散歩者の夢想
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編集中記
0125〜0127
今井浜の昼下がり
伊豆に今井浜という小さな海水浴場があります。
昔は別荘だったという木造旅館の、浜に突き出た一室に、暫く泊ったことがあります。
部屋には昼間も、寝床が敷いてありました。
ガラス戸を開けると潮風が吹き抜ける、その心地よさに誘われて、裸足のまま浜に降り、波打ち際で水遊び。
白い砂を踏みしめますと、脇腹の不快感や、熱のこもった鈍い痛みも、意識しないで済みました。
昔の今井浜は、盛夏でも海水浴客が少なく、海の家もあるかなしかでした。
古タイヤに腰を降ろし、背の立つ辺りを漂いながら、シロギスを釣る海水浴客。
波打ち際にも小魚が群れ、素手で掴もうと、空しい努力を重ねたものです。
今井浜の往き帰りに、つき添ってくれたのは従業員のAさんです。
彼は中卒で問屋に住み込んだので、五十年間、一つ職場で働き続けたことになります。
首都圏の下請けの整理から始まり、四国の工場を閉鎖、東北や九州への委託加工を中止、直営工場の閉鎖を以って海外への移転を完了。
その時点でAさんの仕事もなくなったのですが、下請けの整理には眉一つ動かさなくても、永年勤続者は始めからリストラの対象外。
長く根づいた杉や檜は、動かせば枯れてしまう、その危惧が現実になった場合、リストラを盾に免責を主張しても、容れられるものではありません。
整理される不安に駆られたのでしょう。Aさんも「辞める」と申し出たことがありました----。
今井浜の磯では、時間の経つのを忘れます。潮が寄せては引いて行く、その流れに流されまいと、近くの岩にしがみつき、水中メガネで覗き見ますと、海草が揺れ、蟹がひそみ、ベラが泳ぐ昼下がり、潮騒を聞きながら夢を見た。
大人の平安を願う子どもの夢です。
大人は「家族のため、我が子のため」と言いますが、子の祈りに比べれば「自分のため」だけを考えているのと変わりなく、子の祈りを知らない大人は「大変なのは自分だけ」と思い込んでしまいます。