000年9月25日(月)〜30日(土)
午前10時 〜 午後6時
草土舎本店・アートサロン

建物の写真は草土舎からお借りしました。
〒1010052 東京都千代田区神田小川町1−7
電話(代表)03-3294-6411 FAX 03-3294-6415
都営新宿線 小川町駅 (B6出口前)
営団千代田線 新御茶ノ水駅(B6出口前)

※この個展開催の契機になった随想(注)が今秋単行本でも出版になります。


制作中の「戦場ヶ原−座敷童子のふるさと−」(00年8月26日現在)の画像です。
安藤富は大正9年生まれ(跡見卒)、猪井房は大正14年生まれ(九段精華卒)
合わせて(?)155歳--------
二人とも本人や伴侶の病気、また仕事や住まいのことで、なかなか平坦には
行かないようですが、創作へのこだわりは年齢の枷を超えています。額縁店
の、店内を眺めながら二階に上がりますと、肩の凝らない一角がありますの
で、期間限定ですが、神田界隈にお越しの節はお気軽にお立ちより下さい。
(注)「随想 橡の木の葉」の内容:重篤な肺ガンに挑んだ老夫婦を、子の立
場から三世代家族の交流を交え描写。父の死後、親子二人で訪れた植物園で
母がショルダーバッグにしまったのがトチノキの枯れ葉。在宅介護、高年者
夫婦の独居観、母の壮絶な決意、末期ガン患者の自宅への想いなど、両親の
闘病生活を当事者の一人として記録。併せて、夫婦の晩年は誰にも、壮健な
生活者には思いもよらない美が予定されている、という想いも述べています
(注)「戦場ヶ原」の2000年9月9日現在がこちらにあります。進行が遅いのは
5月に倒れ、描ける状態に戻ったのが8月という事情があります。加えて、
傍目の想像を越えた計算と勘を動員、見えない部分の構造を想い、樹木の名
前を調べ、枯葉は、昨秋採取しておいた現物を観察するなど、悉く即席を退
けているからです。その間も、定かでない足元で炊事、洗濯、買い物と、生
活の歩調を崩すことはありません。この調子ですと額縁が間に合わない----
15日に撮った「戦場ヶ原」です。これから上段中央に紅葉(黄葉?)を、上段
右辺に細かい枝を、下段には落ち葉を描(か)き込み、人物も彩色しなければ
なりませんが、すでに方針は固まっており(---各部位の岩絵の具と粒子を記
したメモが、画材の隅に重ねてあります---)本人は「大丈夫」と申しており
ます。一方、房さんは、懐かしいお友達11人と会期中に同窓会、の昼食を近
所の鰻屋さんに予約したとか。房さん曰く「姉さん! まだ描いてるの!」
50号は富にとって初めての大きさです。また女学校時代の授業を別にすれば
日本画を描くのもまだ9作目。この50号に、母は二度、立ち往生しました。
一度は17日の朝。50号の下半分を方針通りに描くと、あとひと月はかかるこ
とに気づいた時。そのことを私が知ったの夕刻でしたから、その間、母は一
人でオロオロしていたことになります。二度目は、下半分の方針を変えたの
に、木の影を前の方針で塗ってしまった時。深夜までかかって洗い落とした
のを、やはり知ったのは朝でした。どちらもひどい衝撃だったと思います。
今まではすぐに疲れてしまい、根を詰めて描けるようになったのは数日前か
ら、ということも昨日今日知りました。この50号、仕上げるのにさらに一週
間は必要でしたがその余裕はありません。しかも画題も複雑、期限付きであ
ってみれば、荒削りでも充実した作品であることに変わりはありますまい。
20日9時に「Tomi」と署名、10時半に草土舎に持ち込みました。額縁は、有
り合わせでなく用意してくれるとのこと。飾り付けは22日の午後6時から。
―――――――――――――――――――――――――――――――
25日、無事、個展開始。予想通り来展者はごくわずか、と思ったのですが草
土舎の感想は違っていました。来展者の多少は個展の性格や内容次第、かど
うかはわかりません。一日の来客が十人程度の個展も珍しくないそうです。
ある絵の先生の個展では「近頃の生徒は少し遠くなると師の個展にも顔を出
さない」という嘆きが聞こえたほどですが、155歳?の個展の方は、定期的に
草土舎を覗きますと、お店の人が笑顔で「今もお客さまで賑わっています」
無人の時間帯もありますが、この個展、思いのほか、うまく行っています。
展示の準備中、草土舎の係に「購入希望者が現われたら受付で応対して下さ
い」と教えられました。値札のない個展でも、受付で売り値を伝え希望者に
販売する「習慣」があるそうです。作品を売りたい気持ちは当事者にもあり
ました。お金を稼ぎたい欲求と、売り物として評価されたい期待が絡み合っ
ています。しかも売りたくない気持ちもあるのです。いずれにせよ、初めて
個展を準備した我々に販売は考慮外でしたが、まあ、この機を逃すのはもっ
たいないですから、二人には知らせず絵の値決めを俄か勉強!した結果、非
本職の絵の値付けと155歳?の絵の相場が見えてきました。同時に、これから
は仲間内の個展でも「よいご趣味ですね」と挨拶するのがためらわれます。
売りたくない作品の一つ「少女」は、富が戦前の写真を取り出して描いた房
です。この着物は戦後まもなく祖母が染め変え着古してしまいました。着物
は記憶で、帯は房から借りて描いた想い出を、売るのは難しいと思います。
七年前、勤労者美術展開催の直前、展覧会の事務局から電話が入り、富は一
瞬、入選を取り消されたのかと蒼白になったことがあります。「ナイル河」
の絵を、美術展担当のカメラマンが売って欲しいと申し出たが、事務局は売
買には関与しないので、売る意思があるなら、富が直接先方に電話して下さ
い、電話番号は何々という趣旨でしたが、僅かなお金と引き換えに、絵を手
放す気持ちはないと、富は放っておきました。もしその時、無名の本職が大
量に描く廉価版や、売り絵専門の絵画教室で制作する値頃品とは、一桁違う
と知っていたら、カメラマンからの申し出に、迷いが出たかもしれません。
今回の飾り付けを終えた時、八年前の富の「牡丹」を指して「どこそこに手
を加えて出品したらもっとよくなったのに」という声を聞き慌てました。先
輩(現在の富)が後輩(入門時の富)の作品に手を加えるのは望ましいこと
ではありません。表現の世界では、技量の未熟は不出来とは違います。確か
に販売や受賞狙いが目的であれば、成否の尺度も明解です。また書物一個の
鑑賞に、編集者の加筆はあってもなくてもどうでもよいこと、評価は受け手
に属しますが、表現は作品を単品だけで鑑賞するほど狭くも固くもありませ
ん。入門時の稚拙から現在の習熟まで「過程」を味わえるのも個展の特長と
思い、制作順に展示したのですが、表示が小さすぎたのでしょう、声をかけ
た時、鑑賞眼の優れた方でも「未熟の足跡」に気づかれていた方は稀です。
26日、跡見朝陽会の泰子さまから富にお便りが届きました。「伺うのを楽し
みにしておりましたが、足がどうも意のままになりませんので失礼いたしま
す。同封したこの『とち』の実は、私の大好きな童話のひとつ『もちもちの
木』(斉藤隆介作)の実であるのを、もし御存知だったらこの上もなく嬉しい
のですが、又の時を楽しみにして居ります。」 ご本人の了解を得ないまま
菓子箱入りのトチの実を今朝(27日)、大きな活字で打ち直したお便りを添え
受付に置きました。なお、「じさまと、大きなモチモチの木をこわがる豆太
の童話『モチモチの木』斉藤隆介(文)滝平二郎(絵)」は岩崎書店刊です。
細かく描くことが、早い人では中年から困難になると、本職の画家が教えて
くれました。その制約が「雅趣」にもなるのですが、眼鏡をかけても、歳と
ともに細かい作業がつらくなるのは、絵画だけではありますまい。ところが
七十九歳の作品に、来展されたお茶の先生も「まあ!細かい」と驚きの声。
目のよさは生得のもの? だけではないと思います。眼科の定期検診で、目
をよく使うことの大切さを教えられ、もとより型紙制作はミリを刻む細かさ
ですから、染みついた職人気質も、細かさを持続する支えになっています。
日本画を習いはじめ、描き方をご質問された来展者があります。富の基本は
観察と学習です。「奥入瀬」は、二日半、居据わって写生したので、描きや
すかったと話しています。このサイトの写真から描いた「戦場ヶ原」は、枝
葉一枚も想像を嫌い、原景を確かめたいと、筆を置いてしまったことがあり
ます。海外旅行で掴んだ画題も同じで、自分が描く作品は、「世界」の細部
まで知ることを望み、木一本でも、新たに学びますと目を輝かせます。絵は
感性と思っていましたが、富の描く基本は、「好奇心」と「学習欲」です。
絵を搬出する運送業者が現われなかった! ほかに事故はなく、会場には朝
と昼に出向いただけで詳しい様子はわかりませんが、女学校や小学校の同窓
会が幾重にも開かれていたこと、草土舎のお客様の何人かが、偶然にも房の
幼友達であったこと、退院直後のため来られないと聞いていたお一人が、開
始時刻前に娘さんの車で来られ、お帰り間際に富が間に合ったなど、姉妹だ
けでなく学校時代や地元のお友達にも喜んでいただけたと思います。私も初
日の朝、卒業以来の大学の友人に会えました。同じ時刻、最初の勤め先で暫
く一緒に働いていた後輩にも会えました。二人も偶然同窓です。芳名帖には
荒牧さんや新卒時代の係長Fさんのお名前も。後輩もFさんも三十年振り。
富の敬愛するTさん(海外旅行業)も、忙しい日程を縫って来展されたのです
が、生憎、富は不在。Tさんには花まで贈っていただき恐縮の限りです。や
はりお花をいただいたので、姉妹は「お忙しいので来られないから」と残念
がっていた先生のお名前も芳名帖で発見。先生は、受付も引き上げてしまい
誰もいない会場に来展されたことになります。もうお一人の先生はお昼に来
展、会場にいた富が、お教室とは違ったお話を聞けたと感激しております。
花粉や水遣りで絨毯をよごすだけでなく、絵が負けてしまうのが心配で、お
花は一律お断わりしたのですが、草土舎側の「気にしなくていいですよ」の
言葉と、枯れてもご勘弁という気持ちから、開催日以降は成り行きに任せま
したところ、初日に六個、次いで三個のお花が届きました。サロン入口に置
いたお花は関西にお住まいの富の市川時代のお友達から。安静が必要なため
来られないというお電話が富の元にありました。届いたお花を会場に置いて
みますと、やはり「絵よりお花!」になっているとは黒衣(くろこ)の独言。
有難うございます。富と房の喜びと感謝は私の想像以上でした。勤労者美術
展に向け、また来年の個展を夢見て、二人は再び新しい絵に挑戦します。作
品さえ揃えば個展の準備は簡単です。皆さんも開催されてはいかがですか?
なお、私自身は、会場でお会いした何人から「インターネットで拝見しまし
た。よく知ってますよ」と声を掛けられたときが嬉しかった。では、また。
ホームページへ
Last modified on 02-Oct-2000.
(C)Copyright 2000 SHIMADA, Ichiro. All rights reserved.